はじめに

 みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回は、また銀河英雄伝説の再読の続きです。銀河英雄伝説の再読を初めからご覧になる方はこちら。それでは、宇宙の大海へ、想像の翼を広げて旅を始めましょう!

 

「銀河英雄伝説 5 風雲篇」田中芳樹(創元SF文庫)

 フェザーン回廊を手中にした帝国軍は、それを機に自由惑星同盟の侵略を試みる。バーミリオン星系の戦いで、ヤンとラインハルトは、とうとう直接対決を敷くこととなった。勝つのはどちらか。見守る側も、息がつけない。

 

 迫力満点の戦争の描写はもちろん、ロイエンタールの葛藤、普段は飄々としたポプランの異なる一面、ユリアンの奇策と、この巻だけでも魅力を数え上げればきりがないだろう。ほとんど無心になって読んだので、まともな感想が書ける気がしない。

 

 そんな私ですら、印象に残ったのは、運命という名の作者の筆が、ヤンを自由惑星同盟に誕生させたことの皮肉だった。ヤンが帝国側に生まれていれば、自由惑星同盟はあとかたもなく滅びていたことに疑いはないが、それでも彼が平穏な生活を送る姿を見てみたかった。

 

 もちろん、彼が一介の歴史学者として生を終えていれば、私を含む読者がこのようにヤンを好きになることもなかっただろう。それが頭では分かっていても、ヤンには自らの望むままに生きてほしかったと思う。ただ、ユリアンやフレデリカとともに、という条件がつくので、これはいささか無理のある仮定ではある。つまり私も、後世の歴史家の一員として、歴史を仮定することの楽しみからは逃れられないのだ。

 

 さて、

正義と信念こそが、この世でもっとも血を好むものであることを、誰もが理解せずにいられなかったであろう。

 という部分がある。どことなく「東の海神 西の滄海」の六太を思い出すが、それはともかくとして、この一文には、恐怖を覚えずにはいられない。いったい何人が、誰かの正義と信念によって今まで血を流してきたことだろう。信念に忠実に、というのは簡単でも、それによって努力を強いられ、ひょっとしたら血に手を洗う人々は、たまったものではない。それが至極全うに見える信念であっても、そんなものはいくらでも時代によって変わりうることを、忘れてはならないのだ。

 

おわりに

 というわけで、本編10巻のうち折り返し地点にやってまいりました。次回は銀英伝の6巻についてです。どうぞお楽しみに。最後までお読みくださり、ありがとうございました。