心屋カウンセリングをファンタジー小説にしてみました➁ | ごっこ遊びdeキャラメイク☆ヒカリサス☆山本麻生(ヤマモトマイ)

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成長するまでに封印したキャラをやりたいことに合わせてごっこ遊びで開放するキャラメイキングのお手伝い
漫画好き

①を先に読んでね



なぜ、そんな当然のことを聞いてくるのか分からない。

今の自分が存在していいわけがない。

また会社に行ける自分にしてくれるなら、何にでもすがりたかった。

私は必死にうなづく。

「では、私の言うことに逆らわない。

それだけ約束してください。

安心してください。

ただ、言葉を口にするだけ。

それ以上は言いません」

 

私の頭は、もう、使いものにならないほど今の状況に疲れ切っていてうなづくことしかできない。

 

 

男は、両手を合わし、「はじめさせていただきます」と一礼した。

 

そして、飛びあがるとどこから出したか分らない大きな剣を振り回し、鉄筋を切ろうとする。

 

「私はダメな人間ですって言え!」

 

男は、弾かれてもモノともせず、鉄筋に挑んでいく。

私は、言われたことの意味が分からず、困惑する。

男はさらに畳みかける。

「今の自分から抜け出したいなら、言ってみろ。

言うだけ、口にするだけだ!」


 

私は、首を横に振った。

そんなひどい言葉を口にすることなんてできない。

涙が出た。

骨組みがギシギシと音を立てて揺れる。


「役に立てなくてごめんなさいならどうだ?」


それなら言える気がした。

ずっと会社の人に迷惑をかけた。

今も迷惑をかけ続けている。


「役に立てなくてごめんなさい」


鉄筋が一本バキリと折れた。


完璧になれなくてごめんなさい

一人前になれなくてごめんなさい

私が言葉を言わされる度に鉄筋は折れていく。


「これは、理想だ!

あんたがなりたかった人間像の成れの果てだよ!」

こんなに錆びて醜い色をして、私を構成してたもの。

あんなに頑丈そうに見えたのに、剣一本で折れていく。

「私はダメな人間です」

とうとう言わされた言葉がほとんどの鉄筋を破壊させた。


「この残骸は、これからの宿題だな」

鉄筋はなくなったわけでなく、山のように積まれたままだ。

私の頭の中に、会社での自分が走り回っている。

ダメな自分では許されない。

社会人だから、結果を残す人材じゃなきゃ、存在する意味がない。

そう思って動くほど空回りして、できないレッテルを張られて、抜け出せなくてもがいた日々。

目を開けてられないほど、涙がこぼれ出た。


「ダメでも愛されるって言ってみろ」

「ダメでも愛される


自分よりできないのに、みんなから愛されてる人がいた。

明らかに仕事量自分より少ないのに、みんなが助けていた。

その人の顔が思い浮かんで、むかついてくる。

 

「お母さん、助けてって、言ってみろ」

脳を揺さぶられたような気持ち悪さで、頭が麻痺したようになっていても、その言葉を言うことを体が拒否した。

仕事を辞めたことを家族から隠していた。

言えるわけがない。

ちゃんとできない人間を受け入れる家じゃない。

「お母さん、苦しいならどうだ?

ここに母親はいないんだからいいだろう」

「お母さん、私、苦しいの

破裂音がして、白いボールが一個はじけた。

お母さん、本当は私弱いんだよ。

お母さん、私、何もできなかった。

お母さん、私を愛して。

お母さんの育て方間違ってる。

こんな社会不適合者しかつくれなかったんだもん。

言葉を言わされる度に白いボールが次々破裂していく。

 

「あれは、あんたが飲み込んできた言葉だ」

 

 

お母さん、私を助けて

 

この言葉でたくさんのボールがはじけて飛んだ。

 

「今日は、ここまでにしよう。

経過を見て、また来るかどうかは決めますので」

 

私はすでに立ち上がることもできず、座りこんだまま顔を上げた。

涙と鼻水でボロボロになった顔で見上げた男の顔は少しタイプだったけど、その情報も処理できないほど私の頭は衝撃に疲れていた。

 

「あなたは、もっとお母さんに助けを求めてもいいんですよ。

私の依頼者は

 

男は、あなたのお母さんですよ。と言い捨てて消えた。

守秘義務とかないんだろうか。

 

私は、大量の鉄くずと、大量のボールと共に残された。

私が言えなかった言葉は、あんなに割れたはずなのに、こんなにこんなに途方もないほど残っている。

 

目が覚めると、枕は涙と鼻水で濡れてびしょびしょになっていた。

いつもは、起きるのも億劫だというのに、思わず笑いがこみ上げてくる。

―夢だけど、夢じゃない。

部屋は相変わらず汚くて、何曜日か分らない。

状況は何も変わってない。

それでも、自分の中で何かが変わったことが分かる。

 

 

ダメでもいい。

ダメでも愛されていい。

 

まずは、小さな一歩だけど、まだ、私はいろいろ抱えているけれど、そこからはじめよう。

 

まずは

私は携帯を手に取る。

 

奮える手で、母親の番号を出し、「発信」ボタンを押した。