はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。今回は、「王妃の離婚」(佐藤賢一)をご紹介します。前回もお伝えしましたように、海の都の物語も届いたのですが、それらを読む前にこちらを一旦片付けることにします。
「王妃の離婚」佐藤賢一
かつてはパリ大学の英才として名を馳せた、フランソワ。しかし、一度は結婚まで考えた恋人、ベリンダを失い、今は、片田舎の弁護士として、密かに暮らしていた。そんな彼に転機が訪れたのは、王妃ジャンヌと時の王、ルイ12世の離婚裁判だった。辣腕弁護士として、孤立無援、劣勢に立たされたジャンヌの味方となった彼は、果たしてこの裁判を勝ち抜けるのか。
第121回直木賞を受賞とのことだが、納得の出来栄えだった。栄えある大裁判は、あちらへこちらへと転がり、法廷だけに留まらない人間ドラマに惹きつけられる。
無理が通れば道理がひっこむとのことわざもあるが、えてして世間とは権力の横暴が平然とまかり通り、不条理に満ちている。それは、現代に限らず、1500年目前のフランスでも変わらない。権力には抗えないと、絶望していたフランソワと、夫にしがみつく王妃ジャンヌ。登場人物の魅力にあふれた造形もさることながら、優れた構成で最後まで目が離せなかった。
正義や善意が通れば良いと思うこともあるが、さらに厄介なのは正義を標榜して人を痛めつける人々である。彼らに権力が味方についてしまえば、被害者側になすすべはない。不本意ながら、これも世の理なのか。そんな心の奥底に潜む絶望、諦めは、大多数の人々が持っているだろう。この本の主人公であるフランソワも、その一人だった。だからこそ、読者は彼に共感し、利益を省みずに、フランス王とローマ教皇という、当時では最大といっても良い権力に立ち向かう図式に、惹きつけられてしまうのかもしれない。
ところで、ときたま顔をのぞかせるチェーザレ・ボルジアだが、「チェーザレ・ボルジア、あるいは優雅なる冷酷」(塩野七生)を思い出さずにはいられない。その本は、表題からもわかるように、チェーザレ・ボルジアを主人公に据え、彼の栄達と転落を豊かに描ききった名作だが、その彼を別の視点から見るという意味でも、この「王妃の離婚」は、興味深い作品だった。チェーザレの握っていた影響力が、いかに大きかったかが、よくわかる。チェーザレの視点からだけでは見えなかったものが、「王妃の離婚」では見えてきた。同じ時代を扱った作品というのは、意外なところに繋がりが見えて、面白い。
まだ、佐藤賢一は、「ナポレオン」と「王妃の離婚」しか読んだことがないので、これからは彼の作品も追いかけてみようと思う。
おわりに
というわけで、「王妃の離婚」(佐藤賢一)の書評でした。お楽しみいただけたでしょうか。次回こそ、「海の都の物語2」になります。時世も手伝って、「鹿の王」の再読もしたいなあ、なんて思っているので、そのうち上げるかもしれません。またご覧になっていただけると嬉しいです。最後まで読んでいただき、ありがとうございました!