はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、前回に引き続き、塩野七生さんの「ギリシア人の物語」の、2巻についてです。ペリクレスによる安定した民主政がもたらしたアテネの繁栄と、彼の死のあとの没落が描かれます。歴史の変転の中に、飛び込みましょう!
「ギリシア人の物語 Ⅱ 民主政の成熟と崩壊」塩野七生(新潮社)
民主政の中で、ストラテゴスに長年当選し続けることで、圧倒的な権力を握ったペリクレス。彼は安定と繁栄をアテネにもたらした。しかし、彼が死んだ途端に、アテネは一気に下降の道をたどり始めた。スパルタを含めたギリシア全体、さらにはペルシアさえも巻き込んで……。
民主政を布き、6万人に参政権を与えていたアテネにおいて、大きな権力を握ったペリクレスによって、繁栄できたのだ、という事実は、なかなか興味深い。民主政の指導者でありながら、非民主的な彼が支持されたというのは、結局のところ強いリーダーはどんな政体においても必要であるということを示しているのかもしれない。
それから、「世界の歴史 2」では、悪印象だったアルキビアデスだが、この「ギリシア人の物語」では、かなり違う人物に写った。どうして彼が民衆に支持されたかが見えてくる。結果としてはペルポネソス戦役でアテネの没落を招いた彼だが、周囲を惹きつける容姿といい、話術といい、優れた人であったことがうかがえる。塩野さんは彼のことが好きなのかな、とちらりと思った。
ところで、塩野さんが好き、といえばカエサルである。ギリシア人の物語と題しながら、彼がたびたび顔を出してくるのには笑ってしまった。特に傑作だったのは、ペリクレスの演説についての項である。
歴史家ツキディデスを通してわれわれが知っているペリクレスの演説も、熟考し推敲を重ねたうえでの成果と思うと、物書きを業とする私などはいたく親近感を抱いてしまうが、親近感どころか殺してやりたいと思うのはユリウス・カエサルである。
ちょっと落ち着いて、と言いたくなってしまうところだ。それに、あいにくもう2000年ほど前に殺されている。だが、ガリア戦記を読んだばかりである私も、塩野さんには同調するしかない。口述にも関わらず、文章が完成していたとは、全く才能にあふれた人物である。到底信じられない。
ギリシアに話を戻そう。ペリクレスの死後のアテネの惨状は、目を覆いたくなるほどである。長期化する戦争ほど人的、物的資源を浪費するものも他にない。まずは防ぐ努力を、そして始まってしまったならばなるたけ早期に終わらせる努力が肝要だと思う。しかし、アテネの指導陣は相手のスパルタから差し出された手もことごとく打ち払っているのだから、呆れるほかはない。衆愚政治の極致であろう。
民主政であろうと、君主政であろうと、あるいは寡頭政であろうと、そのときどきに応じた政体は移り変わる。民衆は幸せであれば、文句はつけないのだ。それが良いか悪いかは別として、政治の斟酌などよりも、目の前の生活を送るほうに心を傾けているほうが、庶民の中では圧倒的に多数派であることは疑いない。
ところで、塩野さんの作品のタイトルは飾り気がなくて好きだ。どんな中身かが一瞬で分かるのはもちろんのこと、それでいながら響きも良くて、本棚に収めざるを得ない。この本も、文庫化したら早々に買いたいものだ。
おわりに
というわけで、次回は「ギリシア人の物語」最終巻です。どうぞお楽しみに。最後までご覧くださり、ありがとうございました!