深夜の弁当製造工場の休憩室です。
僕と順平とサトちゃんは、
座敷に座って
おにぎりを食べながら喋っていました。

普通、中々ラインで仕事がうまくいかない人は、
しばらくすると仕込みに回されるって話です。
サトちゃんは、
わずか3日にしてラインから外されました。

「やっぱ大変なの?」
僕は少しの好奇心と、

同情する気分から聞きます。
サトちゃんは軽く笑って、
「まあ…、大変かなあ、暗いし、熱いしね、
まわりほとんど外国の人だから、
全然日本語通じないんだよね、やっかい」
なんか、
そんなに大変そうにも思えない言いぶりでした。

それでも僕は、
相当に仕込み部屋を意識していたと思います。
ラインでも手いっぱいの僕には、
とてもやりこなせないと考えていたんです。

休憩が終わり、
エアーシャワーのルームを抜け、
工場内に入ると、
ちらっと仕込み側の部屋の入り口を見ます。
日系ペルー人たちと連れ立って、
サトちゃんが、

そっちのドアの奥に消えていきました。
「次、おにぎり弁当流すから、

結構量あるからね」
背後から僕を抜き去りながら、
順平が声をかけていきました。

彼は足早にラインの先頭に向かっていきました。
ベルトコンベアには

スピード調節機能もあります。
1日の生産ノルマは決まっているので、
ラインの担当者の動きがよければ、
ベルトのスピードも速くなっていきます。
順平は、それすら操作する権限を与えられていました。

こいつ、絶対にスピードを速くする、
僕は彼の背中を見ながら思いました。

どうして人間は、
こうもあらゆる能力に差異があるんでしょう、
いや、他の動物だってあるのはわかります。
しかしそれは、

力とか、大きさとか、
子孫繁栄のためのわかりやすい競争能力です。

人間は違います。
複雑な社会は、総合力とともに、
時世やシチュエーションで、
多能な能力を要求してきます。

それにしても、
順平は高校生の頃から、
なにかと要領よくこなしている感じでした。
僕やサトちゃんにはない、
利発さがあります。

さて、ラインに戻ります。
ブザーがなって、
午後(実際には午前1時です)の作業の開始です。
僕にあてがわれたのは、
おにぎり弁当のおにぎりと沢庵の間に挟む、
そう、
バランでした。

とうとうきた、バラン、
束になった分厚いバランを渡されます。
これを、1枚1枚即座にはがしては、
ピンポイントで挟んでいくんです。

俺に、そんな芸当ができるのか、、、
いや、ゆっくり丁寧にだったらいいんです。
目がまわるように動くベルトを、
ひっきりなしに流れていく容器で
対応しなきゃならないんです。

順平が言っていた、
両手がまるで別の意思のように動く、
それをイメージしながら、

僕はバランをめくっていきました。
最初はなんとかこなしていました。
途中、どうやらリズムも出てきます。

これなら、いける、

僕がそう思い始めたその時でした。
心なしか、

ベルトコンベアが早くなった気がしました。
そういえばこのライン、
作業者の中でも

上級者が集まっているようです。
みな、さくさく、

なんの苦も無く作業をしています。
もしや、
僕はラインの先頭で脚立に登り、
下流まで見渡している順平を見ました。

さらに、流れが速くなりました。
みな、それを楽しむように

作業を進めて行きます。
僕は最初のつまづき、
とりこぼした容器を、

コンベアの淵に避難させました。
これが5個も溜まれば、ラインは止められるのです。

まだ大丈夫、
両手を器用に動かして、
バランをめくっては入れ、めくっては入れていきます。
かすかな余裕ができて、
その隙に、さっき非難させた容器もやりおえます。

俺は、いける、
俺は、やれるんだ、

僕は相当に集中して、
ラインの一点を眺め、

バランを入れていきました。

 

プロジェクト344日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/18 344日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
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 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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