僕と順平とサトちゃんは、
そうして少しづつ
弁当製造工場の仕事に慣れていきました。
もう、引越しのための費用は

溜まっていましたが、
当時としては給料もよく、
ずっとやる仕事じゃないと思いつつも、
しばらくの間、
ここで仕事をし続けるのです。

前にも少し触れましたが、
ここで働く人たちについて、

もう少し話しておきます。

まず、工場直属で
おそらく正社員の方たちがいます。
例えば100人で
深夜まるまる稼動しているとして、
社員は1名か2名です。

どんな人たちだったかは
ほとんど知りません。
ヒエラルキーの頂点は霧がかかっていて、
僕らにはまるで見えません。
たぶん中年のおじさんたちだったと思うんですが、
開始時の挨拶とかで
見かけたくらいです。

次に工場直接雇用のパート社員の方です。
ここに、
ラインを仕切ったりする

おばちゃんたちが属しています。
実質的には、
彼女達が作業を仕切っています。
僕らとはシフトが違うようで、
夜9時の開始時にはすでにいましたし、
朝は5時前には帰って行きました。
僕が落ちた容器を
手で取ろうとしたときに注意したり、
仕込み部屋に割り振る指示をしたのは、
この人たちです。

このおばちゃんたち、
結構露骨に僕らを差別していました。
まあ、人によるんでしょうが、
とにかくてきぱき仕事が出来ないと、
舌打ちされたりします。
手伝ってはくれます。
それで僕が、
すいません、ありがとうございます、
なんて言っても、
まともに返事なんて
返ってきたことはありませんでした。
彼女たちにとっては、
手伝う行為は、助力じゃなくて、
ラインを停めないための方策でしかないんでしょうね。

この直雇のおばちゃんの次、
カーストの3番目が、
派遣リーダーの野田さんたちです。
厳密には派遣会社の

社員さんたちだったかと思います。
ここも少数人で、
おばちゃんや工場社員とも直接口を聞いて、
主にラインの上流か、
機械をいじるような仕事をしているようでした。

そして、
その下層ということで、
僕らが位置します。
工場から発注された
派遣会社の労働者ってわけです。
30~40人いたんじゃないでしょうか。

ほとんどが20代から30代前半の
同年代の男です。
深夜だったのもあってか、

女の子は1人もいません。
ちょっと年配の男性がいると、
長距離のトラックの運転手で、
免停中の間に働いているとか、
一時的にやってるって感じでした。

僕らは最大の人員数でしたが、
ほとんど最下層でしたし、
まあ、あまりそれを
意識していたわけもなく、
若いのもあって、
休憩室で騒いで注意されたり、
のらりくらりとバイトしてる、
そんな連中がほとんどでした。

学生もあまりいなかったと思います。
深夜で昼とは完全に真逆なので、
さすがに学校通いながらはなかったんでしょう。

要は、
みながフリーターです。
フリーターは、職種ではないので、
つまり、
特になにも目標もなく、
就職もできず、
今後の社会では
特に役に立つわけでもない、
こうした単純作業をして、
生活費と遊興費を稼いでいたに過ぎない、
そういう集まりでした。
僕は何も単純作業がだめって言ってるわけじゃありません。

ただ、こうした作業は、

今後に何か技術や知識を習得するというのは、

ほど遠いんじゃないかって思っているだけです。

 

最近の骨太政策で、
就職氷河期時代の人の、
正社員率なんてのを
数値化していました。
それによれば、
この対象世代は、
まだ30%以上の人が、
有期限の雇用をされているといいます。

あの頃のフリーターの連中、
僕と同年代ですから、
今では30後半から40代にさしかかってるわけです。
まさに、就職氷河期世代なんです。
 

僕は、
何も無期雇用が
絶対正しいって思ってるわけじゃないですが、
戦後の日本人が、
当然のように終身雇用で、
社会的安定を手に入れようとしていた価値観からすると、
それは社会から逸脱したものと、
思われたりしているわけです。

家が近かったり、
年代も同じなのもあって、
そこで知り合った連中とは、
その後何年も
仲良くしていた人もいます。

これを書いていて、
ふと、あれから20年近く経って、
みな、どうしているんだろうと考えていました。

もちろん当時の僕には、
はっきりとした社会への不安はありませんでした。
きっと連中もそうだったと思います。
体はいつも充溢していて、
少々無理しても、
翌日にはぴんぴんして、
適当に楽しんで、適度に仕事して、
なんとかなるもんでした。

そんな中で、
微妙に、社会には階層があるってことと、
人生の享楽は
ずっと続くものじゃないってことが、
ほんとうにかすかに、
目を凝らして、
ようやく少しだけ見えているようなものでした。

僕はこうした環境の中で、
小説を書くことを
志しはじめていたわけです。

プロジェクト348日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/22 348日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

水族館の大きな水槽に、
魚の群れを見たことがあるでしょう。
1匹か2匹、
その魚群とは異なった、
全く別の魚がいたりして、
それでも一緒に泳いでいるのを
見つけることがあります。

しかしその魚が、
その後どうなっていくのかを追ってみると、
いつのまにか遅れるか、
それとも、ぐんぐんと先頭へ進むか、
それとも、ふいっと首をひろがえし、
どこかに行ってしまうものか、

まるで憑き物がとれたように、
さっきまで群れていたことを忘れて、
また自分のペースで泳いでいきます。

そうした魚は、
なにも別種だけに限らず、
同種でもありえることで、

僕は人間という種で、
本当は、
常に群れていたいんだけど、
そう思っているわけです。


さて、
仕込み部屋に配属された僕は、
すでにここに来ていたサトちゃんに教わりながら、
ラインとは全然違う作業を

していくことになります。

背丈よりも高い、
みながオーブンといっている機械があります。
そこから出てくる

揚げたての総菜を取っては、
用意した番重(大きなトレーみたいなもの)に

敷き詰めていきます。
1段目が埋まると、
キッチンペーパーみたいなのを敷いて、
2段目に入れていきます。

ゴムヘラのようなトングを使います。
これにしても流れ作業なんですが、
後がつかえてるわけでもないので、
ずいぶん気楽なものです。

ところが、

焼きおにぎりだけは厄介でした。
焼きたての焼きおにぎりは、
手でそっと取らないと
柔らかくて崩れてしまうのです。

とにかく熱い、
薄手の手袋を何枚も重ねて、
おにぎりの角をもって、
くずれないよう一気に取っていきます。

「あっちいけど、ラインより楽だよね
俺はこっちがいいよ」
サトちゃんがマスク越しの
くぐもった声で言いました。
僕はうなずいて、
腰の高さあたりに設置された窓の方を見ます。
そこからは、外、
つまり、さっきまで僕が
汲々と作業していた
ラインの一部が見えています。
心なしか、こっちは照明が薄暗くて、
窓の向こうは明るく、
清潔感があるように見えました。

日本人でここにいるのは、
僕とサトちゃんだけでした。
みな作業中はそんなに話しませんが、
飛び交う言葉は、
スペイン語か、きんきんとした中国語です。

それから、
とにかく蒸すように熱く、
慣れるまでは、

石灰か漂白剤のような匂いが、
鼻についてしかたありませんでした。

体は常に汗ばんでいました。
額にじっとりと汗をかき、
ときおり流れてくる汗を手の甲でぬぐいます。

「おう、アンドレ」
サトちゃんが作業の手を停めました。
見上げると、
なんとサトちゃんよりも
大きな男が立っていました。
顔の目のあたりしか見えていませんが、
褐色の肌、
濃くて眉間でくっきそうな眉をしていました。
「あんどれ?」
僕が言うと、
サトちゃんは、
「でかくない?」
「あだな?」
サトちゃんはうなずいて、
「そ、アンドレ」
僕はまた大男を見上げます。
たしかに、

サトちゃんより10センチは高く、
ほとんど2メートルはありそうな背丈でした。
頭上から、
「こうたい、あっちって」
と、拙い日本語で言うと、

別の部屋を指さして見せました。

ここは仕込み部屋です。
ラインは出来上がったものを詰めていくだけにすぎません。
ご飯も、
揚げ物も、
焼き物も、
野菜も、
全てここで切られたり焼かれたり
炊かれたりしているのです。

 

プロジェクト347日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/21 347日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

だいだい、
自分に能力がないことをわかっていて、
無理してみなに合わせていたら、
簡単にボロなんて出てしまうんです。

泣きたいくらい、
僕にはこうした長時間の反復作業が合いません。
人間は機械じゃない、
だから一律で一定した品質で動くなんてできない、
僕はそう思っても、
周囲は、精密機械のように
バランなんかよりもっと難しい作業を、
意図も簡単にこなしていくように見えました。

ほんの数分の作業ではないのです。
かすかな余裕に場内の時計を見ると、
まだ開始してから15分も経っていませんでした。

「あ!」
僕は思わず声を上げました。
ふちに寄せていた容器に腕がぶつかり、
それを床にぶちまけてしまいました。
すでに入っていた総菜が転がっていきます。
「すみません!」
すぐに床にしゃがんで

それらを拾おうとすると、
肩をぐっと掴まれます。
振り向くと、

主任といわれてるおばさんです。
「だめよ手でやっちゃ、ほうき持ってきなさい」
けっこう、きつい口調でした。

ラインはブザーが鳴り、とうとう停まりました。
順平が駆け寄ってきて、
残りの容器の作業をしてくれています。

僕はすごすごと

場内のはしっこにある掃除用具入れから、
ちりとりとビニル製のほうきを取り出してきます。

その間、ラインは停まったままです。

こういう時、
白衣に包まれた人たちは、
背格好が違うとはいえ、
誰もが均質に見えます。
表情はわからず、

目だけが点のように見えます。
みな、僕を笑っているようにも思えました。

「ちょっと早かった?」
床を掃除していた僕の背中に、
順平が言いました。
僕は振り向かず、
「いや、大丈夫」
そう答えます。
本当は、

全然大丈夫じゃありませんでした。

その後再開されたベルトコンベアの動きは、
さっきより幾分遅くなり、

もうスピードが上がることもありませんでした。

そして次の休憩の後、
僕はさっき叱られた
主任のおばちゃんに呼び止められます。
「あんた、今度あっち行って」
指さされたのは、
サトちゃんたちが入って行った、
仕込み部屋の扉でした。

「あ、でも…」
僕は何をしていいのかわからない、
と言おうとしたんですが、
おばちゃんは、
「行ったらわかるから、

あっちで教えてもらって」
「はい…」
 

ボクシングで言えば、
とうとう、

リングにタオルを投げ込まれた気分でした。
まだ俺はやれる、
そういう気持ちはありましたが、
なんとなく、ほっとした感じもありました。

サトちゃんや、

外国人たちが入っていった扉を、
僕は開きました。
 

ラインのある場内は、

ある意味空気が澄んでいて、
室温も低かったのでしょう、
中に入ると、ムッとする熱気と、
漂白剤のような匂いが、
マスク越しでもはっきりとわかりました。

「あれ~、こっち来たの?」
大柄な男が満面な笑みを、
マスクの間の目に浮かべて言いました。
サトちゃんです。
「どしたの~?
ラインの方がいいって言ってたのに」
いいから、いれるわけじゃないのに、、、
僕は、
「こっち行けって」
サトちゃんは、
「楽だよ、ちょっとあっついけどね」
そう言うと、
僕を手招きして、
なにか巨大なステンレスの機械の前に
連れていきました。


うんうん唸る音がします。
機械の真ん中には、

大きな細長い穴があいていて、
そこから金網のようなコンベアが出てきます。
少し待っていると、
今油から出されたばかりの揚げ物が、
不規則に並んで出てきました。

奥には、

電気ストーブの熱線のような光が見えます。
それをのぞくサトちゃんの顔は、
熱くて、汗ばんで、
きらきらしながら赤く照らされていました。

 

プロジェクト346日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/20 346日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

読者のみなさんは、
小さい頃、何を基準に生きていましたか?
なにを見て、自分はまともだって、
安心できましたか?

たとえば体操測定なんかで、
僕はいつも学年の平均より自分が上にいるかで、
基準値を越えていることに、
なんとなく、安心感を得たものでした。

総じてです。
総じて越えていないと、安心なんてできません。

それは、
ともかく人が人として、
人並みかってことを、
無意識に感じ取っていたんだと思います。

最近の小学校では、
運動会や絵画習字なんかでも、
あまり競争優劣を意識させない教育方針があると
聞いたことがあります。

僕はその方向性に、
賛同も否定もないのです。
ただ、これだけは思うのです。
もし無競争主義な環境で育ったとしても、
それはまるで無菌状態の温室にいたようなもので、
社会は、常に競争を意識させる世界だってことです。
そこで、
なんで僕には競争意識がないんだって、
今頃社会を批判してもあとの祭りです。

ただ、本当は、
なんで競争しなきゃいけないのかって
思うところもあるんです。
世の中が、
これだけ物質的な豊かさを手に入れたのなら、
全員が全員、
のんびり暮らしていくことは
できないものなんでしょうか?
いや、競争があったから、
人類はこれだけの繁栄を
手に入れたともいえるかもしれませんが。


さて、話を弁当工場のラインに戻しましょう。
僕は今、額にうっすらとにじんだ汗を感じながら、
バランをめくる作業に追われています。

ラインは少しづつ早くなります。
まるでそれは、
僕の能力の限界を試すようです。

不思議なのは、
周囲の人たちが、
―それはマスクをして
深く帽子を被っているので、
目だけなんですが、
みんな涼しげな顔して作業をしているように
見えることです。
僕だけが、取り残されていく気分です。
僕だけが、みなより能力が足りなくて、
追いえていかれているようです。

避難させた容器、
つまりバランを入れそびれた容器が、
ベルトのふちに溜まっていきます。

落ち着け、落ち着いてやれば、
こんなのなんてことない、
僕は自分に言い聞かせ、
一点に集中し、作業を進めていきます。

とうとう、その時がきました。
足がもつれるように、
僕の両手は一定だったリズムを失い、
コンベアのふちに容器が溜まります。
背後に駆け足で順平が近づいてきます。
彼は無言でよけられた容器にバランを入れ始めました。
彼の補助を受け、
ラインを停めるという危機を脱しました。

ひと休止になりました。
手を休め、周囲を見渡しました。
みな、やっぱり余裕のある顔して、
次の作業が始まるのを待っていました。

なんだろう、この気分は、
なんだろう、自分だけ取り残されたような、
この気分は、、、


プロジェクト345日目。

――――――――――――――――――――――――――――
<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/19 345日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

深夜の弁当製造工場の休憩室です。
僕と順平とサトちゃんは、
座敷に座って
おにぎりを食べながら喋っていました。

普通、中々ラインで仕事がうまくいかない人は、
しばらくすると仕込みに回されるって話です。
サトちゃんは、
わずか3日にしてラインから外されました。

「やっぱ大変なの?」
僕は少しの好奇心と、

同情する気分から聞きます。
サトちゃんは軽く笑って、
「まあ…、大変かなあ、暗いし、熱いしね、
まわりほとんど外国の人だから、
全然日本語通じないんだよね、やっかい」
なんか、
そんなに大変そうにも思えない言いぶりでした。

それでも僕は、
相当に仕込み部屋を意識していたと思います。
ラインでも手いっぱいの僕には、
とてもやりこなせないと考えていたんです。

休憩が終わり、
エアーシャワーのルームを抜け、
工場内に入ると、
ちらっと仕込み側の部屋の入り口を見ます。
日系ペルー人たちと連れ立って、
サトちゃんが、

そっちのドアの奥に消えていきました。
「次、おにぎり弁当流すから、

結構量あるからね」
背後から僕を抜き去りながら、
順平が声をかけていきました。

彼は足早にラインの先頭に向かっていきました。
ベルトコンベアには

スピード調節機能もあります。
1日の生産ノルマは決まっているので、
ラインの担当者の動きがよければ、
ベルトのスピードも速くなっていきます。
順平は、それすら操作する権限を与えられていました。

こいつ、絶対にスピードを速くする、
僕は彼の背中を見ながら思いました。

どうして人間は、
こうもあらゆる能力に差異があるんでしょう、
いや、他の動物だってあるのはわかります。
しかしそれは、

力とか、大きさとか、
子孫繁栄のためのわかりやすい競争能力です。

人間は違います。
複雑な社会は、総合力とともに、
時世やシチュエーションで、
多能な能力を要求してきます。

それにしても、
順平は高校生の頃から、
なにかと要領よくこなしている感じでした。
僕やサトちゃんにはない、
利発さがあります。

さて、ラインに戻ります。
ブザーがなって、
午後(実際には午前1時です)の作業の開始です。
僕にあてがわれたのは、
おにぎり弁当のおにぎりと沢庵の間に挟む、
そう、
バランでした。

とうとうきた、バラン、
束になった分厚いバランを渡されます。
これを、1枚1枚即座にはがしては、
ピンポイントで挟んでいくんです。

俺に、そんな芸当ができるのか、、、
いや、ゆっくり丁寧にだったらいいんです。
目がまわるように動くベルトを、
ひっきりなしに流れていく容器で
対応しなきゃならないんです。

順平が言っていた、
両手がまるで別の意思のように動く、
それをイメージしながら、

僕はバランをめくっていきました。
最初はなんとかこなしていました。
途中、どうやらリズムも出てきます。

これなら、いける、

僕がそう思い始めたその時でした。
心なしか、

ベルトコンベアが早くなった気がしました。
そういえばこのライン、
作業者の中でも

上級者が集まっているようです。
みな、さくさく、

なんの苦も無く作業をしています。
もしや、
僕はラインの先頭で脚立に登り、
下流まで見渡している順平を見ました。

さらに、流れが速くなりました。
みな、それを楽しむように

作業を進めて行きます。
僕は最初のつまづき、
とりこぼした容器を、

コンベアの淵に避難させました。
これが5個も溜まれば、ラインは止められるのです。

まだ大丈夫、
両手を器用に動かして、
バランをめくっては入れ、めくっては入れていきます。
かすかな余裕ができて、
その隙に、さっき非難させた容器もやりおえます。

俺は、いける、
俺は、やれるんだ、

僕は相当に集中して、
ラインの一点を眺め、

バランを入れていきました。

 

プロジェクト344日目。

――――――――――――――――――――――――――――
<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/18 344日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

左手で、容器を微調整、
右手で、さっと惣菜をイン、
僕は頭にラインに流れる弁当容器を浮かべ、
手を宙に泳がせました。

そして、首をひねって、
「そんなもんなの?
手って」
「そうだよ、俺が最初やったの見てたろう」
順平はこのバイトを

始めたころのことを言っているのです。

あの時、
彼は同じラインで、
僕のほとんど向いにいました。
僕がちょこっとした総菜をのせるだけだったのに、
順平は、バランを入れる役目をしていました。
 

バランってわかりますか?
あの草の形した、緑色の、
食材を仕切るやつです。

最初の頃、
僕らはいつラインを停めてしまうかって、
それこそ、
びくびくしながら仕事をしていました。
 

だから、向かいの順平を不幸に思ったんです。
バランを1枚1枚とっては、
器用に食材のピンポイントの場所に
置かなきゃなりません。
しかも薄手とはいえ、
ゴム手袋して指先を動かすんです。

順平の目は真剣でした。
少し焦っていたかもしれません。
何度か滞留し、

ラインを停めていました。

僕は少しでも彼を手伝おうと思うんですが、
さすがに人の手助けができるほどの
余裕はありません。

順平は、
まるでイメトレするみたいに、
ちょっとした休み時間に

手先を動かしたりしていました。
「大丈夫?」
僕は聞いてみました。
「ああ、大分こつわかってきたからね、
ぺろっとね、1枚だけめくんの」
 

するとどうでしょう、
その日の後半には、
順平のバランが滞って
ラインが止まるということはありませんでした。
そして2日目には、
僕にはもうその手つきが、

なにかマジシャンのように見えていました。


バランに指がすうっと吸い寄せられて、
精密機械のように、
ドンピシャの位置に置かれていくんです。
彼はもはや、

その作業を楽しんでいるかのようです。
僕はただただ目を見張るばかりで、

3日目、
彼はベテランおばちゃんのお声がかかり、
さらに上流へと進み、
僕は手招きされ、
さらに下流の作業をあてがわれました。


順平は、その時のバランをうまく入れているコツを、
両手を使って僕らに説明します。
「まず指の腹に吸い付く感じね、
これを片方の手は意識するわけ、
で、その間に容器の方は、
ちょうど自分の腕の動く

水平方向に微調整しておく、
それだけでかなり高速になるんだよ、
とにかく両方の手が、
完全に無駄のない動きをしたら、
あとは速さ競ってるようなもんでさ、
ちょう楽になっちゃうから」
「そんなもん?」
僕は畳の目を指でなぞりながら、
どうにも実感できずに聞いていました。
「でもさ、」
反論したのは、サトちゃんでした。
「俺、前の人の作業も気になっちゃうんだよ、
だってから揚げの位置とかずれちゃってるし」
サトちゃんはから揚げの後の

コロッケを置く担当だったんでしょう。
続けて、
「だからさあ、それも直してたら、

ぐんぐん遅れちゃってさ、」
順平は、ふふっとひと笑いして、
「コロッケでから揚げ動かしゃいいじゃん、
俺もそういうのあったよ」
「コロッケで…」

「そ、コロッケをうまく使うんだよ」

「ふにゃっとしたコロッケで…、」
サトちゃんはそう答えてから、
少し間をおいて、
「でもまあ、俺もういいんだけどね、ラインは、」
「なんで~、2人で上達しようよお」
僕はサトちゃんの方を向いて言います。
彼は首を2回横に振って、
「俺さあ、さっき呼ばれちゃったよ仕込みに、
多分休憩のあとも、あっちだと思うんだよ」
「え?それほんと?」
僕は体を起こします。
確かに、ある時間から、
ラインにサトちゃんの姿が

見えなくなったことに気づいていました。
サトちゃんはこくりと深く頷いて、
「焼きおにぎり、やばいんだよ、柔らかいからさ、
手でトレーにのせんだけど、
激熱だから、見てよこれ」
彼は大きな手を広げて見せました。
たしかに、指の腹のあたり、

少し赤くなっていました。

深夜の弁当工場の、
小さなヒエラルキーは、
刻一刻と変化していきます。
今、ラインの最下流にいる僕は、
次は自分が仕込み部屋に呼ばれるんじゃないかと、
サトちゃんをじっと見つめました。

 

プロジェクト343日目。

――――――――――――――――――――――――――――
<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/17 343日目</strong></span>
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■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

毎日ベルトコンベアで、
弁当容器に惣菜なんかをつめていきます。
こういう時、

手先が器用で何かと要領がいいのは順平で、
(高校生の頃のアメヨコバイト編で紹介)

彼はぐんぐん出世して、
気づくとラインの上流で、
ごはんが出てくるところあたりの作業をしていました。

僕は、やっぱりあんまり向いてないんですね、
結構さくさくやってるつもりでも、
どうしても遅れがちになって、
気づくとベルトのわきに弁当容器を積んでいて、
1日の仕事で
数回はラインを止めてしまうことがありました。

サトちゃんは、もっと大変そうでした。
元々要領がいい方ではないし、
そもそも、白衣を着て遠くにいても、
すぐに彼とわかるその身長が、
ラインで腰をかがめて作業をするにはネックでした。

多くの人が手元でやる作業、
彼の場合は、

身をかがめて行うわけですから、
それは大変だろうな、と思っていると、

ラインにサトちゃんの姿が見当たりません。
さっきの休憩の前までは、
僕と1つ挟んだラインの下流で、
お惣菜をつめていたんですが。。。

まさか、

仕込みの方に行ったんでしょうか、、
例のきっつくて、
外国人ばかりが作業がしているという噂のやつです。

僕は自分の作業の手が遅れがちになりながら、
ラインの上流を見ました。
順平が先頭でご飯を分け入れています。

まさかね、まさか、
まだサトちゃんは
ここで仕事を始めて3日目です。
そんなに早く見極められて、
仕込みに行かされてるとは思えませんでした。


その日の、
午前0時の休憩時間のことです。

夜の9時から仕事をしている僕らにとっては、
昼間の生活とはまったく真逆なので、
まさにお昼の時間ってことになります。

休憩所のとなりが食堂になっていますが、
それはあくまで日勤の人用であって、
夜中はやっていません。


僕らはたぶん作りすぎてしまったであろう、
コンビニおにぎりなんかを食べます。
これ、番重(ベージュ色したトレー)に入れられて、
休憩所の入り口に配置されるんですが、
あの派遣リーダーの野田さんが、
売りさばいています。

彼がなんでこんなことしているかは知りません。

どういうお金の流れかもわかりませんでした。


1個50円を僕らから徴収するんです。
余ってしまったんだから、
タダでもよいのに、
そんなふうに思っていました。

種類はそんなに選べません。
だいたい余ってしまうおにぎりは決まっていて、
おかかとか、高菜とか、
人気のないやつです。
僕らはそれを
3から4個買って食べていました。

休憩室の半分は畳敷きになっていて、
そこに上がって休憩します。
なぜか日本人が座敷を占拠します。
中国人や日系ペルー人は、
生活習慣もあるのか、
残りの半分を占めるテーブル席で
雑談なんかしていました。

僕と順平はおにぎりを買うと、
座敷に上がりました。
サトちゃんがいません。
「あれ、サトちゃんいないね」
僕が言うと、
順平は、
「いんじゃん」
休憩室の入り口あたりを指さしました。
でかい体がひとり、
おにぎりを選んでいるのが見えました。

遅れて座敷に上がってきたサトちゃんは、
おにぎりを持っていませんでした。
「食べないの?」
僕が聞くと、
「高菜しか残ってないんだよ」
サトちゃんは、
高菜が食べられないのです。
「じゃあ俺の上げるよ、」
僕は1つを彼に渡します。
サトちゃんはそれ受け取りながら、
「おー、ツナじゃん!」
「1個だけあったんだよ」
ツナが残っていることはめずらしく、
しかも休憩室に早く来ないとゲットできないレア物でした。

3人でおにぎりを食べながら、
僕は、
「にしても順平すごいね、
ちょー出世だね、
あっという間に上りつめたっていうか」
ラインのことです。
彼はもはやCライン(僕や順平がいるライン)のエースでした。
最初の日こそ、
僕と一緒に下流で蓋を閉めていたのに、
日々上がっていて、
今じゃごはんを詰めるところも任されています。
「あのごはんつめんのって楽しい?」
サトちゃんも聞きます。
順平はペットボトルのお茶を飲みながら、
「あの機械さ、しょっちゅうべとべとになるから、
霧吹きでアルコールかけんだよね食べ物に、
なんかやだな」
と言いながら、

おにぎりを頬張っていました。

「でもすごいよ、もう少しでラインリーダーでしょ」
と、サトちゃん。
ラインリーダーになると、
ラインの状況も見て、ブザーを鳴らしたり、
滞ったら停めたりすることもできるのです。
なんと言っても、
時給が50円上がるという噂でした。

順平は、
別に誇らしげな感じもなく、
ちょっと考えてから、
「2人ともさ、もっとてきぱきやった方がいいよ」
と、僕らを見渡しました。
「てきぱきやってんだけどなあ」
僕はおにぎりを食べ終え、
両手を後ろ手に畳につきました。
すかさず順平は、
「やってないやってない、

俺見てたから
手つきがなってない」
「手つき?」
僕は聞き返します。
順平はこくりとうなずくと、
「2人ともね、作業見てるとさ、
両手を別々に使えてないんだよ」
彼は言いながら、
左手でチョキ、
右手でグーをして見せました。
「そういうもんなの?」
僕は体を起こし、あぐらをかくと、
胸の前で、
彼に真似るように、チョキとグーをしてみました。
「右手で容器をピンポイントにセッティング、
それで左手でさっとのせてね、」
順平が話し始めます。

休憩室には50人以上の

多国籍な労働者がいます。
そのわりに誰もがひそひそ話で、
さざなみが流れていくように静かでした。
僕らにとっての昼、

世の中での深夜が更けていきます。

プロジェクト342目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/16 342日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

実際の作品から引用します。

「ちょっとそこの人!
ぼさっとしてないでさっさと列に入んなさい」
突如甲高い女の声があった。
見れば僕の近くの、
一番端にあったベルトコンベアーのところで
手招きする者がある。
僕のことを呼んでいるようだった。
咄嗟にその人の元へと駆け寄った。
「何、あんた新人?面倒くさいわね」
呼んでおいて何もなかろう。
僕は新しい仕事に暗雲の立ち込める思いがした。
以前やってきた仕事から考えても、
これだけ忙しないことには
直感的に向かない気がした。
「だから何突っ立っての、
言葉解る?日本人じゃないの」
後から聞いた話だが
この女の人は中尾といって
場内では一二の権力者だった。
故意ではないのだろうが
余りに言葉がきつく、
それでなくとも東京弁に馴染めぬ僕には
辛く感じられた。
それはそうと、女の言った日本人?
とは冗談ではなかった。
その証拠に僕が日本人ですと答えると、
本当に安心したように返したからだ。
休憩室で何となく解っていたが、
ここには日本人の他に、
中国人とペルー人、
これは多く日系の人達が働いていた―

『溺れる時代』で、
弁当製造工場で働く
初日の主人公の印象が語られています。

さて、
レベルブックの実際の世界へ戻ってみます。

順平の言ったように、
規則的な弁当工場との往復の暮らしは、
刑務所かなにかで、
日々の労役に従事しているようでした。

そこには娯楽や趣向もなにもなくて、
全てが白衣に包まれ、
工場のチャイムと
流れていくベルとコンベアの食材に支配されていました。

この時の僕には、
将来への不安がないかわりに、
将来への指針などなにもありませんでした。
漠然と小説家になることを
感じ始めてはいましたが、
それがどういう道程であるとか、
ましてや、
こうした経験すらも、
やがて物書きの資質の1つにしようなんて、
思いもしませんでした。

ただ、漠然とわかっていたのは、
もしかしたら、
ここが社会の底辺に近い場所で、
もしこのままであれば、
若さ以外にとりえのない自分らにとって、
やがて地の底での生活以外は
待っていないんじゃないかってことです。
だけれど、
それすらも若さは麻痺させるというか、
まだずっと先の未来なんて、
なんとかなると思わせるものでした。

いったい何歳までが
若いなんてわからない、
いくら平均寿命が伸びたとしても、
それは体力も気力も衰えた、

人生の延長戦の部分が
長引くだけのことであって、
この若年の時代は、
刹那のように過ぎ去ってしまうものなのです。

僕はそういうことを、
夜8時過ぎに、
工場へ向う暗い道に単車を走らせながら、
考えていたものです。

前方には、
順平とサトちゃんの
それぞれの単車の赤いテールランプが揺れています。
彼らだって、これからどうやって生きていくのか、

僕らはまるでそれをタブー視するみたいに、

真剣に話し合ったりすることはありませんでした。


『溺れる時代』は、
この時から5年も後、
大学最後の年に書かれたものですが、
僕は書きながら思ったものです。

いつだって、
転がり落ちて行くことはできる、
人生は、まるで何かにしがみついて、
上へ行くともなく、
下をそっとのぞき見ているようだと、
それはまるで、
泳ぎが上手いと思ってたカエルが、
水を怖がって、
柳の細枝にしがみつき、
息も絶え絶えに周囲を窺っているような、
そんな印象を僕に感じさせました。

プロジェクト341日目。

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

引き戸のすきまに、
ちょうど入り口から見えないところに、
サトちゃんはいたのです。

タンクトップにトランクス1枚で
しゃがんでいました。
手になにかもって、
僕の方を必死に見上げています。

「やっぱいない?」
入り口のドアから、
社員の方はあいかわらず顔を出したまま、
声をはりあげました。
僕はサトちゃんが持って掲げている、
トイレットペーパーをのぞきこみました。

ペーパーには、
マジックで、
なにか書きなぐったような
文字がありました。
汚すぎて読めないのです。
少しかがんでのぞきこみます。

そこには、
全部ひらがなで、

”いないっていって”

と、書かれていました。

僕は一瞬、
強烈に吹き出しそうになるのを必死に堪え、
ドアの方に首を向けると、
「いないですね、やっぱり」
と大きな声で言いました。
「バイクあんのになあ、
どこ行ったんだほんとに」
社員は答えます。
僕は首元がまできている
震えのような笑いに耐え、
ドアのところまで戻っていきました。

「おかしいっすね、なんでだろ…」
「戻ってきたら、連絡するよう言ってくれよ」
社員は、そう言い残すと、
駆け足で階段を降りて行きました。

僕はほっと胸をなでおろし、
部屋の中に戻ります。

まだサトちゃんは、
引き戸の影で、
さっきまでと同じポーズのままいました。

僕はそれを見て、
「もう行ったよ…、ふふっ」
と言いながら、

「あはははははは」
途中で大笑いをしました。
ひとしきり笑ってから、
ようやく落ち着いてきたところで、
サトちゃんは立ち上がり、
「助かったよ、ありがとね」
僕はそれを聞くと、
また揺り戻しのように笑い転げました。
「おかしい?」
「いやいや…」
「そんなおかしい?」
「うんうん」
僕は何度もうなずきました。

サトちゃんが言うには、
寝坊して起きだすと、
いきなりチャイムが鳴ったそうです。
そこで居留守を使い、
社員が帰るまでしのごうとしていたんです。

ところが、
そろそろ僕らが
弁当工場から帰ってくる時間になって、
あわてて影に隠れました。
そして、
僕が部屋に入ってきたってわけですね。
そして携帯電話を鳴らすと、
手元にあったトイレットペーパーに、
これまた、
たまたま近くにあったマジックで、
哀切なるメッセージを書き込んだってことです。

”いないっていって”

この言葉は、
僕の脳裏に熱く刻み込まれました。

サトちゃんは、
この後、
半ば首になる形で警備会社をやめました。
そして、
僕ら3人は、
揃って弁当製造工場へ行くことになります。

 

プロジェクト340日目。
 

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/14 340日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

弁当製造バイトが
10日ほど過ぎた頃です。

夜どっぷり日の暮れた21時から、
朝の9時まで、
工場内で
ひたすら弁当を作ります。

徐々に身体は慣れていきます。
夜の7時すぎに起床、
目はぱっちりと開き、
頭は冴えています。

そして、
午前中には眠くなり、
順平と仲良く就寝、
また夜目覚める、
という生活リズムが
繰り返されていました。

ある意味充実していました。
バイクで10分とかからない工場との往復、
途中のコンビニでご飯を買うか、
吉野家で牛丼食べるか、
そして家に帰ったら、
うとうとして眠る、
とくに行楽的な欲もなく、
ただ日々封筒でもらう給料を
引き出しにしまいこむ毎日でした。

そんなある日のことでした。

朝9時すぎ、
西川口の自宅へと帰宅します。
その日、順平がなんでいなかったのかは
記憶にありません。
ちょっと実家に行ったのか、
役所に行ったのかだったと思います。
とにかく僕は1人で帰宅しました。

夜の気分ですので、
少し眠いのと、
12時間の労働の疲れを感じながら、
2階にある自室へと階段を登りました。

「おう、花村、」
家のドアの前に、
警備会社の社員の人が
立っていました。

僕は弁当製造をやるまで、
順平とサトちゃんと3人で
警備員をしていたわけなので、
知っている人でした。

「どうしたんですか?」
久しぶりにあった社員の方に、
ちょっと驚いていました。
「いやさ、あいついないの?」
サトちゃんのことです。
「今日来てないんだよ、
さっき現場から連絡あって、
鳴らしてんだけど、
誰も、いない?」
彼はドアの方を目で示しました。

ここで読者の方には
説明が必要です。
実はサトちゃん、
極度の遅刻症でした。
それは高校時代からすでに病的で、
待ち合わせに数時間
僕らを待たせたこともありますし、
高3になると毎日学校に遅刻していました。

警備員がなぜ続けられていたかというと、
同居している僕ら3人で
やっていたからです。

朝は一緒に起きます。
もちろん眠りが深いのか、
中々起きませんが、
それでもともに
出勤することができました。

そう、、、
今さらながら思ったのです。
僕と順平がいなければ、
サトちゃんが1人で起きていけるはずはありません。

「なあ、ちょっと起こしてくれよ」
社員に促され、
僕は部屋の扉の鍵を開けました。

この西川口の部屋、
長方形のつくりになっていて、
玄関を入ると、
リビング、
奥の部屋へとまっすぐ続いています。

ゆっくりとドアを開け、
靴を脱ぎました。

奥の部屋の窓まで見渡せますが、
人影はありません。
「お~い、いるかあ」
さすがに社員は
部屋には入ってこずに、
入り口から顔を出して、
声を出しました。

僕はまず、
玄関の左手にある、
ユニットバスの中をのぞきました。
誰も、いません。

もしかして慌てて起き出して、
現地に向かっているのかもしれない、

脳裏には、
サトちゃんがバイクを走らせている姿が浮かびました。

続いて、
みんなで弁当製造工場で
仕事しようって言った時に、
かたくなに警備員を続けると話していた
サトちゃんが浮かんできます。
彼はなぜ、
そこに拘ったのでしょうか、

いや、
僕は首を振りました。

彼にそんな定見や理由なんてないのです。
いつだってそうでした。
なにか虫の知らせみたいに気まぐれに、
意固地になるところがありました。

その癖、
理由を問いただしても、
特になんにも出てこないのです。

「電話しました?」
僕は部屋の途中、
台所の前まで来ると振り返り、
中をのぞきこんでいる社員に言いました。
「したよ、何回もしてる」
僕はちょっと考えてから、
ポケットから携帯電話を取り出すと、
サトちゃんの番号にかけました。

かすかに、部屋の奥から、
振動する音がしました。
本当にかすかです。
ところがそれはふいに消えました。

「出ないだろう?いない?」
社員が言います。
僕は首を振り、
さらに奥の部屋へと向かいました。
その窓際の部屋には、
収納もなにもありません。
つまり隠れる場所も何にもないのです。

ただ一つ、
仕切りになっている引き戸が開いていて、
その影に身を隠すくらいしかできません。

僕はその引き戸の影になった部分に
目を落としました。
その瞬間、
眠かった身体がかたまり、
目が釘付けになりました。

 

プロジェクト339日目。
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