世の中には気絶症というのがあって、
時折気を失って、
何事もなかったように
意識を回復するという症状があります。

平治は、
あの事故から復帰してから、
よく意識を失うようになりました。

それは、
たいがい座っていて、
リラックスしている時なので、
立っている時に突如倒れて
2次的な怪我をするようなことは
ありませんでした。

それで、仕事も復帰はせず、
彼は家にばかりいるようになりました。
団地の6号棟です。
その1階に、
彼と両親はずっと暮らしていて、
平治は時折、
近くの河原に散歩に行く以外は、
ほとんど外に出ることもなくなったのです。

彼はよく眠りにつくように、
日当たりのいい窓際の自室で、
あぐらをかいたまま気を失っていました。
そういう時、
首を不自然に折り曲げ、うなだれています。
父も母も最初は驚いて、
彼を揺り起こしたりするのですが、
そのうち慣れてしまって、
いつものように気を失っているだけだと、
声をかけることもなくなりました。

ある時、
あんまりにも気を失っている時間が長くて、
母は心配になり、
彼を揺り起こそうとしました。
「へいじ、へいじ…」
彼はそれでパチリと目を開きました。
ベッドのへりによりかかって、
座っていたのです。
母はしゃがんで顔を近づけると、
「大丈夫かい?」
「ああ…、」
「お昼はどうする?」
平治は、それには答えず、
窓の方をじっと見つめると、
「夢見てたんだ、すんげえ長い、」
「そうなんだ」
母親は興味もなく答えます。
平治は続けて、
「俺が大人になってた、大きくなってて、」
「もう大人だよあなたは…、」
平治はそれで、
あらためて自分の手足を
見つめてみます。
たしかに、大人には違いないのです。
「今はそうだけど、夢の中じゃ違かったんだ、
ちっさな子どもの頃で、
背も低くって、ランドセルしょってたから」
母は少し興を催したのか、
その場にぺたりと座り込んで、
「あなたは子供の頃からおっきかったから」
それで、平治ははにかむように笑って、
「そりゃそうだったけど、
今よりはずっと小さかったから」
そう話し始めました。

 

プロジェクト418日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/31 418日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
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■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

平治は、
どちらかというおっとりして、
落ち着いた性格の子供でした。

小さい頃から優等生で、
はっきりした意見を言ったり、
率先したりするタイプじゃなかったんですが、
人柄と利発さで、
学級委員などのリーダーをやっていたようです。

そんな彼は、
大学には行かず、
肉体的な労働をしていました。

人に転機があるとすれば、
こういうタイミングなんでしょう、
実際には、
頭を鉄片にぶつけた時じゃなくて、
意識を回復して、
母に手を強く握られた時です。

平治は自分の弱い手に、
強い電流を感じました。
抵抗しようとしたのです。
だから、ベッドの中から、
母の手を払いのけようとしました。
母には、
その抵抗はわからなかったと思います。

しかし平治は、
何か、全ての物事に対する抵抗を、
自らの腕にこめていました、
というような、気分でした。

彼は布団の中から、
母と父の様子を見上げていました。
睨んでいました。

最初は意識を回復した息子に喜んでいた2人の顔が、
徐々に青ざめていきます。

平治は、憎悪の顔して、
2人を見ていました。
両親にとって、
それは20数年間で、
一度も見たことのない息子の顔でした。

「おい、どうした平治、」
父はたまらず声をかけます。
彼は何も答えず、
また目を閉じました。

目の奥に、
ぐるぐるとまわるものが
ずっと広がっています。
それはスローモーションのようでもあったし、
急に速くなったり、
逆にまわりはじめたりしていました。

彼は、
それを見つめる、
いや正確には、閉じた瞼のそれを感じながら、
自分の人生が、
いったいどういうものなのかを、
じっと考えていました。
 
プロジェクト417日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/30 417日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

昼過ぎの仕事中でした。
ヘイちゃんの勤める板金屋には、
他にも5人くらいの従業員がいて、
それぞれ仕分けや
荷下ろしなんかをしていたんです。

「あぶねえ!」
ちょうどトラックの荷台に載って、
工具を下ろしていた
作業員が叫びました。
とっさに近くにいたヘイちゃんは
振り返ろうとします。
そして、
その場に後頭部を抑えて倒れこみました。
重量200キロはあろうかという金具の束が、
荷台から滑り落ちたのです。
薄い段ボールでくるまれてはいましたが、
その衝撃は相当のものでした。

「おい!」
「大丈夫か?」

同僚たちの声が、
ヘイちゃんの頭から
徐々に遠のいていきました。

・・・・・・・・・

気づいた時、彼は呻きながら、
病院のベッドに寝ていました。
目の前には、ぼんやりと、、
禿げ上がった頭の父と、
ふっくらした母の頬のあたりが
見えてきました。
「平治、平治…」
2人は何度も自分の名を呼んでいました。
彼は、口元がすうすうして、
よだれが垂れているのに気づいて、
ふとんの中から手を取り出すと、
口元を拭こうとしました。

「わかるかい?平治、」
しかしその手は、
母の両手に掴まれました。
母親は彼の手を懸命に握り、
さかんに声をかけています。
平治はよだれが拭きたいんですから、
その手を振りほどこうとしました。
が、どうもあんまり力が入りません。
感触もゆるくて、
手の温度が伝わりません。
彼は乾いた唇を開いて、
「どうしたの?」
そう声に出していました。
母の父の緊張した顔が、
ぱっと明るくなりました。
「大丈夫か?へいじ、
わかるか、父ちゃんだ、
おい、わかるか」
平治は父も母もすぐにわかりました。
なんでも丸2日
気絶したように
意識がなかったそうです。
植物人間になるんじゃないかって
思ってたみたいですが、
こうして意識を取り戻したわけです。

それでも、
彼はすぐには
正常には口を開きませんでした。
母や父がいて、
後頭部に鉄片がぶちあたって負傷したことも、
意識を取り戻したことも、
全て理解していました。

しかし、
どうもぼんやりとした気が抜けず、
身体にあんまり力が入らないままで、
目の前のことが、
妙に不信に思えていました。

 

プロジェクト416日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/29 416日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

いい人生ってなんだろうな、
そう、男は言っていました。

彼は本名を、
山岡平治(仮名)と言いました。
古風な名ですよね、
サンバイザーおじさん以外にも、
ヘイちゃんなんて
呼ばれていました。

年齢は僕が出会った頃で、
30前半くらいか、
少なくとも30代であったかと思います。

今から話す話は、
姉や、近隣の住人、
母などから聞いたことを、
まとめてみて、
今となっては
こうであったというところをつづるものです。

男は、
この団地の近くの病院で生まれました。
工務店に勤める父と母の間の、
一人息子でした。

幼い頃は、利発な子で、
小学校でも成績が良いと、
近隣に知られていました。
彼は大柄で、
のんびりした感じの風貌でしたが、
友達からはリーダー的な印象があって、
学級委員などもやっていたようです。

そんなヘイちゃんでしたが、
高校を卒業すると、
大学に行くことはありませんでした。

周囲は、なぜ反対したのか、なんて、
親に言ったみたいですが、
親は、大学へ行くものと
思っていたようです。
このへんのところは、
よくわかりませんが、
学費がなかったともいいます。

それで、彼は駅に近い板金屋で
働き始めました。
毎日重い鉄製品を運んで、
納品しにいったり、
加工したりしていました。

重量のある螺旋具を
油で汚れた軍手で運んでいくのです。
彼がそこに勤めて数年経った頃、
ある事故に巻き込まれたと聞きました。
 
プロジェクト415日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/26 415日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

彼は、近づいた僕のおでこを、
以前したように、
人差し指で触れると、
「お前は頭がよさそうだよ、
なんでも想像する、自分で動いて、
自分で見て、自分でなんとかしようとすんだ」
彼は言うのです。
僕のおでこは秀でていて、
そこは前頭葉が発達するところで、
創造性が
人より優れているということでした。
僕はなにを言われているのか、
本当はよくわかっていませんでした。
ただ、
「えらくなれるの?」
おじさんはゆっくりと
首を横に振りました。
そして、半笑いになって、
「頭がいいから、
偉いってわけにはいかねえだろうがあ」
そこでふと、
彼のサンバイザーに隠れたおでこが
気になったのです。
見ればおじさんも、
おでこが少し膨らんでいるようでした。
僕は、
「あれ、おじさんもぷっくりしてるよ、おでこ」
そう指をさしたのです。
おじさんは何だか寂しそうな
笑いをした気がして、
「関係ねえよ、」
「…」
僕は何も返事をしませんでした。
カブのエンジン音がしてきました。
母が戸建ての配達を終えて、
迎えに来たのです。
僕は「じゃ、またね」
と手を上げ、
その場を走り去っていきました。

彼は、
何を予見し、
子どもの頃の僕を見ていたのでしょうか、
それは、今にしてもわからないのです。
ちょっと利発な、
親孝行な新聞配達をしている子供、
くらいに思ってたんでしょう。

彼とは、
どういう風に交流が途絶えたのか、
その記憶も定かじゃないんですが、
新聞配達を終えてからは、
とんと噂も聞かなくなりました。

ところが、
僕は今でも、
彼の人生を思い出すことができます。
それは人から人へと伝え聞いた内容と、
自分自身で聞いた話を混ぜて、
その半生を
描くことができるという意味です。

レベルブックは、
今『溺れる時代』という、
僕の最初の長編について触れているのです。
そこには、
ややもすると、
気を抜いたら、
すぐに溺れてしまう、
人生の危うさを描こうとした
僕なりのエッセンスがあります。

この小説を書いているとき、
僕は何度も、
幼いころに出会った
このおじさんのことを思い出していました。
彼の人生には、
そこはかとない人生の浮沈が、
見え隠れしていたからです。
 

プロジェクト414日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/25 414日目</strong></span>
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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「ねえ、俺はどうなるのかな?
大人になったら、えらくなれる?」
子どもの頃、
偉くなるということは、
ただ漠然とした、
ぼんやりしたものだったかもしれません。

今思えば、
それは何の根拠もない、
お金持ちとか、総理大臣とか、
王様とか、豪邸に住むとか、
そう言ったことであった気がします。

大人になって、気づきましたが、
普通の幸せを築くということも、
案外苦しく難しいものです。
それは、はた目から見てじゃなく、
あくまで本人としてですが、
あがくように生きている人だっています。

人というのは、
希望を少しづつ縮小させ、
そのうち自分の相応というものをしり、
それでなんとか生きていくもの、
そんなふうにも思ったりします。

ただ、子供の頃の僕には、
なにもわかりませんでした。
未来は、眩く、明るいもので、
それがただ人生がまだ長いというだけの、
希望であることがわかりませんでした。
もっとも、
だからこそ子どもは、
輝いているのですが、、


僕は新聞を抱え、
サンバイザーおじさんの
座る横を走り抜け、
階段を一気に駆け上がりました。
5階のポストに
新聞を投函し降りてくると、
すでに階段に、
おじさんは座っていませんでした。

彼はいつものように
踊り場の隅に突っ立っていて、
僕が去ろうとする背中に、
「知りてえかあ、未来」
僕は走り去ろうとした足をとめ、
一度振り返ると、
「知りたいよ、」
「どんなでもかあ?」
一瞬、僕は思いを巡らせました。
母や父のようには、
なりたくないと思ったからです。
「知らなくていいこと、いっぱいあるぞ」
そう続けていったおじさんに、
僕は、
「おじさんに、わかるのかよ」
「ぼんやりだけどな」
配達はもう終わっていました。
あとは母が
カブで迎えにくるのを待つだけです。

僕は入り口から少し戻って、
ふたたび彼の前に立ちました。

 

プロジェクト413日目。

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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時間とは、空間の続きであって、
別の場所ではないってことが、
子どもの僕にはよく呑み込めなかったし、
そもそも、
時間が違うことによる、
別の次元を創造することが、
子どもらしい楽しみでもあったわけです。

要は、空想ってことです。

子どもは空想をするから、
全てに目的を持っています。
現実的でないことも、
想像した経緯があって、
それで行動しているってことがあるからです。

僕はサンバイザーおじさんの話を聞いて、
なんだか、
大人の入り口にいる気がしたのです。

つまり、
子どもにとっては、
未来を描くこと、
予言できることは、
空想の延長にあるのに、
大人は、現実的に、
その先を見る必要がないと
言っているように思えたからです。

もちろんそこまで、
具体的に考えたわけじゃなかったんですが、
僕は、やはり反論したくなって、

「じゃあさ、いいことあっても、
予言できない方がいいの?」
そう言ったんです。
ちょっとの間があって、
唾を飲み込む音が、
せまいコンクリート壁の踊り場に響き、
おじさんは、
「いいことなんて、そうそうないだろう」
そう答えました。
僕は驚きを覚えていました。
人生には、いいことしかないと思っていたので、
そんな考え、なかったからです。
「いいこと、いっぱいあるよ」
また、すぐにはおじさんは答えず、
ちょっとしてから、
「そりゃいいな、いいこと、
いっぱいあったらよ、だけどよ、
そしたら、別に未来なんて
見えなくったっていいだろう?」
「どうして?」
「いいことなんだから、
待ってりゃいいだろうが、
別に気にすることなんてないよ
いいかあ、」
彼はとうとう階段にしゃがみこんで、
ちょうど登って行く道を塞ぐようにして、
「だいたいな、占いとかよ、
未来見たいってのは、不安だからなんだよ、
嫌なことあんじゃねえかって思うからだよ、
そいで、みんな未来を見たがるんだ、
わかるかあ?」

どういうことだろうか、、、、
空洞のような、
洞穴から覗き見るような、
冬の弱い朝日を見上げながら、
僕は考えているのです。

不安、がないわけじゃないですが、
それでも未来を知りたい、
そう思えば、
「ねえ、俺はどうなるのかな?
大人になったら、えらくなれる?」
僕は、
彼に背中を向けて、
そう言っていました。
 

プロジェクト412日目。

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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もはや疑う余地はありません。
あの6号棟のおじさんは、
まちがいなく予言者です。

1度目は、
風をよけて走ることによって、
マラソン練習で
1番になれると告げ、
それを見事に言い当てた。
そして2度目、
ぬかるみで転ばなきゃいいけど、
転んだら3番になると言っていて、
僕は見事に転んで、
3着になったわけです。

彼はあきらかに、
何かが見えている、
それは、団地の薄暗がりの、
古いモルタル壁の奥に、
何か、
時間の先にあるものを見ている、
そう僕は思ったんです。


僕はそれを、
また早朝に話しました。
「おじさんは、未来がわかるの?」
するとサンバイザーおじさんは、
ゆっくりと首を横に振って、
「そうじゃねえ、
わかりっこねえよ未来なんて、」
「じゃあなんで?なんでわかったの?」
「なにがさあ」
「ほら、マラソンだよ、
最初は1番なれるって、
次は3番だってさ、当てたじゃん、」
僕は新聞を小脇に抱えたまま、
せがむように言いました。
それで、
男は笑った気がします。
暗がりでもわかるくらい、
黄色っぽい歯が見えて、
口の端がにっと横になって、
「未来がわかるんじゃねえんだよ、
先のことは、ちょっと想像するんだよ、
それだけだよ」

未来は見えてない、、、
先のことを、想像する、
今であれば、それをしんみりと、
自分の中に受け止めたことでしょう、
しかしながら、
まだ10歳くらいであった当時の僕には、
彼が思索し、口にのせたその言葉の意味を、
全くわかることができませんでした。

だから僕は、
「でも、未来が見えるんでしょう?」
と、子供らしく聞くのです。
彼は、たぶん
苦笑いしていたんだと思います。
そして、僕に少しだけ体を寄せて、
「だいたい未来なんて見えたら、
つまんねえし、そんなことあったら、
空恐ろしいだろうが、」
「そうなの?」
「そりゃそうだあ、お前、もし明日車に
引かれちまうって聞いたらどうすんだ?」
「え?」

冬の空が白み始め、
団地の暗い踊り場にも、
かすかな、靄のような明かりが
射してきていました。

「だからよお、明日事故って死んじまうぞ、
て言われたら、そんなこと知りたくねえだろうが」
どうなんだろう、、、
もし事故に遭うと知っていたら、
それを防ぐ術も
ありそうな気もするのですが、
僕は子供なりに想像を働かせながら、
彼の次の言葉を待っていました。
 
プロジェクト411日目。

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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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そして、
また1週間経った、
マラソン練習の日が
やってきました。
5日ほど前には
関東ではめずらしい
大雪が降ったのです。
で、この日は
微妙に道がぬかるんでいました。

僕は学校へ行く道で、
どろんこに足をとられながら、
サンバイザーおじさんを思っていました。
あの人の言う通り、
今日は悪路での
レースになるかもしれません。
もしかしたら、
道が悪いから
練習自体が中止になるかもしれませんが。

練習はお昼休憩の後です。
先生が校庭に集合、
と一斉に声をかけます。
児童たちからはブーイングが起こります。
天候も悪いし、
中止になると思っていたからです。

みんなが嫌々な感じで
校庭に集まってきます。
宇佐美くんは違うみたいで、
僕に近づいてくると、
「今日はリベンジだね、
こないだみたいに負けないよ」
僕は彼を見ると、
「宇佐美くんは嫌じゃないの、練習?」
「そりゃそうだよ、駆けっこ楽しいし、
それに、こないだは負けたんだから、
早く一位になりたいから、」
ああ、そういう考えもあるんだなあと、
子どもの頃の僕は思ったものです。
意識が高いというのか、
人が苦にすることを意に介さない感情は、
とても凛として、尊敬できるものでした。

さあ、結局やるんです。
僕はぬかるんで
でこぼこしたトラックを眺め、
こけたら、負けるかもしれない、
そう思い一つ身震いすると、
スタートラインに付きました。

走るポーズをとると、
僕も自然に勝負する気持ちになっていました。
笛が鳴り響き、
一斉にスタートします。
また僕は、
自らの先を走る人の
背後にぴたりとついて走り始めます。

ところが、背中ばかりを見ていたせいか、
2回ほど、地面にへこみに溜まった水に
足を突っ込みました。
そしてとうとう、
足をとられずずっと滑ると、
転んでしまったんです。

もう、体操着は上も下も泥だらけです。
みなが僕を気づかいながらも、
次々に抜き去っていきます。

やっべ~、
急いで立ち上がり走り始めた時には、
すでに10人以上前を走っていました。

なんとか持ち直していきましたが、
結局は、
先頭の宇佐美くんたちには追い付けず、
僕は3着でゴールしました。

トラックを駆け抜け、
荒い息をつきながら、
僕はまたしても、
サンバイザーおじさんの
にんまりした笑顔を思い出していました。

 

プロジェクト410日目。

――――――――――――――――――――――――――――
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

また、サンバイザーおじさんに、
僕は早朝の6号棟で会いました。

彼は突っ立って、
僕を待っているようでした。
僕に恐怖心はもうあんまりなくて、
新聞を小脇にかかえ、
彼に駆け寄っていくと、
「1番なったよ!」
と大きな声で言いました。
おじさんは

すぐにそれを飲み込んだみたいで、
「おおお、あの作戦だろお、
ずっと後ろくっついてったのかあ?」
「そうだよ、2人いたんだ前に、
そいで、まずは2番のやつにくっついて、
それが脱落して、
最後は1番のやつにくっついてって、
校門入る前に、抜いてったら、
そのままトップだったんだよ」
僕は息せき切ってそう話しました。
うんうん頷きながら

聞いていたおじさんは、
少し考えるように、
天井の暗がりに上目づかいして、
「まあ、予想通りだな」
「予想通り?」
「だからよ、俺はあ、予言したんだ、
お前が1番になれるってな、」
「よげん…」
僕はここで、
姉の話していたことを思い出していくのです。
姉は、友人の話として、
このサンバイザーおじさんが、
すごい占い師だって言っていました。
「じゃあ、」
僕は暗くてよく見えない
男の顔を見上げ、
「おじさんは、予言者なの?」
その僕の言い方、
まんざらでもなかったみたいです。
彼はにんまりと口を広げ、
「そうだ、なんでもお見通しよ、
俺あ、先のこと、見えんだよ全部」
寒さのせいばかりじゃなく、
身体に鳥肌を感じました。

当時の小学生だった僕にとって、
予言者とか、予知夢とか、
霊能力者とか、
本当は
その実態なんてよくわかりもしないのに、
異常に興味を引かせるものがありました。

僕は少し震えた声で、
「おじさんは、俺の未来が見えてたの?」
サンバイザーが大きく揺れ、
男は大きくうなずき、
「そうだよお、お前が一着で、
白いテープを切るとこが、
俺の頭によ、はっきり見えてたからな」
実際には、白いテープなんてなく、
ただ白線を越えただけでしたが、
そんなことはどうでもいいんです。
僕は目を見張って、
「じゃあ、次の練習は何位?
俺何位になる?」
男は首を傾げ、
しばらく黙ってから、
「次は、残念だけどよ、
3位だ」
と、指を三本にして僕に示しました。
「え~、なんでなんで」
「天気悪いから、雨降ったりな、
そいで、足元気をつけろ、
転んだら、3番に落ちちゃうな」
「じゃあ転ばなきゃいいんだね?」
「まあ、そうだ、だけどよ、
転んだら落ちるから」
おじさんはまた考えるように、
上目づかいになって、
自分に言い聞かせるみたいに

そう言いました。

 

プロジェクト409日目。

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<span style="color:#ff0000;"><strong>2019/8/22 409日目</strong></span>
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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