はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、前回に引き続き、銀英伝の再読をしていきます。ネタバレございますので、未読の方はご注意ください。銀河英雄伝説の再読の感想を、最初からご覧になる方はこちらです。本編も残すところあと2巻になってしまいましたが、お楽しみいただけているでしょうか。壮大な銀河という舞台を、どうぞ最後まで、追いかけていただけると幸いです。
「銀河英雄伝説 9 回天篇」田中芳樹(創元SF文庫)
銀河を舞台にした壮大で華麗なる英雄たちの戦いが、今回も鮮やかに繰り広げられる。しかし、その裏では暗さ極まる陰謀が刻一刻と進んでいた。新領土総督として、旧自由惑星同盟の首都である惑星ハイネセンに派遣された、ロイエンタールに、陰謀の魔の手が迫る。
実は、私は8巻を読み終わって、放心していたというか、9巻で襲い来る大波のことを、忘却の彼方に押しやっていた。恥ずかしながら、ヤン贔屓の私としては、9,10巻は、再びヤンに会える外伝までに乗り越えなければならないもの、といった感覚があったのである。本当に一度読んだことがあるのか、と疑うようなのんきさである。
その油断を、この巻を読んで打ち砕かれた。全く、舐めてかかってはいけない。田中芳樹さんとは、そういう作家だ。
ロイエンタールとミッタマイヤーという二人。ヤンとラインハルトに代わって、焦点が当たるのは親友同士のこの二人である。ロイエンタールの苛烈で、けれど人を惹きつけてやまない人柄に、改めて気づかされた。一見冷徹とすら見える彼の含む、複雑な内実と、暖かい家庭を決して手に入らないものと諦めながら、それを望むことをやめられないという、ヤンとはまた異なった矛盾を内包したまま、凶刃に倒れた彼に、涙を耐えられない。親友を討つミッタマイヤーの苦悩、そして、それゆえに自らの手でその道を選んだ彼にも、胸が痛かった。
このシリーズを通して、一貫して暗殺は忌むべきものとして描かれている。しかし、それが本当に正しいのか否か、という疑いがふと心に兆した。確かに、テロリズムによって歴史は変わらないかもしれない。だが、死者数においては、戦争よりもはるかに暗殺の方が少なくて済むのではないか。死者数によってものの善悪を計るということ自体、人間の救いがたい習性を感じさせないでもないが、戦争を防ぐという名目を掲げられては、一概に暗殺を否定できないのも事実であろう。忌むべきは、暗殺、陰謀それ自体ではなく、その背後にいた地球教の面々なのではないか。
ヤンにロイエンタールと、陰謀の犠牲になった人が、あまりにも魅力にあふれた人格の持ち主であっただけに、暗殺と陰謀を否定したくなる。だが、戦争の孕む狂気は、ヤン自身が何度も明言しているのだ。もっとも彼は、戦争と同じくテロリズムの無意味さも、分かっているのではあるが。
おわりに
というわけで、銀河英雄伝説の9巻についてでした。次回はいよいよ最終巻です。この壮大な物語の幕引きを、共に見届けましょう。またこの船を訪れていただけると幸いです。最後までご覧戴き、ありがとうございました。