はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、「背教者ユリアヌス」シリーズの二巻についてです。一巻はこちらからご覧ください。それでは、衰退が影を落とす末期のローマ帝国で、その流れに必死に抗った青年、ユリアヌスの人生を追いかけることにいたしましょう。
「背教者ユリアヌス (二)」辻邦生(中公文庫)
皇帝である従兄、コンスタンティウスに宮廷へ呼び返されたユリアヌス。彼を待ち受けるのは、謀反による死罪か、はたまた副帝の座か。学問を愛し、古代ギリシアに魅せられた青年にも、残酷な世間の波が襲いかかろうとしていた。
ギリシア神話や哲学を学ぶことで、世界を愛おしむことができるようになったユリアヌス。キリスト教が台頭するローマ帝国で、古代に惹かれずにはいられない彼の姿が、まぶしかった。
そして、ホメロスやプラトンなどを読めば、彼の思考の一端がよりつかめるようになるのかもしれないと思った。歴史の積み重ねとは、本当に不思議だ。古代ギリシアはおろか、ユリアヌスの生きた時代からも、時間的にも空間的にも遠く隔たった、今、日本で、彼らが考えたこと、読んだものといった足跡を追えることに、奇跡を見ずにはいられない。キリスト教への信仰が欧米ほど根付いていない日本にいるからこそ、ユリアヌスの心情により近づける、といった側面もあるのかもしれないとも感じた。
また、時代の靄に隠されたユリアヌスの姿が、作者の筆によって徐々に表れてくるような感覚を覚える。決してそれは史実ばかりではなく、想像力というものの力も借りているわけだが、それでもユリアヌスという人物は、本当にそのような性格をしていたのだろう、と思わせる筆には感心した。
さて、この物語の中に、シルヴァヌスという将軍が登場する。なんだか知っている人物のような気がしたと思ったら、銀河英雄伝説の9巻のロイエンタールがまさにこんな感じなのだ。詳しくは伏せるが、性格はともかく、行動がとても重なった。
もちろんシルヴァヌスのような人物は歴史上にいくらでもいるだろうから、一概にモデルと断定はできないが、人の考えることはいつの世も変わらないのだな、と思う。それが悲しくもあり、おかしくもあり、自分の人生もきっと誰かと似ている、と思われるのかもしれない、と感じた。
ユリアヌスの物語は、ようやく折り返し地点に来たばかりだ。これから彼がどんな道を歩んでいくのか、その到達点はとうに知っているにしても、楽しみでしかたがない。物語の終わりを知っている、というのは、歴史小説の魅力でもあり、ときに欠点ともなりうるが、この物語は確実に前者だろう。それでも、続きが気になるのだ。
おわりに
というわけで、「背教者ユリアヌス」の二巻でした。歴史を知る度に、銀河英雄伝説と重なる部分がどこかしら出てくるのが面白いです。現実の歴史を下敷きに、新たに立ち上げた歴史が、銀英伝なのかもしれない、と思ってみたりもします。
次回は、おそらく塩野七生さんの「ギリシア人の物語」についてになると思います。「背教者ユリアヌス」の続きも、またそのうち。最後までご覧くださり、ありがとうございました。次のご利用も、お待ちしております!