奨学生生活は、
とても大変な印象がありました。
来春の受験、
そして大学合格への道は、
はるか険しく、
その先に見える成功は、
穴ぐらのようなおんぼろアパートと、
汗水たらしての新聞配達からは、
まるで想像がつくものじゃ
ありませんでした。

だから、途中で力尽きて、
それは堕落というか、
人間性、ひいては強さを試され、
敗れて去るということは、
仕方のないこともに思えました。

しかし、
そこには当初の入学金や学費もあり、
中々簡単なことではなかったようです。
それでも健太郎さんは、
販売所への借金を清算し、
東京を去っていきました。

実は、そんな彼は、
僕が大人になって
唯一再会した人物になります。
高校の1年、16歳だった僕が、
健太郎さんに再会したのは、
あれから20年以上経った、
30代後半の頃になります。


……………………


連絡が来たのです。
フェイスブックでした。
僕は最初、
それが健太郎さんだとは
思いませんでした。
「受験してた、
秋田に帰ったの憶えてない?」
「どちらさまでしょうか?」
そんなDMのやりとりがあって、
「ほら、東京から逃げ帰った、
一緒に新聞配達したじゃない」

それで思い出しました。

もう20年も経っているのです。
僕は全く縁もゆかりもない土地で
暮らしています。
すぐに思い出せなくて、
無理もなかったのですが、
鼻がひくひくするような、
懐かしさにおそわれていました。
あの頃の光景が、
脳裏に甦ってきます。

僕はその年に、
彼に会うことを1つの目的として、
秋田に向かったのです。

 

プロジェクト508日目。
――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/29  508日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
――――――――――――――――――――――――――――
kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank
『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

夏の終わりです。
健太郎さんが上京してきてから、
まだ5ヶ月です。
たしかに高校生の僕から見ていても、
奨学生をしながら
受験勉強をするのは、
とても大変なことに思えました。

しかし、
もし脱落してしまうとしたら、
線が細そうな森作さんが最初で、
健太郎さんみたいな人は、
ひょうひょうと
やり遂げるんじゃないかって、
僕は思っていました。

それに、
奨学生は、
予備校の入学金や授業料が、
最初に支払われるシステムで、
前払いで相当なお金を、
販売所が立て替えているわけです。
途中で奨学生をやめるってことは、
つまり、
その借金を返さなきゃならないのです。

「予備校は通うんですか?」
僕は結構驚いていて、
ご飯を食べる手を止めて聞きました。
「いや、予備校もやめる」
「え!で、どうすんですか?」
「金はさ、とりあえず親が
立て替えてくれたから、」
健太郎さんは、
そこはなんだか
気恥ずかしそうにしながら、
「そいで、地元帰るよ」
「大学は?」
「…」
少し、聞きすぎだったかもしれません。
健太郎さんが黙ると、
僕も口を噤みました。

しばらく、無言で、
お互い箸を動かしていました。
やがて、健太郎さんは、
「俺さ、東京来て、まあ、
たった半年くらいだったけど、
自分の身の程知ったっつうか」
「なんですかそれ…」
なんかしみったれた
雰囲気になっていました。
周囲は、
仕事帰りのサラリーマンや、
肉体労働してきたおじさんが、
ビール片手に
騒がしく飯を食べています。

なんだか僕らのまわりだけ、
照明が暗い、洞穴の中のような、
そんな空気でした。

「いい経験なったよ」
「東京がですか?」
「ああ、ま、お前には」
彼はコップのビールを煽りながら、
「わかんねえだろうな、この感覚」
僕はそれには答えず、
「帰ってどうすんですか?」
「ふっ」
健太郎さんは笑って、
「決まってんじゃ、働くよ、就職して、
借金作っちゃったし、返さねえと」

僕はそれ以上のこと、
もう聞きませんでした。

健太郎さんはそれから1週間も経たずして、
販売所から消えました。
何かを成就したとか、
単純に離職とかでもないので、
みなから送別されるというのもなく、
ひっそりと、
東京を去って行ったのです。

まるで、
何かから逃れるように、
彼はいなくなりました。
それは、店の金を盗んで消えた
小林さんとは全然違って、
僕の心に、冷気を帯びた、
寂しさをおいていきました。
 

プロジェクト507日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/28  507日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目

https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

2人で食堂に入って、
何を食べていたのかは
もう忘れてしまいました。
ただ、健太郎さんが
ビンビールを注文して、
コップを2つ頼んで、手酌で注ぎ、
それを僕の前に
突き出したのを憶えています。

「いやいいですよ~」
僕を手を振って、
それを拒みました。
「まあ、飲めよ、もう高校生だろう」
高校生は未成年です。
彼の言うことよくわかりませんが、
僕は小刻みに首を振って、
「だめです、未成年です」

僕はこの後の人生で、
何度か浴びるように飲むことになるアルコールを、
まだ全く知りませんでした。
「まあ今日はいいじゃん、飲めったら」
「今日はって、そんな」
強引にビールの注がれた
コップを手渡されました。
頭によぎったのは、
お酒が大好きで、
子どもの前でも
酔っていた母の姿です。
コップに口をつけ、
一口だけ、
ノドへと液体が流れていきました。
「うまいだろ」
すでにコップのビールを半分もあけて、
健太郎さんは言いました。
僕は首をひねって、
「苦いですね」
大人たちが、ノドを鳴らして、
美味そうに飲むビール、
僕にはそれが、
まるでわかりませんでした。

僕はコップに残ったビールを、
健太郎さんのコップに
注ぎ足しました。
「あ、お前」
「飲めませんから」
残念ですが、二十歳を越えるまで、
僕のアルコール体験はこれまでです。
その先にある酔いなんて、
全然、先の話です。

「ところで、今日…」
そう、健太郎さん、なんか話があるって
言っていたのです。
「ああ」
彼はフライにぱくつきながら、
「俺さ、あそこやめんだ」
「え…」
「そいで話してたんだよ」
事務所から彼が出てきたのは、
そのためでした。

 

夏の終わりのことです。

彼が奨学生になって、

わずか5ヶ月でした。

 

プロジェクト506日目。
――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/27  506日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

予備校生で、
一番仲良くしていた健太郎さんについて、
以前お話したかと思います。

彼は秋田から上京してきた2浪生でしたが、
いつもハスに構えた感じで、
年のせいもあって、
なんとなく他の奨学生たちの
兄貴みたいな人でした。

彼には、
強い意志は見られませんでした。
はじめから、
何かを諦めているような、
そんな雰囲気さえあって、
だから、あの日、
僕は本当は驚かなかったはずでした。

もう夏も終わりかけの頃です。
販売所の食堂、
そのさらに奥には、
社員の人たちが机で作業をする、
事務室みたいな部屋があって、
そこから健太郎さんが出てくるのを、
僕はたまたま見かけました。

彼は引き戸を開いて外に出てくると、
いかにもバツの悪そうな顔して、
頭をかきながら、
「よおっ、あにしてんの?」
まだ夕飯には早い時間で、
食堂には誰もいません。
従業員たちは、
夕刊を配っている時間です。
僕はたぶん、
給料を手渡しで貰いにきていたかと思います。

それで、何か話しながら、
2人で販売所を出ました。
「なんかメシおごってやるから、
たまには外で食べる?」
健太郎さんが言いました。
彼は僕より少し背が高くて、
僕はその顔を見上げて、
急にどうしたんだろう、
て顔をしました。
「あ、でもお前すんげえ食うからな、
普通な、普通になら、
おごってやるから」
「いいんですか?」
「おう、ときわ食堂でも行くか」
「でも俺、今日給料貰ったから、
割り勘でもいいです」
それで、
健太郎さんは少し黙ってから、
笑顔になって、
「いいっていいって、
子どもは遠慮しちゃ駄目だよ」
なんて言ってました。

ときわ食堂は、
豊島区周辺にあった定食屋さんで、
煮物や焼き魚なんかがあって、
家庭料理みたいな雰囲気のお店でした。
住宅街と商店が入り組む
雑多な街の中にあって、
僕らはたまにそこに行ったものです。
ちなみにもう20年以上経つんですが、
今でも近隣にはお店はあります。

夏の日はまだ長く、
夕闇は薄い赤色で、
まだはるか遠くの空にありました。
僕らは、
私鉄の踏み切りにさしかかりました。

「ここの踏み切りなげえよなあ」
遮断機が下りてきて、足を止めると、
健太郎さんが前を向いて言いました。
「埼京線も走ってますからね」
「そうなの?」
健太郎さんは答えながら、
線路の奥の方を覗き込むようにしています。
僕は、
「何かあったんですか?」
そう、聞いてみたんです。
「何が?」
「いや、事務所、入ってたんで」
「ああ」
健太郎さんは気のない返事をしました。
他にもなにか
言ったかもしれませんが、
通り過ぎていく列車の音に、
かき消されていきました。
 

プロジェクト505日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/26  505日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

高校生活が続いています。
山野井とは疎遠になっても、
僕はボクシングを続けながら、
朝刊の配達をして、
高校に通っていました。

高校野球で監督をして、
甲子園にまで行ったという小林さん、
最終的に

お金盗んで失踪しましたが、
この人のせいで、
盗難事件に巻き込まれて、
警察の厄介になったりしながらも、
販売所で飯を食べながら、
元気にやっていました。

彼女もいたりしますが、
それはまた別の話です。

もう20年以上経って、
心に印象深く残っているのは、
やはり家族への郷愁でした。
高校で1人暮らしになって、
とにかく最初の
1年(実際には10ヶ月)くらいは、
東京から列車で2時間かかる、
母たちの住む家へと訪れていました。

2週間に1度くらいのペースです。
金曜の夜には東京を出て、
上野から京成線に乗って、
千葉の片田舎に向いました。
そうして、
日曜の夜に東京に戻ってくる、
そういう生活をしていました。

東京近郊の住宅街、
駅前にもまだ灯りがたくさんあって、
それがだんだんと乏しくなり、
母の住む町に行き着く頃には、
一面の田園、

それは夜の暗がりでは、
ただ真っ暗な車窓の風景で、

そうしたことも、
16歳の記憶の中に、
今でも色濃く残っています。

もしかしたら、
一般の学生に比べたら、
けっこう刺激的な部分も多かったでしょう、
しかしながら、
まだ小説を書くとか、
そうでなくとも、
芸術的な思考に
思いも及ばない僕にとって、
全てはただ、
漠然と通り過ぎていく
記憶の限りに過ぎません。

ただ、なにか萌芽があったとすれば、
今では日常的になっている、
記録を残していくことの、
その片鱗はありました。

よくいろんなことを、
大学ノートには書き留めていました。
創造性のある
記録ではありません。
ただ、列車の運賃や、
どこ駅には何があるとか、
母が、義理の父が、
販売所の人が、
こういう経験をしたとか、
なんって言ったとか、
そうしたことを、
書き残していました。
まあそれを、
有為的な意味で、
なにかの効果を

期待していたわけではなく、
僕は、
人間の記憶力というものが、
頼りないと感じていただけでした。

 

プロジェクト504日目。

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2019/11/25  504日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

僕が食事を終えて出てくるのを、
山野井は待っていたようでした。

「話をしよう」
そう言った彼について、
いつもの公園に行きました。
そこで彼は
煙草を深く吸って吐き出すと、
「お前なんであいつの味方した?」
「…」
僕はそんなつもりもなかったので、
彼が言った言葉で、
山野井がそんなふうに捉えたことを
初めて知った思いでした。
「やっぱお前も大学行くんだろ?」
なにを言いたいのか、
僕にはあまりわからなかったのですが、
「大学は、行きたいですね、
お金かかりそうですけど」
だから僕は、
その時思ってたことを
そのまま口にしました。
高校で1人暮らししていることも
こんなに大変だし、
間々ならないのです。
大学行きながら生活なんて
そもそも出来るんだろうか、
それくらいが、
僕が想像できる精一杯でした。
「だからあいつの味方かよ」
山野井が吐き捨てるようにそう言って、
僕はここで、
ようやくいろんなことを感じとりました。
ハッとして、
ベンチで横に座る彼を見つめました。
「俺別に、誰の味方とかって、
そんなの考えてません」
「じゃあ俺の味方でもねえんだな」
「味方って、」
「ボクシングもやんねえの?」
極端だな、そう思いましたが、
「続けますよ、」
「ふんっ」
山野井は、いつもの癖で、
小ばかにしたように鼻で笑うと、
「馬鹿にしてたのは、あいつらの方だかんな」
さっきの食堂での、
森作さんが笑ったってやつを
言っているのです。
森作さんは、
別に馬鹿にしてたわけじゃないでしょう、
ただ実際となりにいて、
顔を見ていたわけじゃないので、
僕に確たることはわかりません。

あいつら、
て言葉も気になりました。
森作さんだけじゃなくて、
なにか見えづらい劣等感を、
この人は抱えて、
東京に出てきて、
ボクシングしながら、新聞配達して、
時折さぼって、
自分の能力をもてあまして、
きっと、先も見ていないかもしれない、

僕は、
コンプレックスがあるなら、
それは何とか自分で
打破していくべきだ、
そう考えています。
だからでしょうか、
ただ暴言吐いたり、
明らかに腕力で勝てそうな相手に
息巻いたりする彼を、
なんだか小さなものに思えていました。

この日を境に、
僕は少し山野井から距離を置きます。
彼は、相変わらず接してくれていました。
だけれど、
僕のあんまり気乗りのない態度に気づいて、
そのうち、疎遠になっていきました。
 

プロジェクト503日目。

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2019/11/24  503日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

森作から視線を移して、
僕を睨みつけた山野井には、
少し戸惑いが見て取れました。

まさか、
僕が反抗するとは
思わなかったのでしょう、
だからこそ僕は、
落ち着いた気持ちで、
「俺だって、
最初試合でやられたって思いましたよ」
「なんだよそれ」
「にしても、左のガード強いから、
そんな上の方に食らうのかなって、」
「お前はいいって、」
「だから俺、車って聞いて、それも危ないなって」
「お前は黙ってろ!」
また、山野井は大声になって怒鳴りました。

僕は一瞬びくつきました。
彼は続けて、
「お前には関係ねえだろ、
お前じゃねえんだよ、
こいつはさ、」
山野井は僕から目を逸らし、
また、
森作さんをじっと睨みつけて、
「鼻で笑ってただろう、馬鹿にしてよ、」
「いえ、そんな…」
ずっと黙っていた森作さんは、
消え入りそうな声で答えます。
「お前はなんだよ、俺馬鹿にできんのか?
学校だって行ってねえし、
大学行けなきゃかわんねえだろ」

大学に行けなければ、
自分とかわらない、

そう、山野井は言いたかったんでしょうか、
僕はそこに、
初めてなにか劣等感のようなものが
介在しているのを意識しました。

みな、同じなのです。
なんの成功の実績もない、
若いということは、
結局、そういうことです。

失敗したら、
なにもないに等しい、
ここではみんな、
そのぎりぎりで、
いや、もう諦めかけた気持ちで、
生きているような気がしました。

「おいおい喧嘩なんかしてんじゃねえよ、
飯食ったら帰れって」
社員の宮嶋さんが居間に入ってきて、
この話は終わりました。

森作さんにとっても、
引っ込みがつかなくなっていた山野井にとっても、
それで良かったんだと思います。

僕は安堵の息をもらして、
食事の続きをしました。

それから、
販売所をあとにして、
自転車(もう盗難車じゃないです)にまたがり、
部屋に帰ろうとした時です。

すぐそばに、山野井が立っていました。
「ちょっと話しねえ」
彼はぼそっとそう囁きました。
 

プロジェクト502日目。

――――――――――――――――――――――――――――
2019/11/23  502日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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夜の7時くらいです。
高校から一人暮らしのアパートに帰宅して、
それから私服に着替え、
僕は販売所へと足を運びます。

奨学生やボクサーにまじって、
まかないの夕食を食べるためです。
そこで、
軽い事件が起きたのです。

作業場の奥の食堂では、
夕刊の配達を終えた連中が、
いつものように
和気あいあいとご飯を食べていました。

僕も軽く挨拶して、
大きな炊飯ジャーからご飯をよそって、
さっそく食卓につきます。

正面右に、
山野井がいたのですが、
僕はふと顔を上げて、
気づいて、
「あれ、それどうしたんですか?」
すでに食事を終え、
みなと談笑していた彼は、
にやっと笑って、
「目立つかなやっぱ」
「はい、青たんっぽく…」
僕が言いかけると、
となりで食べていた
予備校生の森作さんが、
「やっぱ試合ですか?
ボクシングってハードですね」
「ははっ違うんだよこれ」
山野井は弾けて笑うと、
「朝さ新聞配ってたら、車停まってて、
その横チャリで通り過ぎようとしたんだ、
したら、人乗ってて、
いきなりドア開いたんだよ、」
「え、それでぶつけたんですか?」
僕は箸をとめ聞きました。

山野井が言うには、
ドアが急にあいて、顔にかなりの強さで
ぶつかったそうです。
彼はそこでぶっ倒れて、
道路でもんどりうちました。

「危なかったよ、
あと数ミリで目に入るとこだったから」
山野井は、そう、
笑いながら話していたのです
しかし、危ない話です。
僕は眉をしかめました。

ところが、向かいにいた山野井の顔が、
急にするどくなって、
森作さんを睨みつけました。
「おい!」
山野井は突然大きな声で言いました。
僕は最初、何が起きたのかわからなくて、
彼と、隣に座る森作さんの顔を
交互に見ました。
「お前、今ふって笑ったろ!」
「いえ、そんな…」
森作さんはたじたじになって答えました。
「笑ったよな、ボクシングの試合でもねえのに
怪我したって思ったよな?」
「そ、そんな、笑ってないです…」
「あ!口元笑ってたろうが、
ボクサーのくせに避けれねえのかって」
「いえ…」
森作さんが委縮するたびに、
徐々に山野井の声が大きくなります。
ついに彼は、
拳をテーブルに叩きつけて、
「気に入らねえなら、表出ろ!」

周りはみな黙って、
ことの成り行きを見守っています。

僕は、少し掠れた声になって、
「森作さん、そんなつもりじゃないですよ、」
山野井は僕を見ると、
「お前は黙ってろ」
そこで、僕は抗うように声を大きくして、
「俺だって、俺だって最初、
試合でケガしたのかなって思いました」
「あんだと!」
山野井は僕を睨みつけて、
鋭い声で怒鳴りました。
 

プロジェクト501日目。

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2019/11/22  501日目
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『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
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今日で500回目を迎えました。
単なる数字の区切りですが、
毎日書くということを
500回続けてみましたんですね。

書く前後で何が変わったかといえば、
特に変化はなく、
相変わらず僕はサラリーマンで、
せっせと小説を書いている人間に過ぎません。
意識も、
特にこれといった変貌はありません。
僕はやはり、ただ淡々と、
文筆について考え、
仕事に追われる日々を
過ごしています。

なので、
というのも何ですが、
このまま続けて、
どうせなら1000回でも、
さらにその先でも
書いていこうと思っています。

それに、
これは自分なりの、
小説世界への
軌跡のつもりで書いていたものでして、
『Levelbook』中のお話は、
まだその端緒にあるにすぎません。
高校生と大学生を行ったり来たりで、
僕が本格的に小説を書くのは、
実のところ社会人になってからです。

そういうことで、
まだまだ、
その先がありますので、
読者のみなさんには、
さらに次の時間へと
一緒に進んでいただくことにします。

話の続きは、
『溺れる時代』を執筆するために、
自らの過去に触れているところです。
高校1年生、僕は新聞配達をしながら、
1人暮らしをしていました。

そこで知り合った、
山野井というボクサーからですね。

彼のことは、
今でも思い出します。
ボクシングの手ほどきを受けながら、
徐々に打ち解けていきましたが、
ある出来事をきっかけに、
疎遠になっていきました。

話は、
販売所の奥の居間で、
夕飯を食べている時のことです。

 

プロジェクト500日目。

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2019/11/21  500日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html

高校1年生だった僕より
4つも年上だった山野井は、
まあ、みんなに言わせれば、
少しひねくれたところのある、
ヤンキーあがりのボクサーでした。

才能はあったんでしょう、
残念ながら当時の僕に、
彼が他のボクサーたちと比べて
どう違うかなんてことは
さすがにわかりませんでした。

とにかく運動神経はよくて、
どんなスポーツでも
そつなくこなしていたのを
憶えています。

あの住宅街の公園で、
よくキャッチボールなんかもしました。
彼の投げる球は、
風を切る音がして、
途中からホップするように見えました。
パシンッと、
グローブに心地よい音が響きました。

そんな山野井だったんですが、
いつも世の中を斜めに見るような、
そんな発言が多かった気がします。
周囲とも馴染んでいて、
よく従業員たちとも
悪ふざけして笑っていましたが、
あれほど仲良くしていたかと思うと、
僕と2人のときに、
悪口を言ってみたりとか、
けして、誰も信じていない、
そういう感じでした。

「俺さ、ボクシングやめたら」
彼はそう口にしました。
始めたばかりの僕にとって、
なぜ彼がそんなこと言い出すのか、
不可解でした。
「他なんも取り得もねえしな、
まさかずっと
新聞配ってるってわけいかねえし」
「やめるんですか?」
「ふふっ」
彼は弾みのある笑いして、
「やめたらって言ってんじゃん、
たとえばだよ」

ちょっと読者の皆様に
お断りをしておきますと、
僕がこの『LevelBook』を、
自らの小説家への
道程として書いているわけです。
しかしながら、
この16歳当時、
僕の頭には小説なんてものは、
1ミリも存在していません。
今となっては、
信じたものを続けるという行為が、
最後に自分に残された
唯一の手づるのようですが、
さすがにまだ、
そんな信念めいた感覚もないのです。

だから、
彼らボクサーが
夢破れて田舎に帰っていくのを
多く見ましたが、
厳しい道であって、
成功者はほんの一握りであって、
それもありふれた風景でした。

だから僕は何も答えなかったのです。
彼が、どれくらいの強い気持ちで、
ボクシングをやっていたのかもわかりませんし、
それを知りたいとも思いませんでした。

ただ、自分には、
なにか信念を貫くものがないな、
そのくらいのことを
漠然と感じていたにすぎません。

 

プロジェクト499日目。

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2019/11/20  499日目
■kindle 本日0冊 累計75冊 達成率0.71% 
■文学賞公募作品の執筆状況 1作目半分くらい ※まだ賞は未定
■kindleアップのため『桜の闇』を推敲中
 158ページ中50ページくらい了
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kindleでは「セノイピープル」「バスストップ」「悲しきウスバカゲロウ」が読めます→
https://www.amazon.co.jp/s/ref=dp_byline_sr_ebooks_1?ie=UTF8&text=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&search-alias=digital-text&field-author=%E8%8A%B1%E6%9D%91%E5%81%A5%E4%B8%80&sort=relevancerank

『僕を知らない君へ』オープニング 1日目
https://ameblo.jp/levelbooks/entry-12445434453.html