公園で、山野井に、
「俺がパチンコ行ってんの言ったろ」
そう聞かれたんです。

僕は彼を見返して、
「言ってないですが、」
一息ついて、
「それで知りました、
パチンコやってんだなって」
彼は舌打ちすると、
また煙を吐き出して、
「いちいちうるせえよな、
俺が何しようが関係ねえじゃん」
「まあ…、」
僕はちょっと迷ったあとで、
「でも、みんな期待してるから」
「あんにだよ、俺にかよ」
「山野井さん、すごく才能あるからって、
みんな言ってて」
「ふっ」
彼は鼻で笑って僕の言葉を遮ると、
「馬鹿にしてんじゃねえよな、
誰が才能あるって?誰が期待してんだよ」
「いや、」
僕は、新聞屋でそれを話していた連中の
名前を出しました。
彼らも、ボクシングをやりながら
配達をしています。
山野井は、乾いた笑い声を上げて、
「んなわけねえじゃん、あいつらだって、
自分のことで精いっぱいなのによお、
なんだよ期待してるって、
俺に期待すっと、
あいつらなんか得するわけ?
ありえねえよそんなの」
「…」
まあ、確かにそうでしょう、
みながそう口にしているからって、
本当に期待してるわけでもないでしょう、
団体競技を、
みんなで頑張ろうって話でもないし、
ボクシングは、どこからどう見ても、
個人競技です。
一対一、あるいは、
自分との闘いしかないのです。
僕はそれでも、
「でも、みんなが勿体ないって言うのは、」
「お前さ、」
山野井は、僕の言葉をまたさえぎって、
「そんな人いいこと言うなよ、
要はよ、自分だよ自分、
それだけなんだよ」
吐き捨てるような言い方でした。
街灯の白い光の筋に、
彼の煙草の煙が交錯していきました。

誤解のないように言いますと、
16歳の僕にだって、
なにもそんな
偽善じみた世界があるなんて、
思ってはいないのです。

ただ、自分のことなら、
自分自身にだけは
正義の使徒でいないと、

誰も信じられないなら、
自分自身だけは信じないと、

そうでないと、
いったい何を糧に生きていけばいいのか、
暗闇の中で、わからなくなってしまう、
そういうことは、
感じていたのです。

 

プロジェクト498日目。
 

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/19  498日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 
高校生活には、
不思議に苦労した印象がありません。
人と違う環境である疎外感や、
家族と離れたことによる望郷感、
そうしたものが、
なかったわけじゃないのですが、
軽い苦味が、
わずかに残るばかりで、
常に懐かしさと笑っている自分が、
思い出されるばかりです。

まあ、
嫌なことや辛いことも
それなりにあったのですが、
ひとえに僕の楽観的な性質の
せいかもしれません。

さて、話を高校時代の
新聞配達生活に戻してみます。

他の奨学生らとも親しくしていましたが、
ボクシングを始めたのもあって、
山野井とは
急速に仲良くしていました。
ところが、
僕が彼を慕っていたってことは、
実はあんまりなくて、
彼が、まるで弟分のように、
僕を思ってくれていたのかもしれません。

山野井は、
高校時代まで、
地元でも有名な
不良少年だったらしいです。
本人はそんなこと、
口にはしませんでしたが、
周囲の人が、
単車を乗り回して、
どうしようもない悪だった、
みたいなことよく言っていました。
それから、
彼より少し年上の従業員は、
「あいつは俺よりよっぽど才能ある」
なんてことも話してました。
天性のバネとか、瞬発力とか、
そういうことです。
「だけどあいつさ、すぐ練習さぼるだろ、
あれじゃ続かねえよな」
ある晩飯の時だったと思います。
そこには山野井はいなくて、
僕は人の話を聞いていました。
「続かないんですか?」
その人は僕の問いに、
「お前も勘違いしちゃだめだぞ、
ボクシングは喧嘩じゃねえからな、
喧嘩してえなら、どっかよそ行きゃいい、
喧嘩強くても、
上手くなるとは限んねえしな」
たしかに、山野井は、
僕を誘ったわりに、
ジムで見かけない日もよくありました。

「昼間パチンコやってんだろあいつ」
また、別の誰かがそう口にしました。
僕は山野井が真剣な目をして、
僕の腕を押さえ、
フォームを矯正しようとしている姿を
思い出していました。

そんなある日のことです。
僕は夜の公園で
山野井と2人でいました。
夕食の後だったと思います。

彼はベンチに座ると、
煙草を吸い始めました。
「お前、俺がパチンコ行ってんの言ったろ」
煙をすうっと吐き出しながら、
山野井は僕を見ました。

 

プロジェクト497日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/18  497日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

あの自転車盗難事件から、

1ヶ月ほど経った頃だと思います。

 

僕はいつしか、
配達屋のボクサーたちが行く
ジムへも通うようになりました。

新聞配達は、
朝の練習の一貫になりました。
それこそ、
猛ダッシュで配達をします。
団地の階段を駆け上がり、
飛ぶように駆け下ります。
腕時計についていたストップウォッチで、
ラップタイムを計っては、
それを小さなメモ帳にとって、
徐々に時間が縮まっていくのを眺めたり、
荒天の時の配達について、
コンディションを考えたりしていました。

小学生の頃、母の手伝いで
団地の配達をやっていたときと同じです。

夏ならそれこそ汗だくになって、
どれだけ早く俊敏に動けるのか、
それに挑むように
走り回っていました。

当時の僕は、
特にB級アクション映画が好きで、
ドルフラングレンやジャンクロードバンダム、
ショーコスギ、
それから、カンフー映画では、
ジェットリー、ジャッキー、
ブルースリーなんかを
こよなく愛してやまぬ高校生でした。
なので、
あんまりボクシングとは関係がありませんでした。

鋼の肉体を手に入れたいのか、
そんな気持ちも思い出せません。
強くなりたいという感じもありません。
映画の中のアクションスターは、
冷静に見れば、運がよすぎて、
簡単に相手の急所をヒットさせ、
フィジカルもハードすぎて、
ちょっと現実的でないところが、
僕に憧れを抱かせなかったのかもしれません。

ただ、それなりに
ハードなトレーニングの中で、
その苦しみの先に何があるのか、
そういうふうに考えていたのを、
はっきりと憶えています。

筋肉がプルプルと痙攣して、
脳がもう限界だろうと促して、
それでも、心の奥の気持ちが、
突き上げるように体を前へと進めていく、
その先に、
一体何があるんだろう、
体が壊れるなんて感じじゃなくて、
もっと精神の問題で、

僕はどこへ行くんだろう、
汗だくになって、
荒い息を吐きながら、
じっと前を見ていました。

僕はあることは、
はっきりとわかっていました。

世の中はそんな生易しいもんじゃなくて、
見えない、大きな、
敵のように、
常に自らに反感を持ってるということです。

それをいなすのは、
懐柔という手もあるのでしょうが、
とにかく、
自らが精神でも肉体でも、
強くあるべきだと、
そう信じていました。

 

プロジェクト496日目。
――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/17  496日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――
kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank
『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

青梅のヤンキー上がりの山野井は、
僕がボクシングを始めると、
それこそ最初の頃は、
懇切丁寧に
いろいろなことを教えてくれました。
彼は最初のうち、
打つことよりも、構えを重視しろ、
みたいなことをよく言っていたのです。

パンチを打ち終わったら、
瞬時に元の姿勢に戻る、
その際にガードが顔より下がると、
僕の二の腕を平手でパンパンっと叩いて、
「上!うえ!」
と叫んでいましたっけ。

どんな姿勢かといいますと、

腕はいつでも繰り出せるように、
柔軟に構えます。
肘を意識してガードを絞り、
右拳は、眉毛あたりに構え、
肩でアゴを隠すようしました。
左手は、肘を右の脇腹につけて、
お腹のあたりをガード、
拳を泳がせて、
顔面への相手のパンチをガードします。
顔は上向きにならないよう、
ぐっとアゴをひきます。

もう20年以上も前のことです。
久しぶりにボクシングの構えをしてみると、
それは防御の
なにものでもないことに、
僕は今さらながら気づきます。

疲れが出てくると、
リズムは遅くなり、
さらに防御だけの姿勢へと
固まっていきます。
ラウンドの後半に、
疲れたボクサーが、
防戦一方になるのを、
皆さんもご存知かと思います。
あれはもう、
精神的なものじゃなく、
パンチを繰り出す姿勢を
維持する体力がないのです。


僕は、ボクシングを始めた、
これといった切欠が、
今でも思い出すことができません。

しかし、ふと思うのです。
16歳にして、
親元を離れ、1人で暮らしていたんです。
僕は、何かを守ろうとしていた、
そんな気がしました。

それはもちろん、
自らの身なんですが、
見えない全てのことから、
身を守るように、
ファイティングポーズという、
ガードの姿勢に体を預けていました。
 

プロジェクト 495日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/16  495日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

山野井という男が、
販売店で働くボクサーの中にいました。
彼は、
僕が当時16歳だった時、
19か20歳くらいでした。

東京の西方、
たしか青梅あたりの出身で、

この時は、

販売所の寮に暮らしていたのです。
見るからに不良上がりな感じで、
金髪に、よく赤いジャージを着ていました。

ある休日、
僕はたまたま
住宅街の公園の前を通りかかりました。
そこでは、
山野井をはじめ、

販売店で働くボクサーたちが、
ガンガン音楽をかけながら、
シャドーボクシングをしていました。

僕が近づいていくと、
「おお、花村くん」
振っていた腕をとめて、
声をかけてきたのが山野井でした。

僕はその時、
はじめて、
ボクシングの手ほどきを受けたんです。

「ストレートを小刻みに打つんだ、これジャブな、

相手をけん制して、間合いとる、これで」
ジャブ、ストレートの打ち方です。
「喧嘩じゃねえんだよ、
拳は武器だから
この武器使って、打つ、打つ」
山野井はそんなことを言いながら、
顎から汗をしたたらせて、
僕が見よう見真似でやっている振りを
見ていました。

この時、
自分がボクシングをやるようになるなんて、
思ってもみなかったのです。

ジャブは出した瞬間には、

引くイメージです。

眼前に敵がいることを想定し、

当った瞬間に拳を強く握り締めました。


突然やってみながら、
その日のうちに、
公園で練習をする彼らに、
なんの違和感も無く
混じっていました。

 

プロジェクト494日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/15  494日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

池袋駅の郊外、
池袋本町の込み入った住宅街の中に、
ケヤキの大木が生い茂る、
都心にしては比較的広い公園がありました。
この周囲に当時奨学生やボクサー、
その他の従業員たちが、
暮らしていたアパートがありました。

日曜などに、
ラジカセで、
クイーンかエアロスミスのノリのいい曲をかけて、
ボクサーたちが、
半ばパフォーマンスのようにして、
シャドウボクシングをしていた姿が
思い出されます。

予備校生が5、6人、
ボクサーは10人ほどいたかと思います。
ほとんどの人は、
地方から上京してきて、
ボクシングに専念していました。
しかし、
僕の知る限りで、
プロのライセンスまで到達し、
何回戦かまで試合をしていたのは、
たった1人でした。

それくらい、厳しい世界であるとともに、
ここにも、
奨学生と同じ堕落が見られました。

予備校生たちが勉強をするように、
彼らは練習を積んでいました。

しかし、
結局は同じでした。
朝の新聞配達は、猛スピードでやれば、
それなりのトレーニング代わりに
なったかもしれませんが、
ボクサー連中は、
中々販売店から帰らず、
ひとしきりだべっていて、
それで練習をさぼったりして、
日中寝ていました。
で、夕方起きだして、夕刊の配達、
夜は適当にだらだらして過ごす、
そんな感じの人が多くいました。

中には懸命に
ボクサーを目指していた人もいました。
中学を卒業後、九州から上京し、
高校には通わず練習している人、
彼は僕と同い年です。

それに、
元々学生時代にレスリングをやっていた人が、
筋肉の付き方が違うとかで、
遅筋を速筋につくりかえる、
とか言ってましたが、
相当ハードなトレーニングを行っている人もいました。

しかしながら、
あれから数年して、
ボクシング雑誌をよく目にしていたのですが、
後楽園ホールの出場選手の中に、
当時知った人たちの名を、
見つけることはできませんでした。

 

プロジェクト493日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/14  493日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

 

 

僕は高校時代に、
1人暮らしをして新聞配達をしていたわけで、
最近はずっとそれについて書いています。

そこで、
こないだふと、
当時生活していた、
つまり、
このレベルブックの舞台になった場所を
何10年振りかで、訪れてみました。

池袋の郊外です。
あの繁華な街から、
モール街という商店街を10分ほど歩き、
川越街道を渡った住宅街になります。

新聞屋は、建物はありましたが、
もうすでに別の店舗になっていました。

それから、
奨学生や従業員たちが暮らしていた
おんぼろアパートは、
すでになくて、
瀟洒なコンクリート製の
住居に変わっていました。

よくみんなでたむろったり、

遊んでいた公園は、
さすがにそのままでした。
結構広々とした公園です。
大きなケヤキの木が枝葉を広げ、

ベンチのあたりに木陰を作っていました。

子どもたちがきゃっきゃ言いながら遊んでいました。

もう20年以上も前に、

確かに僕も、ここで駆け回っていました。


高校生だった頃の僕は、
ここでよく、彼らとキャッチボールしたり、
ノックの真似事みたいなことをやっていました。

予備校生たちにとっては、
息抜きだったかもしれないし、
僕にとっては、
同級生よりは大人な彼らとの接触は、
なんとなく刺激的でもありました。

そして、
この配達屋のメンバーで、
最後に紹介するのが、
ボクサーたちです。

実は、新聞屋には、
奨学生以外にもプロボクサーを目指す連中が
働いていました。

彼らも予備校生たちと同じように、
おんぼろアパートに暮らしながら、
日中はジムへと通っていました。

僕は、
彼らとの出会いがきっかけで
ボクシングをはじめることになります。
そういった意味では、
多少なりとも、
僕の人生を変えた人たちかもしれません。

 

プロジェクト492日目。
――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/13  492日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――
kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank
『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

母が電話に出たようです。
母が、警察の人と話をしている間、
僕は生きた心地がしませんでした。
警察の人が、丁寧な口ぶりで、
今日のいきさつを説明していました。
電話の向こう、
どんな反応をしていたのでしょうか、
驚き、戸惑っていたかもしれません。

高校生で、
1人暮らしをすると決めた時、
こういうこと、
つまり警察沙汰になるとか、
そうしたことだけは、
絶対にあってはならないと、
固く思っていたんです。
それが、わずか数ヶ月でこのザマです。

涙が出そうでした。
不思議と小林さんへの恨みとか、
疑念みたいなものは浮かんでこず、
自分自身を苛む気持ちでした。
何がどう悪かったのかとか、
そういうことは分かってないんです。
ただ、1人暮らしをして、
親にこうして警察から電話がいっている、
その事実が、
僕にどうしようもないくらい
ダメージを与えたようです。

結局、警察署まで迎えに来てくれたのは、
新聞屋の宮嶋さんでした。
宮嶋さんは、
全て事情を知った上で僕に接したので、
「ついてないなあ」
と最初に言ってました。
僕は深く首を下げて、
「すみません…」
と答えるばかりでした。

あの、酔っぱらった小林さんに絡まれた、
池袋から住宅街へと続く、
モール街を歩いていました。

「気づかなかったの?」
宮嶋さんは、
小林さんから借りたという自転車が、
盗難車だったことを
気づいていなかったのかって聞いています。
僕は頭上を見上げながら、
「わかりません、」
また、じっと考えて、
「でも…、怪しいっちゃ怪しいですよね、
今思えば、俺気づいても…、」
確かにそうなのです。
配達用の大型の自転車もあるのに、
なぜあんな小洒落て軽快な自転車に、
小林さんが乗っていたのか、
そんなわけないのに、

僕はややもすると、
虚ろになりがちな目を上げて、

「気づいていても、
乗ってたかもしれません」
「それだめじゃあん」
と宮嶋さん。
僕は、
「だけど、俺が盗んだわけじゃないですし、
こんなことになるとは思わないかと」
「まあなあ、前科じゃないしな」
「はい…、」

少し気が楽になるような感じがして、
すぐに母のことがちらついて、
あとで、電話をしなきゃって考えると、
また胸が締め付けられるような気持ちに
陥っていきました。

高校生なんて、
今から思えば、
とびきり小さな世界です。
僕はその小世界の中で、
自分の前途が危うい気がして、
まるで暗やみで平行棒を歩くような、
そんな気分でいました。

 

プロジェクト491日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/12  491日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

池袋の駅前の交番で
軽い尋問を受けると、
やがてパトカーに乗せられ、
僕は生まれて初めて
警察署の中へと連れて行かれました。

自転車窃盗の罪です。

ドラマで見たような、
無機質な壁に覆われた取調室で、
机に向かい合って座りました。
寒々とした印象だけが、
記憶にはあります。

「借りたんです」
僕は尋問をする年配のお巡りさんに、
そう何度か言いました。
「それ、借りたって君が思ってもね、
向こうはいきなりなくなったんじゃ、
やっぱ盗ったんだよね」
「違うんです、その人じゃなくて」
「その人じゃない?」
お巡りさんは眉根を寄せました。
「だから…、その持ち主から、
多分、、盗んだ人に借りたんです」
「なんだそりゃ、
じゃあ盗んだ人は誰なんだ?」
「知り合いです」
「それじゃわからないだろう、」
「小林さんです」

僕はそれで、
全てを洗いざらい話しました。
問題は、僕が手渡された自転車を、
盗難車と知っていたかってところでした。

「知りませんでした」
僕はうっすらと、
やばいと思っていた気もしながら、
しかし、今となってはよくわからなくて、
そう答えました。
お巡りさんは、
僕をしげしげと見つめてから、
「じゃあ、仕方ない…、う~ん、
仕方ないで済むことじゃないけどな、
でもまあ、今回みたいな場合、
仕方ないんだろうな…、」
「すみません…」
僕はうなだれるように
頭を深々と下げました。

それから、
親を呼ぶように言われました。
「親、どうしても呼ばなきゃだめですか?」
「そりゃね、今回はまあいいとしても、
一応引き取りは着てもらわないとな」
「親、ですか…、」
お巡りさんの目が、
ふと鋭くなったように感じられました。
「なんかまずいことあるのかな、
お父さんかお母さん、呼ぶとまずいかい?」
「父はいません」
本当は、父なんて呼んだこともない、
義理の父親がいました。
「じゃお母さん呼べる?電話、」
「あの…、」
僕は膝の上の拳を強く握り締め、
上目遣いになって、
「東京に、近くに住んでなくて」
「…」
お巡りさんは何も答えませんでした。
もしかしたら、
親元にいないから、
犯罪をしやすいとか、
そういうこと考えられてるんじゃないかと思うと、
胸が潰れるような気分になって、
僕はただただうなだれました。
「1人で暮らしてんのかな?」
「はい…」
「ふうん…」
針のむしろでした。
それがなぜなのか、
全然わかりませんでした。
高校生で1人暮らしをしていることは、
確かにめずらしいことかもしれません。
しかし、
何も悪いことしているわけじゃないのに、
僕はなぜか責められている気分で、
じっと拳を握り締めていました。

 

プロジェクト490日目。
――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/11  490日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――
kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank
『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html


結局、小林さんは、
近隣に借金をこさえ、
お店のお金も着服して逃亡してしまった、
とんでもないおっさんでした。

宮嶋さんは、
お店の中でも、
「あれは犯罪者だ、警察に届ける」
と言ってましたが、
僕はその後、
小林さんがどうなったのかも知らずじまいです。
捕まったなら、
憶えているかもしれませんので、
逃げおおせたってことでしょうか。

だけどこの話、
実は僕に不幸のふりかかる、
最悪の続きがまだあります。

あれは、小林さんが失踪してから、
まだ1週間も経っていなかった日のことです。

学校の帰り道、
池袋の駅前で、
友人を後ろに乗せて
自転車を走らせていました。

背後から笛の音が聞こえました。
「やべっ」
立ち乗りしていた友人が、
さっと自転車から飛び降りましたが、
その時にはすでに
目の前にお巡りさんが立っていました。
そのお巡りさん、
厳しい顔して
「だめだよ君たち、2人乗りだよ、だめ」
「すみません…、気を付けます」
僕は軽く頭を下げました。

ま、そこまでなら良かったんですが、
お巡りさんの鋭い視線が、
自転車に注がれた時、
僕はハッとしました。
これ、小林さんに
あの日借りたままのやつです。

「これ君の?」
「…」
なんて答えたら、、
僕は思わず唾を飲み込みました。
「ちょっと調べていいかな?」
警官はトランシーバーのようなものを取り出すと、
自転車に貼られていた
ステッカーの番号を読み上げ始めました。

「僕のじゃないです」
僕は、小さな声になって、
かがんで自転車を見ている
お巡りさんに、今さら言いました。
彼はしゃがんだまま、僕を見ずに
「どうしたの?盗んじゃった?」
「いえ、そんなんじゃないんですが、」
「じゃあどうしたの?
君のじゃないんだろう?」
「いやその…、貰ったっていうか、借りたっていうか」
そこで、
警官はすくっと立ち上がりました。
トランシーバーから
応答の声が響いていました。
持ち主の名を言っているようでした。
それは、小林さんの名でもありませんでした。

聞き終えると、
お巡りさんは僕をじっと見て、
「名前は?どこの高校?」
僕はかすれ声で、それに答えます。
「じゃ、違うよね、これ」
「はい」
「警察、一緒に来られるね、」
僕は頷きました。

友人はそこで帰されました。
僕は自転車を引く警官の後ろについて、
近くの交番へと向かっていきました。

 

プロジェクト489日目。
 

 

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/10  489日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――

kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html