東京45年【90-6】渋谷
1986年 冬
『馬力って言えばね、宇奈月温泉のお風呂で抱き上げられた時、ゾクゾクしちゃったわ』
『それって、お風呂に二人で入ったんですか?』と佐和ちゃん。
『そうよ。実家でも一緒に入るわよ』
『さすが、大人の女性だ』と菅井先輩。
『おばさん扱いするな。あんたと3つしか違わないんだぞ』
『でもオープンなご家庭ですね』と佐和ちゃん。
『そうでも無かったんだけど、
司と付き合い始めたらそうなったのよ。
真剣なら何も恥ずかしくないのよ。
だから彼のお陰なの。。。お風呂でSEXもするわよ』
『えっ、実家のですか?
ご家族が居てもですか?
どんな風にするんですか?
それってどんな感じなんですか?』
と佐和ちゃん。
『質問だらけだわ。。。。佐和ちゃんも早くしたいんだね。。。あははは』
『そんな。。。。。。あっ、済みません。でも佐藤さんなら教えて貰えそうなので。。。』と佐和ちゃん。
『まあ、良いけど。。。
えーっと、なんだっけ?。。。
ああ、家族が居てもそうだし、
いろんな風にするし。。。。
どんな感じかって言うのは、
したいって感じで、やっちゃうと幸せって感じかな。。。
まあ、やってみたら分かるわよ。
但し、真剣に愛していて、
信頼していないと恥ずかしいわよ。。。
それも司が真剣に愛してくれているから、
素の自分で居られて、恥ずかしくもなくて、
ただ、二人で快感を求めているのよ。。。
そんな事を感じたのって、
29歳で初めてなのよ。
だから、私は私の人生を全部預けたのよ』
『俺達は二人で、育ってきたんだよ。。。だから二人とも自身が持てたんだ』
『そうなんですよ。こいつは大人になりましたよ』
『あの、私達もそうなれますか?』と佐和ちゃん。
『なりたいと思えばなれるさ。
但し、二人でちゃんと会話をして、
心が通じ合えばね』と俺。
『そうね。会話が重要ね。
心の奥の襞まで見せて、分かり合う事よ。
それは簡単じゃないわ。
勇気を持って心を見せる事よ』
『きっとそうですよね。
輝いていますから』
『佐和ちゃん、分かる?
そうなの燃えているわ。
火を点けたのは彼よ。
それまでは、熾火の様に燻っていたの。
佐和ちゃんだって、菅井が好きで勇気を出したでしょう???
でも、それは、序の口なのよ。。。
恋は始める事よりも続ける事が大変なのよ。
それは二人で、感じ合って、
思いやりが必要なの。
でも、ハッキリ言わないのもダメなの。
だから、いっぱい話す事が大切なのよ』
『そうですよね。
佐藤先輩は以前に比べて本当に綺麗になりましたよね。
元々お綺麗でしたけど、
更に自信を持っている感じですよね。
近寄り難かったのに、今はフランクに話が出来ます』
『司、みんなに褒められて嬉しいわ』
『ああ、綺麗だよ。キラキラしているよ。玲』
『あー、良いなあ。
私もそうなりたいわ』
と佐和ちゃん。
『それはね、佐和ちゃん、菅井君の教育次第よ。まずは、言いなりにさせるのよ。特に、バカ男には必要よ!!!』
『それ教えて下さい。これからも連絡して良いですか?』
『いつでもどうぞ。菅井、あんた、佐和ちゃんを泣かしたら私が仕返しするからね。覚悟しなさいよ』
『そうだ、菅井先輩、あれどうするんですか?あの飲み会10人企画は?』
『ああ、そうだったな。山岳部の奴ら5人と彼女5人の飲み会なんです。どうですか?』
『良いわよ。ねぇ、佐和ちゃん』
『はい、大丈夫です。私もみきちゃんの彼女で良いんですよね?』
『そうか。さっき、そうなったんだった。。。』と菅井先輩照れた様に言った。
楽しい一時だった。
それから玲との日々を過ごした。
毎日研究室と自動車教習所行った。
どこに行くのも走って行った。
玲は会社との往復。
鉱物学は遅々として進まず、小川教授からは難問に次ぐ難問ばかりだった。
まるで哲学の様だった。
何の役にも立たない真理を追究するだけ。
1+1=2の真理は、なんだ?
0とは、なんなのか?
普遍的な価値とは存在するのか?
神は、サイコロを振るのか?
時には、宗教がかった質問もあった。
知らなくったって、生きて行けるのに。。。
小林先生は、全てに疑問を投げ掛け来た。
俺の恩師、小林亘。
先生が俺の今を作った。
月中に10人の飲み会を実行。
桜井主将は、彼女のご両親に許しを貰い、入籍をした。
2才の女の子を連れて来た。
嫁さんは見た事があった。
菅井先輩と佐和ちゃんは、もう初体験を済ませていた。
佐和ちゃんはそれほど痛くなかったと言った。
早すぎると玲は言った。
既に、菅井先輩は、佐和ちゃんの言いなりだった。
原は10月に結婚式を挙げる。
7月には子供が生まれる。
式場を決めたら早く子供が欲しくなったらしい。
身重の婚約者を連れて来た。
同期で、一緒にヒマラヤを登った友だ。
佐々木元主将は、慶応の彼女を連れて来た。
カップルの早慶戦は、珍しかった。
彼女は、慶早戦と言っていた。
俺は玲といて楽しかった。
玲は、のろけっ放しだった。
気分が良かった。
人生は日々変化する。
意志があれば早く変化することもある。
それぞれが、学生時代を過去にして行く。
過去は、みんなの事実を不溶の氷の中に閉じ込めて行く。
瞬間瞬間の思い出が、透明な氷の中に今もある。
氷を溶かして、取り出したい。
全てを懐かしいキラキラとした氷に変えていく。