はじめに

 みなさんこんにちは、本野鳥子です。今回は、「海の都の物語3」についてです。前巻である「海の都の物語2」はこちら。それでは、今回も、ヨーロッパで交易によって繁栄したヴェネツィア共和国へ、時代を越えて訪れたいと思います。
 
「海の都の物語 ヴェネツィア共和国の一千年3」塩野七生(新潮文庫)
 ジェノヴァとの抗争に明け暮れた150年間。勝っては敗れを繰り返しながらも、ついに勝利を挙げたのは、二派の根強い対立が続くジェノヴァではなく、共和国体制を敷いたヴェネツィア共和国であったとは、何か象徴的なものを感じる。ありふれた話ではあるが、どんなに個人が優れていても団結できなければ、国としての力は発揮できないことをまざまざと見せつけられた思いだ。
 
 「ローマ人の物語」(塩野七生)では、ユリウス・カエサルが、拡大したローマの領土の統治には、効率的な独裁制を敷くしかないとして、大きな政策転換を行ったことは、まだ私にとっては記憶に新しい。それに比べると、ヴェネツィアが共和制で存続することができたのは、やはり陸の上の領土が比較的にしても狭く、統治が行き渡っていたからなのか。あるいは、ヴェネツィア共和国の体制が、効率的な独裁制(上からの政治)と不満の生まれにくい共和制(下からの政治)の長所をたくみに救いとって、政治を行ったからなのだろうか。
 
 そんなヴェネツィア共和国らしい一面を特に感じたのは、権力者の暗殺という陰謀が、長い歴史にわたって、存在しなかったという事実である。権力集中を見事に防ぎながらも、十人委員会なども上手く利用して平和を保ったヴェネツィアには、感心の一言しかない。
 
 それから、相手の父親に結婚を反対された若者が、無理やりに承諾を取る方法が、あまりにも直接的過ぎて、思わず笑いを堪えられなかった。
第一の方法は、街中で、つまり公衆の面前で、目指す娘の顔をおおっているヴェールを引きはがし、娘を抱擁し、接吻することである。第二の手段は、教会の中で、娘の持っているハンカチーフを奪うことであった。
とある。後者はともかく、前者は、こんな求婚など、絶対に嫌だ。
 
 このように、政治に限らず、様々な面から、ヴェネツィア共和国を眺めることができた。後世から歴史を見る私たちは、どうしても政治上の出来事など、華々しく目立ちやすいものに目が行きがちだが、その周囲には、一般的な人々が当たり前の暮らしを営んでいたということは、つい忘れそうになる。だが、塩野さんは、そんな些細な事柄も、余すことなく書き切ってくれる。ヴェネツィア共和国の姿が、ありありと浮かんでくるように感じた。
 
おわりに
 というわけで、「海の都の物語3」の感想でした。次回は、「海の都の物語4」になることと思います。それでは、ご搭乗ありがとうございました。またのご利用をお待ちしております!