銀河鉄道999――歓喜と旅立ちの歌『GODIEGO meets 新日本フィルハーモニー交響楽団』 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

漫画家・松本零士さんが急性心不全のため、2月13日(月)に都内の病院で亡くなった。享年85になる。松本さんについては説明不要だろう。ゴダイゴのミッキー吉野、タケカワユキヒデも追悼と弔意を表している。2019年に旅先のイタリアで倒れて救急搬送された。帰国後は体調回復という報道もあったので、心配はしていたが、やがて復帰するものと思っていた。それだけに残念でならない。改めて哀悼の意を表し、謹んでお悔やみ申し上げます。

 

 

松本零士さんとは個人的な面識や交流はなかったが、ゴダイゴのパンフレットなどでは事務所を通して、ゴダイゴへのコメントをいただいている。2020年に逝去され、同じく度々、コメントをいただいた大林宜彦監督とともにゴダイゴを語る上では欠かせない最重要人物である。ゴダイゴの活動の節目には彼らがいたといっていいだろう。

 

 

実は彼らに関わりある「銀河鉄道999」(これも説明不要だろう)と「君は恋のチェリー(CHERRIES WERE MADE FOR EATING)」(同曲は大林監督の初監督作品『HOUSE』 の挿入歌になっている)を数週間前にゴダイゴのライブで聞いたばかりだった。

 

ゴダイゴにとっては浅野孝已も出演した2019年11月16日(土)の東京「中野サンプラザ」公演以来、3年3か月ぶりの東京でのホールコンサート。2月4日(土)に東京「すみだトリフォニーホール」で、ゴダイゴと新日本フィルハーモニー交響楽団との共演『GODIEGO meets 新日本フィルハーモニー交響楽団』が開催された。同公演はすみだトリフォニーホールの開館25周年記念特別企画でもある。

 

同公演は2部構成で、第一部がゴダイゴと竹越かずゆき、ゴダイゴホーンズ(ホーン・アレンジ:吉田治)による「GODIEGO スペシャル・ステージ」、第二部がゴダイゴと竹越かずゆき、ゴダイゴホーンズ、新日本フィル(指揮・編曲:外山和彦)、そしてクワイヤーのザ・ソウル・マティックス(コーラス・アレンジ:池末信)による「GODIEGO meets 新日本フィル」になっていた。

 

 

会場自体は通常、クラシック対応だが、ジャズやポップスのコンサートも開催され、過去にはパット・メセニーやトゥーツ・シールスマンス、トッド・ラングレンやフィリップ・グラス&パティ・スミスなどもライブを行い、八代亜紀やミシェル・ルグラン、TAKE6、ザ・チーフタンズなどは同ホールをフランチャイズする新日本フィルと共演している。JR、東京メトロの錦糸町が最寄り駅、同駅から徒歩5分、商業施設やホテルなども隣接する。会場入場口のデッキやロビーからはスカイツリーも望めるという好立地。大ホールの座席数は1801席(1階1040席・2階233席・3階528席)という中規模のホール。クラシックにありがちな堅苦しさはなく、カジュアルなところで、下町の文化拠点、音楽の殿堂と言っていいだろう。

 

この日、会場の大ホールは1階から3階まで、空席はなく、観客で埋まる。ソールドアウト状態らしい。開演時間の午後3時を少し過ぎ、「THE BIRTH OF THE ODYSSEY」のお馴染みのシンセサイザーの音が鳴り響き、「MONKEY MAGIC」が始まる。“新生ゴダイゴ”の誕生を高らかに宣言するかのようだ。同曲を引き継ぐように「ホーリー&ブライト」や「STEPPIN' INTO YOUR WORLD」、「(カミング・トゥゲザー・イン) カトマンズ」、「LEIDI LAIDI」、「はるかな旅へ(WHERE'LL WE GO FROM NOW)」という、アルバム『西遊記(MAGIC MONKY)』(1978年)や『OUR DECADE』(1979年)、『KATHMANDU(カトマンドゥー)』(1980年)などに収録されたゴダイゴの“旅歌”(“HOBO SONG”)達が続く。ゴダイゴの新しい旅の始まりかもしれない。そして、「君は恋のチェリー(CHERRIES WERE MADE FOR EATING)」、「ビューティフル・ネーム」というゴダイゴとは何かを物語るポップ・チューンを畳みかける。タケカワはMCの中で明るい時代が近づいてきたと告げる。確かに「ビューティフル・ネーム」など、マスク越しの歓声は解禁になったものの、まだ、マスクなしで歌声を上げることは規制されている。ウーアーウーアーという、お馴染みの“コーラス合戦”は出来ない。同曲を歌う時にタケカワは“心の中で歌ってください”と語ったが、もう少ししたら歌声を上げることもできるだろう。いずれにしろ、もう少しの辛抱だ。そんな思いを抱きながら、第一部は40分ほどながら、怒涛のように過ぎていった。ゴダイゴらしさを凝縮した第一部だが、飛沫感染防止のパーテーションのせいなのか、マイクの位置やPAの不調なのかわからないが、ホーンセクションの音とタケカワの歌が被ってしまい、ちゃんと聞き取れないというアクシデントが発生した。第一部の終了後、そのことにクレームを入れる観客も少なくなかった。私自身、1階席の前後、左右ともに中央、PA卓の数列前だったが、ホーンの音が歌にぶつかる(という表現が正しいかもしれない)のが気になって、集中できなかった。第二部からはそんなこともなく、歌も演奏もバランス良く、聞こえ、トラブルの発生は感じなかった。ただ、客席の位置によっては、そのトラブルが解消されないところもあったようだ。演奏は完璧だっただけに残念でならない。

 

 

休憩は30分、長すぎると言う声も上がるが、PAの位置や音声の調整、物販の購入(!?)には必要だったかもしれない。

 

第二部はゴダイゴと新日本フィルの共演である。この日のため、外山が作曲した「前奏曲」からステージが始まる。短い曲ながら次のアルバム『OUR DECADE』(1979年)に収録された名曲「ザ・サン・イズ・セッティング・オン・ザ・ウェスト」への見事なバトンとなる。同曲ではバンドサウンドとストリングスの協調があった。下世話ないい方になるが、シンフォニックロックとは何か、改めてその意味を問いかけ、同時にあるべき姿を指し示す。シンフォニックだからといって、ただ、バンドサウンドにストリングスやホーンを厚塗りするように重ねればいいというものではないし、安物のBGMのように華美にする必要もないだろう。

 

続いて、1999年の期間限定の再結成の際にリリースされたアルバム『ホワット・ア・ビューティフル・ネーム(What A Beautiful Name)』に収録された「地球を我が手に(WE'VE GOT TO GIVE THE EARTH A CHANCE)」を披露する。タケカワとトミー・スナイダーの共作で、歌詞も英語と日本語で交互に歌われる。同アルバムこそ、再評価されるべき作品だと思うが、いまでいうシティポップなどに通じる同時代性を持ったナンバーだろう。ストリングスが前に出過ぎることなく、慎ましやかに歌を飾る術は見事としかいいようがない。

 

そして説明不要の「ガンダーラ」。ミッキーはダンヒルサウンドを下敷きにしたというが、同時代のフォークロックをベースにストリングスが叙情的に被さる。エモーション増し増しながら曲の気高さは失われることなく、聞くものに迫る。

 

同曲の後は「PIANO BLUE」、「SOMEWHERE ALONG THE WAY」、「GUILTY」……と、ゴダイゴを長く聞いていた方なら心に刺さる“隠れた名曲”が披露される。「PIANO BLUE」はノンコンセプトアルバム『M.O.R.』(1981年)に収録された名曲で、最初で最後の“ファイナルツアー”の模様を収録した2枚組(LP1枚+12インチシングル1枚)ライブアルバム『インターミッション』にも収録されている。ミッキーのピアノに合わせ、タケカワが歌う。往時を彷彿させる。「SOMEWHERE ALONG THE WAY」はゴダイゴのアルバムには未収録(同曲の日本語ヴァージョンは元祖ジャニーズ、あおい輝彦が1976年にリリースしたアルバム『スタートへの出発』に「サヨナラ・マイ・ラブ」として提供されている)だが、タケカワのソロアルバム『レナ』(1980年)に「あの頃」として収録されている。ゴダイゴがブレイク前のコンサートではアンコールで演奏されている。同曲の浅野孝已の流麗でいて情緒的なギターソロは白眉というべきもので、いまでもその光景が浮かぶ――そんな感想を抱く方も多いだろう。残念ながら浅野はいない。ジャズやクラシックの知識と技術を持つ吉澤洋治が同曲を自らの色に染め、新しい「SOMEWHERE ALONG THE WAY」を作っていく。「GUILTY」はアルバム『FLOWER] (1985年)収録のこれまた、切なさと哀しみを湛える隠れた名曲である。作詞をトミー・スナイダーとジョニー野村(クレジットはWILL WILLIAMSになっている)、作曲をミッキー吉野の横浜の友人で“ジー・リミテッド・スタジオ”のオーナー、野中三郎、編曲をミッキーが手掛けている。同作も時期的に全盛期以降ということで、クオリティーが高いにも関わらず、スルーされがちだが、再注目してもらいたい。同作ほど、シン・ミックスが待たれるアルバムもないだろう。

 

そして、「MILLIONS OF YEARS」、「DEAD END~LOVE FLOWERS PROPHECY」、「MIKUNI」……と、ゴダイゴの実質的なデビューアルバム『DEAD END』(1977年)の珠玉の名曲が新日本フィルのストリングスやブラス、ザ・ソウル・マティックスのコーラスによって、アルバムを再現するとともにオリジナルを凌駕する歌と演奏で聞くものを圧倒していく。実は、“コロナ禍”という袋小路にある現在の状況とも二重写しであり、同作のメッセージは図らずも時代と共振する。まさに今日的なメッセージではないだろうか。同作に収録された名曲をいま演奏する意味があるというものだ。

 

“DEAD END”のブロックはサポートの竹越かずゆきが八面六臂の大活躍をする。タケカワのヴォーカルを引き立てるサイドヴォーカルとして、ミッキーとのオルガンバトル(!?)を盛り上げるキーボーディストとして、その存在感が増している。いろんな意味で、ゴダイゴというバンドがさらなる成長を遂げるには彼の存在がなくてはならないだろう。昨2022年5月12日(木)のブルーノート東京、9月18日(日)の大阪新歌舞伎座の浅野孝已のいないライブを経験して、竹越かずゆきとして出来ることは何かを彼自身も強く意識したのではないだろうか。

 

ゴダイゴのメンバーを含め、ストリングスやブラス、クワイヤーなど、総勢100名近い大所帯ながら、それが融合し、ひとつになることでゴダイゴの核のようなものが際立ってくる。まぜるな危険ではなく、交わることで有機的な化学反応のようなものが目の前に起こる。

 

その奥深い世界に耽溺しつつも、ゴダイゴはさらなる深い淵へ誘うかのように「THE GREAT SEA FLOWS」を披露する。同曲は先のライブアルバム『インターミッション』の12インチシングルのために書き下ろされた新曲で、ツアー終了後にスタジオ録音されている。(同曲にカップリングされた「HEARTS ARE RED AND TEARS ARE BLUE(明日を夢見て)」とともに作詞を奈良橋陽子、作曲をタケカワユキヒデが手掛けている)同曲で久しぶりにタケカワユキヒデと奈良橋陽子のコンビが復活した。揺蕩う水面を思わす、波紋のようなグルーブを紡いでいく。最初の解散の掉尾を飾るゴダイゴらしいナンバーである。この惜しげもなく名曲をこれでもかと披露するセットリストにその場にいる誰もが満たされた気持ちになったはずだ。

 

 

同曲を歌い終えると、メンバーはステージから消える。そしてアンコールを求める拍手は鳴りやまない。新日本フィルとザ・ソウル・マティックス、タケカワ、ミッキー、トミー、スティーヴ・フォックス、竹越かずゆきなどがステージに戻って来る。段取りを勘違いしたか、吉澤だけがなかなか、戻ってこない。5分ほど遅れて、彼が現れる。スティーヴからきつい一言がありつつも彼は相変わらずマイペース。それが彼らしく、それを受けいれるところもゴダイゴらしいのかもしれない。

 

そして演奏されたのはエルガーの「威風堂々」をモチーフにしたゴダイゴ流シンフォニックロックの傑作「平和組曲(威風堂々)」である。誰もが待ちかねたかのように拍手とマスク越しの歓声で同曲を迎える。やはり、同曲も浅野孝已の聞かせところのフレーズもあるが、吉澤は浅野のフレーズをなぞりながらも吉澤ならではの閃きあるフレーズを披露する。名曲が新たな名曲として蘇り、観客を虜にしていく。今、この曲を演奏する意味を改めて説明する必要はないだろう。“You’re no leader,Just a faker”という歌詞はこんな時代だからこそ、突き刺さる。

 

そしてフィナーレはこの曲しかない。「銀河鉄道999」が満員の客席に向けて放たれる。観客は総立ちになり、何か、同曲によって、この息苦しく、生きづらい現在の“状況”から解き放ち、軛を断ったかのようだ。タケカワが明るい時代が来ると言っていたが、それを確信したかのように会場は歓喜に溢れ、笑顔に満たされる。今も昔も多くの人達の旅立ちや始まりを見守った同曲はゴダイゴ自らの新たな旅立ちを祝福し、同時にその冒険や挑戦を後押ししていく。

 

この時代を照らしつつ、新たな旅立ちを宣言する。ゴダイゴの始まりの瞬間に立ち合えた――そんなステージではないだろうか。

 

不覚にも胸が熱くなり、自然と涙が溢れる。歓喜の涙など、いつ以来だろうか。変な言い方だが、まさか、「銀河鉄道999」にやられるとは思っていなかったのだ。すべての曲が終わり、客席を立ち、会場ロビーに出ると、そんなことを嬉しそうに語り合う方も少なくなかった。

 

ゴダイゴの2023年が始まった。今年こそ、もっと、たくさん彼らのライブを見たいし、新曲も聞きたい。いろいろ緩和されつつも予断は許さない状況ではあるが、漸く、“ACTION”を期待できる状況になったと言っていいだろう。本当に楽しみにしている。

 

 

昨日、2月21日(火)の早朝、TBSの安住紳一郎アナウンサーが司会を務める『THE TIME,』では松本零士さんへの追悼として、昨秋までの同番組テーマ曲だった「銀河鉄道999~シン・ミックス~」が流された。昨2022年10月にテーマ曲がMISIAの「おはようユニバース」に変わった時は少し寂しさを感じたものの、漸く慣れてきたが、こんなことがあると、また、寂しさを感じてしまう。やっぱり、旅立ちと始まりは「銀河鉄道999」である。そういえば、“A journey to the stars”を“A journey to the start”と、しばらく勘違いしていたこともあった(苦笑)。

 

 

 

<第一部 GODIEGO スペシャル・ステージ〉

 

1 THE BIRTH OF THE ODYSSEY~MONKEY MAGIC

2 ホーリー&ブライト

3 STEPPIN' INTO YOUR WORLD

4 (カミング・トゥゲザー・イン) カトマンズ

5 LEIDI LAIDI

6 はるかな旅へ(WHERE'LL WE GO FROM NOW)

7 君は恋のチェリー(CHERRIES WERE MADE FOR EATING)

8 ビューティフル・ネーム

 

 

〈第二部 GODIEGO meets 新日本フィル〉

 

9前奏曲(OVERTURE)

10 THE SUN IS SETTING ON THE WEST

11 WE'VE GOT TO GIVE THE EARTH A CHANCE

12 ガンダーラ

13 PIANO BLUE

14 SOMEWHERE ALONG THE WAY

15 GUILTY

16 MILLIONS OF YEARS(時の落し子)

17 DEAD END~LOVE FLOWERS PROPHECY

18 MIKUNI(御国)

19 THE GREAT SEA FLOWS

 

EN

20 平和組曲(威風堂々)

21 銀河鉄道999