はじめに
みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回は、前回に引き続き、「銀河英雄伝説」シリーズの再読をしていきます。ネタバレは可能な限り避けておりますが、未読の方はご注意願います。このシリーズの初回はこちら。それでは今回も、銀河の歴史の一端を味わうことにいたしましょう。
「銀河英雄伝説 6 飛翔篇」田中芳樹(創元SF文庫)
ついに、自由惑星同盟は、“皇帝ラインハルト”の支配する銀河帝国の傘下に組み込まれることとなってしまう。その中で念願の退役を果たしたヤンだが、平穏な生活を送ることはできるのか。フレデリカとの新婚生活に、暗い影が落ち始めていた。
私はあいにく後世の歴史家でも何でもない、銀英伝の一介の読者に過ぎないので、歴史を仮定することは許されるはずだ。と、もう開き直ってしまおう。というのも、とても考えてみたいことがあるのだ。
ヤンが、民衆に推されて政治界に進出することはありえたか、ということである。
万が一、ヤンが政治家として選挙に立候補したのなら、当選は確実であろう。これを拒否することは、民主主義を是とするヤンには到底不可能に違いない。もっとも、彼はそんな面倒くさい職業にまず立候補するはずがないし、それは作品の中でも再三言われてきたことだ。私だって嬉々として立候補するヤンをヤンとは認めない。だが、もし私が自由惑星同盟の国民であったなら、ヤンに一票を入れることに疑いはない。おそらく、自由惑星同盟のほとんどの国民がそうであると、誰が否定できようか。
権力者の意思ではなく、紛れもない民衆の意思によって、ヤンは選ばれるに違いない。困ったように頭をかく彼の姿が目に浮かんでくるようだが、それにしても、民衆がヤンを支持することは明白な事実である。実は、自由惑星同盟の国民の中で、ヤンが政治家になることを待望していた層も少なくなかったのではないか、とすら思ってしまう。
何らかの手段によって、ヤンが立候補させられていたら。そうしたら、また銀河の歴史は変わっていたのかもしれない。こんな疑問を、読みながらずっと心の中で温めていた。
ところで、以前、銀河英雄伝説を現実と重ね合わせて考察することは不粋だ、と書いた。だが、私にとってはほとんど物語に過ぎない、古代の歴史に重ねて考察することを許していただきたい。想像の翼は、縛りつけても力強く縄を切ってはばたいていってしまうのだ。
前回も書いたように、私はカエサルとラインハルトの姿が重なって見える。前者は、共和政を、後者は帝政を打倒して至尊の冠を戴いたわけだから、むしろカエサルは、ルドルフに似ている、という批判があるかもしれない。しかし、私はこの銀英伝に書かれているような、極悪なルドルフと、塩野七生さんの「ローマ人の物語」に描かれる颯爽として、愉快なカエサルの姿は、どうしても重ね合わせられないのだ。
では、ヤンはどうか。ポンペイウスという人物がいる。詳しく書けば脱線がひどいことになるので、今度「ローマ人の物語」を再読したときに書くであろう記事を参考にしていただくしかないが、カエサルとラインハルトが重なるのならば、その敵であるポンペイウスとヤンも重なる部分が見えてくる。新興勢力であるカエサルに対抗しようと、反カエサル派に担ぎ出されたりするところなど、なんだかヤンのようだと思ってしまった。
最後に一つ。
「観客としてはシナリオの変更を要求したいわけですよ。場合によっては力ずくでね」
シェーンコップの言葉だ。これについては、今は多くを語らないこととする。追々大事になってくるので、そのときが来たらまた取り上げることにしよう。
おわりに
というわけで、銀河英雄伝説本編も折り返し地点を過ぎました。終わりが近づいてくると、寂しくなってしまいますが、次回も銀河英雄伝説についてです。お楽しみに。最後までお読みいただき、ありがとうございました。