日立の大煙突から、さらに奥地に、
日鉱記念館という博物館がある。
一見すると未来的な、瀟洒な建物だった。
広がりのある基盤の上に長いシャフトが支えられていて、
人間が月に建てる住居は、
こんな感じじゃないかと想像させる。
まっさらなコンクリート壁が、
冬の晴天にさらされ、無機質ではあるものの、
清廉さを思わせる印象だった。
僕はしばしその建物を左から右へと視線を移し見惚れた。
「中入る?」
再びマスクをした彩花が、
あとからやってきて言った。
「もちろん入るでしょお、せっかく来たんだから」
「おもしろいの?」
僕は彼女に振り返り、大きく頷いたが、
それは自分のことであって、彼女にとってではない。
小砂利が敷き詰められた歩道を歩き、
僕らは建物の中へと入って行った。
それほど人はいない。
まあ大勢でわいわい出かけるような
そんな場所ではないのだけれど。
アドレナリンを分泌させるアトラクションがあるわけでもない。
しかしながら、僕の心底は微妙に震えを持つことがある。
子どもの頃から考えていたことだ。
人が何かに惹きつけられるのは、
虫が光に群がるような本能ではない気がしていた。
記憶があるからだ。
経験といってもいいその記憶が、
人に思わぬ志向を抱かせている。
叶うことなら、この世のことを、
全て知りたい、本当の意味を知りたいと思う僕の欲求は、
そういうからくりで動いていた。
「かわらないよねえ、翔太」
中でじっと展示物をのぞいていると、
後ろから彩花が言った。
マスクをしていたが、たぶん口元を笑っていた。
「どうして」
僕はぶっきらぼうに答える。
「付き合い始めた頃さ、
いっつも家では何してるの?て私聞いたでしょ、」
博物館の中、あまり人はいなかったけれど、
彼女の声は徐々に小さくなり、
「あの時翔太、ちょっと考えてから、
勉強って言ってたから、わたしね、
この人何言っちゃってんだろう、て思ったのね、
そしたら、一緒に暮らし始めたら、ほんとに机にばっか向かってんだもん」
「なにそれ」
僕は少し不機嫌になって答える。
彼女は、小さく笑いながら、
「嘘ついてんのかと思ったんだもん
かっこよく見せようとして…、」
「なにそれ」
「ほんとに勉強ばっかしてるから」
僕は近づいてきた彼女に、少し距離をとって、
「勉強って表現しか、思いつかなくて、」
「いいじゃん、ほんとに勉強だから」
「いや違うよ、」
僕はそう言いながら、再び次の陳列に向かって歩き出しながら、
「欲求だよ、」
「よっきゅう?」
「そうだよ、欲望」
「ふふ」
彩花はただ軽く笑った。
僕は彼女に振り返り、
「それより、なんでマスクまたして」
「え~、予防だよ予防」
「車ん中では外してたじゃない」
「だって翔太はインフルでもコロナでもないでしょ」
「…」
彼女の言葉は、
なにか不思議な違和感を持って、
僕の心に残っていった。
プロジェクト648日目。
――――――――――――――――――――――――――――
2020/4/17 648日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71%
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――
『C/B A corona is beautiful』の全編→










