前回までのあらすじ~

 え?まじ?ラッコの釣りイベントやるの(; Д ) !!

 はじまり、はじまり~♪




―脱衣所


私はここ最近長風呂をしていない

やる事がたくさんあってあまり時間が取れなかったり、以前ゆっかり浸かりすぎてお義母さまから軽い嫌味を言われた事がある

それにひとりで湯船につかていると、いろいろと嫌な事を思い出してしまうからだ…


栄子「でも…」


確かにお義父さんやあの天使とやらが言う通り、お風呂はリラックスをするべきところだ

たまにはゆっくりして気分をリフレッシュさせるのもいいかもしれない


栄子「…」


本当に見てないんでしょうね、あの天使…

一抹の不安をぬぐいきれない私は、バスタオルで体を隠しながら服を脱いだ

こんな状態で果たしてリラックスできるのであろうか…


栄子「無理よね、きっと…」


バスタオルが落ちないようにしっかりと巻いて、タオルの上の方を折り返した


栄子「少し行儀悪いけど、このまま入ろう…」


どうせ私が最後だし、掃除をするのも私

誰にも迷惑はかけないはず

それに…


栄子「タオルを巻いたまま入浴なんて、温泉レポーターになったみたいよね」


頭を無理やりプラス思考に持って行った

しかし浴室に入ると、そのおめでた思考は一気に現実に引き戻された



―浴室


栄子「…」


浴槽に張ってあったはずのお湯がない

見事にもぬけの殻だ

ルパンかキャッツアイ辺りが来たのだろうか…

いや、ある意味それよりたちが悪い


栄子「確か私の前に入ったのってお義母さまよね…」


答えを導き出すのに数秒と掛からなかった


栄子「まぁこれくらい…」


私は入浴を諦めシャワーで済ませる事にした

タオルが取れないようにしっかりと片手で抑え、温かくなったお湯を体にかける


栄子「これでちゃんと洗えるかな…」


しかしタオルを取る勇気はない


栄子「ま、頭は問題ないわよね…」


頭からシャワーを浴び、髪の毛を濡らす

シャンプーを適量手に取りだすと、そのまま頭を洗った

その時だった


栄子「!?」


なにか気配がした…

脱衣所の扉が閉まるの音が聞こえた気がしたのだ…


栄子「…」


人の気配はない…

しかし“あいつ”は神出鬼没…いつも急に部屋にいるような自称天使だ…

私は勇気を振絞り頭に泡の冠をつけたままそっと浴室のドアを開け、脱衣所を覗き込んだ


栄子「…」


しかしそこには誰もいない


栄子「本当に信じていいのよね?あの天使…」


ドアを閉め洗髪作業に戻る

よく頭を洗っている時に背後から視線を感じると言うが、今日ほど私はそれを感じたことはない…

恐らく今この国で…いや全地球規模で一番それを感じているだろう…


栄子「なんか落ち着かない…」


一応天使だし、嘘はつかないわよね?

本人も嘘をつけないって言ってたし…

でも天使の悪戯という言葉もある…


栄子「…」


私は洗う速度をあげた

すぐに頭についたシャンプーを洗い流し、次はリンスを…


栄子「…今日はいいか」


リンスを飛ばし、軽く濡らした垢すりタオルにボディーソープをつける

タオルを巻いたままなのでものすごく洗いにくい

しかしタオルを落とすわけにはいかない

「絶対に覗かない」とは言ったものの、初日だし一応警戒するに越したことはない

そもそもあの男が天使だとゆうのも、そもそも信じられない話であって…


『ガチャ』


栄子「!?」


再び脱衣所の方で気配を感じた


栄子「…」


私はそっとドアへと振り返る

今度は間違いない、ドアの向こうに誰かいる

曇りガラスなのでハッキリ姿は見えないが、かろうじてシルエットらしきものは見える

そしてその姿は自称天使ではなく…


栄子「お義母さま?」


私は呟いた…

お義父さまや自称天使にしてはシルエットが小さすぎる

いったい何をしているんだろう…


栄子「…」


『ピッ、ピッ』


ドア越しに様子を見ていると電子音が聞こえてきた

ほどなくして洗濯機の活動音が聞こえてき、お義母さまは脱衣所から出て行った


栄子「こんな時間に洗濯?」


なにか急ぎで洗うものがあったのだろうか?

お茶をこぼしてしまったとか、明日お義父さまが会社に来ていくワイシャツがないとか…

私がその答えを得たのは、体の泡を洗い流し浴室から出た時だった



―脱衣所


栄子「あれ?」


置いてあった私の着替えがない…

一人暮らしならまだしも、お義父さんとお義母さまがいるこの家、着替えを忘れるわけがない


栄子「…」


ほどなくしてさっきのお義母さまの行動を思い出した

答えはきっとこの中にある…

私は絶賛活動中の洗濯機を開けた


栄子「…やっぱり」


泡の渦を巻いているそこには、私がお風呂上りに着る予定だった衣服が泳いでた

ありがたいことに私が入浴前に着ていた衣服まで…

おかげで洗濯かごは空っぽ

軽くなってよかったね、洗濯籠さん


栄子「さてどうしたものか…」


置いてあるのは一緒に混浴したびしょ濡れのバスタオルと、体をふき取るためにスタンバイしている数枚のバスタオル達…

答えはひとつしかない


栄子「仕方ないか」


私は体を拭き取り、そのタオルを体に巻いた

脱衣所の扉を開け、誰もいない事を確認し急いで自室へと向かった


栄子「誰にも会いませんように…」


姑「あら栄子さん」


栄子「…」


廊下の陰からお義母さまがあらわれた

まるで待ち構えていたように…


姑「なんて格好しているんだい、はしたない」


お義母さまが蔑むような目で見ている

同性とはいえ、恥ずかしいやら情けないやら…


栄子「あの…洗濯…」


私は絞り出すように声を出す


姑「洗濯?あぁ、今日どっかの誰かさんがヘマやらかしたからね、仕方ないから代わりに洗ってやったんだよ」


栄子「そうなんですか、でもあの時は明日にしろとお義母さま…」


姑「あの時はそれでもよかったんだけど、どうしても明日使うハンカチがあったのを思い出してね。ご近所には悪いと思ったけど回させてもらったんだよ。まぁついでだしあんたの服も洗っといてやったから終ったら自分の部屋にでも干しな」


明日使わないといけないハンカチってなに?


栄子「ありがとうございます…。でも、あの…私の着替え、洗濯かごとは別の所に置いてあったと思うんですけど…」


姑「あら、あれ着替えだったのかい。汚いからてっきり洗濯物だと思って一緒に洗濯機にぶち込んじまったよ」


栄子「…」


姑「まったく、家の掃除がろくにできてないからあんなに服が汚れるんだよ。家じゅう埃まみれな証拠じゃないか」


栄子「はぁ…」


姑「さっきもテレビの裏見たら全然掃除してないみたいだし、換気扇もベトベト、畳だって干してないだろう?」


栄子「はい…」


普段の掃除でそこまでしたら、年末の大掃除は家ごと片付けないといけないレベルになると思うのですが…

でも今はそんな事でどうでもいい

私は相変わらずタオル1枚にこの身を委ねている

このままでは湯冷めして風邪をひいてしまう

ただでさえ体調も悪いのに…

とゆうよりなにより恥ずかしい


栄子「すいません。明日から気を付けますので…」


私はその場を切り上げ部屋に戻ろうとした


姑「待ちな!まだ話は終わってないよ!!」


強めの声で呼び止められる


姑「人の話すらまともに聞けないのかいあんたは」


栄子「でも…」


姑「「口答えするんじゃないよ」


栄子「あの、服を着たらすぐに戻りますので…」


姑「信じられないね。どうせそのまま寝ちまう気だろ」


栄子「必ず、必ず戻りますから…」


『パシンッ!』


乾いた音が廊下に響いた

お義母さまに頬を叩かれたのだ

今まで何を言われても手を出されることはなかった

あの日をのぞいては…


姑「何度も言わせるんじゃないよ!あんな事があったってのにまだ私の言うことが聞けないのかい?」


栄子「…」


姑「あの時だってそうだ。私の忠告を無視して無理やり家の息子と結婚したんだよね?その結果があのざまだ。学習能力ってものがないのかいあんたには!」


栄子「…」


姑「すぐ戻る?よくもまぁ軽々しくその言葉を出せたものだよ。二度と戻らなくなっちまったばかりだっていうのに…」


栄子「…」


姑「息子も息子だよ。折角大学まで行かせてやったっていうのに、こんな女にうつつをぬかして…。あんたのせいだよ、家の子がとち狂ってあんな馬鹿な生き方しちまったのは」


馬鹿…

普通ならなんでもない些細な言葉…

普通ならこれくらいの事で頭に血が上ったりはしない…

積もり積もったものもあるのだろう…

今の私は、私たちの置かれた今の現状は普通ではないのだ…


栄子「…」


わたしの中で何かが弾けた…


栄子「…言わないでください……」


姑「は?」


栄子「あの人の事を悪く言わないでください!」


姑「何を言ってんだい偉そうに…」


栄子「私の事はいいんです!でもあの人の事は、あの人を侮辱するような事だけはやめてあげてください!」


姑「なんだい急にムキになって。自分の息子に何を言おうと親の勝手だろ」


栄子「勝手じゃないです!確かに傍から見たらあの人は勿体ない道を選んだのかもしれません。でも誰よりも暖かくて、一生懸命夢に向かって、一生懸命みんなのために走り続けたんです。それは親であるお義母さまも充分わかっているんじゃありませんか?親だからそこ、あの人の全力を否定しないであげてください。息子さんの人生に胸を張ってあげてください!」


言ってしまった…

地雷原を駆け抜けた事に気づいたがもう遅い…


姑「偉そうに…」


お義母さまが静かに口を開いた…


姑「あんたに何がわかるっていうのさ。長い間手塩にかけて育ててきた一人息子が、後からひょっこり出てきた女に誑かされて道を外し、挙句の果てにあんな事に…」


お義母さまの肩が震えてる…

私も心拍数が急激にあがってくるのがわかる…

これから言われることがなんとなくわかってしまう…

嫌な汗が垂れてくる…

そして…


姑「あんたが殺したようなものじゃないか…」


栄子「…」


姑「あんたがいたから、あんたのせいで家の有志が死んだんだよ!この疫病神が!」


一番言われたくない事を言われてしまった…

この家の人間がなるべく避けてきた現実

野上有志…私の旦那の名前…

その旦那は2ヵ月前に交通事故で命を落としたのだ…




                                   つづく…



前回までのあらすじ~

 鍛冶爺の厳しい修行をクリアーするために、地獄の一週間を乗り切った桜色のピーナッツ。

 なんとかコンプしたのはいいが、失ったものも大きかった。

 持っていたアイテムの半分以上を失ったピーナッツは次回の修業を乗り切ることができるのであろう   か?



―夜


私は台所にて食器の後片付けをしている

もちろん一人で

別に手伝ってほしいわけではないけれど…


義父「お疲れ様、栄子さん」


パジャマ姿で首からタオルをかけたお義父さんがやってきた


栄子「お義父さま」


義父「少し喉が渇いてね。すまないがコップをもらえるかね?」


栄子「そうなんですか、よろしければお茶でも入れましょうか?」


義父「いや、今日はもう寝るだけだし水でいいよ」


栄子「そうですか。それじゃあ私用意しますね」


私はコップを取り出すと、棚にしまってあるペットボトルの水をコップに注いだ

冷蔵庫にも冷えた水は入っているが、寝る前のお義父さまにはぬるめの水を…と以前お義母さまから言われたことがある


義父「栄子さんはホント頑張るね」


栄子「いえ、私なんてまだまだです」


私はコップをお義父さんに差し出した


栄子「どうぞ」


義父「ありがとう。最近どうかね?頑張りすぎて疲れてはしないかい?」


正直体調はまだ悪い

相変わらず軽く頭痛はするし、少し寒気もする


栄子「全然大丈夫ですよ。頑丈だけが取り柄ですので」


私は笑いながらそう言うと、誤魔化すように洗い物の続きに取り掛かる


義父「よかったら手伝おうか?」


栄子「いえ、もう後はお皿拭くだけなのですから」


義父「そうかい」


ありがたい申し出だったが私は迷うことなく断った

申し訳ないとゆう気持ちももちろんあったが、依然お義父さんに手伝いをしてもらったところ、その様子をお義母さまに見られこっぴどく叱られた事がある

家事は女の仕事だと…

当然その場にお義父さんもいたので、強引に手伝おうとはしてこない

気持ちだけありがたく頂くとしよう


義父「すまないね、家内が無茶ばかり言って…」


栄子「そんな。無茶なんて言われてないですよ」


義父「無理しなくていいんだよ?」


栄子「…無理なんてしてませんよ」


義父「…」


栄子「…」


空気が重い…


義父「正直なところ、居づらいんじゃないのかね?この家が」


栄子「そんな事ないですよ」


そんな事ないはず…


義父「実は私も、最近家内と二人だと息が詰まってね。今も家内が風呂からあがってきたから逃げてきたんだよ」


栄子「そうなんですか」


義父「世間では熟年離婚とゆうものが流行っているが、家もそう遠くないのかもしれないな」


栄子「何を言ってるんですか。お義父さま達なら大丈夫ですよ」


我ながら無責任な慰めだ…


義父「どうしてこんな事になってしまったんだろうな…」


栄子「…」


どうしてこんな事に…

お義父さんはどれの事を言っているんだろう…

お義母さまの態度の事を言っているのなら答えは分かってる…

お義父さんも原因はわかっているはずだ…


義父「あぁ、すまないな。栄子さんも辛いのは同じなのにこんな事を言ってしまって…」


栄子「いえ、気にしないでください」


義父「まぁなにかあったら遠慮せずに言いなさい。別に肩もみ要因でも構わないから」


お義父さんは私の肩を軽く揉んでくれた


義父「私はこう見えても家内専用のマッサージ器歴が長いからね。腕はそんじょそこらの器械には負けないよ」


栄子「はい。それじゃあ今度お願いしますね」


義父「私はいつでもいいからね。あ、それとそこが済んだらお湯が冷めないうちにお風呂に入るといい。一日の疲れは風呂でしっかりと取らないとね」


栄子「はい、ありがとうございます」


私の肩をポンポンと叩くとお義父さんは去って行った

ちなみに私はマッサージとかされるのはあまり得意ではない

くすがったりなもので…

またもやお気持ちだけ頂くとしよう…

そんな事を考えている内にお皿も全部拭き終った


栄子「さてと、お風呂に入るか」


今日もいろいろあったし、お義父さんの言う通り一日の汗を流しに行くとしよう

本当にいろいろあった…

朝一でお義母さまに叱られ、お漬物はまずいと言われ、天使と名乗る男と出会い、洗濯物が落ち…


栄子「あれ?」


私はふとお昼の事を思い出す


栄子「そういえばあの天使、私を見守るとか言ってたわよね…。まさかお風呂も…?」


いや、お風呂どころじゃない

トイレや着替えなど、誰にも見られたくない所が全部筒抜け…

あまりのショッキングなことに私の時間は止まり、反比例するように急激に鼓動が早くなる


男「その心配はないよ」


栄子「!!?」


男「いや~急な心の乱れがあったから来てみたけど、そっかそっかお風呂の心配だったか。そういえばちゃんと説明してなかったね」


噂をすればなんとやら、自称天使が急に背後に現れた

しかし人間とゆう生き物は、本当に驚いた時は声も出ないらしい…

それはともかく普通に出てくる事を覚えてほしいのだが…

毎度急に出てこられては、こちらの命がいくらあっても足りない


男「確かに見守るとは言ったけど、君のお風呂やトイレまでチェックするわけじゃないから。そんな趣味ないし」


そっか~よかった。安心したわ♪…とは当然ならない。なるわけがない


栄子「…」


男「その眼は信用してないね?僕が天使だって事は信じてくれてるのに」


そっちも半信半疑です…


男「まぁいいや。ちゃんと説明すると、見守るって言っても実際に君の行動を目視しているわけじゃないんだ。そもそも心なんて眼に見えるもんじゃないしね」


もっともだ…


男「わかりやすく言うと、君の心をレーダーみたいなのが感知して電波のように受信できるってゆうのが正確かな。いわゆるビビビッ!ってやつだよ」


わかったような、わからないような…


栄子「それじゃあ、私がどうして不安定になっているのか理由もわからずにあなたは飛んでくるってこと?」


男「さすがにそれはないよ。いちいち僕が来るたびに、どうしたの?何があったの?なんて聞かれても鬱陶しいだろ?」


確かの鬱陶しい…

私の虫の居所次第では叩き返えすところだ


男「君はドライブレコーダーって知ってるかい?」


栄子「タクシーとかによく付いてる、事故が起きた時だけその前後が録画される機械…だっけ?」


男「そうそう。それと似たようなもので、君の心の揺れが大きくなった時だけその前後の君の行動が視ええてくるってわけ。だから四六時中君にかじりついるわけじゃないし、事態を把握できないわけでもない。できゆる限り君のプライバシーを侵すようなことはしないよ」


すでに十分侵されている気もするのだが…

なにせ堂々と不法侵入をされている上に、心の中も覗かれているようなものなのだから…


男「もちろん君の心に関係なく視ることもできるけどね」


栄子「…」


男「いやだな~覗かないって。僕は天使だよ?天使は嘘をつけないの。さっきも言ったけど君の裸になんて興味ないし」


嘘をつけないかどうかはともかく、余計な事を言うようにはできているようだ


男「まぁお風呂やトイレは基本リラックスする場所だろ?心配しなくても普通にしていればセンサーには引っかからないって」


そうゆう問題ではないのだが…


栄子「せめて私の担当を女の天使と交代する事はできないの?」


男「僕たち天使に性別なんてないよ」


どう見てもおじさんにしか見えないのだが…“僕”って言ってるし…


男「ほら、心配しないでゆっくりお風呂に浸かってきなよ。今日はいろいろあって疲れただろう?」


栄子「半分はあなたのせいだけどね…」


男「そしてもう半分があのお義母さんのせいと…」


栄子「…」


図星である…

何も言い返せないのがちょっと悔しい


男「それじゃあ僕は帰るから。おやすみなさーい」


そう言って自称天使は帰って行った

お昼と同様リビングのドアから…

いったい来る時はどこから入ってくるのだろうか?

最近の天使は必要スキルとしてピッキング技術を習得しているのかもしれない…


栄子「………お風呂行こう」





                                    つづく…





前回までのあらすじ~

 嫁こと栄子さんがお姑さんにいびられてまぁ大変

 そんな中、天使と名乗る謎の男が現れた(m'□'m)





男「天使です」


栄子「…」


男「I am 天使」


栄子「いや、通じてないとかじゃなくて…」


男「mimi ni m 天使」


栄子「何語!?」


最後は何と言ったかは分からないものの、確かにこの男は天使と名乗った

どう見ても中年一歩手前の一般男性にしか見えないんだけど…

さてはかなり痛い人?


男「なんか失礼なこと考えてる?」


栄子「…。見守りにって、何よ?」


男「すんなり受け入れるんだね」


栄子「とりあえず先に全部聞いておこうと思っているだけよ」


男「んー。何をって言われてもな…。特に何をするわけでもない。なにか君の手伝いをするわけでもなければ、邪魔をするわけでもない。ただ見守っているだけで何もしない」


栄子「…つまりストーカーってこと?」


男「ひどいな~天使だって言ってるだろ?それに何もずっと君のそばにくっついているわけじゃない。君の心の揺れが至極不安定になった時だけ僕は現れる。まぁ心の揺れを計測しに来てるとでも思ってよ」


栄子「ずいぶんお役所的な仕事なのね」


男「んー仕事っていうか…まぁ君たちから見たらそうなのかもしれないけど…」


栄子「歯切れが悪いわね…。それで、なんでそんな事をするの?」


男「それは言えない。企業秘密さ」


栄子「…」


つまり私はこのわけのわからない天使とやらに、わけもわからず監視されるわけね…

まったくもってわけがわからない…


栄子「いつまで私は監視されるわけ?」


男「監視って…。まぁ時期が来るまでかな?」


栄子「時期?」


男「そう」


栄子「その時期って?」


男「それは君次第さ」


栄子「…」


どうもさっきから歯切れが悪い

肝心な事をあからさまに隠されているようで、いい気分ではない

まぁドラマや小説なんかではよくあることだが…

思えばあの登場人物たちは、よくもまぁこの理不尽な展開を甘んじて受け入れることができるものだ…

とはいえ、不思議な事に私も半ば納得…とゆうより諦めの境地に近づいてきている

これも普段からお義母さまとの生活を耐え忍んできた賜物であろうか…


男「さてと、あいさつも済んだことだしそろそろお暇するよ」


栄子「え?」


男「動揺はいくらか残っているみたいだけど、とりあえずは落ち着いてきているみたいだしね。あのお義母さんが出掛けてからかな?だんだん君の心の揺れ幅が小さくなってきている。君にとっては理解不能な僕といるよりも、あのお義母さんと一緒にいる時の方がよっぽど苦痛なんだね」


そう言ってこの自称天使は笑った

心の奥底を読み取る辺り、天使とゆうのもあながち嘘じゃないのではないかと思えてきた…


男「それじゃあ家事頑張ってね。あまり無理しないように」


私に背を向けた自称天使はリビングのドアから出ていこうとしている

普通こうゆう時は上へ飛んでいくものではないのだろうか?

天井やら壁やらスーっとすり抜けて行って…


栄子「待って」


男「?」


栄子「あなた、背中に羽根とか無いの?」


男「そんなものあるわけないじゃないか」


栄子「…」


“男”は笑いながらリビングを後にした

さきほどの天使っぽく思えてきたとゆう言葉は撤回しよう…




―夕方


栄子「ただいま」


夕食の買い物を済ませ、私は家に帰ってきた

返事はない

でも玄関にはお義母さまの靴がある


栄子「帰ってきてるんだ…」


分かり切っていること、だけどやはり気が重い

私は買ってきた食材を冷蔵庫に押し込み、まずは洗濯物を取り込むためにベランダへと向かった

今日は天気もよかったので洗濯物もよく乾いているはずだ

しかしベランダへ向かうには一つ障害がある…

その目的地にたどり着くためには、お義母さまの部屋の隣を抜けなくてなならないのだ

そして恐らく、今その部屋にはお義母さまがいる


私は気配を消しながらその部屋の横を通る

一応自分の家なのにどうしてコソコソしなくてはいけないのだろう…


栄子「…」


答えは分かり切っている…


栄子「早いとこ取り込もう…」


無事目的地にたどり着いた私はひとつの違和感を感じた


栄子「…」


窓越しにみえる風景

物干し竿に干してあるはずの物がない

もしかしたら、お義母さまが取り込んでくれたのであろうか?

それはそれで、また何を言われることやら…

「あんたがあまりにトロイもんだから取り込んでおいたんだよ。まったく本当に役に立たないねぇ~あんたは…」とか言われないだろうか…

しかしそんな私の不安は杞憂に終わった


栄子「あ…」


ベランダの窓を開けて私は目線を落とした

地面には干しといたはずの洗濯物たち…


栄子「そんな…」


まだ乾ききっていないうちに落ちたのだろう、洗濯物についた砂埃がまだ少し湿っている


姑「おやおや、何をやっているんだい」


後ろから声がした

振り返るとそこにお義母さまが立っていた

いつからいたのだろう?

さっきのモノマネ、声に出ていなかっただろうか…

余計なところで冷や汗が湧いてくる…


栄子「お義母さま…」


姑「あら洗濯物落としちまったのかい?まったく、しっかり止めておかないから風に落とされるんだよ」


今朝、昼、そして出掛けた時と、今日は風ひとつない穏やかな天気だったはず…


栄子「すいません。すぐに洗い直しますから」


姑「すぐにって、夕食の支度はどうするんだい?あんたみたいなトロイ奴が今から洗濯して準備したんじゃ、家族全員飢え死んでしまうよ」


栄子「すいません。急いでやりますので…」


姑「いいから洗濯は明日にして、すぐに夕食の準備をしな。わかったね?」


栄子「…はい」


姑「それと私たちの部屋の隣をコソコソ歩かないでくれるかい?泥棒かと思っちまうじゃないか。お昼の誰かさんじゃないけどね」


栄子「すいません」


そう言うとお義母さまは自分の部屋へと戻って行った

振り返りざまのお義母さまの口元は、心なしか少し緩んでいた気がする…


栄子「ハァ…」


私はため息をひとつ落とす代わりに、落ちている洗濯物を拾い上げた

私の服が他の服を庇うように一番下に敷かれているように見える…

まるでお義母さま達の服の被害を最小限にするかのように…


栄子「器用な落ち方をしたのね、あなたたち…」


どうせ落とす…いや、落ちるなら私のだけ落ちればよかったのに

ずいぶんと体を張ったものだ…






                                          つづく…