東京45年【22】インド | 東京45年

東京45年

好きな事、好きな人

【22】

 

 

 

1984年冬から春、東京からインド

 


ヤマケイに着くと事務員さんが案内してくれた。

 

待っていると内山さんと言う女性が出てきた。

 

打ち合わせが終わり編集長が来た。

 

ご飯に誘われた。

 

乃木坂までタクシーで行った。

 

内山さんも一緒だった。

 

小料理屋でいろんな登山の話を聞かれた。

 

内山さんは日本酒を飲みながらメモを取っていた。
 

ひとしきり話した後、編集長が言った。
 

『彼女と別れたままか?』
 

『もうすぐ1年です』
 

『それからは?』


『まあなんとなく』
 

『今は彼女いるんですか?』と内山さんが聞いた。

 

編集長が話していたようだった。
 

『初対面の人にそんな事を聞かれても困ります』と俺。
 

『話は若い者同士で』と編集長は言って帰った。
 

内山さんは俺と同じ学年で大学院文学部を今年卒業してヤマケイに入社するとの事だった。

 

少し話をして店を出た。

 

赤坂見附まで歩いて新宿経由上井草に帰る俺と池袋経由成増に帰る彼女と方向は別だった。

 

彼女はもっと飲みたそうにしていが、俺は酒が飲めないのでと言って断った。

 

淋しそうにしていたのでお茶ならと喫茶店に誘った。

 

俺は池袋経由で帰る事にして、池袋の深夜喫茶に行った。

 

最終電車近くまでいてお店を出た。

 

店を出たところでキスをした。

 

彼女は驚いた様にしていた。

 

結局池袋から同じ電車に乗って彼女のアパートに行った。

 

そのアパートは成増駅から10分程だった。

 

深夜の川越街道を渡り、和光市方面に向かいながらキスをした。

 

アパートに着いてキスをした。

 

彼女の体を畳の上に倒して服の上から触った。

 

ブラウスのボタンを外して、ストッキングを脱がした。

 

胸を触り、股間を触った。

 

ふっくらとした柔らかさが新鮮だった。

 

彼女は少し抵抗したがぎこちなかった。

 

彼女は初めてだと言った。
 

緒方漣にケダモノと言った事を思い出した。

 

蛇の生殺しになる様な性欲はあったが、もう止めようと俺は言った。

 

彼女はごめんなさいと言った。
 

『何回か彼女とヤマケイに来たのを見ていたの。お茶を出した事もあるの』とはだけた服を整えながら内山さんは言った。
 

彼女は大学2年生の頃からヤマケイでアルバイトをしていたらしい。

 

そこで茂子とヤマケイに行った時に会っていたらしいが、俺は覚えていなかった。
 

『だから今日一緒にご飯に行こうって編集長に言われて嬉しかった』と。
 

朝早く内山さんのアパートを出て、上井草の寮に戻った。


その翌日は中学・高校時代一緒だったムツキと会った。

 

東京に出てきて会うのは初めてだった。

 

新宿で待ち合わせて、ムツキの行きつけだという靖国通り沿いのパブに入った。

 

ムツキはキープボトルのリザーブを俺はアイスコーヒーを飲んだ。
 

『あんたも飲めば』と勧められて水割りを飲んだ。

 

まずかったが、我慢して飲んだら飲めた。

 

ムツキは日大の法学部に入り、卒業しても東京に残り税理士になる為に大原簿記学校に通っていた。


『あんたは昔からやると言うと聞かなかったわね』と言った。
 

『そうかな?』
 

『中学3年の時に試験で1番になるって言ったの覚えてる?』
 

『ああ』
 

『あんたその頃50番くらいだったのにね』
 

『お前が10番やそこらなのに、そのくらいで威張ってたのが頭にきたんだよ』
 

『そうよね。中学3年の1学期の期末試験でホントに1番取ってから私は高校でもあんたに一回も勝てなかったわ。私は文系だったのに世界史や日本史、国語まで負けて、あんたはそれからずっと1番だったわね』
 

『集中力の差だよ。それに歴史は好きだったからな』
 

『悔しかったわ。学力で負けて、さらに陸上で国体とインターハイに行って、おまけに生徒会長で。バイク通学を学校に認めさせたり、派手にフォークダンスキャンプファイヤーをやったり、海の掃除をやったり、それに比べて私は運動オンチだし、あんたみたいにまとめる力も人気も無かったのよね?』
 

『でも俺にはお前は良い刺激になったゼ』

 

『良い刺激って。。。それからあんたは女子から凄い人気者で、なのにあんたはジェニーに夢中。何人?いや何十人の女の子が失恋した事か。それからあんたは早稲田で、私は日大。スポーツもやっているし、あんたに全部負けてる感じだわ』

 

『勝ち負けじゃないだろう?』
 

『そう?ジェニーはどうなったの?可愛い人だったわよね?』
 

『高校3年の7月に本国に帰ってから音信不通だよ。それに俺はお袋に勘当されて家に帰ってないから連絡があっても俺の居所はわからないよ』
 

『お母さんに連絡して上げたら?かわいそうよ』
 

『山をやってる間はダメだよ。きっと。それよりどうやって俺の居所が分かったんだ?』
 

『新聞や雑誌やテレビで名前が出たのは知ってるの?』
 

『そうらしいな』
 

『大学や日本山岳協会やいろいろとね』
 

『で、俺に何か用事かよ?』
 

『6年振りに会って、そんな言い方なの。アッタマにくる!』
 

俺は不意にキスをした。
 

『こういう事かい?』
 

『もう!あんたって人は!』と甘える様に言った。
 

その店を出て真っ直ぐムツキのアパートに行った。
 

阿佐ヶ谷駅の近くで住所は成田東といった。

 

木造の2階で6畳とキッチン、トイレはあったが風呂は無かった。

 

部屋に入るなり激しくキスをして、服を着たままベッドになだれ込んだ。

 

セックスの途中でムツキの乳首を舐めながら緒方漣にケダモノと言った事を思い出した。

 

ムツキとの初めてのセックスだったが、何故か初めてだと思えなかった。

 

それをムツキに言うと、『そうなりたかった』と言った。
 


『俺は中学高校で仲の良い友達と、男と女の関係になって不思議な感じがする』と言った。
 

『あんたを好きな女の子は沢山いたわよ』
 

『なんで教えてくれなかったんだ』
 

『やっぱりバカね!私もあんたが好きだったのよ。それなのになんで私が他の子を応援しなきゃいけないのよ!中学3年の時にチョコを沢山貰ってたわよね?』
 

『そうだっけ?』俺はうろ覚えだった。


『その数を私に教えて“お前はくれないのか”って言ったのよ』
 

『覚えてないよ』
 

『ホントにデリカシーの無さは今も昔も天下一品だわ。私もあんたに上げたくて持ってたけど止めたのよ!』
 

『知ってるだろ。俺は一人いればいいんだよ。その子にだけモテていれば満足なんだ。その時も高校時代も好きな子がいたから。でもどうせ準備してくれたんだから、くれれば良かったのに』
 

『今、上げたわ』
 

『そうか。随分時間がかかるな?』
 

『でも腐って無かったでしょう?』
 

『ああ、美味かったよ』
 

もう一度抱き合った。

 

ムツキの事は好きだった。

 

 

 

 

昔の俺の事を知っていて、俺もムツキの事を知っていたから何も無理する事もなく、普通でいられた。

 

だが、その後直ぐに彼女はふすま職人と付き合い始めたので遠ざかった。

 

翌日、寮に帰ったら内山さんから電話が欲しいと伝言があった。

 

電話をして翌日から山に行くから帰ったらまた電話すると言った。

 

 

 

 

翌日からインドに行った。

 

店に行った。

 

田中が出迎えてくれた。

 

田中は店を切り盛りしながらインド工科大学に通っていた。

 

その大学はインドの東大だった。

 

次の日に今度の山登りのザイルパートナーが遠い東欧から着いた。

 

Bartosz Sapir、パルトシュ・サピア。

 

2才年上だった。

 

優れたクライマーだった。

 

ポーランド人だった。

 

竹中さんとチョモランマ遠征の後、店で知り合った。

 

最初は言葉はほとんど通じなかった。

 

素朴で良い奴だった。

 

だが、ヒマラヤに行くのにフランス人の彼女を連れてきていたのは日本人の俺には理解出来なかった。

 

山旅の間、ベタベタしていた。

 

文化の違いは恋愛の形にも現れていた。

 

彼女はApolline Dubois アポリーヌ デュボア。

 

竹中さんとはヨーロッパアルプスを登りまくっていた。

 

二人で行ったネパールヒマラヤの7400m峰は呆気なく登れた。

 

困難な時期にスムーズに登れた。

 

パトは素晴らしいクライマーだったし、アポは素晴らしいテントキーパーだった。

 

パトに日本の山を一緒に登ろうと約束してカトマンズで二人と別れた。

 

インドに戻り数日のんびりしていた。

 

おかみさんは相変わらずよく働き、おやじさんは毎日店に寄ってお茶を飲んでいた。

 

そして田中もよく働いていた。

 

田中にはいずれ店を譲る事を伝えた。

 

今から自分の店だと思って何でもやってくれとも伝えた。

 

 


 

3月末に日本に戻った。

 

山岳部の部室に寄って数週間の伝言を受け取った。

 

公衆電話から内山さんに電話した。

 

翌日、会う約束をした。

 

夕方池袋で会った。

 

ご飯を食べて彼女のアパートに行った。

 

畳の部屋はこの前来た時と変わらずホコリ一つ無く片付いた部屋だった。

 

部屋に入ってお茶を入れてくれた。

 

お茶をテーブルの上に差し出した彼女の手を捕まえてキスをした。

 

キスをしながら横に倒してブラウスをスカートから引っ張り出して、下から中に手を入れて胸をブラジャーの上から触った。

 

そして背中に手を回してホックを外した。

 

直に胸に触れた。

 

乳首に触ると彼女はビクッと反応した。

 

下に手を下げると彼女は明るいと言って立ち上がった。

 

黙って押し入れを開けて布団を出したので俺はそれを手伝って一緒に敷いた。

 

布団を敷くと俺は服を脱ぎながら内山さんも脱いでと言うと、
 

『久美って呼んで』と言いながら下着だけになった。

 

それ以外は無言だった。
 

布団の中でキスをして乳首を舐めた。

 

そして股間に顔を埋めて舐めた。

 

柔らかだった。

 

そしてゆっくりと時間をかけて舐めた。

 

そして少しずつ入れた。

 

大丈夫と聞きながら30分くらいかけただろうか。

 

一つになった時に久美は痛いけど気持ちいいと冷静に言った。

 

俺は久美が出来るだけ痛く無い様に動いた。

 

時間をかけてゆっくり動いていた。

 

久美は明らかに感じていた。

 

さっきより痛くないと言った。

 

気持ちいいと聞くと、いいと恥ずかしそうに言った。

 

さらにゆっくりと動くと久美は吐息を上げ始めた。

 

俺は早く動きたいのを我慢して何度も何度もゆっくりと動いた。

 

久美は気持ちいいと吐息混じりに言った。

 

さらにゆっくり動いていると久美は俺に抱き着いてきた。

 

少しずつゆっくりと回転数を上げると久美は眉間にシワを寄せた。
 

『痛い?』
 

『うん、でも気持ちいい』それを聞いて俺は嬉しかった。

 

終わった時は二人共汗だくだった。

 

白い清潔なシーツが赤く染まっていた。
 

早朝にもう一度した。

 

またシーツが赤く染まった。
 

部屋を出る時に久美は次はいつ来るのかと聞いた。

 

俺はもうすぐ大学が新学期になるので連絡すると答えた。
 

 

 

 

俺は大学が始まる前に病院で足の経過を診てもらわなければいけない事を思い出した。

 

医者には1ヶ月に1回は通院しろと言われていたのに最後の手術をしてから半年経っていた。
 

病院に行くと呆れた様に医者は言った。
 

『やっと来たね』
 

『すみません』
 

医者に言われるままに足首をあちこちに動かすと、
 

『何かしましたか?』と言われたので、
 

『走ってはいません』と返した。
 

『何をしたのかを聞いています。していない事は聞いていません』と医者は厳しい表情で言った。
 

俺は八甲田や谷川岳や利尻やヒマラヤを思い出した。

 

そう言えば山から帰って来ると1週間は足首が痛くてビッコを引いていた。

 

状態が悪化しているのは仕方のない事だった。

 

正直に医者に告げると、身体障害者手帳の発行は出来ないと言った。

 

医者の言う事を全て無視する人だとも言った。
 

『その登山では随分と足が痛かったでしょう?しかしそれが一番のリハビリになった様ですね』と言った。
 

つまり、障害者となるかも知れない怪我を負ったが、自主的なリハビリで普通の生活は大丈夫だと言う事だった。

 

俺はそれが医学的にどういうことか分からなかったが、ラッキーだと思った。
 

『ありがとうございます』
 

『半年に1回は来て下さいね』
 

 

 

 

帰りに例の16才の看護婦見習いがいた。

 

退院の時にプレゼントを貰って何もお礼をしていなかった。

 

一度部室に伝言があった。

 

病院に診察に来て下さいという用件だった事を思い出した。

 

あれから数ヶ月が経っていた。
 

『やっと来ましたね』
 

『うん、来たよ』
 

『もう卒業ですか?』
 

『もう一年いるよ』
 

『まだいるんですか?』と呆れ顔だった。
 

『ああ、いるよ。それより退院の時にプレゼントを貰って何もお礼してないね。何か欲しいものとかある?』
 

『別に無いですが…ご飯ご馳走して下さい』
 

『いいよ』
 

 

 

 

病院は高田馬場だったのでうまい定食屋に行く約束をして別れた。
 

それから寮に戻り寮母さんの手伝いをした。

 

手伝いが終わって寮母さんと世間話をした。
 

『ところで島谷君は彼女と別れちゃったんでしょう?』
 

『もう1年前ですよ』
 

『あらっ、そうなの。今はいないの?』
 

『いるような、いないような感じです』
 

『ハッキリしないわね』
 

正直になおちゃんとムツキと久美さんの話をした。
 

『三つ又じゃあないの!女を泣かすと恐いわよ』
 

『山よりも危険だと言われました』
 

『若い女の子は思い込みが激しいからね。突っ走ると大変よ』と言った。
 

『寮母さんもそうだったんですか?』
 

『あらっ、私を口説いてもダメよ』
 

『そんなつもりは…』
 

『島谷君はそんなところがあるから女が寄って来るのよね』
 

『なんですか?それは?』
 

『女は興味を持って貰うと嬉しいのよ。そんな事を聞かれたりすると好きなのかしらって思うの。島谷君は計算無しでそんな事を言うから女はドキッとするの。罪な男でもあるけどね』