話は少し前に戻ります。
そもそも、ヘモグロビンパスタが
きっかけだったわけです。

コイちゃんとサトちゃんと、
もう工場をやめて数年経ってから
久しぶりに飲んでいたときのことですね。

コイちゃんが口ひげをたくわえていて、
それを見て、
彼がまだ
ヘモグロビンパスタを続けていた、
そう話したことにより、
昨日までの話に繋がっていたのです。

コイちゃんはたしかに濃い黒々とした
ヒゲを生やしていました。
少し幼い感じの
ひょうきんな顔つきなので、
まあ、お世辞にも似合ってるとは
言い難いんですが、、、

「それで、今でも塗ってたってわけ?」
僕は彼の口元を眺めて言います。
コイちゃんは
へらへら笑いながら、
「そうだよ~、最近までね、
すっごい生えてきて、」

前にも触れましたが、
それは単に
彼の成長の過程であったかもしれないし、
結局のところ、
薬の効果なんてわからないのです。

僕は首を傾げました。
自分もそれなりに生えてきていましたが、
コイちゃんのは、
まるでマジックで描いたような濃さです。
数年前は、
彼は毛穴も見つけられないくらい、
つるっとしていたのにです。

「でもさ、ヒゲなんていいかなあ」
そう水を差したのは、サトちゃんでした。
ちなみにサトちゃんは、
ヒゲを一本一本
毛抜きで抜くようなタイプです。
「え~、男らしいじゃん」
と、すぐにコイちゃん。
僕も大きく頷きながら、
「なんていうか、男にしかないじゃん、」
と言いながらも、
僕はふと、
昔読んだフランスの小説
(たしかゾラの『居酒屋』)で、
あの女はヒゲも剃らない、
という男のセリフを思い出していました。
女性がヒゲを生やしているところは、
中々想像できませんが、
まあ欧米人なら、
濃い産毛が密生してたりするんだろうか、
そんなふうに考えたものです。

まあ、そんな遠くの世界はさておき、
「俺はさ、ヒゲが生えてきた時に、
俺は男だ、
ってつくづく思ったんだよなあ」
少し酔った僕は、
軽い口調で口にします。
「そんなもんかなあ」
サトちゃんは、心の底から
そう思ってないみたいです。
僕は少し反論する気になって、
「俺さ、姉貴と妹の中で育ったからかな、
なんかヒゲが生えたときに、
これで彼女たちとは違う、
男っていいなって思ったから」

サトちゃんは、
やっぱりあんまり賛成できなそうな顔していました。

コイちゃんは、
同感って表情をしながら、
「彼女もさ、ヒゲある方がかっこいいって」
「彼女?」
とサトちゃん。
僕も続けて、
「彼女できたんだ…」
ともに弁当製造工場でバイトしていた頃、
女の子を連れて海に行ったのも一度きり、
ほかにはついぞ
女性の話なんて
聞いたことありませんでした。

コイちゃんはにんまりすると、
「もう1年くらい付き合ってんだ、
その子が、最初はヒゲなかったけど、
ちょっと生やしてみたら、いいって、
だんぜんかっこいいって」
「どんな子?」
僕は前のめりになって、
彼に聞いていました。

 

プロジェクト378日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/7/21 378日目</strong></span>
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■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

ピラールは、
野田をいい人って

言ってましたが、
僕は、彼女はただ表面しか
見えていないだけだって思いました。
恋愛が絡んでいることが、
またなんとも、
嫌悪を感じたものです。

だから僕は、
苦い顔をして彼女を見返すと、
それきり、
ピラールが仕事をしている洗い場を

後にしました。


ピラールは目鼻立ちの綺麗な女性でした。
彼女のことを思い出すと、
カミュの『異邦人』とか、
メリメの『カルメン』を連想するのです。
彼女は、
スペインのジプシーではないですが、
野生的な顔つきは、

自由奔放で、
モラルの曖昧さの中に生きる女を
想像させるのです。
しかしながら、
実際のピラールは、
そこが東京郊外の

弁当工場だったからだけじゃなく、
真摯で貞淑で、
1人の男に一途な女性でした。

彼女たちやビクトル、

その妹弟たちが、
その後どうなったのかはわかりません。
実のところ、
僕は彼らの活動といわれる団体に
ひどく興味を持ちながらも、
一度食卓を囲んだ以上の接触を
することはありませんでした。

あれから20年余り、
日本の労働環境も
多少は変わりました。


今では、

労働者の減少が問題となっており、
彼らが望む仕事や、
恵まれた環境もあるのかもしれません。
そもそも、定住したのか、
それとも母国に帰ったのかも知りません。

20年前の日本でのペルー人の人口は、
今でもそれほど変わっていません。

最近、
ベトナムからの就労者が、
30万人を越えるというニュースを
目にしたことがあります。
多くは若者で、
共同生活をしながら、
劣悪な環境下にあるという報道を見ますと、
当時の日系ペルー人や、
中国人たちと、
ともに働いていた弁当製造工場のことを
思い出したりもします。


彼らと接触していた時期から、
1ヶ月くらいだったか、
僕は、別にこうした一連のことが
理由ではなかったと思うのですが、
順平が別のバイトを始めたのにつられて、
弁当製造工場の仕事をやめました。
ちなみにサトちゃんは、
警備員の時と同じで、
まだ続けると言っていたので、
僕らは止めもしませんでした。

『溺れる時代』では、
この弁当製造工場の話を

かなり細かく書いています。
いずれ通り魔事件を起こす青年が、
世の中への鬱屈とした気持ちを抱きながら、
外国人たちと触れ合っていきます。

 

プロジェクト377日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/7/20 377日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

20歳を少し過ぎた頃から、
大学への入学を果たすまで、
僕はフリーターとして、
軽い職を転々としながら、
友人らと暮らしていました。

今思えば、
結果的には、この時期に、
作家になることを

自分の目標としたわけで、
それはそれで、
人生の大きな分岐にいたと
言えるのかもしれません。
しかしながら、
それは内面的な葛藤からの成果であり、
例えば日常的な読書の習慣化や、
知見を高めるための意識に
変化をもたらしたものの、
表面的な生活には、
何の劇的な変化も

あったわけでもありません。

単調でした。
それを象徴するような、
弁当製造工場での深夜アルバイトでした。


僕らは新居に引っ越しをして、
それぞれの単車を並べ、
部屋は1Fでしたから
庭のようなスペースがあり、
そこにバイクの部品や
ジャッキなんかが並べられています。
部屋には、バンドをやめた後も続けていた、
それぞれのギターやベースが置かれています。

僕らはその部屋で暮らしながら、
まるで家族のように、
「今日の飯どうする?」
みたいな会話をしながら、
数年を過ごしていくことになります。

そのまだ前半期の、
弁当工場での話が続きます。

僕は野田とああいうことがあった後も、
まだ弁当工場での仕事を、

淡々と続けていました。
お金を返したもらうことは

出来ていませんでした。

もはや諦めていたのもありました。

そんな時です。
何分古い話で、
どういう経緯でそうなったのか、
どうも憶えてないんですが、
僕は、野田の彼女と目される、

ピラールと話すことがありました。


彼女は仕込み部屋の奥で、

主に油汚れしたトレーや番重などを

ひたすら洗う仕事を担当していました。


僕はたまたま使用したトレーを

いくつか持って、

彼女のいる洗い場に行って、

それでマスク越しの顔に、

ピラールを見つけたのです。


「アリガト」

彼女は僕から

トレーを受け取ると答えました。

すぐに作業に戻って、

水道水の流れに、

トレーをかざしています。

僕は彼女の、

鋭角で彫りの深い横顔を

少し見つめてから、

「野田さんと仲いいの?」

そう聞いていました。

少しの間、

ピラールは何も答えず、

作業を続けています。

僕は続けて、

「ほらこないだ、駅前でさ、

一緒にいたから」

そこまで口にすると、

ようやく彼女はこっちを向いて、

「そうですね、仲よしです」

と答えました。

「付き合ってるとか」

僕がそこまで言いかけると、

「買い物、ネ、

付き合ってもらったんです」

「ふーん」

僕はそう言うと、

あたりをちらっと見渡しました。

あまり人に聞かれちゃ、

まずいと思ったからです。

また彼女を見て、

「でもあの人、

気をつけた方がいいよ、

俺なんて、お金騙されて、

取られてるから」

「ダマされて…」

作業の手を止めたピラールは、

大きな瞳をさらに見開いて、

少し驚いているようでした。

僕は頷くと、

「そ、お金をね、

騙したりして、取られたから」

「お金?」

「うん。悪いこと、日本じゃ、

悪い人だから」

僕はそこまで話して、

彼女に背中を向け、

その場を離れました。

ピラールは軽く僕に走り寄ると、

「野田さん、悪い人、

じゃないでしょ、

悪い人、じゃない。

とてもイイ人でしょ」

僕はもう一度彼女に振り返ると、

眉間に皺を寄せて見せました。

 

プロジェクト376日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/7/19 376日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

サトちゃんと順平の会話が、

夢の中に滲んでいたのか、

それとも実際に見ていたのか、

ちょっと古い話でもあり、

そこんところの記憶は曖昧です。

 

とにかく僕は、

野田とペルー人女性ピラールが、

ある休日、

川口の駅前、繁華な商店街を、

仲良く歩いているのを見ているようです。

野田は色黒で肩幅が広く、

もっさりした体系をしています。

普段は見慣れない、ぴちぴちのTシャツを着て、

ほっそりとした異国人と歩いているわけです。

 

彼らは僕とバッタリ会うと、

最初は驚いていたようですが、

すぐに、野田特有の、

ニヤリとした顔を返してきて、

「おー、どうした?」

なぜかこっちが怯んで、

「いや、買い物です…」

「そっか、今日休みだもんな」

夜からの仕事が休みの日でした。

 

野田は彼女から離れると、

向かい合っていた僕に近づき、

顔を寄せると、

「お前言うなよ」

「え、何をですか?」

僕は、

正面に佇むピラールを見ました。

細っそりとしたスタイル、

工場では見たことのない、

丈長の水色のワンピースを着ていました。


彼が、弁当工場で働く日系ペルー人の女性と、

交際していることだけがわかりました。

「ほんと言うなよ」

彼は念をおすように、

相変わらずニヤリとした表情のまま言います。

そうであれば、

そもそもこんな人の多い街中を、

2人ど歩かなけきゃいいのに、

そう思っていました。

 

それから、

やはり何度か、

工場の中でも、

2人が控え室から出てくるのを見ました。

 

野田とピラールの繋がり、

それからビクトル妹弟との関係、

僕はまだ弁当製造工場で仕事をし、

お金を貯めつつ、

これからの自分の人生と、

異国から来た彼らの境遇を

重ね合わせていました。

 

プロジェクト375日目。

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

彼女の名は、

ピラールと言いました。
聞いたわけじゃなくて、
割烹着にのお腹のあたりにマジックで、
そのままカタカナで、
ピラールと書かれていたからです。

野田はピラールと部屋を出て行ったきりです。
戻ってきそうもないので、
僕は数分して、
中途半端な話をしたまま部屋を出ました。


それで、
家に帰った午前中のことです。
シェアルームに戻って、
サトちゃんと順平と雑談していました。
いつもこうで、
徐々にまどろんできて、
僕らは夕方まで眠るのです。

その日も、
僕らはすでに寝そべったりしながら、
だらだらと話をしていました。

2人は、

僕の最近の不穏な行動を心配しているのです。
サトちゃんは、
「野田になんか言ってたけど、大丈夫?」
「うん、まあ」
僕は仰向けに寝っころがっていて、
まぶたが重くなっています。
「なんか喧嘩?」
と、またサトちゃん。
僕は、
「ふふっ」
と笑って、
「そんなんじゃないよ、喧嘩とかじゃ、
ただ、金取り戻したいじゃん」
すると、
まだ座椅子に座って

雑誌を読んでいた順平が、
「金って、あの変な効果ない薬の?
ぼったくられたとか言ってたやつ?」
「そうだよ」
「あいつなの?」

「まあ、そんなとこだね」

「ビクトルじゃないんだ?野田黒幕?」

「なんか活動資金とかって」

「それなんかヤバイやつじゃん、

あんま首突っ込まない方がいいって」

「わかってるー」

僕はかろうじて答えますが、

ダメだ、もう寝に落ちそうです。

サトちゃんが、

「そういえば野田さんって、

ペルー人の女の子と出来てるって聞いたよ」

「なんだそれー、

ますますヤバイな」

順平が答えています。

僕はもう、夢の途中にあって、

遠のく彼らの声を

ぼんやり聞いていました。


夢を見ました。

野田と、あの控え室で対峙しています。

僕が金返せってさかんに言いよっています。

すると朝に見たペルー人、ピラールが、

走り出てきて、

野田の背後につくと、

彼は全然悪くないとか、

なんか弁護しています。


そういう、夢を見ていました。

 

プロジェクト374日目。

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

工場の控室で、
野田と1対1で対峙した状況です。

ゆっくりと野太い野田の声が、
僕の気持ちを萎えさせます。
それでも、
僕は渇いた唇に舌を這わせ、
深く呼吸をすると、
「じゃあ一体、誰が悪いんですかね、
誰がお金を着服してるってことですか?」
「着服じゃねえだろ!」
彼は怒鳴りながら、
また机のへりを靴で蹴りました。
ガコンという大きな音がしました。
もう引き下がれないので、
僕は前のめりになると、
「じゃあ何なんですかね、
差額の1500円は?」
「買ってきてやったろうが、
駄賃だろうが、」
「駄賃にしては
ちょっと高くないですかね?」
僕もだんだん興奮してきています。
「あ?だいたいよ、
お前が騙されたのが悪いんだろ?」
「…」
そんな理屈あるんだろうか、、

野田は矢継ぎ早に、
「ペルー人の口車に簡単に乗って、
だいたいあんな薬、
そんなするわけねえじゃねえかよ」
「そんな…、それって詐欺じゃ」
「詐欺?なんでだよ、」

その時でした。
僕は背後、廊下への出口のあたりに、
人がいることに気づきました。
さっと振り向きます。
扉は開いていました。
なんだか、
ずっとそこにいたみたいです。

白い割烹着を着た、
日系ペルー人の女性でした。
はじめて見るような顔です。
いや本当は、
職場では面識が

あったのかもしれませんが、
マスクを外したところは知りません。
スラッとして、とがった鼻の、
彫りの深い、

浅黒い顔つきをしていました。

彼女は呆然とたたずみ、
僕というより、
野田の方を

じっと見つめていました。

野田もそれに気づいて、
はたと声を落とすと、
「どうした?」
びっくりするくらい豹変した、
優しい口調でした。

僕はそれに驚き、
野田とその女性を交互に見ました。

「まだ終わらないから、」
野田は言います。
女は、
「すごく、、物音したから」
「大丈夫だ、物落っことしただけだから、」
野田は言うと、立ち上がり、
ドアの方、彼女の前に行って、
「ごめんな、」
とか何とか言いながら、
あとは僕に聞き取れず、
そのまま2人して

外に出て行ってしまいました。

何だったんでしょうか、、、
ますます分からない状況です。
ヘモグロビンパスタに始まった、
僕と彼らの交流は、
さらに深みに入り込んでいきそうです。

 

プロジェクト373日目。

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

野田と再び会話する機会を得ました。
彼はあの日以来、
僕をなにかと警戒していたみたいで、
話をしかけると、
すぐに、最初に話し合いをした
控え室で待っているから、
今日の業務が終わったら来い、
そう言っていました。

狭くて、
やたら家具が窮屈に思える控え室です。
仕事を終えて私服に着替えると、
僕はその部屋へ入っていきました。

すでに野田はふんぞり返って、
タバコを吸いながら待っていました。

僕はその向かいに座りました。

野田は、
僕がなにか言う前にいきなり、
「お前さ、
あんまあいつらに深入りすんなよ」
そう口にしました。
彼はさらに背中をそらせて、
「あいつらに何言われたんだ?
だいたい知らねえんだろうが、
ペルー人はすっげえ嘘つきだぞ、
ちっさなことから、大事なことまで、
本とのことなんてひとつもねえからな」
「嘘…、なんですかね、」
僕が少し怯んで答えると、
「お前、あいつらに何言われた?」
ぎろっとした目で見られています。
僕は一呼吸おくと、
「日系ペルー人の、
なんか活動組織があって、
それのリーダーだって、野田さんが、、
だから、あの薬に件も、
野田さんに言われたって」
そこまで言い切ると、
野田は目をそらし、
しばらく黙っていました。

僕はたまらなくなって、
「だから、金返してもらうんなら、
やっぱ野田さんなのかなって、俺思いまして、」
「で?」
「いや、」

だめだ、
このままじゃラチがあかない、
僕は立ち上がると、

「金返してもらえますか?ぼったくりなんで、」
そう言い切りました。
3つの呼吸くらいの沈黙、
その後、
野田はいきなり机を音を立てて、
靴で蹴ると、
「何言ってんだお前?」

とうとう、怒らせてしまいました。
しかし、彼が取り乱すということは、
やはりビクトルたちの言い分が
正しいってことなのでしょう、

僕は、怯んだとは思われたくなくて、
ひどく落ち着いた口調になると、
「返せないんですかね?
野田さんが言うところの、
はした金だと思うんですけど」

野田は、
ゆっくりと立ち上がりました。

彼のはれぼったい唇が、
震えているように見えたのは、
僕の見間違いでしょうか、
少し黙っていて、
彼は、
「お前、本気で言ってんのか?」

さすがに怖さを感じました。
僕は性質上、
相手が怒りをあらわにしてくれた方が、
自分もいきり立って、
単純明快でよいのかもしれません。
この時は、
なにか得たいの知れないところに
首を突っ込んでしまったんじゃないかと、
怯えずにはいられませんでした。

 

プロジェクト372日目。

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

朝からビクトルたちの家に招かれ、
どんなものを食べたのかは
よく憶えていません。
別にペルーの料理とか
そういうのじゃなく、
レトルトなどを暖めた
普通の食事だった気がします。

僕はビクトル、

その妹のベス、そして弟の4人で
せまい居間に座って食卓を囲みました。

「野田さんがね、
クスリとか販売すれば、
活動資金をね、
いっぱい貯められるって言ったから」
ビクトルではなく、
そう話を切り出しのは、
僕と同い年くらい、
20歳くらいに見えるベスでした。
「その活動資金っていうのが、わからなくて」
僕は手に持っていた
底の浅い器をおろすと、
首を傾げました。
「僕らペルー人だから、

こっちでね、こっち、
日本で生活大変だから、
そういうのよくする仲間ある」
ビクトルが答えました。

彼らの説明はこんな感じです。

日本に来日した当初、
紹介されたのが、
今の仲介業者で、
それは、僕らと同じ派遣会社だったわけです。
住まいなどを
保証人などもしてもらい、
すぐに職に就くことができたのも、
すべて今の会社のおかげだと言っていました。
そこで配属されたのが、
この弁当製造工場だったわけで、
そこのリーダーだったのが野田です。

「最初ここ着た頃ね、
工場、給料少なかったでしょ、」
ビクトルは食事をすでに終え、
テーブルに手を組んで乗せると、
そう口にして、
「でも、野田さんが、頼んでくれたよ、
工場にネゴシエーションしてくれたんだよ
日本人と同じくらい、給料出してくれって」
彼の日本語は、
時折意味がわからないのですが、
それでもなんとか、
僕はことの詳細を理解していたと思います。
少し考えて、
「いくらもらってるの?」
ビクトルは妹たちと、
一瞬目を交わしながら、
それでも、
日給の金額を教えてくれました。
僕はそれを聞いて、
多少の戸惑いを感じました。

なぜならそれは、
僕ら日本人のアルバイトがもらう金額よりも、
3000円ほど少なかったからです。
彼らにそれを口にせず、
「そうなんだ…、」
僕はただそう答えました。

もし仮に、
本当に給料が上がっていたとしたら、
その3000円は
どこに行ってしまったんだろう、
まさか、あの野田がね、
それに、
今の金額でも上がったとして、
野田が彼らに、
日本人と同額だって
嘘ついてることだって
あるかもしれません。

どっちにしても、
やっぱり、あの野田の存在は、
なんとなく胡散臭いものでした。

ビクトルは続けて、
「これからもね、ペルから来るよ、
だから、ペル人会作って、活動する、
そのためにお金必要だし、
それ、野田さん集めてるから」

みなさんは、
時折駅前などで、
ペルーの楽隊が、
コンドルは飛んでいくなどを演奏しているのを
聞いたことはありませんか?
かなりスキルの高い楽曲なんですが、
あれも、CD製作などの費用は、
資金から捻出されているとのことでした。

ただ、僕は、
ちょっと厳しい口調になって、
「いくらみんなのためだからってさ、
400円くらいのクスリを、

2000円で売っちゃだめだよ、」
ビクトルは、
「でも、でも野田さんそれでやれって、」
僕は彼の弁解のような言葉をさえぎり、
「犯罪だよ、日本じゃ、

そういうの犯罪になる」
そこまで口にすると、
3人のペルー人は、
目を見開き、驚いた顔をしてみせました。

どうしたもんだろうか、
僕に出来ることはなんだろうか、

何度も書いていますが、
この当時の僕は、
20歳そこそこの、何の身分の保証もない、
しがないフリーターだったわけです。

このまま、なにもしないってことだって、
ありだったでしょう。
しかしながら、
僕は、彼らの生活に
少なからずさざなみを起すような行動に、
移っていくことになります。

プロジェクト371日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/7/15 371日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

読者の方々は、
南米のペルーについて、
どのような考えをお持ちでしょうか?
僕が当時知っていたのは、
あのマチュピチュ遺跡と
ナスカの地上絵くらいのものです。

そこで今日は少し、
彼らのお国柄や
そのバックグラウンドについてお話します。

まず、彼らの特徴として、
ラテン系のテンションの高い明るさがあります。
ジョークを言って、
爆発するように笑い出したり、
肩を叩き合ったり、
そういうのはよく見られます。
しかし、時折、
そのテンションの奥に、
どこか底深いというか、
ただ短絡的に明るい、
というのとは違い、
何か一物をはらんでいるような部分も見られました。
それは僕が彼らの母国語を解していないのと、
彼らが、異国人である僕に
接していたためかもしれませんが。

また、非常に人の絆を
大事にするところがあります。
とにかく友人などをかばうことに、
自己犠牲をいといません。
そのせいか、
本音を言い合うことが多いのか、
ぶつかり合って
喧嘩をすることもよくあるみたいです。

それから、
これは徐々にわかることなんですが、
なぜか、よく嘘をつきます。
しかも、たいがい、
何の影響もない、どうでもいい嘘です。
冗談との境がない感じで、
ジョークだったはずが、
本気っぽいことを言い出して、
結局は嘘だったってことかと思います。

そんな彼らのほとんどは、
明治時代以降に移住していった
日本人を先祖に持つ、
3世4世の混血世代になります。
日本語能力は、
少なくとも日本に来るまでは全くなく、
言語はスペイン語です。

日本では、
1990年の入管法改正を機会にして、
現在では、
約10万人の日系ペルー人が
多くは労働者として、
この国に定住したとされています。
その一方で、
法務省の2016年統計によれば、
その数は4万7740人とされていて、
6万人の誤差があります。

偽造書類で日本国籍を取得された人間が
多かったのか、
たくさんの偽装日系人が、入国し、
現在でもそういった人たちがいるようです。
また、在留特別許可という手続によって、
正規のビザを取得した場合や
日系人が非日系人と婚姻していることや
日本で出生した子どもたち(年平均500人という)も
含まれているそうです。

今でこそ日本の急激な労働人口の減少により、
海外からの移入が
受け入れやすくなりつつなっているわけですが、

僕が彼らに接していた、
今から10数年前は、
まだまだ国内では、
絶対に必要な労働者ではありませんでした。
そのため、
境遇ももっと劣悪で、
暮らしていくことも大変だったでしょう。
そんな彼らは、
日本に来る理由としては、
生活が貧しかったから、
ということ以外に、
逆に小さな成功をして、
テロに狙われた、
または狙われる危険性が高いために、
というのがあります。

ビクトルたちは後者でした。
そして、
出稼ぎから定住へ、
そして永住をするかという、
過渡期にありました。

彼らはこうした状況の中にいたのです。
日本人の中には、
彼らにつけこむように、
金銭と労働力を搾取した人々も、
残念ながらいましたし、
それは近年でもかわっていません。

僕はビクトルとの会話の中で、
徐々に彼らの境遇がわかり、
やがて、野田の存在が、
煙たく思えてくるのです。

 

プロジェクト370日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/7/14 370日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html
 

僕は工場での終業後、
バイクをおいて、
サトちゃんたちと別れると、
あまり行くことのない、
工場の正門前に向かいました。

バイクの停めてある駐輪場は、
工場の裏側にあって、
僕らはいつも

裏門から行き来していたからです。

正門前には、
さっきまで一緒に働いていた
ペルーの人たちがいました。
20人とか、30人、

そのくらいの人数です。

僕は彼らを、

何か珍しいものを見るように
見つめていました。
いつも白衣を着て、
マスクに白い帽子を被って接していたのです。
彼らが私服を着て、
街のどこにでもいるような格好でいるのは、
見慣れないものでした。

服装からすると、
一昔前のようなファッションです。
年齢層は幅広く、
20代からその親の世代までいました。

その中にビクトルはあって、
軽く手を上げました。
僕が近づいていくと、
まるでよそ者が来たという感じで、
みなの会話がとまり、

一斉に僕を見ています。
「みんなで帰るんだね」
僕は挨拶のように言いました。
「バス乗るよ、バス。そこから」
彼は工場の敷地から出た

ハス向かいを指差しました。
バス停の標識があります。

それで僕は、
彼らにぞろぞろ着いて行って、
10分ほど待って、

バスに乗り込んだのです。
がらがらだったバスは、
あっという間に、
押されるほど満員になりました。
つり革に掴まり、

ビクトルと並んでいます。
「20分くらいね、乗るからバス」
そう言われて、
遠いな、結構、
僕はそう思いながら、
スペイン語が飛び交う車内を見渡しました。
「ご飯食べてって」
ビクトルは少し照れくさそうに口にしました。
僕を取り入るとか、そういう風ではなく、
ただ、親しみを感じるものでした。

こうして、僕は彼らが住む一帯へ
初めて足を運んだのです。
だいぶ市のはずれで、隣町との境、
住宅地がつきようとする周辺でした。
2階建てのわりときれいなアパートで、
その1階に、ビクトルは暮らしていました。

玄関を開けるとすぐに小さな台所とリビング、
奥に2部屋、
ビクトルはここに、
ともにペルーから渡ってきた妹、弟と、
3人で暮らしていました。

部屋に招き入れられると、
べスと言われていた妹が、
少しはにかんだ顔して挨拶をしていました。
べスとビクトルは全然似ていなくて、
日本でもいそうな顔つきをした、
向こうの人にしては
めずらしいほど白い肌をしていました。

居間には四角いちゃぶ台があって、
向かいに座っています。
ビクトルは、
「ほら、べスはいつも番重持ってくるでしょ」
そう言われて、僕はまたビクトルの妹を見ます。
たしかに、仕込み部屋では、
から揚げなどを並べていくトレーがあって、
いっぱいになると交換してくれる係がいました。
マスクと帽子の隙間からのぞく、
大きな、愛嬌のある瞳を思い出して、
僕は、
「ああ、わかったわかった、」
仕事をしている時は、
なんの思いもわきませんでしたが、
こうして平静に会うと、
どこにでもいる同年代の女性に見えました。

僕はこうして、
彼らの生活を垣間見ることになったのです。

 

プロジェクト369日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/7/13 369日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html