はじめに
みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回は、十二国記の再読もいよいよ最終段階に突入します。「黄昏の岸 暁の天」です。十二国記再読の初回は、「魔性の子」になります。未読の方は、ネタバレご注意ください。それでは、今回も十二国への旅をお楽しみください。
「黄昏の岸 暁の天 十二国記 8」小野不由美(新潮文庫)
ある日、慶の金波宮に転がり込んできた、戴の劉李斎。彼女は、驍宗に反旗を翻し、玉座を奪った阿選の迫害からぎりぎりで逃れ、騎獣飛燕と共に慶へやってきたのだった。失われた泰麒と同じ胎果である、景王陽子に頼ろうと。
李斎の証言をもとに、泰麒の捜索が大々的に開始される。0巻とされる「魔性の子」とは、表裏一体の関係にある、この巻。「魔性の子」の背景では、いったい何が起こっていたのか。それがするすると解き明かされていく快感に、ページをめくる手が止まらない。
いつもは、なんだか不真面目な延主従も、今回ばかりは真剣な面持ちを見せる。再興が始まったばかりの慶の陽子と景麒も、戴の民を救うために尽力している。さらに、範の二人や廉麟なども登場し、十二国記の壮大さが、ここに一気にまとまった、という感じだ。今までばらばらに進んでいた話を一本の太綱により合わせる、卓越した手腕には感心するばかりである。
それにしても、私たちの生きている世界を、ここまで不気味に描写するのもなかなかできることではない。“現実”が、廉麟たちの目を通すと、ここまで薄暗く無機質なのか、と驚いた。自分の持っている認識が、いかに脆いなのかが分かる。そう、十二国の世界から見れば、ゆがんでいるのは私たちの世界なのだ。「魔性の子」では、十二国からやってきた汕子や傲濫が得体の知れないものとして描かれたが、それはひっくり返せば、私たちの世界が異端ということになるのだ。汕子や傲濫の目を通してみれば、敵の排除は致し方ないもののように感じる。それが、恐ろしくてならない。
そして、ようやく帰還した泰麒。角を失い、麒麟の能力も発揮できず、強大な使令も穢れて到底側には置けない。それでも、李斎との再会は感動的だ。景麒の困惑が、彼らしくて、なんとなく微笑んでしまった。
一番最初に「魔性の子」を持ってきて、しかしその真相が詳細に明かされるのは物語も終盤に突入するこの巻だという構成は、あまりにも巧みで引き込まれてしまう。
そして、とうとう李斎と泰麒は戴へ向かう。長年の阿選の圧政で、荒んだ戴は再興かなうのか。驍宗の生死やいかに……。
おわりに
というわけで、「黄昏の岸 暁の天」でした。次回、麒麟還る! 「白銀の墟 玄の月」お楽しみに! 1~4を分けるかどうかは不明です。4巻まとめて書くことになった場合は、しばらく間が空くと思いますが、ご了承ください。