こんな本を見つけてゲットした!
真銅正宏「異界往還小説考」(図書出版みぎわ 2023)
読書行為自体が、現実と異界の往還である―― 森鷗外や夏目漱石、谷崎潤一郎ら近代文学の文豪や、戦後に活躍した太宰治、江戸川乱歩、三島由紀夫、そして現在の村上春樹といった作家の、読者を現実から解き放ち、時空も空間も超えた自由な世界へ誘う35作品を紹介。
<目次>
・はじめに
第一章 近代における海外
第二章 桃源郷の魔力
第三章 地方・郊外、近代が作った異界
第四章 時間と空間の歪み
番外編
第五章 性のラビリンス
第六章 内なる異界としての幻覚・夢・病気
第七章 伝奇の中の異界
第八章 異界からの来訪者
・おわりに
・作品本文引用底本一覧
・あとがき
真銅正宏(1962- )
ここでは、取り上げられている35作品の中から、一つだけ紹介してみたい!
深沢七郎「みちのくの人形たち」(『中央公論』1979年6月発表)
・・・さらに、この小説を特徴づけているのは、まず冒頭から、「もじずり」という花を見せようと男が語ることにより、百人一首の「みちのくのしのぶもじずり誰故にみだれそめにし我ならなくに」という著名な歌を書き込み、ある先行するテクストによって、話をやや文学エッセイ風に構成しているという性格である。これは、プレテクストの利用と呼ぶべき手法で、作品世界が、先行するテクストの世界を取り込むことにより、重層的になるという効果をもつ。またこのプレテクストの導入は、作中に時代の往還をも用意するので、読者も作品の時代感覚を揺らされるのである。これは、作品の末尾に浄瑠璃の「いろは送り」の語句を持ち込むことでもう一度用いられる効果手法である。・・・(p.70)
線香の匂いや「逆さ屏風」(死者の枕元に立てる)など、気味の悪い状況の空間に接したあとに、戻って来るという異境・異界と現実界との往還の物語となっているのだ。
・・・世にも不思議な世界を、現実味を以て語ること。この二律背反が、日本近代文学においては、その出発期から、創作原理の一つだったのである。
では、「奇なる物語」がなぜ求められたのか。
それは、不思議な世界が日常生活を逆照射し、日常生活の真の姿に読者が気づくためであろう。
(中略)
同じように我々は、読書体験によって、芸術の世界に遊び、やがて日常に帰ってくる。その往還関係の中で、我々は日常を正しく見ていること以上の、可能次元をも含めた高度な視点を手に入れる。現実世界の事物が、それ以上のものとして、あるいは多重化して、意味を持ち始める。
これこそ、文学の役割なのであろう。私の知りたい「文学とは何か」の一端が、見えたような気がする。・・・(p.198-9)
著者が「おわりに」で述べた感慨が手に取るように分かるなあ。。。
堺町画廊で開催されていたこんなイベントを覗いてみて、興味深い出版物が並んでいる中で、この本をゲットしたのだった!