はじめに
みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回は、前回に引き続き、銀河英雄伝説の再読です。1巻からご覧になる方はこちら。それでは今回も、銀河を舞台に繰り広げられる攻防を、この目でじっくりと楽しむことにいたしましょう!
「銀河英雄伝説 4 策謀篇」田中芳樹(創元SF文庫)
銀河帝国と、自由惑星同盟の戦いは、再び幕を開ける。裏で暗躍する、帝国自治領フェザーンの影。不穏な空気が銀河を包んでいた。
ヤンの被保護者であるユリアンの成長が著しい。ただの少年という立場から、自由惑星同盟の軍人の一人としての存在感を、じょじょに放ち始めている。頭の良さ、兵卒としての素質、軍人には関係ないが家事能力……などなど、数え上げればきりがない。彼もまた、魅力的な登場人物の一人だ。
スケールの大小はともかくとして、戦いに強いとか射撃がうまいとかいったたぐいのものより、紅茶を淹れるのがじょうずというほうが、よほど上等なことではないか、と、ヤンは思うのだ。
という、いかにもヤンらしい文にもあるが、家事能力というのはなかなか大切なものなのは間違いないだろう。この文には、苦笑せずにはいられなかった。相変わらず、ヤンは紅茶が好きで、穏やかな性格の青年である。彼の姿には、戦争というものの意義に、思いを馳せずにはいられない。
ところで、フェザーンだ。面積は小さいとはいえ、経済大国として巨大な二つの国の間で、異彩を放っている。また、表面的には、現実主義者の集まりで、自国だけでなく、銀河帝国と自由惑星同盟の二つの、経済を一手に握っているといっても過言ではないかも知れない。そんなフェザーンに、私は最盛期のヴェネツィア共和国を思い出さずにはいられなかった。最近、この国についての本を読んだばかりということもあるが、やはり何か似たものがある。銀英伝では、ジェノヴァなどにたとえられていた気がするが、どちらかというとヴェネツィア寄りの国に見える。
ヴェネツィアについては、「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年 1」に始まるシリーズについての記事に詳述があるので、ぜひそちらも参照していただきたい。そこに目を通していただければお分かりかもしれないが、やはりフェザーンはヴェネツィア共和国に似た性格を持っている気がする。
他にこの地球の歴史を思い出させるものを挙げるなら、
「皇帝万歳」
と叫ぶ兵士たちの姿である。ふりがなには、ジーク・カイザーとある。カイザーといえば、カエサルだ。結局のところ、人間の築く歴史というのは、宇宙に進出しようが代わり映えのしないものなのかもしれないと思った。
おわりに
というわけで、銀英伝の再読でした。次回は、ハリー・ポッターの洋書版を挟んで、その次に銀河英雄伝の5巻目についてとなります。お楽しみに。