東京45年【85-4】宇奈月温泉
1986年 正月、25歳、宇奈月温泉
ついでに、日山協の副会長に電話をして、竹中さんのご両親、田口さん、渡辺さんにも電話をした。
そのついでに菅井先輩にも電話をした。
『どうでしたか?デートの約束は出来ましたか?ああ、その前にあけましておめでとうございます』
『ああ、おめでとう。それより聞いてくれ。
なんと、これから会う事になった。
言われた通り昨日魚津から電話をしたら、今日会いたいって言われたんだ』
『あれ、1日はダメだったんじゃないですか?』
『それは良くわからないが、とにかく家に来るんだ』
『いきなり、実家ですか?それは、急展開ですね!』
『ああ、だから下高井戸まで迎えに行って、世田谷線で下高井戸に連れて来るって事にしたんだ。おかしいかな?』
『いいや。ナイスです。いきなり実家じゃあ、緊張するでしょうから、その前に和らげるんです。それが出来たらベストです。でもどうして実家になったんですか?』
『それが良く分からないんだが、魚津から電話した時は日時だけ決めたんだが、今朝電話が来て、さっきだよ。
さっき。それでお店は喫茶店も開いていないと思うから、そちらに伺っても宜しいかと来やがったんだよ。
あー、俺もう緊張して緊張して、なあ、どうすれば良い?助けてくれよ〜母ちゃんなんか、パニクっててさ。。。
俺の部屋に入れるのは不味いだろう。
でも居間は家族全員4人で正月番組を見ているから。。。
なあ、どうしよう???』
『居間でお茶でも出して、家族を紹介して、それから少しだけ先輩の部屋で話をして、20分くらいですかね。
それで散歩に連れ出して、調布でしたっけ?
家まで送るって感じですかね。
とにかく、手を出しちゃいけませんよ!!!
ああ、それから俺達と会う日程の候補日を決めて下さいね。
平日なら7時以降、土日なら昼過ぎに渋谷でお願いしますね。
それじゃあ、朗報を待つ!』と言って、何か言っていたが、俺は電話を切った。
宿に帰ったら10時半になっていた。2時間も寒空の下に居た気がしなかった。
女将さんが出迎えてくれた。
『長いお散歩でしたね』
『新年の挨拶を駅前の公衆電話からしていたら長くなりました』
『それはそれは、寒いのに律儀ですね』
『あっ、そうだ。女将さん。黒部の魅力は、たまにしか見せない優しさと笑顔かなと思います』
『もう考えてくれたんですか?良い言葉ですね。
山屋さんが想う事はやはりロマンチックですね。
でも、その通りですよ。厳しい自然の中で、たまに微笑んでくれるんですよ。
良いお言葉をありがとうございます』
『いいえ、思い付きですから』
『後程、そうなった経緯も聞かせて貰えますか?』
『はあ、なんだか研究室の教授みたいな追求ですね』
『そうですか?』と言って、女将はニコニコしながら御勝手に引っ込んだ。
俺は部屋にそっと入った。
部屋に入って、玲が持ってきた本を窓際のソファーに座って読み始めた。
「女の器量は言葉次第」という本だった。
「あなたが持っていることばの宝石を、もっともっと磨いてみませんか? 言葉は「生きもの」生かすも殺すもあなたしだい。自分の本音を、照れず、かくさず、素直に言葉に変えて、素敵な人生を送りましょう」とあった。
今更だが、調べてみると、こんな目次だった。
低音でやんわり、本音でぐっさり-ブリッ子声から、女性も低い声で本音でせまる
「パッと見」はすてき、でも口を開くと無地の言葉を感性でみがいて
草書のよさも、楷書から。相手の気持ちをくんだ言葉づかい
自立合戦、男と女の言葉の戦い
男の人生観にうなずいてばかりはいられない
酒席にとびかう酒神と言霊
スリリングな会話は無上のダイエット
あなたってほんとはどんな方かしら?心臓をつかむほどの愛撫のしかた
その人にしか歌えないうた、今という時を共有したい
サラサラと読み飛ばしていた。
何だか女が引っ掛かりそうな目次だな。
玲が引っ掛かって、買ったんだと思った。
こんなので、俺が責められてもかなわないなぁと。。。
しかも、良く読むと、男にとっては意味不明だ!