スーパーマン スマッシュ・ザ・クラン/ジーン・ルエン・ヤン(ストーリー)/グリヒル(作画)/吉川悠訳/小学館集英社プロダクション

 

戦後間もない1940年代。チャイナタウンから大都会メトロポリスへ、両親と兄のトミーと一緒に引っ越してきたロベルタ・リー。
でも白人ばかりの街にも近所の子どもたちとも馴染めないし、しかもここでは彼女たち一家のようなアジア移民も、黒人も、有色人種はみんな人種差別団体「クラン」のターゲット。引っ越してきてすぐのある夜、自宅を「クラン」に襲撃されてしまう。
おびえるロベルタの前に現れたのは、この街を守って日夜悪と戦うスーパーヒーロー・スーパーマンだった…


スーパーマンと出会った中国移民の少女の成長を描いたDC社のYA向けグラフィックノベル。
YALSA(全米図書館協会)の2021年ティーンのためのベストグラフィックノベルトップ10リスト選出作品です。



先日レビューした「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」のジーン・ルエン・ヤンがストーリーライターを担当しており、あの作品とほぼ同じテーマを描いています。
すなわち、移民と差別、「よそ者」として社会から扱われ続ける者たちの、受け入れられたいという切実な気持ち。


※アメリカン・ボーン・チャイニーズのレビューはこちらです。




しかし「スーパーヒーローもの」という要素で希釈してある分、こちらのほうがかなりマイルドでとっつきやすいです。(「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」は同じテーマの「原液」。)

また作画を日本人アーティストのグリヒルが手がけていて、コマ割りやキャラデザインが日本の漫画に近いので、アメコミや海外グラフィックノベル読み慣れてない日本の子どもたちでもほとんど違和感なく読めると思います。

たとえ「スーパーマン1ミリも知りません」みたいな読者でも(若い子だと結構いるよね?)大丈夫。スーパーマンのオリジンストーリーを話に盛り込んでくれてるし1冊完結なので、知識ゼロでもこれ1冊だけいきなり読めます。


アメコミだけど、内容は子どもたちの悩みや成長を「差別」というテーマを中心に1本通してわかりやすく描いた佳作の児童文学って感じ。

いつでも社会の「よそ者」でしかないアジア人としての悩みを抱えるヒロイン・ロベルタと、みんなの人気者のヒーローであっても宇宙から来た「移民」としての孤独と恐怖を抱えるスーパーマンが、お互いとの交流を通して素直に成長する姿がとても爽やか。

そして自分に対しては「善い人」でしかない人種差別主義者の叔父さんを擁護してしまう白人少年、白人の社会になじみたくて黒人や同じアジア系を見下した態度をとってしまうお父さん、白人の友達にウケるために時々自然に「期待通りの中国人」を演じてしまうコミュ力高いお兄ちゃんなど、それぞれの立場で「差別」というものに直面するキャラたちの描写が丁寧で、すっとテーマが入ってきます。


日本の若い読者だと、当時のクラン(KKK)やアジア系移民の扱いをよく知らない子が多いと思いますが、その辺については作者のヤンが巻末に解説を載せてくれてます。この解説(であり自伝的エッセイ)も良いです。勉強になる。


ところでこの解説に出てくるヤンの同級生のダニー(仮名)、仮名といいやったことといい、「アメリカン・ボーン・チャイニーズ」のダニーのモデルってこいつかな…

 

Superman Smashes the Klan | Official Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=LQ5ID_k_iBA

DC社がブックトレイラーを作ってくれてるので貼っておきます。絵柄こんな感じです。
絵柄自体もキュートですが、ロベルタやロイスの着てる40年代ファッションがおしゃれで目を惹きます。可愛い。