今回は、酒の専門家が著した書物を紹介することにしよう。
<日本の食文化大系 21 酒博物誌> (東京書房社 昭和59年)
この画像は、単著で、上記の<食文化体系>に所収される前の刊行(昭和46年刊)。
なお、<日本の食文化体系/全21巻/定価88,000円>と、奥付には記載されている。
その最終巻が、この「酒博物誌」だ。
著者の芝田喜三代のプロフィール・・・1913年生まれ。1932年東京農業大学短期専門学部卒業、醸造試験所入所。1939年東京税務監督局鑑定官室勤務。1977年死去。
A5版で380ページの大冊の奥付前のページに著者略歴が載っている。
著書として、「酒造読本」「酒造総典」「酒造全書」「酒道」「酒」「般若湯」「酒鑑」が並んでいて、まさに酒造博士という印象だわ!
『酒博物誌』解説(平野雅章)に続いて、<目次>を挙げておこうか・・・
第一部 酒の始め
第二部 酒の心
第三部 般若湯
第四部 酒林
第五部 酒客
それぞれの章には、細目もあってどこから読んでも愉しめるかな(^^)
例えば、第五部には、牧水から啄木に至る8人の日本人と李太白から杜甫に至る中国人が紹介されていて、古の酒客たちのオンパレードに!
第二部から・・・
「呑兵詩人の法螺」
・・・洋の東西を問わず、また、古今の別なく、詩人や文人たちは酒を愛し、かつ、こよなくそれを賛美している者が多い。だが、彼等だけの独占物ではないことはいうまでもない。この人びとは、得意の文筆を利して、己の酒観を余すところなく吐露し、それを書き残したから、酒仙、酒聖として後世に名を残したのであって、彼等以外にも無芸大食で、私同様、飲み放題に飲んだ酒の虫も無数にある。・・・(p.79)
この後に詩人や文人たちが物した法螺が延々と紹介されている!
第三部から・・・
「酒の生理」
・・・ 二日酔三盃目にはぐっと出し 晩成
なぜ、迎え酒をすると二日酔の苦しみから解放されるか?晩成は今まで漠然と迎え酒で酔いをよび戻しその二度酔いのために、二日酔いの苦痛を忘れるのだと考えていた。ところが、たまたま、信州大学医学部の赤羽教授から「二日酔現象」に関する貴重なレポートをいただいたので、ここに簡単にご披露する。赤羽教授の新発見は、「酩酊、すなわちアルコール急性中毒症状(酔)はアルコール本来の中枢麻痺と、アルコールの分解物であるアセトアルデヒドの中枢刺激作用との両中毒作用」だということである。すなわち、アルコールは体内でアセトアルデヒドから酢酸をへて、炭酸ガスと水に分解される。このアルデヒドが頭痛、悪心、嘔吐等の悪酔症状をおこすのだ、ということである。・・・(p.130)
むむむ。。。なるほどね!
第四部から・・・
「酒林」
・・・そもそも、酒林はわが国の昔の酒屋の看板であるが、海のあちら、イギリスでも、昔は酒林と同じような酒の看板、「ブッシュ(酒棒、木の枝、酒枝)」があった。このイギリスのブッシュは、ローマ街道沿線にできた宿屋の看板をまねしたものらしい。要するに、看板は、宿屋にしろ、酒屋にしろ字の読めない者が多かった時代、判じ物で表わすために考え出されたものであろう。そして、この看板は、一片の棒切れから、次第に進歩し、現在では、ネオンサインまでに進化している。しかも、旅館、酒屋ばかりでなくあらゆる商売に無数に使用され、それぞれの効果をあげていることは周知のとおりである。・・・(p.178)
酒林(さかばやし)とは、杉玉(すぎたま)とも呼ばれ、今でも目にすることができる。
新酒ができたことを知らせる役割を果たす杉玉
「瓜二つ」
・・・古来、「英雄は色を好み、豪傑は酒を好む」といわれているが、西洋でも、かのクーデターで有名なマルチン・ルーテルのごときは、「女と酒を愛しえない者は、一生涯何事もなしえない者だ」と明言している。
かくのごとく洋の東西を問わず、人情には別して変わりはないようである。
酒と女の類似点これくらい瓜二つなものはたんとあるまい。恋が曲者であれば、酒は気狂い水であり、頼山陽の口を借りるならば、「酒を愛すること妻の如く、酒を惜しむこと銭の如く」である。(後略)・・・(p.192)
「酒と川柳」
・・・ 神代にもだます工夫は酒がいり
大江山の酒呑童子にしても、やまたの大蛇退治も、女に寝首を取られるのも、みんな酒だ。だが、現代のメチル酒よりは罪はよほどかるい。
蛇よりも先ず尊一杯きこしめし ・・・(p.225)
引用しだせばキリがないので、このあたりでお開きに!
是非、手に取ってご覧あれ
なお、片方善治との共著になる「飲む酒を読む本---人生を活かす知恵---」(青春出版社 1961)は、もっと気楽に愉しめるわ(^^)
表紙カバー裏の著者紹介には・・・
・・・お役人というイメージに似ても似つかぬ軽妙酒脱な人柄で酒を愛することにかけては”日本のディオゲネス”と云っても過言ではない。・・・
こういうお役人という存在は貴重かもしれない。