はじめに
みなさん、こんにちは。本野鳥子です。歴史関係を読むと言ったそばから申し訳ないのですが、今回ご紹介するのは、「ソロモンの指輪」です。動物行動学の名著ですね。どうがんばっても歴史には分類できません。すいませんが、少々お付き合いください。
「ソロモンの指輪」コンラート・ローレンツ
動物行動学者の、コンラート・ローレンツが綴る、愛すべき動物たちの生態。ユーモアあふれる語り口と、動物たちの一見おかしくとも、その実、深い理由が隠された行動に、微笑みを誘われる。
人間というのは、総じてどこかに、自分たちは他の動物よりも高尚な生物だ、などという優越感を抱いているのだろう。この本を読むと、そんな意識が、綺麗に拭われる。たとえば、コクマルガラスの“賢さ”には、舌を巻く。彼らが恋に落ちる描写は、人間の愛さながらだ。オウムは、毛糸を抱えて木に巻き付けるといういたずらを披露する。豊かで不思議な動物たちの行動は、自然の神秘を教えてくれた。
ところで私は柴犬が好きで、愛想がないようでいて、本当は飼い主のことが大好きな彼らに相手をしてもらいたい一心だ。柴犬は、著者の分類するところによれば、おそらくオオカミ犬の分類に入るのだろう。柴犬の生態を思いかえしながら、著者が犬について語っているところを眺めると、笑みがこぼれる。
そんな動物たちだが、相手を傷つけるのに足る武器を持つ肉食獣や猛禽類は、同類を殺さないようにブレーキを持っているという話は、興味深い。互いを瀕死の状態まで追い込むウサギやハトの描写には、目も当てられなかった。そして、
自分の体とは無関係に発達した武器をもつ動物が、たった一ついる。したがってこの動物が生まれつきもっている種の行動様式はこの武器の使いかたをまるで知らない。武器相応に強力な抑制は用意されていないのだ。この動物は人間である。
に、思わず背筋が冷えた。確かに、私たちは、お互いを殺す戦争を、歴史の中に重ねてきた。自然が与えてくれる抑制は、私たちの中にない。その恐ろしさが、ウサギやハトの争いを見たあとで迫ってきた。彼らよりも、そして、鋭い牙や爪を持つ肉食獣や猛禽類たちよりも、はるかに殺傷能力の高い武器を私たちは手にしている。それは、刃物に始まり、銃に、爆弾と、数えれば両手に収まらないだろう。著者の警鐘に、耳が痛い。私たちが意思の強さを試される日が来ないことを祈るのみである。
おわりに
というわけで、「ソロモンの指輪」の感想でした。「海の都の物語1」の続きは、今日か明日くらいには届くので、次は「海の都の物語2」か、もしその前に「王妃の離婚」(佐藤賢一)が読み終われば、それについてになると思います。お楽しみに!