はじめに

 みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、前回に引き続き十二国記の再読をしていきます。0巻である魔性の子はこちら。ネタバレに関しては、注意しておりますが、未読の方はご注意ください。それでは今回も、十二国記の緻密な世界をとくとお楽しみあれ……。

 

「風の万里 黎明の空 十二国記 7」小野不由美(新潮文庫)

 「月の影 影の海」において、景王となった陽子。しかし、彼女の治政の始まりは、他の例を見るまでもなく、困難なものとなった。前王、予王の政治への無関心をよいことに、権を争い、国庫の中身を着服し、と、民のことを考えすらしない官吏がのさばる王宮。唯一の味方となるはずの景麒との間も、二人の真面目さが裏目に出て、ぎくしゃくする。嫌気が差した陽子は、王宮を出て民の暮らしについて学んでから戻ってこようと決意した。陽子は遊学の先でも、様々な困難に直面する。彼女は、いかにしてこれらの問題を切り抜けていくのか……。

 

 というのが、この巻の主な筋書きだが、他にも主要な人物として、海客の鈴、そして芳の先王の公主だった祥瓊という二人の少女が登場する。彼女たちは、奸臣に支配される慶から圧政に苦しむ民を救い出すことはできるのか。何度読んでも、どきどきしてしまい、一気読みをしてしまう巻だ。

 

 芳の公主としての責任を果たせず、またその自覚もなかった祥瓊、海客として故郷を二度と訪れることのない鈴。二人は、自分を哀れむことに忙しく、周囲まで気が回せていなかった。その二人がどんな風に成長していく様子も、毎回心がじんわりと温まる。人は変わることができるのだという確信を、心に宿すことができるのだ。そしてまた、自分も自己憐憫に陥らないようにしたいと毎回思う。簡単なようでいて、難しく、しょっちゅう陥っているのだが。

 

 前回と同じように、今回もまた「白銀の墟 玄の月」へつながるものを見いださずにはいられなかった。以下は、供王珠晶の言葉だ。

「王は自ら斃れるもの」

 その少女は珊瑚の色の唇でぴしゃりと言い放つ。

「自身の犯した罪以外に、王を弑すことのできるものはない」

 驍宗のことを思い出さずにいられようか。最後の結末を思うにつけ、この言葉の真実性をしみじみと感じる。

 

 この時点から、「白銀の墟 玄の月」の構想があったのか、それとも世界観が一貫しているのか。いずれにしろ、十二国記の世界の確固たる構成と、小野さんの才能の空恐ろしさが伝わってくる。「白銀の墟 玄の月」につながる糸を追いかけることが、楽しくて仕方がなかった。これからもこんな発見があるのかと思うと、期待が高まる。

 

おわりに

 というわけで、「風の万里 黎明の空」についてでした。次回も、十二国記の再読をしていきたいと思います。短編集「丕緒の鳥」ですね。お楽しみに! 最後までご覧いただき、ありがとうございました。