めんたんぴん、デッド・ファミリー入り!? JAPANESE ROCKの夜明けから未来へつなぐもの | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

 

 

一昨日、ネットを見ていたら「富山出身の“無名の兄弟バンド”が全英チャート8位の快挙!」というニュースが目についた。成し遂げられそうで、なかなか成し遂げられない日本のロックの海外進出を“富山出身の無名の兄弟バンド”と紹介された「SAHAJi」というバンドがその壁を突き破った。まったく知らないバンドで、ネットで得た情報しか、紹介することができないが、興味のある方は以下のリンクから飛んで、読んでもらいたい。海外進出に企業や国家を上げて、取り組んでも必ずしも結果がでるわけではない。それがクリエイターとクリエイターとの繋がりがその突破口を開く――そんな物語が好きな私としては、ちょっと胸のすく思いでもある。

 

 

富山出身の“無名の兄弟バンド”が全英チャート8位の快挙!「嬉しさと驚きでいっぱい」本人らからメッセージも

https://news.yahoo.co.jp/articles/0ec7aa0c8b7a4ab8944dccad788549be45545080

 

 

 

 

日本ではほぼ無名、富山出身の兄弟バンドが全英チャート8位…CD一時売り切れ状態でSNSでも大反響

https://news.yahoo.co.jp/articles/ff373ef69831768b6523a6b3625e4b025ab767df

 

 

 

SAHAJi - Future In The Sky (Official Video)

https://www.youtube.com/watch?v=a0LGxquvP_I

 

 

 

Shotaro Nishida(SAHAJi)

https://twitter.com/ShoutarouN

 

 

 

実は、彼らのニュースが強く響いたのは数日前に日本のロックの海外進出に関わる飛び切りのニュースを聞いたばかりだったからだ。それも富山とは隣県の石川のバンドのリーダーがあるイベントで、驚愕の事実を話してくれたのである。すぐにXなどで拡散しようと思ったが、念のため、主催者に公開の確認を取り、正確に記述するため、その音声ファイルも入手した。

 

 

そのイベントとは、このGW期間中、5月3日(金・祝)に原宿クロコダイルで開催された「SNARE COVER Presents Special Talk&LIVE Session JAPANESE ROCKの夜明けから未来へつなぐもの その3」である。日本のロックの半世紀のヒストリーを「地方都市からのロック」「カルチャーとロックンロールアート」という目線で語る夜で、ゲストとして佐々木忠平(めんたんぴん from小松)、あがた森魚、三原康可、武田チャッピー治、川上シゲなどが出演。今回のテーマに関しては、音楽コーディネイターの吉田ハリー(千年COMETS、X-JAPANなどを手掛ける)とともにモデレータ―、プレゼンターを務めるSNARE COVERは北海道出身で、現在も同地に居住し、音楽活動を続けている。まさに身近な話題だろう。

 

この「SNARE COVER Presents Special Talk&LIVE Session JAPANESE ROCKの夜明けから未来へつなぐもの」は第1回を昨2023年12月5日(火)に同じく原宿クロコダイルで今井裕をゲストとして日本のロック半世紀のヒストリーを「プログレ」目線で語る夜をテーマに、第2回を本2024年3月1日(日)に同じく原宿クロコダイルで岡井大二、あがた森魚、寺中名人をゲストとして半世紀のヒストリーを「プログレ」「フォーク」「アート」目線で語る夜をテーマに開催されている。今井裕がサディスティック・ミカ・バンドの『黒船』制作時のエピソードを語り、東京では久しぶりになるライブパフォーマンスを披露、また、岡井大二が四人囃子とプログレの関わり(実はあんまり関わりがない)、四人囃子とOZと寺中名人とのジミヘンセッションなど、このイベントでしか、聞けないトークやライブが目白押し。また、あがた森魚が内田裕也やJOE山中、桑名正博、安岡力也などの拠点だった“原宿クロコダイル”で内田に筋を通しに会った際、その場に立ち合った三原康可の眼前で「俺の知らない内田裕也は俺の知ってる宇宙の夕焼け」を歌うというスリリングな場面もあった(実はこの日も同曲が披露されている)。

 

(写真左から)このイベントの仕掛人、ハリー吉田、

佐々木忠平(めんたんぴん)、あがた森魚、三原康可、

武田チャッピー治、川上シゲ

 

 

日本のロック史を紐解くと、「地方の時代」と言われる時期があった。石川県の小松からはめんたんぴんが『MENTANPIN』、愛知県の名古屋からはセンチメンタル・シティ・ロマンスが『センチメンタル・シティ・ロマンス』、福岡県の博多からはサンハウスが『有頂天』で、1975年に相次いでメジャー・デビューしている。その前年、1974年8月4日から5日、同8日から10日に福島県郡山市開成山公園内の総合陸上競技場で開かれたロック・フェスティバル「ワンステップフェスティバル」に3バンドとも出演している。共通しているのは東京拠点ではなく、地元を拠点として、その音楽も東京色に染まることなく、独自の発展をしてきていることだろう。

 

めんたんぴんは、佐々木忠平の強烈なヴォーカルと独特の世界観のある歌詞、トリプルギター、ツインドラムというサザンロックを彷彿させる豪快なサウンド、楽器だけでなく、自前のPAを4トントラック(ハイエース)に積み込み、自ら運転して全国を“コンサートツアー”をしながら回る活動スタイルが“日本のグレイトフル・デッド”とも言われた。また、全国をツアーして回るだけでなく、地元・小松で全国のバンドを呼んで「夕焼け祭り」というイベント(というか、フェスの先駆けだろう)も開催している。

 

 

状況説明が長くなってしまったが、5月3日(金・祝)、原宿クロコダイルで、佐々木忠平が語った驚愕の事実を書き留めておく。佐々木は“多分、知っている人はほとんどいないと思うけど”と前振りをしている。実際、この日の会場に来ていた方にとっては初耳のことばかりだったようだ。

 

 

「昔、フリートウッド・マックっていたでしょう。ある音楽評論家が日本の音楽家のテープをドラマーのミック・フリートウッドへ聞かせたら、ミックがこのバンドをプロデュースしたいと、それがめんたんぴんだったんですよ。急遽、僕らはフリートウッド・マックの「ペンギン・オフィス」に入って、フリートウッド・マックの前座をするという話になっちゃったんですよ。で、国内のレコード会社は僕らの取り合いになった。それはそうですよね、『噂((Rumours))』(1977年)が売れて、ビートルズの(セールス)記録を抜いた時代ですから。その話と同時期にコッポラ(フランシス・フォード・コッポラ)の映画『地獄の黙示録』(1979年公開)のサウンドトラック盤を作って、日本に来ていたグレイトフル・デッドのパーカショニストのミッキー・ハート(同映画のジャングルから聞こえるざわめきとして、その部分のスコアを依頼されたミッキー・ハートは『黙示録・セッション・バンド』としてRhythm Devilsを特別に結成し演奏している)と知り合っていたんですよ。ミッキー・ハートもめんたんぴんをえらい気に入ってくれた。彼のプロデュースで2曲くらいレコーディングしたんですよ。ミッキーはそれをジェリー・ガルシアに聞かせた。ジェリーがいいバンドだと、そうしたらミッキーがアメリカに来い、と。これは同時期ですよ。僕らはフリートウッド・マックを選ぶか、グレイトフル・デッドを選ぶか――僕らはそういう岐路に立たされたんです」

 

嘘のような本当の話である。海外進出などと大言壮語することなく、自然と世界が彼らに歩み寄ってきた。しかし、それは現であるものの、幻に終わる。

 

佐々木はその顛末を自己憐憫的にならず、ある種、運命を受け入れたかのように晴れがましく、こう語った。

 

「その話をしたら嫁さんは狂喜乱舞しましたよ。でも、この話を嫁へ話しながら僕は靴下が破れていたのが気になっていた。現実に破れた靴下を履いていたんですよ。その時、もうベースがやめようと言ったんですよ。これでいいじゃないか。一番、良い時にやめよう。それで僕らはフリートウッド・マックにもグレイトフル・デッドにも靡かずにやめるんです」

 

佐々木はこう続ける。

 

「疲れ果てていたんですよね。事務所もなく、自分達だけでバンド活動をするのは過酷ですから。ベーシストはもう俺は手一杯だ、と。アメリカへ渡ってまでやりたくないと言った。ものすごく、その言葉が響いていてね。じゃあ、もういいや。めんたんぴんは石川県の単なる田舎バンドだと思っていたでしょう。違うんですよ。数奇な運命に左右されたバンドなんですよ。僕は行きたかった。グレイトフル・デッドは大好きですから。ミッキーは日本が好きで、道場も持っていた。朝は味噌汁を飲むと言ってたんですよ。この男は信用できるな。グレイトフル・デッドの仲間入りをしたかったんですよ。でもベースの意見にくみしましたね。バンドって、そういうものなんですよ」

 

 

PAシステムやツアートラックの購入のための2000万円の借金もしていたという。それが真綿のように彼らの首を絞めたのかもしれないが、それを後悔はしてないようだ。全国を“聞かせてあげるいなか”とツアーして回り、その時に撒いた種が各地で育つ。佐々木忠平自身も音楽活動はやめていない。制服向上委員会や鬼頭径五などをプロデュース、地元・石川県の小松を中心に音楽活動を繰り広げ、松田ゆかりとのユニット「ステラブルー」でも活動。2005年にソロアルバム『日本競馬狂想曲』、2006年にはオリジナル・リズム隊では26年振りになるめんたんぴん名義のニューアルバム『イロニアの音謡』をリリースしている。また、音楽制作の傍ら、地元の新聞にコラムなどを寄稿、様々なイベントにも関わっているようだ。この1月に被災した地元・石川の復興を期して、能登や加賀温泉の魅力を発信もしている。

 

佐々木忠平ソロセット&バンドセット

 

 

この日、佐々木忠平はトークセッション後、エレクトリックギターの弾き語りで「国道8号線」、「木こりの唄」、「春」、川上シゲや武田チャッピー治などを加えたバンドセットで「コンサートツアー」、「今日も小松の街は」など、めんたんぴんの名曲を披露してくれた。驚いたのは佐々木のヴォ―カリストとしての変わらなさである。とても1951年生まれ、70歳超えとは思えない。当時のまま骨太で、迫力ある歌声を聞かせ、曲間に挟むトークもいい意味で不適切にもほどがある(笑)。

 

 

冒頭にSAHAJiのことを書いたが、隣県と言うだけで、彼らと佐々木忠平が特に面識や交流があるとは思えない。ただ、偶然とはいえ、北陸に東京経由ではなく、直に世界と渡り合うバンドがいることが驚きである。佐々木は当時を“地方の時代”だったと言っている。「地球規模で考え、地域で行動する(Think globally, Act locally)」という言葉もあった。東京を経由せず、直接、海外へ、何かを発信する。両者には通じるところがあるのではないだろうか。佐々木は自らのことを“石川県で一番、ほらふきといわれています”と、照れ隠しをする。佐々木にはもっと、ほらを吹いてもらい、そのほらを現実のものとして、もっと楽しい音を聞かせて欲しい。

 

NION(三原康可+武田チャッピー治)+川上シゲ

 

あがた森魚バンドセット

 

この日、出演したミュージシャン、あがたや佐々木、川上、武田、三原など、決して若くはなく、人生の山を登り切り、そろそろ下山の時期にはいっているといっていいかもしれない。火野正平(腰痛の回復を祈る!)が“人生下り坂、最高!”と言っていたが、不思議なことにその音楽は衰退し、枯れるどころか、瑞々しく、清涼である。まだまだ、楽隠居など、して欲しくないのだ。

 

 

 

実は、めんたんぴんはデビュー当時、度々、見ている。度々というか、積極的に見ていると言っていいだろう。1975年9月12日に中野公開堂で行われた「MENTANPIN IN TOKYO(中野公会堂)」へ行っている。その日のゲストはシュガー・ベイブだった。シュガー・ベイブをリアルで見ているのだ。ちょっとした自慢である(笑)。それ以前、同1975年8月23日には石川県加賀市山中町水無山スキー場で開催されためんたんぴんが主催するイベント「第2回 夕焼け祭り」へも行っているのだ。まだ、高校生だったと思うが、列車(まだ、新幹線などは運行していない)で金沢まで行き、そこから自転車で福井の吉崎御坊の願慶寺へ行き、当時はユースホステルとして運営した同所に宿泊。翌朝、自転車で会場を行き、初のオールナイトロックフェスを体験している。いたいけな高校生を北陸まど走らすなど、すごいことではないだろうか。それだけ、めんたんぴんには人を動かす力があったのだ。いまは記憶がおぼろげながら、自分にとって“日本のロックの夜明け”でもあった。

 

 

Sunset Glow Festival 1975 & 1976 (夕焼け祭り)

https://www.youtube.com/watch?v=WQUyPrBpUOY

 

 

 

 

 

めんたんぴん/佐々木忠平のブログ「イロニアの音謡」

http://blog.mentanpin.jp/

 

 

 

謡楽音産ホームページ

http://yogakuonsan.com/index.html

 

 

この「SNARE COVER Presents Special Talk&LIVE Session JAPANESE ROCKの夜明けから未来へつなぐもの」の第4回は、まだ、告知されていないが、機会があれば是非、ご覧いただきたい。半世紀のヒストリーを見直すことで、新しいものの見方や古い音が実は新しいものに聞こえてくるかもしれない。原宿クロコダイルのスケジュールをチェックして欲しい。

 

SNARE COVERソロセット&バンドセット

 

https://crocodile-live.jp/events/event/snare-cover/?fbclid=IwAR1JVeRmIbv4-S24-o6OU8QDDr1DM949NHHFGOaDm6BUH6-CyM0qlQn9nGY

 

 

 

 

 

https://crocodile-live.jp/events/event/japanese-rock%e3%81%ae%e5%a4%9c%e6%98%8e%e3%81%91%e3%81%8b%e3%82%89%e6%9c%aa%e6%9d%a5%e3%81%b8%e3%81%a4%e3%81%aa%e3%81%90%e3%82%82%e3%81%ae-%e3%81%9d%e3%81%ae%ef%bc%92-%e5%8d%8a%e4%b8%96%e7%b4%80/

 

 

 

 

 

https://crocodile-live.jp/events/event/snare-cover-presents-special-talk%ef%bc%86live%e3%80%80session-japanese-rock%e3%81%ae%e5%a4%9c%e6%98%8e%e3%81%91%e3%81%8b%e3%82%89%e6%9c%aa%e6%9d%a5%e3%81%b8%e3%81%a4%e3%81%aa%e3%81%90%e3%82%82/