鉄骨と白ボール
★ ★ ★
私の心は、いつも私を裏切っていく。
会社に行けなくなった。
ずっと前から少しづつ歯車が合わなくなってきてた。
気づいていたけど、手の打ちようがなかった。
私の心は、いつも私を裏切る。
がんばればがんばるほど、手のひらから零れ落ちて、無残な私の姿だけ残していく。
隠しようがなくなって、休職をすすめられた。
―ああ、私が会社にいることが邪魔なんだ。
―いなくなろう。
休職を受け入れた私は、家から出れなくなった。
家から出るのは、コンビニに行くことだけ。
一人暮らしの家はあっという間に汚くなり、
布団のぬくもりだけが、私を安全にさせた。
―会社に行ける「私」にならなきゃ。
と思えば思うほど、イライラした。
休んでも、休んでも、体は思い通りにならない。
寝るしかできない自分に焦りが募る。
曜日感覚がなくなってくると社会に取り残された気がした。
テレビも見れない。
テレビの騒がしさも、芸能人が必死に番組を作っていく姿も、ニュースも全ては体に突き刺さってきた。
―おまえは、ああやって頑張ることさえできないもんな。
と言われてる気がした。
何もかも見たくなくて、ゲームに手を出した。
麻痺したような気持ちで、ひたすら攻略のことだけ考える。
ゲームをしているときだけ、何もかも忘れることができた。
ゲームをして寝落ちしたはずなのに、変な場所にいた。
真っ暗な空間。
上も下もない場所。
「こりゃ、ひでぇな」
声にびっくりして振り返ると、男の人がいた。
TシャツにGパンというシンプルな姿に、勾玉と水晶が配置されたネックレスをしていた。
「見てみろよ」
男に促され、目線を戻すと、私は目を疑った。
錆びた鉄筋の骨組みが無秩序に縦横無尽に張り巡らされ、骨組みを押しつぶすように、バランスボールのような白い大きなプラスチックの玉があふれんばかりに詰め込まれている。
「これが、今のあんただよ」
意味が分からず困惑していると、男は、いつの間にか私の横に並んでいた。
「あらためまして、よろしくお願いします」
男の口調は、さっきと変わっていた。
「ご依頼により、あなたの救済に参りました」
私は男から逃げたくなった。
昨日の夜はお風呂に入らなかった。
化粧をした覚えもない。
手櫛で髪を整え、目線を落とす。
見られたくなかった。
「私は、心の中から治療するカウンセラーです。
あなたは、今の自分から変わりたいですか?」
2へ続く