僕が最も親しくしていたのは、
2浪生の健太郎さんでした。
彼は20歳で、
当時の僕からすれば4つ上の、
はるか大人だなあと
つくづく思っていたものです。

とにかくよく飲む人で、
お酒の席が好きっていうより、
アルコールに浸りたいみたいな感じで、
缶ビール片手に
煙草を吹かしている姿が
思い出されます。

彼の部屋によく行っては、
高校生のあとの人生の、
よく分からない人間の交流を、
わけも分からず聞いていたものです。

彼は僕に、
お酒も煙草も勧めてきたわけですが、
僕はついぞそれらには
何の興味も示しませんでした。
本当は好奇心から、
そうしたことに手をつけそうですよね、

親元を離れて、
初めて感じる自制的な環境の中、
僕はそうしたことには
今でもはっきり憶えているくらい、
強い拘りがありました。
少なくともこの時期では、
どう勧められても、
けして煙草もお酒も
口にはしませんでした。

健太郎さんは、
煙草をすうっと吐き出して、
「花くんは意志強そうだかんね、
こんな境遇でも乗り切れそうだよなあ」
「いや、そんなことないです、、」
僕は閉じた赤本の表紙を
ぼんやり見つめながら、
「わかんないだけです、
これからどうするかとか」
「そうだよな、まだ高1だもんな、
俺もその頃戻りてえなあ」
「戻り、たいですかね」
僕は早く大人になりたいな、
と思っていました。
大人じゃないから、
こんな境遇にいるんです。
母が再婚を機に、
その新しい父と住居を定めたのは、
東京から2時間もかかる
地方都市でした。
僕はどうしても
そこに行く気がしなくて、
新聞屋でのアルバイトを
見つけてきたんです。
それで、自活したいという気概を
親に見せたのです。
母は根負けして、
それを受け入れてくれました。

しかし、実際にはとても
辛い思いもしました。
やはり、恥ずかしながらも、
親を恋しいという気持ちもありましたし、
同級生らと違う境涯を、
自分は自分と言い聞かせるのは、
中々心労を感じるものでした。

僕はそれでも、
「大人になれば、自由な選択は、
もっとあるわけですしね、」
「そう思うの?」
健太郎さんは窓に座ったまま、
身を乗り出して言いました。
僕はゆっくり首をたてに振って、
「健太郎さんだって、
自分で選んだんですよね、
東京来るって、大学行くって、」
「はははっ」
それで、彼はからからと笑うと、
「そうだよなあ、そりゃそうだよな、
自分で決めたんだっけ」
「違うんですか?」
彼は少し黙ってから、
笑いが嘘みたいに
落ち着いた声になって、
「いや、そうに違いねえから、
そうだ、俺、自分で決めてんだ」

 

プロジェクト478日目。

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2019/10/30 478日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

浪人している森作さん以外にも、
予備校に通う
奨学生たちはいました。
みな、
同じおんぼろアパートに住み込みしながら、
配達しながら
受験勉強をしていました。

当時の僕からすると、
3つから4つ年上でしたが、
缶ビール片手にタバコを吸ったり、
なんか世間を知っている風で、
ずいぶん大人に見えたものです。

健太郎さん(苗字は忘れてしまいました)は、
秋田県から上京してきている、
森作さんより1つ上、
つまり2浪の予備校生でした。
言葉の端々に方言が出ていました。

この人も、
やがて予備校通いを
やめてしまうんですが、
どこか放埓で、
率直にものを言う人で、
森作さんのような、
ナイーブな感じがまるでありませんでした。

彼にあてがわれている部屋は、
ぼろアパートの
公園に面した角部屋で、
いつも窓枠に座って
煙草を吸いながら、
夜の公園を眺めていた印象が
記憶にあります。

食堂で健太郎さんと一緒になると、
そのまま配達所からほど近い、
彼の部屋へと遊びに行きました。

彼は飄々として、
世の中を
斜めにみているようなところがありました。
だから、少し拗ねた
口調に聞こえたんですが、
「それも全然開いてねえよ、最近」
僕は部屋の壁に寄りかかって座ると、
畳に転がっていた
赤本を手にしていました。
早稲田大学のものだったと思います。
学部は忘れました。
健太郎さんは、
過去問がぎっしり詰まった
この赤本のことを言っているのです。
彼は最初、
地元の秋田から近い
仙台にある大学を目指していて、
1浪目に失敗したときに、
東京に出ることを
思い立ったのだそうです。

健太郎さんは、いつものように、
窓の桟に腰かけ、
煙草をふかしていました。
暗い夜空に、煙が湧き上がり、
吸い込まれていくのが見えました。
「駄目だなやっぱ…、
相当意志強くないとな、
俺甘ちゃんだからなあ、」
「そんなことないです」
僕は気づかいながら口にします。
彼は口元に
軽い笑みを浮かべると、
「そんなことあるって…、

夜も全然勉強しなくなったしなあ、」
「やっぱ勉強しないと大学って」
僕はよくわかっていないのです。
健太郎さんは声に出して笑うと、
「そりゃそうだ、

誰でも行けたら大学じゃねえよ、
でもよ、金だしな、やっぱ金持ちは正義だよ」

1人暮らしを始めた僕にも、
お金は切実な問題でした。
金持ちになれるなんて
思っていませんでしたが、
せめて、お金の心配をしない暮らしはしたい、
そのくらいのことは考えたりしました。

「花くん(彼はそういう呼び方しました)だって、
このまんま行ったら、
大学行くのだって金ねえだろ?
ま、浪人はしない方がいいよ、
浪人ってさ、新卒ん時受けた大学から、
必ずランク下がるんだよね、
それでまた偏差値低いとこ狙って、
最後はどこでもいいから入れればいいってな、
むごいよな、ま、俺のことなんだけど」
健太郎さんはまた乾いた声で笑いながら、
「なんかだんだん階段下がってる感じだしよ、
これで俺負けたら、」

そこで、話は止まりました。

僕は膝の上に開いた
早稲田の過去問を
解こうとしていました。
まだまだ、
わからないことだらけだな、
そう思って、

息を1つつきながら本を閉じました。

健太郎さんは窓に座ったまま、
公園の方を見ていました。
 

プロジェクト477日目。

 

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2019/10/29 477日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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新聞屋で仕事を始めて数日経った、
ある朝のことです。
僕がいつも通り
自転車を停め帰ろうとすると、
社員のおばちゃんが、
「あなた、いつもご飯どうしてんの?」
「食べてないんです」
僕ははにかんで答えました。

朝ご飯のことです。
それから、夜はお弁当なんか、
と答えると、
「だったら、ここで食べなさいよ、
全然用意するんだから」
おばちゃんは小太りでキツネ目、
配達の若い男連中を
毎日仕切ってるだけあって、
腹の座った、
少し意地の悪そうな人なんですが、
この時は、
いかにも心配そうな顔になって、
「若いんだし、お腹空くでしょう、
そうしなさいよ」

それで、

僕も奨学生や従業員に混じって、
作業場の奥の食堂で
朝晩のご飯を食べるようになりました。

しかし、おばちゃんは、
けして親切心いっぱいで
言ったわけじゃないんです。
なんのことはない、
ちゃんと給料から
天引きされていました…。

朝食は、
今でいえば、
ケータリングの仕出し弁当です。
仕出し、といえば、
なんだか美味しそうなイメージがある僕なんですが、
そんなことは全くなくて、
残念なくらい素朴で、薄味で、

若者には物足りないものでした。
ご飯とおかずは、
別々の安っぽいプラスチック容器に

分かれていて、
おかずは6つほどに区切られて、
いろんなものが雑に詰まっています。

こんなこと言ったら、
仕出し弁当作っている方に
失礼だとは思いつつ、
なんだか前日のおかずを
別に加工して使いまわしたり、
何の肉なのか

得体のしれない揚げ物やら練り物やら、

なんとも言えないものでした。

それでも、
育ち盛りの当時のことですし、
新聞配達で、
体をいっぱい動かした後の朝食です。
美味しくもなかったですが、
お湯で溶かす味気ない味噌汁とともに、
もくもくと食べていました。

冬は出来立てだった弁当も、
微妙に冷えています。
レンジもありましたが、
温めるのに

従業員が並んでいることも多く、
ほとんどそのまま食べていました。

本当に申し訳ないんですが、
今思い出しても、
不味かった印象しか残っていません。

若い頃のトラウマというのは、
ずっと頭にあるもので、
僕は贅沢と言われようが、
職場でたまにある仕出し弁当には、
絶対に手を出しません。

さて、夜はどうかというと、
これは結構よかったのです。

お弁当じゃなく、
お皿におかずと野菜なんかが盛られ、
大きな炊飯器で

ご飯が炊かれています。
カレーの日が
多かった気もしますが、
おばちゃんが
ある程度用意してくれます。
揚げ物なんかは
ここで作ってるわけじゃなく、
スーパーなんかの総菜を
大量に買ってきているようでした。
奨学生を受け入れる販売店では、

もっと雑なところもあって、

菓子パンがテーブルに

置かれているだけなんて

噂も聞きましたが、

ここは恵まれていたのかもしれません。


なんだかすごく

ご馳走に思えていました。
親元を離れて、
普通の食卓みたいなものを、
しみじみと感じたりしたものです。

年齢とともに
大分量は減ったものの、
僕は普通の男性よりも、
かなり過食な方でしたので、
当時は、
ご飯を何杯もおかわりしていました。

「あんたすごい食べるから、

食費もう少し引くよ」
おばちゃんには、
嫌味を言われていました。
そして、
それ言われた翌月には、
給料からの天引き料は

さらに増えていました。

 

プロジェクト476日目。

 

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2019/10/28 476日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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僕が高校生で新聞配達をしていた頃、
新聞奨学生で
予備校に通う人たちには、
森作さん以外にも幾人かありました。

ちなみに、
当時は思いもいたりませんでしたが、
ここでまた、
統計的な数字を見てみます。

日本新聞協会という一般社団法人の、
新聞協会経営業務部調べ、
という統計があります。

これによると、
2001年の時点での、
新聞販売所数 21,864店
従業員総数 464,827人
学生 16,333人
18歳未満の少年 37,765人

これが徐々に減少し、

2018年の時点では、
新聞販売所数 15,802店
従業員総数 286,384人
学生 4,279人
18歳未満の少年 1,191人

となります。

1990年代の数字がないので残念ですが、
以前お話した、
少年時代の新聞配達は、
18歳未満の少年が僕でして、
子どもの数が減ったとはいえ、
20年の97%減、
これはかなり劇的な数字で、
もはや少年時代に新聞を配るなんてことは、
かなり希少な体験になりつつります。

次に、総じて新聞が減っている中、
学生の数字を見てみましょう。
学生と言っても、
なにも予備校に通う
奨学生とは限らないんですが、
大体として見てみますと、
20年で3/1に減少、
まあ、今の学生ではほとんど見られない、
て考えた方が
よいかもしれませんね。

販売所自体は1/4減っています。
奨学生制度そのものは
存続されていても、
その制度に頼るものが
それよりも早いペースで
減っていることはわかります。

これは、
新聞の総体的な減少だけが理由ではなく、
過酷な労働環境や、
そもそも勉学を行っていくことに
不向きな制度であるという風潮が、
一般的にも知れ渡ったこと、
1家族あたりの子供数の減少、
他の奨学制度の普及、
そもそも、
現代人には、
精神力や忍耐力がなくなってきた?
そんなことが考えられたりもします。

ま、何度も言いますが、
当時の僕には、
そんな彼らの境遇に
深く思いが及ぶことは
ほとんどありませんでした。
これらは、今だから、
感慨をもって思い出すものです。

あの頃の僕は、
それはそれで必死に生きていました。

高校生で1人になって、
毎朝新聞を配っては、
学校へ通う毎日でした。

特に苦にしていた思い出はないのですが、
周囲とは違うという違和感だけは、
ずっと持っていました。
当然ですけど、
同級生らは、
普通に親のいる家から学校に通って、
朝晩ご飯食べて、小遣いもらってって
やってるわけですから。
 
ただ、生きていることに、
なんら不満はありませんでした。
それはなぜだか、今ではわかります。
僕は希望に溢れていました。
様々な経験をし、
それは往々にして失敗なんでしょうが、
その先の未来に、

期待を抱いていたからに違いないのです。

予備校生たちも、

そうした気持ちがあると思っていました。

彼らが、その期待を乗り越える現実に

苛まれていたというのに。

 

プロジェクト475日目。

 

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2019/10/27 475日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 
予備校に通う新聞奨学生、
僕はその実態を、
自分では経験することなく、
高校生の頃に
露骨なまでに知ることになりました。

そもそも若い身体で、
労働をする代償として、
予備校に通う学費や、
地方から上京しての生活費を得る、
そういう制度なわけですが、
代償としての労働は、
学業を並行して行うには、
あまりにも重労働といえるかもしれません。

くわえて、
高校生までの
家族との田舎での生活から、
東京での、
なんの規制もない自由な生活への変貌、

彼らは、
勤労と勤勉を目的として
東京にやってきて、
誘惑と睡魔の中に浸っていた、
そういう印象が、
僕の中には残っています。

あの頃、高校生で、
親の都合とはいえ、
1人暮らしを始めた僕は、
自分のことに精一杯でした。
彼らが感じていた人生への不安や、
自虐的になりながらも、
抗うことができなかった
社会の現実について、
それらを言葉として漏らすことに、
同じような気分になることは
出来ませんでしたし、
その本質について、
なにも理解することは出来ませんでした。


銭湯の広い湯舟に、
奨学生の森作さんと浸かっています。
彼は中々上がろうとしないので、
僕もがまんしていましたが、
どうにも耐えられなくなって、
僕は浴槽にふちに座って、
足だけ湯に入れて、
彼の話を聞いていました。
「どうしょもなく眠いんだよね~、
なんか無理だよ、
朝?朝じゃないよね、
3時に起きて新聞配ってさ、
予備校行って、戻ってまた夕刊でしょ、
花村くんよく大丈夫だね、」
「いや俺は…、」
僕は朝刊、
それも彼らより少ない部数を配っていましたので、
朝も5時くらいに出勤していました。
そもそも彼らと違いアルバイトですので、
そこまで就労する
必要がなかったのもあります。

「やめたらどうなんですか?
家から通えないんですか?」
僕はそう聞いてみました。
森作さんは埼玉とはいえ、
大宮のちょっと先に実家があり、
やろうと思えば、
家からだって予備校通ったりできるんです。
森作さんは、
湯につかった顔をほんのり赤らめながら、
少し考えるようでしたが、
「無理だね、
そもそも金ないから始めたんだし、
それにさ、これって借金なんだよね」
「借金?」
僕が問いかけると、
ふいに口元を歪めて、
彼は短く笑って、
「予備校の入学金とか学費とか、
前払いなんだけど、それ、
新聞屋が払ってくれたわけだからさ、
辞めちゃったら、返さなくちゃなんないから、
聞いたことあんだけど、
予備校やめても、新聞屋やめんなって、
言われた人もいるってね」
「それじゃあ、」
それでは、まるで奴隷のようで、
江戸時代の女郎みたいな制度を
思い起こしましたが、
そこまでは口にしませんでした。

湯舟は追い炊きされていて、
もうもうと湯気が立ち上がっていました。
その先に、ぼんやりと、
小さなタイルが敷き詰められた
富士山が見えています。
それは湯気の合間には、
くっきりと見えて、
今思い出しても、
場末の銭湯にありながら、
まるで芸術的な価値さえあるように、
精巧で秀麗なものでした。
 

プロジェクト474日目。

 

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2019/10/26 474日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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そんな予備校生の先輩たちの中に、
森作さんはいました。
少し地味で、
素朴な感じの人です。

背はあんまり高くなくて、
髪はもっさりとした
真ん中分け、

いかにも北国から上京して、
大学受験がんばってます、
みたいな雰囲気でしたが、
実際は、埼玉の大宮の
少し先に実家があって、
そこを離れ、都内の新聞屋で
奨学生の住み込みをしていました。

そういえば、
彼らの住居について話すのを
忘れていました。
基本的には、畳敷きの4畳半1間、
ささやかな流し台がある部屋を、
1人1部屋づつあてがわれていました。

そうしたアパートというか、
○○荘みたいなところを、
新聞屋が1棟借り上げて、
奨学生たちが住んでいるわけです。
当時の僕は、
まあ似たようなところに
住んでいたのもありますが、
よく彼らのところに遊びに行っていました。

森作さんは、
アイドルとかが好きだったみたいです。
狭い部屋の薄汚れた砂壁に、
きらびやかでどうにも不似合いな女性の
大きなポスターが貼られていました。

風呂はもちろんありませんので、
近所の銭湯に、
タオルをぶら下げて
一緒に出かけたりしました。

森作さんと銭湯に行くと、
湯船に浸かりながら、彼は、
「花村くんは頑張って、
絶対浪人しない方がいいよ」
受験の話をしていたのです。
僕にとっては

まだ2年も先のことですが、
森作さんは、
半ば教訓めいた感じで
そう口にしました。
「やっぱ大変なんですかね?」
僕は一応、

大学へ行こうとは決めていましたが、
まださすがに現実味もなく、
なんとなくで答えていました。
「大変っていうか、試される感じだよ、」
銭湯の湯船は、いつもかなり高温でした。
そこに肩までどっぷりと浸かって、
額に汗を滲ませながら
森作さんは言いました。
「試される、ですか?」
「そうだよお、人間の強さ?弱さ?」
彼は自問するように、
「大学受験なんて、ほんとは、

やならやめたっていいんだからさ、
後は自分の意思っていうかさ、

自分の精神力が試されるんだよ、
予備校もお金かかるしね、」
「ふうん…」
やっぱり僕には現実的な感覚はなくて、
ただそんなもんなんだろうかって
思っていました。

その頃は、
奨学金を受ける予備校生たちが、
徐々に生活が崩れていく最中でした。
森作さんは、
今週は2日予備校行かなかったよ、
て言ってました。

やがて、夏を終える頃、
つまり、いよいよ受験勉強に
追い込みをかける時期には、
もはや予備校に通うことすら
なくなっていました。

 

プロジェクト473日目。

 

――――――――――――――――――――――――――――
2019/10/25 473日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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都内の、住宅密集地
(タワマンみたいのはありませんでした)で
経営していたこの新聞屋さん、
従業員が30名ほどいるって話をしました。

そこには、
ささやかな階層社会があります。

まずは社長と呼ばれる人物、
実はこの人にはほとんど会ったことがなく、
店に出てくるようなこともありませんでした。

次に正社員。
最初に面談してくれたおばちゃん、
この人は清水さん、
それから、
高校生でもいいんじゃない、
と言ってくれた
宮嶋さんという50歳くらいのおじさん、
この2名は社員でした。

社員はあと数人、
若手がいたようです。

彼らは朝夕刊の配達から集金、
拡張と言われている
新規獲得営業も行っていたみたいです。

そして、
ある意味新聞配達屋の特殊性ともいえる
奨学金制度というものがあります。

これ、大学生でも可能だったようですが、
そのほとんどは、
受験に失敗した予備校生でした。

予備校の学費は、
年間約60万です。
それを新聞屋が肩代わりして、
住むところ、
朝晩の食事も提供してくれます。
それで彼らは朝夕の新聞配達をして、
月に10万程度
(これは憶えてなくて、たしかこのくらい)
の給料も貰えるというものです。

僕が高校の頃、
ここで知り合った予備校通いの奨学生は、
5名くらいです。

僕はこの制度、
最初のうちは、便利だし、
自分も大学落ちたらありだな、
くらいに思っていました。

ところが、
そこには厳しい現実がありました。

現実、というよりは、
人間の弱さというか、
精神力のはかなさを知りました。

予備校生たち(当時の僕から見ると、3,4つ上の先輩)
は、最初のうちは、
早朝に起きて新聞配達、
店の食堂で朝ごはんを食べると、
配達用のチャリでそのまま予備校へ、
夕方には帰ってきて夕刊の配達、
また食堂で晩ごはん、
アパートに帰宅すると、
受験勉強、
そうした、規則正しい生活をしていました。

しかし、それが続いたのは、
僕が見ていた限りでも、
ほんの数ヶ月の間です。

次第に彼らは、
早朝に新聞配達、
朝ごはん、
帰宅してアパートで爆睡、
夕方に起きて夕刊の配達、
食堂で晩御飯食べると、
あとはだべったりしながら過ごして、
時に参考書を後ろめたく開いたりもしながら、
朝を向かえ、、、
また配達、

つまり、
昼夜が逆転して、
自堕落な生活へと陥っていきました。
僕は彼らと結構頻繁に過ごすことがあり、
その暮らしぶりをつぶさに見ていました。

彼らは自虐的に、
「このままじゃやばいんだよね」
そういうことを、
ボロアパートの窓枠に座って
口にしていたことが、
今でも思い出されます。
 

プロジェクト472日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/10/24 472日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

 
新聞屋は1階の前面が、
コンクリート床の作業場で、
その奥は、
一段上がって絨毯敷きの、
食堂兼事務所みたいなところでした。

作業場は頑丈な作業台がいくつかおかれ、
チラシを織り込んでいく機械があって、
20畳くらいある敷地も、
かなり手狭になっています。

そんな場所で、
早朝(ほとんど深夜みたいな時間)から、
男たちがお揃いのユニフォームを着て、
チラシを新聞に挟み込んでいきます。

朝の作業の時は、
だれもが寡黙で、
会話がありませんでした。
みな、黙々と、作業をしています。
眠いのもあり、
自分の担当の部数分チラシを入れて、
とっとと配達に
出かけたいのもあったかもしれません。

従業員たちは、
とにかくせっせとチラシを入れると、
持てるだけ両手に新聞をかかえ、
すぐ外に停めてある
自転車に積んでいきます。

ちなみに、
見たことあると思いますが、
配達用の自転車は
普通のママチャリでは
当然ありません。
ハンドルもセパレートで、
前カゴもかなり大きく作られている、
頑強な自転車です。

僕は、部数がみなより少ないのもあって、
少し遅れて出勤するんですが、
その頃には、
それぞれが自転車に
新聞をうずたかく積み終わって、
配達へと出発する頃でした。
前が見えないんじゃないかくらい
山積みにされています。

僕は最初こそ、
自転車に上手く新聞を積みきれなくて、
積んでる先からぶっ倒したり、
あきらめて、
1度出かけていって、
なくなると、
また配達所に戻って
積みなおすなんてことをしていました。

記憶の限りなのですが、
だいたい200から300部くらいを
毎朝配っていたと思います。
短冊のような集配帳を手にして
配るのです。
そこには、配達する家、
マンションなら室番号、
朝刊夕刊の有無なんかが
手書きで記入されていました。

しかしその短冊を持って配るのも、
初めて1週間くらいで、
配達ルートを
全て記憶してしまうものでした。


さて、
ディープな配達屋さんの作業風景が、
少しづつ見えてきたかと思います。

これを、
『溺れる時代』でも結構細かく
書いてみたんですが、
そこに棲息する人々は、
思い出す限りでも、
とにかくひとくせもふたくせも
ある人ばかりでした。
明日から、
個性的な従業員たちを紹介しつつ、
僕が高校生なりに味わった
人間模様に触れていきます。
 

プロジェクト471日目。

 

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2019/10/22 471日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

ちなみに新聞の発行部数ですが、
ネット、特にスマホ等の
電子媒体に押されて、
急激に減少していることは、
誰もが知るところですが、
その詳細について、
少し話しておこうと思います。

朝刊のみで見てみますと、
終戦直後1945年に、
すでに1200万部、
これが50年あまり
ひたすら増大の階段を登って、
1997年で、
最大の3284万部(朝刊のみ)の
ピークを迎えます。

これた当時の世帯数4300万の、
実に76パーセント、
4家族に3家族が
新聞をとっていた数字になります。
ま、だれもが新聞を購読している、
くらいの割合だったわけです。

僕が新聞配達をしていたのは、
ちょうどこのころです。

新聞はY新聞で、
それは全体の3分の1くらいなので、
実際には4世帯に1世帯くらいに対して
配達していたわけですね。

こうしてみると多いですね、
当時はなんにも考えてなかったわけですが、
いわば新聞文化の
最後の隆盛期にいたのです。

そして、
ここから発行部数は下り坂を迎えます。
年々減り続け、今では
最大ピーク、
97年の5377万部(朝夕刊含む)から、
4000万部まで減っています。

この数字は、
さらに年々減り続けることでしょう。
僕は積極的な
IT主義でもないんですが、
たしかに、
印刷、配達コストを考えると、
ほとんどただに近いネットの方が、
より快適で効率的に決まっています。

電車でおじさんが周囲を気にしないで、
新聞を広げているのに
嫌な思いをした人もいるでしょう、
それは、歩きスマホして、
ちっとも前を向いてくれない人に向ける視線と
同じようなものなのでしょうか、

さて、
こうした背景を元に、
話を続けてみます。

先ほども申し上げましたとおり、
僕が新聞配達をしていた高校生の頃、
それは新聞発行の最大で最後の
ピークだったわけです。

従業員は住み込みの人、
通勤の人もいましたが、
池袋近郊の住宅街にあるこの配達屋で、
実に30名ほどもいたかと思います。
 

プロジェクト470日目。

 

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2019/10/22 470日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

朝は4時前には起きます。
とにかく早いですが、
数日すると、
自然に体も慣れていきました。

まずは新聞屋のユニフォームに
着替えるんですが、
ナイロンだったでしょうか、
ジャージみたいなもので、
これが通気性の悪いやつで、
夏は汗でべっとりしてしまいます。

それに、
黒地に緑のラインが入った、
なんともセンスの悪いデザインでした。

早朝で人に会うことも少ないですし、
今なら、仕事なんだから、
でどうでも良さそうですが、、
高校生だった僕は、
そのへんのとこも、
結構気にしていたことを憶えています。

それを着て、
早朝の新聞屋に向います。
あたりはまだ暗がりですが、
そこだけが、煌々と灯りが漏れています。
すでに従業員たちがたくさんいて、
みな、無言で、
黙々と作業をしています。

配達前に、
作業が、あるんですね。
そうです、
チラシを新聞に挟み込むのです。
最近はあまり新聞を目にしないので、
知らない人もいるかもしれません。
これもネット社会の影響を
大きく受けた1つの文化でしょう、
当時は、新聞に折り込みチラシを
たらふく挟んで、
新聞屋としては、
その広告料も多大なものでした。

確か、どういう決まりかは知りませんが、
月曜はチラシがなかったと憶えています。
他の曜日はそれなりにチラシを挟みます。
多いときは、
月曜の3倍か4倍にふくらんだ新聞を、
無理に折りたたんで
ポストに投函していきます。
さらに1回で自転車に積める量も
限られてきますから、
チラシが多ければ、
配達の途中で、
何度も何度も配達所に戻ってきて、
新聞を積み込むことになります。

とにかく、重労働でした。
僕が、それ労働をどういう気分でしていたか、
今でもはっきりと憶えています。

例えば、
高校の同級には、
このことは全然話さなかったことでも、
大体察しがつくでしょう。
別に隠していたというのでもありませんが、
僕はこの仕事を、
なんとなく、
人様にはあまり言えない、
底辺の労働だと思っていた節があります。

頭をあまり使わないとか、
創造性がないとか、
そうしたことは、
今の年齢になってわかることであって、
当時の僕には、
別に差別感があったとは
いえないんですが、
ただ、なんとなくです。
なんとなく、
後ろめたい仕事だと思っていました。
 

プロジェクト469日目。

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2019/10/21 469日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
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