はじめに

 みなさんこんにちは。本野鳥子です。今回は、「鹿の王 水底の橋」についてです。「鹿の王」編を最初から読まれる方はこちら

 

 それでは今回も、魅力あふれる登場人物たちの足取りを追うことといたしましょう!

 

「鹿の王 水底の橋」上橋菜穂子(角川書店)

 「鹿の王」を通読するのは、この本を含めても3回目か4回目のような気がするが、それにしても今回は、これまでと比べてホッサルが際立って見えた。おそらく、新型コロナウイルスの影響で、そういう医療面に目がいっていたせいだろう。

 

 彼の医術、命に対する真摯な姿勢は、この番外編でも貫かれている。だが、ときおりミラルやマコウカンたちに見せる、年相応の若者らしさも、また彼の魅力の一つだ。それは特に、言葉遣いに現れているようにも思う。私は、最初この本を読んだとき、本編よりもやや粗雑な言葉が多いホッサルに、違和感があった。しかし、考えてみればそれも当然だろう。本編と比べて、「水底の橋」では、ミラルやマコウカンなど、身内に対して話している時間が長い。それに加えて、なんとなくだがマコウカンとの距離も縮まっているような気がする。そういうことが、このホッサルのくだけた感じに現れていたのではないだろうか。

 

 ホッサルとミラルのやりとりを聞いていて、思い出した二人がいる。同じく上橋菜穂子さんの作品で、「獣の奏者」に登場する、エサルとユアンという二人だ。この二人も、ホッサルたちと同じように医術師なのだから、当然かもしれないが、それにしても共通するものを感じたのは私だけではないはずだ。

 

 それから、重要な脇役として登場する梨穂宇だが、この人もやはり、「獣の奏者」の登場人物に似たものを感じた。「獣の奏者」の主人公のエリンは、王獣という動物と向き合い、その医術に従事する女性だが、その姿は、猛禽であるミンナルを育てる梨穂宇と、重なるものがある。

 

 また、ホッサルたちが訪れる花部の〈竹屋敷〉も、同じく上橋さんの作品である「狐笛のかなた」で、主人公の小夜も滞在した〈梅が枝屋敷〉を思い出してしまう。これで松が揃ったら松竹梅だ。いつか揃う日も来るのだろうか。

 

 ところで、本編ではもう一人の主人公であったヴァンだが、彼の行く末の気になるところだ。いつか彼の生活も見たいと思う一方で、もしかしたら平穏すぎて、書くことがないのかもしれないと考えると、それはそれで暖かい気持ちになる。

 

 というわけで、今回は無性にホッサルに惹かれてしまった。次読むときは、どんな発見があるのだろうか。そのときには、新型コロナウイルスも収まっていれば良いと願う。

 

おわりに

 これで「鹿の王」については終わりになります。ぜひみなさん、この機会に「鹿の王」を読んでいただきたいと思います。公式サイトからは試し読みもできるようになっているみたいなので、のぞいてみてはいかがでしょうか。アニメ映画化も楽しみですね。この壮大な長編をどんなふうに二時間にまとめきるんでしょうか。そもそも、予定通りに公開されるのかもまだまだ不透明ですが……。早く新型コロナウイルスが収まると良いですね。

 

 次回は、最近話題のカミュの「ペスト」を読みたいと思っています。村山早紀さんの新刊や、サトクリフの再読もそのうちしたいですね。それでは、お楽しみに。