たかが体毛、されど体毛、
人間になぜ体毛があり、
いや、進化の歴史からすれば、
厳密には、
人間になぜ体毛が残り、
それが現代社会に生きる人々を悩ませるのか、

もはや『溺れる時代』とも、
弁当製造工場とも、
なんのつながりもない、
話にそれていくのです。


そもそも600万年前、
人類が現代に繋がる
他の類人猿と分岐し、
アウストラロピテクスとか、
ネアンデルタールなんて呼ばれる、
初期人類への進化を成し遂げた時、
すでに体毛は減る一方で、
頭髪以外の体中の毛が薄くなっていったのは、
人類学の成果として、
はっきりしていることです。

色々な説があるものの、
いったん、僕の考えでは、
持久力を維持する、
つまり発汗作用の進化により、
蒸発させるために不要になり、
さらに身を守るために、
身に毛皮などを身につけたことが、
薄くしていくことに拍車をかけた、
と思っています。
そして、最終的に

身を守らなければならない箇所、

つまり、

頭部であるとか、

わきの下、陰部については、

密生した毛が残った、、、

しかしながら、

なぜ男だけ、

年齢とともに

急速に頭髪が衰えるのだとか、

そう言ったことは、

まだ定説がありません。

実はこれ、
前々章の『美臭』中で、
『イージーサン』について触れた際や、
もっとさかのぼると、
『石文』での大学受験の話の際にも、
多少の言及をしています。

しかしながら、
ここではっきりとしておきたいこともあり、
僕は思い切って、
自らの半生にまつわる、
そう、毛について、
少しばかり語っておこうと思いました。

 

僕が、特に

その、、、、毛を意識したのは、

不意の出来事で

風呂場から上がってきたばかりの、

真っ裸の叔母を見た小学2年の時でした。

 

股間には、湿気を感じそうな、

濃い陰毛が、はりついてみえました。

 

それは、大人になることかもしれない、

僕はそう自分に言い聞かせるたびに、

大人とは、

なんと奥深くて、

秘密の味がするものなんだと感じたものです。

 

ところが、

僕の体毛は中々生えてきません。

成長が遅かったのかもしれません。

しかし別段、

それを危惧していなかった僕に、

衝撃の瞬間が訪れたのは、

小学6年生のときです。

 

となりの小便器で用をたしていた、

小山くんの股間のあたりに、

ふいに目がいったのです。

その時は、

見ようとして見たわけじゃないんです。

しかし、

僕の目は釘付けになってしまいました。

うっすらと、

毛が生えているじゃないですか、、

 

「それ!」

僕は上ずった声をあげ、

彼の股間に顔を近づけていました。

「うわっなになに」

小山くんは慌てて体を引こうとして、

便器から小用を外してしまいました。

 

それから、大騒ぎです。

なんだなんだと友人たちが駆け寄ります。

僕は興奮して、

「小山くん、毛が、毛がある」

「え~っ!」

それでみなが

小山くんに注目したわけです。

その時にはもう、

彼はズボンをはいていたんですが、

半べそかいていました。

 

僕は悪いことしたなって

気はあったんですが、

これはのんびりしてられない、

そう強く感じました。

まだ僕には、

毛が生える兆候なんて

まるで見られなかったからです。

 

 

今、、、こうして書いていて、

あまりにしょうもないこと書いているな、

とは分かっています。

しかしながら、

ここを書ききらないと、

なぜ僕が、

ペルー人から渡された

怪しい薬に

拘泥したのかはわからないのです。

 

毛にまつわる思春期の戦慄、

明日に続きます。

 

プロジェクト358日目。

――――――――――――――――――――――――――――
<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/7/2 358日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

ビクトルは、
奥深い目に光を湛えていました。
いや、深夜の洗面所が暗くて、
鏡越しではそう見えたのかもしれません。

彼は口元の片方が上がる、
独特な笑みを浮かべると、
「これね、クスリ塗ってる」
片言の日本語です。
「くすり?からだ悪いの?」
僕が言うと、
「悪くない悪くない」
鏡越しのまま、
僕を見て片手を振って、
「悪いとかないね、
これ、塗ってるクスリだから」
「塗ってる、クスリ…」
「そ、こことかね、」
彼はそう言いながら、
ちりちりとした細かな毛の密生した、
自らの胸をさするような

ジェスチャーをしました。

彼は、手に持っていた
手のひらに収まる大きさの、
歯磨き粉のようなものを

僕に手渡しました。
一緒にいたコイちゃんも、
それを覗き込みます。

彼らは日系ペルーの人たちです。
外国製の薬かと思いきや、
見事に日本語のカタカタで、
ヘモグロビンパスタ、
と書かれています。

「へもぐろびん…」
僕が口にすると、
ビクトルはそれを胸元に塗りたくりながら、
その薬の効能について

説明をしてくれました。

彼は他の日系人に比べ、
日本語がかなり上手い方で、
中にはほとんど

日本語が喋れない人もいて、
ビクトルに通訳してもらうほどでした。

しかし、そんな彼も、
この説明には
それなりに時間を要しました。

それで、僕らは理解したのは、
とにかくその薬は
男性ホルモンを促進するもので、
身体に塗ると、
体毛が増えるらしい、
ということでした。

そのかわり、

「絶対頭に塗っちゃダメね、」

とビクトルは言います。

「頭、つるっとしちゃうからね」

だそうです。
男性ホルモンは、

体毛の増進を促し、

頭髪を減退させるものらしいです。


23歳だった当時の僕は、
まだ髭剃りの習慣すら
あまりないほどにヒゲが薄かったので、
思わずビクトルに、
「それ、ヒゲとかも」
そう言いかけると、

ビクトルはからから笑って、
「おお~、ヒゲ、ヒゲね、

濃くなる濃くなる」
と、自らの青々した顎を撫でてみせました。

それから、

僕とコイちゃんは、
その薬がどこで売っているのかなんかを
聞き出そうとしました。
そもそも、

すでに濃い胸毛を蓄えているビクトルが、
その薬をなぜ塗っているのかも疑問でしたが、
それよりなにより、
ヒゲを男らしく

生やせるかもしれないという、
怪しい魅惑に、

僕はとりつかれていました。

彼は、普通には、

すぐには買えないと言いました。
だから自分が仲介で

購入してきてあげるとの話。

僕らはそれを疑いもせず、
彼にまずは
1本2000円というお金を、
現金で渡しました。

日本語で書かれた
ヘモグロビンパスタの文字、
それなのに僕は、
なぜか異国の、
はるか太平洋のかなた、

ペルーの風を感じていました。
南米の謎に迫るような気持ちで、
その塗り薬を手に入れ、
そっと顎から口元へと指を走らせていきました。

 

プロジェクト357日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/30 356日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

口ひげは、まるでとってつけたようでした。

僕も順平も、
多少無精ひげを伸ばすことはありましたが、
コイちゃんのは、
もっと濃くくっきりとした口ひげで、

というわけで、

久々の再会というのに、
最初に僕は、
「すっごいねヒゲ、なんか立派」
「そう?」
コイちゃんがおどけた感じで答えると、
順平は、

じっと彼の口元を眺めて、
「なんか密度濃い、貫禄あるね」

本当のところ、
ちょっとひょうきんでおっとりした、
細面の顔したコイちゃんには、
あんまり似合っているとは

思えませんでした。

ちなみに、
昨今は永久脱毛なんてものもある
ヒゲについて少し話すと、

僕についていえば、
40を越えた今も、
だいたい1週間に2回剃る感じです。
日曜の夜と水曜あたりです。
仕事では
客先に出向くことが多いですが、
まあ、これで事足ります。
そのため、

日曜の夕方くらいがピークで、
それなりに濃くなっています。
連休なんかがあると、

そのままにしてあるので、
さらにびっしりと生え揃っていきます。

毎日電気シェーバーって方も

結構いますが、
僕は若い頃からずっとかみそりです。

理由は特にありません。

キッカケがなかっただけかもしれません。


ひげ剃りって、それなりに
めんどくさいですが、

放っておくと、

僕の場合は、
首とアゴの付け根あたりまで

広い範囲で生えてきます。

なので、
服を着たままでは剃れなくて、
風呂でついでにやります。

そんな現在の僕ですが、
若い頃は、
体毛と、

そもそもヒゲが薄いことが
少しコンプレックスでした。
姉と妹、母親と、
女性の中だけで育った僕には、
同性の友人と比較したときに、
微妙に男性らしさがないという
意識が芽生えていました。


子どもの頃、

姉と妹と同じように、

母はおかっぱみたいな髪型に、

僕の整髪をしてくれていました。


どこかの駄菓子屋で、

なんの悪意もなく

あけすけな感じの店のおばちゃんが、

「あんた男か女かわかんないね」

と言い放ち、

赤面した僕は

半べそで家に帰ると、

泣きながらハサミを持って、

「髪を短くしてほしい、

友達みたくスポーツ刈り

(流行っていたのか、

そういう呼び名があった)

にしてほしい」

そう、切々と母に哀願したのを

今でも覚えています。


その反動があるのです。


どういうことかと言うと、
例えば、
わざと荒々しい言葉使いしてみたり、
態度を大きくしてみたり、
そして、
ヒゲってわけですね。

女性が聞いたら、
なにそれって感じかもしれませんが、
これで結構若い頃は、
いかにすれば男らしくなれるかを、
それなりに考えたものです。

誰にも口にはしませんでしたが、

男気という言葉は、

僕にとって

生きるための1つの指標で、

自分の行動が、

男気に背くか否かを

よく心の中に問いかけたものです。

もちろん今では

そんな意識もありません。
男らしくなれたかといえば、
そうではないかもしれませんが、
大人になって、
単に自然になってしまっただけでしょう。

そんな僕が、
ほのかな若い頃の劣等感を思い出しながら、
コイちゃんの、
まるで付けヒゲをのせたみたいな

口元を眺めています。

「そんな濃かったっけ?」
僕が聞くと、
コイちゃんは、甲高い声で、
「え~、全然濃くないよ、」
「いやいや濃いって、前んなことなかったよ」
僕と順平は合わせたように笑って言います。
「そう?」
コイちゃん、
向かい合った僕らを交互に見ると、
「実はさあ、

ヘモグロビンパスタってあったじゃん、
あれ続けたからかな、」
「あ、あれ…、まだやってたの?」
僕は少し驚いて、

目を見開きました。

そう、ヘモグロビンパスタ…、
今ネットで検索しても、
全然引っかからない、謎の薬、
男性ホルモン流布剤という別名、
そもそも、
ヒゲを永久脱毛しようなんて男性には、
まるでその逆効果をもたらす、
全く不要の産物、
ヘモグロビンパスタ
(だんだんこの名前だったか

不安になってきました。。。)

この薬は、
確か普通に
市販もされていたんだと思うのですが、
僕とコイちゃんは、
まさに弁当製造工場で

バイトをしていた時に、
とある日系ペルー人から

話を聞き、その実物を入手したのでした。

名はビクトルといいました。
小柄で、彫りの深い顔つき、
茶髪のウェーブがかった髪、
底知れぬ考えを宿してそうに見えた、
その深い眼窩の奥の瞳を、
僕はまざまざと思い出していました。

「ビクトルに貰ったやつでしょ、」
僕は呻くように声にしました。
コイちゃんは手をたたき、
「そそ!ビクトル!
花ちゃんよく名前憶えてたね、
俺忘れったよ、ビクトル、」


工場での休憩時間でした。
深夜の昼休憩(0時から1時)です。
お手洗いで用を足して、
洗面所で手を洗おうとしていると、
僕とコイちゃんは、
たまたま見たのです。
いや、たまたまって言うのか、
ビクトルはいつもやってたんでしょう、

彼は、
筋肉質な上半身をはだけて、
胸毛に覆われた胸の間、

みぞおちのあたりを、
なにかマッサージするみたいに、
さかんに手で撫でていました。
「何してんの?」
僕はその奇妙な行動に、
特に驚きもせず、
鏡越しに、
ビクトルの深い目の奥に話しかけました。

………、

さて、『溺れる時代』は、
やがて通り魔を起してしまう、
一青年の物語です。
そして、その作品を書くヒントを与えた、
僕の若い頃の
アルバイト遍歴を書いていました。
しかし最近、
少し、話がそれにそれていくように思われる
そんなふうに感じた

読者の方もいらっしゃるでしょう、
でも安心してください、
いずれ全ての話が、
ちょっとづつ歩みよって、
見事に繋がっていきますので。

プロジェクト356日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/30 356日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

30代の後半、
あの弁当製造工場の日々からは、
実に15年あまり年が経っていました。
すでにシェアルームは
とうの昔に解散していました。

順平から電話があります。
「コイちゃんっていただろ、
こないださ、フェイスブックから連絡あってさ、」
「フェイスブック?」
「そ、知り合いかも、でさ、
見つけたんじゃないかな」

それで、
久々飲もうという話になったわけです。

順平はシェアルーム時代のあと、
20代後半で大学に入り
中国史学の道に入り、
一時は新疆あたりの発掘をし、
院を修めます。
同じ研究者同士で結婚をし、
その後なぜかものすごい方向展開をし、
カレー屋を開くと言い出して、
この当時は神保町の有名店で
修行しながら勤めていました。

そして僕は、
相変わらず細々と小説を書きながら、
ある外資系企業の営業をしていました。

一時期、
新宿より西、下北沢あたりに
暮らしていた僕は、
この頃には、
地元である東京の北東部に
戻って来てるのもあり、
順平やサトちゃんとも
また親交が
頻繁にあるようになっていました。

コイちゃんとは、休日の夜、
約束をしました。
サトちゃんは用事があるとかで
来なかったのですが、
僕が赤羽の居酒屋に
予定より先に行き着くと、
すでに順平は座って待っていました。

ビールを頼みます。
グラスに口をつけながら、
僕は、
「カレー屋どうなの?大変?」
「まあ修行だからね、
給料も安いし、そりゃもう」
順平の口調は、
それほど苦にしているようでもありません。

彼は同居していた頃から
調理に興味があって、
家でピザ生地なんか
作ったりしていたくらいです。
元々、史学と料理、
まったく別のモチーフを
頭に抱きつつあったんです。
今、その選択を、
料理の方へと大きく舵取りしたにすぎません。
それなりの覚悟についても、
すでに聞いていました。

「それよかコイちゃん、びっくりしたよ、
突然だもん、連絡あってさ」
順平はそう口にして、
「どんなの?」
僕が言うと、
順平はスマホを取り出して、
コイちゃんのフェイスブックのページを
見せてくれました。
プロフの写真は
小さすぎてよくわからないんですが、
なんだか、若い頃と
あんまり変わっていないように見えます。
「今何してんのかね?」
僕が携帯をかえしながら言うと、
「さあ、それ聞いてないな」

まさか、煎餅屋なんてことはないだろうし、
あの和菓子屋は
今も続いているんだろうか、
僕がそんなことを考えていると、
約束の時間ほとんどちょうどに、
コイちゃんが現れました。

「よお~、ひさしぶり~」
10年ぶりくらいの再会でした。
しかしその声音は、
おっとりとして、
あの頃となにも変わっていません。
口ひげを生やしています。
それが、
ただあの頃の若い顔つきに、
ちょこんと乗せたような
ひげに見えました。

プロジェクト355日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/29 355日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

若い頃は、
友人との会話に、
ほとんど真剣なものなど
ありませんでした。
頭の中では、
常に真剣なことばかり
考えていたというのにです。

面と向かって、
人生についてなんて
語ることもありません。
僕は20歳くらいから7年間、
サトちゃん、順平という
高校時代の同級であり、
ともにバンドをやっていた友人と暮らしていました。

そこには膨大な会話の時間も
あったでしょう、
しかしながら、
思い当たるのは、
たいがい、
その時その時の問題ばかりで、
真剣に将来とか、
近い数年後を
話すことはありませんでした。

それはなぜか?

一つには、照れもあったと思うのです。
若い頃は、
冗談言って、
些細なこと気にしてない感じが、
なんとなく気楽でもありました。

それともう一つ、
真剣に先を見ることが
怖かったんじゃないかと、
それは、
もう10数年経て、
40歳を越えてから思うところです。

考えてみたら、
希望とか、約束された未来なんて
何もないのです。
頭では考えてしまっていました。
この先、どうなってしまうんだろうか、
ただ若いからといって、
無為に過ごしていたら、
なにも見いだせないかもしれない、

本当は膝つきあわせて、
額を寄せて、
何なら酒の力も借りずに、
そんなこと友人と語っても
よかったかもしれないんですが、

言葉にすると、
どうにも具体的に思えて、
落胆がありそうで、
誰も口にしなかったのかもしれません。

だから僕は、
コイちゃんの、
僕にはない環境、
それは、
せんべい工場のせがれだったこととか、
その工場が潰れて、
ただ無為無策で徒労に過ごしていることとか、
少なくとも僕の目には、
恋愛に真剣にならないところとか、

そうしたことが、
多少なりとも気になっていて、
それは、
小説家を志し始めたことと、
少なからず関係を持ちながら、
興味を抱き、

ごくたまには、
うめくように、
彼に、真剣さを垣間見たくて、
刺激をしてみたりしていたようです。

しかし、
結局のところ、
若い頃、
つまり、弁当製造工場で
ともに仕事している時には、
なにも見いだせなかったのです。

彼とは、その後
10年以上、たまに会うくらいの関係が
続いていました。

『溺れる時代』に関連した、
弁当製造工場の話をしていたのですが、
もう少し寄り道をして、
ごく最近、
彼と久々に会ったときの話を、
明日はしてみたいと思います。

 

プロジェクト354日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/28 354日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

海から上がって、
駐車場にいます。

車の近くで、
まだ着替えから出てこない、
彼女とミキちゃんのことを、
コイちゃんと待っていました。


「海っていいよね」
車の停めてあるコンクリートの壁に座って、
コイちゃんはよくあることを口にしました。
「そうだね、最近来てなかった」
僕はなんとなく答えます。
彼は、
「いつ以来?」
「いつ以来だろう」
僕はあまり深く考えず口にしてから、
「それより、どうなの?」
砂浜の先にある
シャワールームの方を遠めに見ました。
まだ、彼女たちは出てきそうもありません。

「どうなのって、なにが?」
とコイちゃん。
僕は、
「ミキちゃんのことだよ、どうかなって」

午後の日差しが照り付けています。
車のボディは熱くなっていて、
黒いメタリックのボディが
強い光を反射していました。

少し間があってから、
彼は、
「無理でしょ~、なんか無理だよ」
「そんなもん?」
僕は、本当はミキちゃんは、
コイちゃんにあんまり興味がないとわかっていて、
それでも、
彼に葉っぱかけるみたいにして、
「かわいいし、性格良さそうじゃん、
結構いいかと思ったよ、」
「いやそりゃそうだけどさ~」
彼の細い目は、
瞳が見えないくらい細くなって、
はにかんだような笑い顔で、
「俺なんて無理無理、
興味ないって、俺に」
そう言ってるコイちゃんは、
なんだかまた、
どこか遠い出来事みたいな物言いでした。

僕はこの時ようやくといっていいのか、
なんだか彼に対して、
軽い怒りを覚えたんです。

「なんだよ、せっかくの機会なのに、
まだわかんないじゃない、」
「いやダメだって、」
「どうして?」
僕は彼ににじりよるようにして言いました。
コイちゃんの表情に、
わずかに困惑した感じが見られて、

「おまたせ~」
背後から声が聞こえます。
彼女たちが服を着替えてやってきました。
「どうする?ファミレス寄る?」
と彼女が言って、
「そうだね、カキ氷食べたい」
僕は答えました。
「デニーズのやつ?」
「そそ、結構濃厚だよイチゴミルク」
僕が笑うと、
彼女も食べたいって言ってました。

コイちゃんとの話は
途絶えてしまいました。
また、僕と彼女が後部座席、
ミキちゃんは助手席になって、
車に乗り込みました。

どんな話してたのか、
もう憶えていませんが、
たいしたこと会話してなかったと思います。

コイちゃんが、
車について語ったりしてた気もします。

僕と彼女は、
新宿かどこかで降ろしてもらって、
ミキちゃんは、
彼に送ってもらったんだと記憶しています。

しかし、
たしかに何もありませんでした。
この2人が付き合うことはなかったんです。

恋愛なんて、
自然発生的に
そこら中で湧き上がっているようで、
人工的には、
中々成就しないもんだと僕は思っていました。

思い出すのは、
コイちゃんに、
ちょっとだけ僕が迫った時の、
はじめて見た、
わずかに当惑した表情です。

 

プロジェクト353日目。

――――――――――――――――――――――――――――
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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あれは、僕が大学に入りなおした
1年目の夏でした。

大学で知り合った女の子と交際していた僕は、
誰が言い出したのか、
コイちゃんも誘って、
彼女とその友達で
出かけようって話になっていました。

コイちゃんの
黒のスープラで出かけるのです。

彼は、伊豆の白浜に
行こうと言いました。
子どもの頃、
家族旅行でよく行った場所で、
日本じゃないみたいに、
海が透き通っていると言っていました。

この日のこと、
あまり良く憶えていませんが、

とにかくコイちゃんが
片手でステアリングを回しながらスープラを走らせ、
紹介した女の子が助手席に座り、
僕と彼女は後部座席にあって、
伊豆までドライブしました。

たしかに海は澄んで綺麗でした。
ただ、砂浜が狭いのもあって、
コイちゃんが穴場だという海岸は、
海水浴客でごった返していました。

僕ら4人は、
隙間を探して、
ビニールシートとパラソルを広げました。
「こんなん持ってんの?」
僕はシートを敷くのを手伝いながら、
コイちゃんに言いました。
彼ははにかみながら、
「家で使ってたやつなんだよ、古いけどさ」

それから、
よくある若者の海遊びです。
僕は彼女を浮き輪に乗せて、
それを掴んで足かきしながら、
ブイの近く、結構沖に近いあたりまで
行ったかと思います。

彼女は浮き輪から手を出しながら、
「あの2人上手くいくといいね」
彼女から、コイちゃんに
女の子を紹介していたのです。
さながら、恋のキューピットなんですが、
僕は、浜辺で、人が多くて
識別もできない彼らの方を見ながら、
そんな出来合いで恋愛は上手くいかない、
なんて思っていました。

「だめかなあ、ミキちゃんね、
おっとりしてる人ビンゴだから、」
「そうなの?」
「コイちゃんおっとりしてるじゃん、
なんかのんびりしてるし、
平和そう」
「…」

たしかに、
彼はいつも平和そうでした。
心に何か秘めていたとしても、
そんなもの、
何一つ見つけることはできませんでした。
ひょっとしたら、
深刻なことなんて
何一つ考えてないのかもしれません。

浜辺に戻ると、
コイちゃんとミキちゃんは、
少し距離をあけ座っていました。
「人多いね、」
僕は耳から水を抜きながら言いました。
少し冷えた足先が、
熱い砂浜に心地よく感じられます。

「お盆すぎるとね、
一気に人いなくなんだよね、
でもクラゲでるからさあ」
コイちゃんは立ち上がりました。
僕はちらっと
ミキちゃんの表情を盗み見しました。
彼女の表情に、
わずかにホッとしたような感じを
読み取った気がしました。

「よく来てたんでしょ、」
僕が言うと、
コイちゃんは、
海岸の方を眺めて、
「毎年ね、毎年お盆すぎ、
家族で来てたんだよ」
カラフルなパラソルや水着が揺れる、
賑やかな砂浜を眺めながら、
僕はふと、
数年前になくなった、
彼の父親のことなんかに
思いがいたっていました。

 

プロジェクト352日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/26 352日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

もう少し話がそれます。
弁当製造工場の話は、
いったんおいておいて、
コイちゃんの後日談に触れます。

数年後、
僕は今一度、
コイちゃんの実家を訪れています。

その時、
僕は大学生になっていました。
小説家になることを、
もっと強く意識し始めていましたので、
何かものを見る目も変わっていました。

どういうシチュエーションで、
ひさびさに彼の家を訪れたのかは
憶えていません。

実はもう、
煎餅工場は無くなっていたんですね、
あとは和菓子屋を
細々とやってるって感じでした。

僕はその前に佇んで、
「すっごい広いね、」
更地になった土面を見ながら、
となりに並んで立っている
コイちゃんに言いました。
「あ、憶えてる?」
「そりゃ憶えてるでしょ、」
と、僕は、
和菓子屋の裏から、
以前は高い壁があったのがそれもなくなっていて、
見晴らしのよい敷地内に
足を運んで行きながら、
「このへんに事務所っぽいとこあって、
そっちが工場でしょ」
「そそ、跡形もなくなっちゃったよね」

彼にとって、
無くなるということは、
一体なにを意味していたんでしょうか、

一度だけ来たことのある僕には、
とうていわかりませんでした。

「お父さんとか、今、和菓子屋だけ?」
「ああ…、」
僕の問いに、
コイちゃんは一瞬声を出して、
ちょっと黙ったあとで、
「去年さ、亡くなっちゃったから、
親父さ、これ見てないんだよね、」
これとは、
更地になった工場の跡地のことです。
僕はそれ以上のこと、
この場では聞きませんでした。

「どうすんの?」
さらに歩を進め、
更地の真ん中あたりまで来て、
僕は言います。
「どうするって?」
「いやだから、ここ…」
「ああ、まだ決まってないみたいだよ、
なんかやるって感じじゃないしね、
売りに出すとか、
母親は考えてるみたいだけど、」
コイちゃんには妹がいました。
妹はまだ学生だったかと思います。
母親とコイちゃんの間には、
今後どうして行くか、
それとなく話し合いはあったようですが、
彼の言い方は、
いつもそうなんですが、
なにか飄々として、
切実な感じが見られませんでした。

「コイちゃんは、煎餅屋復活、
とかなかったの」
なんとなく、
そういうことに僕は興味がありました。
彼はしばらく黙っていて、
それから、
「最初は思ったんだけどね、
でも親父亡くなっちゃったからさあ」
「和菓子は?」
「それはね、じいちゃんばあちゃんもいるし、
続けんじゃないかなあ」

この時、僕は気づきました。
彼の物言いは、
どうにも他人事のようなのです。
まるで自分はその渦中にはいなくて、
ただ傍観しているか、
もしくは、過ぎてしまったことを、
諦めて話しているような、
そんな感じでした。

ちょっと刺激してみたい、
そう思った僕は、
「俺なんてさ、
継ぐような家もなかったから、
ちょっと羨ましかったけどね、
もしそういうのあったら、続けたいとか、
盛り上げてみたいとか思ったかも」
「そんなもんかなあ」
と、返事をしかけたコイちゃんを、
僕はじっと見ました。

彼の真意が見てみたいと思いました。

ところが彼はいつものように、
ただ軽く首を振って、
「まあこれはこれで、
あればあるでさ、大変なんだよ、
大変だったしね」

コイちゃんはこの時、
僕と同い年ですから24歳くらい、
まだ、フリーターをしていて、
将来的なことについては、
何も話すことはありませんでした。

僕は自分が、
大学に通い始め、
かつ小説を強く志している時期だったのもあり、
いつも平静として、
つかみどころのない彼が、
少し不思議でもありました。

 

プロジェクト351日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/25 351日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

最近、煎餅食べてますか?

実は埼玉の新座に、
味○(名前忘れてしまいました)という
老舗のお煎餅屋がありまして、
ここがすこぶる美味しいのです。
セール中には、
店内には人が溢れかえっています。

面白いのは、
ほとんどの製品が
試食が出来るようになっており、
店の入り口で
銀の丸いトレーを配られます。
それをもって、
好きなお煎餅をいれ、
お茶のみ場があり、
自由に試食ができる、
という仕組みになっているんです。

これは普段煎餅なんて口にもしない僕でも、
中々楽しくて、
必要以上に買ったりしていました。

セールはお中元やお歳暮時期とも重なり、
レジは長蛇の列、
駐車場には臨時の警備員が立ち、
車を誘導しています。

これは、
完全な成功例です。
ポイントは、
品質、セールス志向、
そして製品(味)の豊富さであるようです。


ちなみに昨今の煎餅業界事業、
一応下げ止まりにあるようです。
若年層が儀礼的な中元などを
好まないことは打撃だったようですが、
高齢化の増加により
ニーズは高まるところもあるようです。
といっても、
老舗和菓子屋さんが
潰れるなんて話も多々あります。
しかしそれにしても、
単に和菓子を食べなくなったんじゃなく、
どんな業界にもある、
栄華盛衰のひとつかもしれません。


そうした中でのお話です。
僕は、コイちゃんに連れられて、
彼の実家である和菓子屋の裏手、
今は潰れてしまった
煎餅工場に足を運んでいったのです。

時代は2000年初頭、
バブル崩壊後に
分別のつく大人になった僕らの世代は、
この世の中が、
全て傾斜の途中、
斜陽にあるような気がしていたのかもしれません。
おそらくもっと後の世代であれば、
もう色んなことが縮小した世界観があって、
贅沢をあまり意識していないかもしれません。

しかし僕らは、
僕らの上の世代の人たちが、
かなり瀟洒に、
発展建設的な中で
生きていたことを知っていて、
それが、
僕らが大人になったとたんに、
雲行きが怪しくなり、
人口が減少し、
都会に人が集中し、
市場規模は縮小し、
どんな業界も人減らしを考え、
全ては、下り坂の途中にあると、
漠然とした印象を
持っていたのかもしれません。

そうした深層意識で、
煎餅工場の廃墟へと
足を運んだのです。

「昔はさ、
従業員100人くらいいたんじゃないかなあ、
俺が小学生だった頃だけど、
毎日すっごいにぎやかだったから」
コイちゃんの声は澄んでいて、
広い場内によく響きました。
高い天井は、
むき出しの傾斜壁になっていて、
明り取りの窓から、
初冬の柔らかい日差しが漏れています。
なんとなく、
サメザメとした雰囲気でした。

「夏なんかね、煎餅焼くからさ、
すっごいあっついんだよね、
何度くらいだと思う?」
コイちゃんは足元の
よくわからない倒れた器具なんかを越えながら、
僕にちらっと
横顔を向けて言います。
僕が答えないでいると、
「50度くらいになんだよ」
「うそでしょ、そんな…」
「ふふっ、50は言いすぎかも、
でもサウナみたいだったよ、
外が30度でも、
外出たら涼しく感じたくらいだからね」
僕は、すでに停止して久しい、
焼いたりする
その大型機械を見渡しながら、
その熱気を感じることは、
今ではとても難しいな、
と思っていました。

それから、
事務所みたいなところに入っていきました。
床が高くなっていたので、
靴を脱ごうとすると、
「いいよいいよ、
下汚れちゃってるから、」
コイちゃんはそう言いましたが、
僕は、
「いや、でも、」
上床にはじゅうたんが敷かれていました。
しかし、ほこりがたかっています。
僕は結局、
土足のまま上に上がりました。

ちょうど工場の
出窓みたいな位置になっています。
日当たりのいい部屋でした。
書類などは見当たりませんが、
○○品評会銀賞とか、
○○表彰、みたいな賞状や盾が、
昔のまま飾られています。

事務机の上の、
1枚の写真に目が行き、
その埃がかぶった写真たてを手にし、
僕は目が離せずにいました。

それは、
おそらくこの工場の前庭部分か何かで撮影された、
集合写真のようでした。

この工場で働いていた人たちです。

今は1人もいない、
大勢の人たちが、
神妙な顔と、
満面の笑い顔それぞれで写っています。
事務所の広く取られた窓から、
もう一度、
がらんどうとした
工場の方を見渡しました。
ここで暑さに汗かきながら、
玄米をこねまわしたり、
機械をいじって煎餅を焼いていた人は、

もはや、
1人もいないのです。

僕らの世代は、
これを当然のことと
受け止めるきらいがあります。

なぜなら、世は傾いていて、
徐々に縮小し、
不景気はもはや常態として、
慢性的に続いていくと思っているからです。
だから、
一度は隆盛を極めたものが、
こうして朽ち果てていく姿は、
必然なのかもしれない、
そんなふうに、
身体が耐性を持つように
思っているからです。

しかし、
もしかしたらそれを目の当たりにしたのは、
この廃墟の工場が、
はじめてかもしれませんでした。

だから僕は、
手にした写真を
覗き込んできたコイちゃんに、
「ここ、復活したりしないの?」
と口にしていました。
「いいね~、復活したりできたらね」
コイちゃんは
平明な口調でした。
彼はいつもおっとりした話し方で、
少しも感情の糸口は見つかりません。
「でも、煎餅食べる人って
減ってるのかね」
僕は、僕自身がほとんど口にしないことを
踏まえて言いました。
「美味しいんだけどね」
と、コイちゃん。
僕は続けて、
「歯、治さなきゃね、」
「は?」
「そう、虫歯治さないとね、
虫歯ないと、煎餅美味いんでしょ」
僕は静かな笑みとともに
言いました。
「そうだね~」
コイちゃんは、
やっぱり何の感情もわからない口調で、
そう答えました。

 

プロジェクト350日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/6/24 350日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

横道にそれるんですが、

工場で働く
派遣アルバイトの連中について、
少し話してみたいと思います。

彼らとは、
弁当工場をやめた後も、
しばらく交流は続いていていました。
全員浮いたような

フリーター生活を送っていましたが、

結局のところ、
次第に何か就職先を決めて、
それぞれの道へと進んでいきました。

コイちゃんという、
順平ともサトちゃんとも
仲良くしていた仲間がいます。
鯉川なのでコイちゃんです。

見た目はのんびりした感じの、
痩せて、それなりにお洒落していた、
どこにでもいる若者でした。


ひょうきんな雰囲気でしたが、
別に面白いこと言うでもありませんでした。
話している途中で、
声が裏返ったりするのを、
よくみんなで真似して
笑ってるようなとこもありました。

コイちゃんは僕のしばらく後に
仕込み部屋に飛ばされてきたのもあって、
すぐに仲良くなって、
休憩の時は
一緒にいるようになった中の1人でした。

彼はスポーツカーが好きでした。
僕はあまり詳しくないのですが、
少し車高の低い

黒のスープラに乗っていて、
いつも金欠だって言ってるわりに、
結構車にお金をかけていたと思います。
毎晩、そのスープラに乗って、
低いエンジン音をたてて

工場に出勤してくるわけです。


ある時、サトちゃんが
虫歯になって痛がってる時があったんですが、


深夜の休憩室です。
コイちゃんは、

「歯医者行って早く治した方がいいよ、
俺なんてさ、1年も通ったんだから、」
「1年?」
歯医者ってそんなに通うもんなんだ、
僕はちょっと驚いて聞き返します。
「それって、完全に治るってこと?」
サトちゃんは

頬を抑えながら言います。
コイちゃんは
細い目をちょっとだけ見開いて、
「うん、全然違うんだよ、何が変わったって、
せんべい食べれるからね」
「せんべい…」
順平が半笑いになりながら言います。
コイちゃんは大きく何度も頷いて、
「完治した後ね、せんべい食べたら、
どこでも食べれんだよ、」
どこでも、というのは、
歯のどこでもってことです。
「ばりばりって、全然気にしなくていいから」
何だか彼は、
とても嬉しそうな顔して、
歯がいいと、どれだけ快適かを、
苦しそうにしているサトちゃんに話していました。

当時虫歯がなかった僕にとっては、
その実感はよくわからなかったんですが、
今でも、彼が歯医者について
熱弁を奮っていたのを、なぜかはっきりと憶えています。

ちなみにサトちゃんは、
それからしばらくして
歯医者にせっせと通っていました。
治った後は、同じようなこと話してました。

この話の前後は不明ですが、
僕はどんな用事だったのか、
実はコイちゃんの実家に行ったことがありました。

たぶん、仕事帰りの朝のことです。

バイクを一度家に乗って帰り、

彼のスープラの助手席に乗って向いました。
 

翌日(その日の晩ってことです)が休日で、
どこかに遊びに行く約束でも

していたのかもしれません。

コイちゃんの実家は、
工場のある川口からほど近い、
草加の和菓子屋でした。
いや、元は煎餅工場だったようです。
彼はそこで生まれ育ち、
そのせいか、
弁当工場のラインなんかも抵抗がなかったかもしれないし、
ライン生産のマニアックな話を、
たまにしていました。

「ちょっと寄ってく?」
車を駐車場に停めてから、
コイちゃんが言います。
道路を挟んで、正面に、

古びた和菓子屋がありました。
小奇麗な流行ってる風なお店じゃありません。
近所の人くらいしか買いにこなそうな、
小さな店構えしていました。

僕がその前に立って、

中をのぞいていると、
「流行んないよな、
なんかヒット商品でも出せりゃいいんだろうけどね、」
コイちゃんは僕に並ぶと、
そんなこと口にしていました。
「ヒット商品?お菓子の?」
「そうだよ、菓子ってさ、

ヒットするとすっげえロングランになるからね、

その店目当てに町に人が来るみたいになると、

すっごい儲かる」

「そんなもんなんだ」

若かった頃の僕には、

そういう商業向けな内容はよくわかっていませんでした。

コイちゃんは続けて、

「俺ちっちゃい頃はさ、
うち煎餅工場やってたんだよね、
高校くらいん時、おやじが工場潰してさ、
ほそぼそやってた和菓子だけに
切り替えたんだけど」

和菓子屋の四角張った建物の背後に、
トタン屋根の背の高い壁が見えています。
奥が、工場になっていたんでしょう。

「じゃあもう、煎餅とか作ってないんだ」
僕が言うと、
「覗いてみる?すっげえ汚いけど」
「工場?」
「そ、煎餅作ってたとこ」
「いいの?」
僕は好奇心にかりたてられていました。

それで、2人して店の裏手にまわり、
高い壁に切ってある扉を開け、
裏庭のようなところに入っていきます。

工場のシャッターが見えます。
乾いた、
こびりついたような醤油の香りがしていました。
「まだやってんの?」

匂いにつられて、僕は言ったんです。

コイちゃんは、

「はははっ」

と乾いた声で笑うと、
「もう閉めてだいぶ経つから、
俺も中入んのちょーひさびさだよ」
彼はそう言いながら、
シャッターを開け、
暗がりになった中へと、
さっさと入っていきました。

プロジェクト349日目。

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