前回までのあらすじ~
その4をご覧ください。
それでもわからない方はその3を…それでもわからない方はその2を…
はじまり、はじまり~♪
私の旦那、野上有志と知り合ったのは大学の時だった
私は1年で彼が2年
彼とは同じゼミの生徒同士だった
話すきっかけは単純なもので、私と彼の携帯のストラップがペンギンであったとゆうこと
同じシリーズのキャラクターもので、「ペンペン」と「ペソペソ」という一見名前も見た目も区別がつかないものであった
そのせいで随分と周りから冷やかされたものである
しかしどうも彼とはウマが合ったらしく、その年の秋ごろに私たちは付き合い始めていた
付き合いだして2年が経とうとしたある日、彼からとんでもない言葉を耳にした
栄子「やめる?」
有志「あぁ」
突然彼が大学を辞めると言いだしたのだ
ちなみにその時私は3年、彼は4年生だった
栄子「なんで急に?もう1年も経たずに卒業でしょ?親御さんには話したの?」
有志「まだこれから」
栄子「大丈夫なの?」
有志「大丈夫だよ、きっと」
栄子「…」
大丈夫じゃないと思うけど…
何度か彼の家に挨拶に行った事があるけど、お父さんはともかく、お母さんはなんとゆうかとても厳格そうな人に見えた…
とゆうより、大学4年のこの時期に辞めると言って、「うん、いいよ」とゆう親もいないと思うがけど…
有志「やりたい事を見つけてさ」
栄子「やりたい事?」
そんな素振りは見えなかったけど
栄子「卒業してからじゃだめなの?」
有志「早く一人前になりたくてさ。それに大学ってのは本来やりたい事を探したり、やりたい事をさらに勉強する所だろ?俺にはもう見つけたし、ここにいても勉強できない事なんだ」
栄子「ふ~ん」
これが夢見る男とゆうやつか…
「バンドマンになって世界を回るんだ」とか言いだしたらどうしようか…
栄子「やりたい事ってなんなの?」
有志「え…」
栄子「…」
有志「…知りたい?」
栄子「そりゃね」
有志「…笑うなよ?」
栄子「笑うような事なの?」
有志「いや、そうゆうわけじゃないけど…」
栄子「だったらいいじゃない」
笑わない代わりに、答えによっちゃ私の右ストレートが飛ぶかもしれないが…
有志「ケーキ屋さん…」
栄子「は?」
有志「だからケーキ屋さん」
栄子「…パティシエとかじゃなくて?」
有志「(コクリ)」
栄子「ケーキ屋さん?」
有志「(コクリ)」
栄子「街の小さな?」
有志「ケーキ屋さん」
栄子「…」
有志「屋根は赤くして、壁は黄色にしようと思ってる」
栄子「…」
有志「…」
栄子「ぷっ…!」
有志「!」
栄子「アーハッハハハ…何それ?ちょっと、お腹痛い」
有志「笑うなって言っただろ?」
栄子「ごめんごめん。だって、私の予想の斜め上を行ったからつい」
有志「なんだよ、何予想してたんだよ?」
栄子「いやいや、なんでもないんだけど。そっか、ずいぶんとかわいい夢を見るのね?」
有志「いいだろ別に」
栄子「で?どうしてケーキ屋さんなの?」
有志「…聞くの?それ?」
栄子「そりゃそうでしょ。大学生活投げてまでやりたいって言うんだから、それなりの理由があるんでしょ?」
有志「…」
栄子「まさか、ケーキが毎日食べられるから…なんて小学生みたいな事いわないわよね?」
有志「…」
栄子「…え?そうなの?」
有志「違…くもないけど…」
栄子「嘘…」
有志「いや、確かにそれも外れちゃいないけど、本質はもっと別に…」
栄子「じゃあ何?」
有志「…教えねえよ」
栄子「えぇ~どうして?もしかしてへそ曲げちゃった?もう笑わないから教えてよー」
有志「今はまだ言えない。その時になったら言うから」
栄子「その時って?」
有志「自分で店を持つまで…っていいたいけど。そうだな、一人前のケーキ職人になるまで…かな」
栄子「ふ~ん。ま、期待してるわ。もちろん職人になったら、ケーキ食べさせてくれるんしょ?」
有志「さぁね」
栄子「なによそれー」
有志「一応プロになるんだからな。金払うんだったら食わせてやるよ」
栄子「ケチー」
衝撃の告白を聞いて数日後、彼は大学を………辞めなかった
聞けば有志の親御さん、特にお母さんの方から大目玉をくらったらしい
ま、当たり前の事だが…
有志「いけると思ったんだけどな~」
むしろいけると思った根拠を聞きたい…
有志は結局その後大学に通い続け、その傍らケーキ屋でバイトを始めた
とはいえ主に販売業の方だが…
未経験だから当然だ
有志「知ってるか?老舗の板前さんのとかだと教えてもらうんじゃなくて、見て盗んで覚えていくものなんだぜ?」
得意げに彼はそう言った
そんな彼が夜間の専門スクールに通いだすのに時間はかからなかった
行き当たりばったりにもほどがある…
こうして彼は昼は大学・夜は専門スクール・土日はケーキ屋のバイトと三足のワラジを履く事になった
足は二本しかないのにご苦労な事だ
しかし彼はそんな苦労は物ともせず三足のワラジをしっかりと履き続けた
一番ケーキ屋とは程遠い位置にある大学もしっかりと抗議を受けていた
どうやら将来の『街のかわいいケーキ屋さん』を開くとゆう条件の代わりに、単位をひとつも落とすことなく大学を卒業するとゆうものがあるらしい
そんな忙しい中でも、私との時間も大切にしてくれた
私が無理しなくてもいいと言っても…
有志「無理なんてしてないよ。俺が好きでやってることなんだし。それにこっちを疎かにしたら、今やってることの意味なくなっちまうしな」
笑顔で彼は言った
そこからは嘘も疲れも感じさせない。充実に満ちた顔だった
夢を見つけた男は一直線というが、まさにその通りなんだな…
しかし、“こっち”扱いされるデリカシーのなさはどうにかならないものか…
ま、悪気もないだろうし、些細な事なのだが…
そして次の春が来るころ、彼はしっかりと二つの学校をしっかりと卒業していった
一度決めたら決してブレない有言実行の男
それは時に頑固な男ともいう…
そんな頑固な男に私は心惹かれたわけだ…
つづく…