今度は、こんな場面である。。。
WALPURGISNACHTSTRAUM
oder
Oberons und Titanias goldne Hochzeit
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Intermezzo
ちなみに、池内訳では、こう訳されている(p.220)。
ワルプルギスの夜の夢
あるいは
オベロンとタイテニアの金婚式
幕間劇
鷗外訳を見てみると、こんな風に訳されていた(p.208)。
ワルプルギスの夜の夢
一名
オベロン(Oberon) とチタニア(Titania) との金婚式
(間の曲)
鴎外訳で、アレッと思ったのは、先ず、「一名」という訳語である。
初めは「一名」とは、一人の人 という意味だろうか、と思ったけど、oder (あるいは)という意味だと分かった。こんな表現は現代では見る・聞くことはないだろうて。
さらに、(間の曲)というフレーズも分かりにくいなあ。
Intermezzo は、「間奏曲」と訳されるから、こうなったのだろう。
私は、ここで音楽が鳴る(メンデルスゾーン「夏の夜の夢」序曲を思い浮かべた)のかと思いきや。。。
これは、「幕間劇」あるいは、「幕間狂言」という意味なのだ。
それでは、音楽ついでに、楽団が出るところも見ておこうか。
ORCHESTER TUTTI Fortissimo
Fliegenschnauz' und Muckennas' ,
Mit ihren Anverwandten,
Frosch im Laub' und Grill' im Gras'
Das sind die Musikanten!
池内訳では(p.221)、
オーケストラ(全員で激しく)
蝿のおちょぼ口、蚊のとがり鼻と、こりゃどうだ。親戚一同あいそろった。
葉にとまった蛙や草にひそんだコオロギも、
みんながそろって楽師さまだ!
鷗外訳は(p.209-10)、
ツツチイの演奏團(最も強く)
蝿の嘴、蚊の鼻梁(はなばしら)、
それからそいつの眷属等、
木の葉にをるは雨蛙、草の陰のは蟋よ。
これがわし等の楽人だ。
先ず、鴎外訳の「ツツチイ」という訳語は意味不明である。これは、トゥッテイという音楽用語(一斉に奏する)であるのを知らずに訳したとしか思えない。
オーケストラは、最後にも登場する。
ORCHESTER Pianissimo
Wolkenzug und Nebelflor
Erhellen sich von oben.
Luft im Laub und Wind im Rohr,
Und alles ist zerstoben.
池内訳(p.227)、
オーケストラ(かぼそく)
雲の帯も霧のヴェールも晴れてきた。木の葉がゆれる、葦がそよぐ。すべてが
あとかたもなく消え失せる。
鷗外訳(p.216)、
奏楽團 (極めて微かに)
雲の段(きだ)、霧の帷(とばり)よ。
上の方より今し晴れ行く。
高き梢、低き葦間に、風吹き立ちて、
忽ち物皆散(あら)け失せぬ。
こうして、鴎外による明治期の文語訳と現代の池内訳を比較してみると、百年足らずでいかに日本語が大きく変遷してきたのかと驚かされるなあ。。。
トゥッテイによる強奏で始まり、フェイドアウトで終わるオケの演奏は、見事な対照を見せているわ!
これを言葉による表現だけで伝えるのは至難の業だろうけど。。。
<ゲーテ「ファウスト」の日本語訳を巡って!>・・・10