こちら↑の記事に引き続き、2023年の児童書&YA文学賞受賞作品をまとめます。


【5月】

2023年 エドガー賞YA部門【ミステリ】

The Red Palace
by June Hur


1758年、李氏朝鮮。都に住む私生児の娘が生きていく道は僅かしかないが、18歳のヘヨンは必死に働いて学ぶことで宮廷の看護人の職を得た。彼女が望むのは目立たず、良い仕事をして、できることなら離れて暮らす父親に認められたいということだけ。
でも4人の女性が一夜にして殺される事件が起こって、親友であり師でもある人に疑いがかかったことで、ヘヨンは突然暗く危険な宮廷政治の世界に巻き込まれてしまった。若き捜査官ヨジンと一緒に事件を追ううち、殺人の証拠は国の第一皇子その人を示しはじめる。

李氏朝鮮が舞台の歴史ミステリ。韓国生まれカナダ在住のYA作家ジューン・ハー(June Hur)の作品。コートニー・サマーズのファンにおすすめとのことです。

 

 



2023年 エドガー賞児童書部門【ミステリ】

The Seaside Corpse (Aggie Morton, Mystery Queen #4)
by Marthe Jocelyn


殺人事件に遭遇したヨークシャーの湯治場への旅から戻ったアギー・モートンと友だちのヘクターは、海でのキャンプを前にわくわくしている。
ライムレジス近くの海で有名な古生物学者のブレニンガム=クルーズ夫妻が魚竜の化石を発掘するというニュースは、アメリカの億万長者やイギリスの博物館、サーカスのオーナーなど、コレクションにその化石を欲しがる人々を惹きつけていた。
コレクターたちの緊張感が高まる中、アギーとヘクターはその海岸で、魚竜ではなく人の死体を見つけてしまった。

1900年代イングランドを舞台に、アガサ・クリスティを少女化したような小説家の卵のアギー・モートン&クリスティの生んだ名探偵エルキュール(Hercule)・ポワロを少年にしたようなヘクター(Hector)という少年少女探偵コンビが活躍する児童書ミステリ「Aggie Morton, Mystery Queen」シリーズの4巻目。カナダの児童書作家マルト・ジョスリン(Marthe Jocelyn)の作品。

 

 



2022年 アガサ賞児童書・YA部門【ミステリ】

Enola Holmes and the Elegant Escapade (Enola Holmes #8)
by Nancy Springer


シャーロックの年の離れた妹エノーラ・ホームズは、今はロンドンで失せ物探し業を営んで一人暮らしをしている。とはいえこれはヴィクトリア朝イングランドでの多くの若き女性にとってまともな人生ではない。通常女性たちは、成人するまではもっとも近い血縁男性の完全な所有下にあるもの。エノーラの友人セシリー・アラスター嬢もそう。
二度にわたってエノーラが父親のアラスター准男爵による望まれざる計画から救い出したそのセシリーが、またエノーラに助けを求めてきた。

ミリー・ボビー・ブラウン主演のネトフリ映画化も好評なナンシー・スプリンガーによるシャーロック・ホームズの妹エノーラを主人公にしたYAミステリ「エノーラ・ホームズの事件簿」シリーズの8作目。
シリーズの最初の5冊は小学館から邦訳が出ていました(現在は品切重版未定で入手困難)。

 

 

 


2022年 アンドレ・ノートン・ネビュラ賞賞【SF&ファンタジー】

Ruby Finley vs. the Interstellar Invasion
by K. Tempest Bradford


11歳のルビーは虫について調べるのが大好きで、昆虫学者になるためになんでもする。おばあちゃんは気持ち悪くてひいているが。
ある日庭で見たことのない奇妙な虫を見つけて調べてみることにしたルビーだが、それは普通の虫ではなく、窓を焼き切って逃げてしまった。それからしばらくして、ご近所で物が消える事件が起こりはじめた。通りの端に住んでいる老婦人は数週間にわたって行方不明だ。ルビーと友だちは食べ尽くされる前に虫を回収しなければならない。

アメリカのSF&ノンフィクション作家K・テンペスト・ブラッドフォード(K. Tempest Bradford)の児童書作品。

 

 

 

 

【6月】

2022年 オーリアリス賞 児童書部門【SF、ファンタジー】

The Wintrish Girl (Talismans of Fate #1)
by Melanie La'Brooy


アリリア帝国のタリスマンの祝日にはすべての子どもたちがその子に特殊能力と運命を授ける贈りものを受け取る。貧しいミッドウィンター州生まれ(ウィントリッシュ)の召使の少女ペン以外は。

彼女の望みは自分もタリスマンを受け取って、ミッドウィンターに帰り、家族を探すこと。なのにみじめで孤独な王宮の召使の仕事に閉じ込められている。だが長い間忘れ去られていた邪悪な存在が目を覚まし、運命は変わりはじめていた。

これまで一般書作家として活動していたオーストラリアの作家メラニー・ラブルー(Melanie La'Brooy)の児童書デビュー作品。シリーズ1作目。この本は日本Amazonにありません。著者のHPを貼っておきます。

 

 



2022年 オーリアリス賞 YA部門

Only a Monster (Monsters #1)
by Vanessa Len


完璧な夏になるはずだった。ロンドンの亡くなった母の変わり者の家族のもとで休暇を過ごすことになり、16歳のジョアンは楽しむことに決めた。歴史あるホランド館でのバイトも気に入ったし、めちゃくちゃかっこいいバイト仲間のニックからはデートの申し込みがあった。何もかもがあるべきところにあるという感じ。
でもすぐに真実に気がついた。一緒に過ごしている母の家族はただの変わり者たちじゃない。彼らは恐ろしい秘められた力を持つモンスターだ。

マレーシア華人とマルタ共和国にルーツを持つオーストラリアの新人作家ヴァネッサ・レン(Vanessa Len)のデビュー作品。シリーズ1作目。

 

 

 

 

2023年 ラムダ賞ミドルグレード部門【LGBTを取り扱った児童書】

Nikhil Out Loud
by Maulik Pancholy


13歳の二キール・シャーはヒットアニメ「外宇宙のラジ・リディ」に出演している人気声優。でもTVでスターになることが舞台裏にあるすべてを解決してくれるわけじゃない。
病気のおじいちゃんの面倒をみるためにオハイオの田舎町に引っ越すことになり、二キールは自分が軌道を外れたような気がした。知名度のせいで学校ミュージカルの主役になってしまったが、舞台で戦闘シーンになったらみんなに詐欺だと言われないかとびくびくしている。しかも保守層の親グループがオープンリーゲイの芸能人を主役にすることにはっきりと難色を示し、人生全部アニメキャラのラジ・リディでいられたらどんなに楽かという気分にさせられた。そしてある朝、声変わりがはじまってしまったことに気がついて…

インド系アメリカ人のゲイの少年声優を主人公にした成長物語。ドラマ「30 ROCK/サーティー・ロック」などに出演している俳優で児童書作家モーリク・パンチョリーの作品。

 

 



2023年 ラムダ賞YA部門【LGBTを取り扱ったYA】

The Lesbiana's Guide to Catholic School
by Sonora Reyes


16歳のヤミレットは生徒がほぼ白人の超リッチなカトリック系学校の中のごくわずかなメキシコ系生徒として目立つよりは、ばっちりなアイラインで目立ちたい。とはいえ、ここでは誰も彼女がレズビアンだと知らないし、そこはそのままにしておきたかった。
前の学校で片思い相手の元親友にアウティングされてから、ヤミは人生の優先事項を新たにした。弟をトラブルから守る、母さんに誇りに思ってもらう、そして何より優先するのは恋に落ちないこと。だけど学校で唯一のオープンリーなクィアのボーがあまりにも完璧で賢くて才能があって可愛くて超可愛い女の子で、ストレートを装っているのは楽じゃない。

アメリカの新人YA作家ソノラ・レイズ(Sonora Reyes)のデビュー作品。

【このほかの受賞・候補作品選出文学賞】
2022年全米図書賞児童書YA部門(最終候補)
2023年ウィリアム・C・モリス賞(最終候補)
2023年ウォルター・ディーン・マイヤーズ賞YA部門(オナー)
2023年プーラ・ベルプレ賞YA作家部門(オナー)

 

 

 

 

2022年 ブラム・ストーカー賞YA部門【ホラー小説】

The Triangle (The Rise #1)
by Robert P. Ottone


海面が上昇して多くの生物が滅んだ世界。科学と工学の才能を持つアズリンと父親のメリル、親友のエリスは珊瑚湾の艦船共同体で小さな店を営んでいる。彼らは難破船の部品や沈んだ貨物、その他世界が水に沈む前の貴重な品を拾い、生き延びようとする共同体をできる限りの力で支えていた。
ある日謎の組織「教団」から送られてきた偵察隊がバミューダトライアングル付近で消息を絶ち、メリルに捜索の依頼が来た。捜索にこっそり同行したアズリンとエリスは、予想を超えた恐ろしい古代宇宙の秘密に出会うことになる。

アメリカのホラー作家ロバート・P・オトーネ(Robert P. Ottone)の作品。あらすじの感じはホラーというより冒険SFっぽいですが、クトゥルフ神話っぽい要素がある作品だそうです。シリーズ1作目。

 

 



2022年 ブラム・ストーカー賞児童書部門【ホラー小説】

They Stole Our Hearts (The Teddies Saga #2)
by Daniel Kraus, Rovina Cai (Illustrations)


賢いバディ、勇敢なサニー、優しいシュガーは理由もわからず捨てられておうちを探していたぬいぐるみたちのチーム「テディーズ」。彼らは旅の末にようやく一緒に暮らせる子どもに出会った。
新しい持ち主の少年ダーリングとの生活は幸せだったけれど、ベッドの下に隠れ住んでいたところをある日ダーリングの母親に見つかってしまった。壊されそうになって逃げ出し、彼らはふたたび外の世界で、自分たちが作られた工場を探す旅に出る。

意思を持つぬいぐるみたちの冒険を描く「The Teddies Saga」というシリーズの2作目。このコンセプトだと可愛いファンタジーになりそうなんですが、「トイ・ストーリー」+「蝿の王」のようとか、「ウォーターシップ・ダウンのうさぎたち」の趣があるとか言われています。
ネトフリの人気アニメシリーズ「トロールハンターズ」の原案小説「Trollhunters」(未訳)の作者(※ギレルモ・デル・トロとの共著)として知られるアメリカのYA作家ダニエル・クラウス(Daniel Kraus)のソロ作品。

 

 

 

 

2023年 ボストングローブ・ホーンブック賞 フィクションと詩部門

Warrior Girl Unearthed
by Angeline Boulley


双子の姉がインターンシップで家を出ると、ペリー・ファイアキーパー=バーチの夏休みの予定は何もなくなった。
でもそののんびりした夏は、彼女が「ウォリアー・ガール」に出会ったことで突然終わった。ウォリアー・ガールはペリーの祖先のネイティブアメリカン。その遺骨は盗まれて、今でも地元の大学のコレクションの中にある。ペリーは仲間と協力し、なんとしてでも彼女を家に戻してあげると心に決めた。
ところがそんな時、インディアンの女性の失踪が相次ぐようになり…

カナダのアシナベ(オジブウェ族)のYA作家アンジェリン・ボウリー(Angeline Boulley)の新作ミステリ。

【このほかの受賞・候補作品選出文学賞】
現在2024年カーネギー賞作家賞ノミネート

 

 

 


2023年 ボストングローブ・ホーンブック賞 ノンフィクション部門【ノンフィクション】

Sunshine
by Jarrett J. Krosoczka


ジャレット・J・クロザウスカは高校生のとき、深刻な病を抱えた子どもとその家族のためのキャンプにカウンセラーとして生徒を送る学校のプログラムに参加した。深刻な問題を抱えた子どもたちのそばで過ごすのは重すぎないか。暗い時間になるんじゃないか?
でもジャレットが「キャンプサンシャイン」で出会ったのは死の暗い影ではなく、別のもの。もっとも辛い時間の中でも人々が持っている希望と意志だった。

日本には絵本「ブーンとブラムとピーブゥとモコモコメーとコッコのパンクファーム」で上陸しているグラフィックノベル作家ジャレット・J・クロザウスカによるグラフィックノベル回顧録。
2018年の全米図書賞児童書部門最終候補になった話題作「Hey, Kiddo」(未訳)の続編のようです。

 

 



2023年 カーネギー賞作家賞

The Blue Book of Nebo
by Manon Steffan Ros


ロウェナと彼女の幼い息子ディランは、原子力災害に見舞われた後の北西部ウェールズの数少ない生存者だ。ほかの住人たちが死んだり町や村を捨てて去ったりした後も、人里離れた丘のそばの小屋で2人きりで暮らしている。自分たちで食べ物をつくり、町の中に残されているものを利用し、電気も水道もない世界で生きるすべを身につけてきた。
でもディランは成長し、母さんが息子の過去に関する何かを隠していることに気がつきはじめた。

ポストアポカリプス世界に生きる母親と12歳の息子が共有する日記帳のスタイルで描かれた作品のようです。
ウェールズの作家マノン・ステファン・ロス(Manon Steffan Ros)が2018年にウェールズ語で発表した「Llyfr Glas Nebo」(未訳)という作品の英訳というか、著者本人が執筆した英語版のようです。
原書が非英語の作品がカーネギー賞を受賞するのはこれが史上初とのことです。

 

 

 



2023年 シャドワーズ・チョイス・カーネギー賞作家賞【読者投票】

I Must Betray You
by Ruta Sepetys
【モノクロの街の夜明けに/ルータ・セペティス/野沢佳織訳/岩波書店】


1989年ルーマニア。17歳のクリスチャンの夢は作家になること。でもルーマニア人に夢を見る自由はない。みんなルールと権力に縛られている。チャウシェスクの独裁政権下、クリスチャンは秘密警察から密告者になるように脅されている。彼の選択肢は2つだけ。愛するすべての人たちを裏切るか、東欧最悪の邪悪な独裁者をひそかに弱体化させるために自分の地位を使うか。

「凍てつく海のむこうに」でカーネギー賞を受賞しているアメリカのYA歴史小説家ルータ・セペティスの新作。岩波書店から邦訳が出ています。

 

 

 

 

その4へ続きます…