東京45年【91-1】知床 | 東京45年

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東京45年【91-1】知床

 

 

 

1986年2月、25才

 

 

直接的な生き方  間接的な生き方。

 

直接の恐怖    間接の恐怖。

 

直接の幸福    間接の幸福。

 

 

 

人は皆、望む答えを聞けるまで、尋ね続けるものだ。

 

自分の幸せはどこにあるのか???

 

そして、自分の幸せは何だと。。。。

 

 

 

 

 

玲は、上野駅まで見送ってくれた。

 

 

夜行列車で根室まで向かう。

 

 

ホームでキスをした。

 

 

『行ってらっしゃい』

 

 

『向こうに着いたら電話するよ。多分、根室駅と羅臼から二度電話をする』

 

 

『うん、分かったわ。必要な物だけで良いからね』

 

 

『ありがとう』

 

 

まるで、近所のスーパーへ買い物に行く時の見送り方だった。

 

 

知床へ出発した。
 

 

 

 

昨日の夜はマンションで華燭に火を灯した。

 

 

1月26日 知床羅臼。公衆電話を探すのも苦労した。

 

 

根室では、すぐに見つかったのに。。。

 

 

 

 

『行ってくるよ』

 

 

『待っているわ』

 

 

『ああ、玲のご飯が楽しみだ。愛している』

 

 

これは俺の登山の集大成だったとは思わない。

 

 

 

 

 

 

太平洋側の海岸線を行く。

 

 

羅臼、洞窟、サシルイ岬、相泊、ペキンノ鼻

 

 

海岸線の高巻きと滝の横断する。
 

 

 

 

1月31日知床岬着、羅臼から40km、道なき道を来た。

 

 

もう一度、行けと言われても行きたくない。

 

 

ここから内陸へ向けて、いよいよ縦走が始まる。

 

 

険しい登りが続く。

 

 

寒い。

 

 

寒さが痛い。

 

 

氷点下30℃を下回っている。

 

 

吹雪く中、ラッセルを続ける。

 

 

 

 

ポロモイ岳のはるか手前でビバーク。

 

 

雪が深くて遅々として進まない。

 

 

だが、トレーニングの成果もあり、気力も充実して快適だった。

 

 

翌日、ポロモイ岳を越え、知床岳を越えた。

 

 

ここまで来ると標高は1200mを越えている。

 

 

クラストした箇所もありスピードが上がる。

 

 

左右はオホーツク海と太平洋が広がっている。

 

 

凄い景色だ。

 

 

何処までも広がる光り輝く太平洋と流氷が海の向こうに見える荒れるオホーツク海。

 

 

対照的な海を見ながら進む。

 

 

その後、トッカリムイ岳、ルシャ山、東岳、知円別岳。

 

 

 

動き始めて2週間が経った。



2月11日は吹雪く。

 

 

とにかく、吹雪く。

 

 

1週間近くも吹雪く。

 

 

寒い。

 

 

痛い。

 

 

氷点下32℃。

 

 

太平洋がずっと見えている。

 

 

止まらずに動き続ける。

 

 

 

 

2月15日から猛吹雪となる。

 

 

1週間も青空が見えないばかりか、ブリザードでホワイトアウト。

 

 

ホワイトアウトで上下が分からない。

 

 

風が強くて、重力の向きを身体が感じない。

 

 

平衡感覚が麻痺する。

 

 

足元の雪面が吹雪で見えない。

 

 

それでも進む。

 

 

コケまくる。何度もコケまくる。

 

 

もう無理だ。

 

 

凍傷になる。

 

 

雪洞を掘って、停滞する。

 

 

ヒマラヤでも味わった事がない強烈な風。

 

 

気を抜いたら飛ばされる。

 

 

ここからは雪の深い所を探して、出来るだけ雪洞を掘る。

 

 

パウダースノーの雪洞はやっかいだ。

 

 

掘っても掘っても、崩れていく。

 

 

穴が掘れない。

 

 

ただ雪を崩しているだけだ。

 

 

雪洞の中は気温が高い。



凍傷にならない。

 

 

毎日掘る。

 

 

土方仕事ばかりだ。
 

 

大学1年の時に毎日土方のバイトをした。

 

 

体力に任せて土を掘った。

 

 

だが、ここはどうだ???

 

 

穴なんか掘れやしない。

 

 

掘っても掘っても、泡雪で埋まっていく。

 

 

それでも、挫けずに掘る。

 

 

スコップで放り投げると、風で自分に戻って来る。

 

 

全身雪まみれになる。

 

 

泡雪は質が悪い。

 

 

身体にまとわりついて、首の隙間から地肌へと侵入する。

 

 

顔に付けば、融けて体温を奪い、無精ひげに氷が張る。

 

 

 

 

 

そのうち、笑えて来る。

 

 

笑いながら涙が出て来た。

 

 

何やってんだろう?

 

 

ちくしょう!!!

 

 

吹きすさぶ雪の中で、大の字になって寝そべっていると。。。。

 

 

ふと、動く物が目に入る。

 

 

見ると白いうさぎ???

 

 

エゾウサギだった。

 

 

デカい。5、60cmはあろうか?

 

 

雪の下からヒョイと出て来て、パウダースノーを物ともせずに飛んでいく。

 

 

こんな所に住んでるのか???

 

 

見ると、縦穴だ。

 

 

そうか!横穴じゃダメなんだ。

 

 

俺も真似て、縦穴を掘る。

 

 

根雪に届いてから、横穴にするんだ!!!

 

 

なるほど。。。。。

 

 

ウサギに雪洞掘りを教えられた。

 

 

それからは、雪洞掘りが上手くなった。

 

 

こりゃあ、雪洞掘りの名人の菅井先輩に自慢が出来る。