トーク・イベントの五輪やー!「伊藤銀次徹底研究2016 PART4」報告&「同PART5」告知! | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

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Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

ようやく、喧噪と狂騒のオリンピックが終わった。試合や競技そのものは各々に物語があり、心躍らされる光景もたくさんあった。特に競歩と男子体操の勝負を超えたフェアプレイの精神には感銘も受けたが、亡き父や亡き母、恩師との絆…など、メディアの物語の盛り過ぎにすっかり白けてしまった。おまけに閉会式の最後にはとんでもないものを見せられてしまったのだ。アンダーコントロールではなく、メルトスルー。吐き気がする。勿論、ロマンティックではない。
 
良くも悪くも五輪三昧にうつつを抜かしていたら、すっかり今週、9月2日(金)に迫った<80's But Goodies Special「MUSICIAN FILE Vol.1 伊藤銀次 徹底研究 2016 PART5(!)」>のちゃんとした告知をし忘れてしまった。直前になるが、同イベントの告知を兼ね、前回、6月12日(日)に開催した<80's But Goodies Special「 MUSICIAN FILE Vol.1 伊藤銀次 徹底研究 2016 PART4」>の模様も改めて報告しておく。“PART5”の予習、復習として、お読みいただきたい。

生まれてから現在まで、伊藤銀次の“現在・過去・未来”を大河ドラマのようなスケールで、伊藤自らが語り下す「伊藤銀次 徹底研究 2016」。時系列に時代を追いつつもタイムマシーンの如く、行ったり来たりするものだから“進まんなぁ”状況である。だが、それゆえ、どこから聞いても楽しめる、途中乗車・下車も可能。見るなら、いつでも“いまでしょ”だ。
 
前回、“PART4”は東芝EMI時代の『GET HAPPY』(1986年7月)の“ハッピーじゃない”理由から話してもらった。佐野元春や沢田研二、アン・ルイスなど、アレンジャーとしての成功は、伊藤へ多くの仕事をもたらした。同時に自らのコンサート・ツアーのほかにラジオなどのレギュラーを持つなど、仕事量は膨大になる。連日、仕事に明け暮れ、休みも取れないほど、多忙を極める。
 
そんな中、アレンジャーとしてはアイドルからタレント、バンドまで、ものによっては歌詞もない、全体像がわかないという状況で、編曲しなければならなかった。ただ、アレンジをするだけで、作品全体に関われず、最後まで責任を持てないという状況に疑問を持つようになる。それが後のプロデューサー銀次へつながるのだが、それは、また、別の話(笑)。
 
同時に伊藤も30代半ばを過ぎ、40歳を目前に早過ぎた“ミドルエイジ・クライシス”ではないが、40歳の大人がすべきことは何かを自問自答してもいた。
 
また、前回も触れていたが、BOΦWYをはじめとするロックの時代の到来も危機感をあおることになる。他にもバービーボーイズやハウンドドッグ、ストリート・スライダーズ、レベッカ、プリンセス・プリンセスなど、本格的なバンド・ブームも間近に迫っていた。バービーのいまみちともたかやPSY・Sの松浦雅也など、新たな才能への畏怖や羨望もあったとは前々回も語っている通り。
 
さらにポリスターとは違う東芝EMIというビッグ・カンパニーでの制作や宣伝など、環境の変化に戸惑うこととなる。身の置きどころをなかなか、見つけられないでもいた。
 
『GET HAPPY』はELOやバグルズ、ティアーズ・フォー・フィアーズ、スクリッティ・ポリッティなどにも通じる打ち込みを主体としたエレクトロ・ポップ的な曲調が多かったが、続けて、『NATURE BOY』(1987年3月)はスタイル・カウンシルやプレファブ・スプラウトなど、アコースティックなソウルテイストのものになる。両作とも作品そのものの質は極めて高く、佳作というべきものだが、試行錯誤、右往左往、七転八倒(はしてないか)が見て取れる。40歳を前にした過渡期ともいえるだろう。
 
そうした経緯があり、伊藤はロンドンへと舵を取り、同地でレコーディングやミックスダウンをした『HYPER/HYPER』(1988年3月)『DREAM ARABESQUE』(1989年4月)『山羊座の魂』(1990年5月)という “ロンドン3部作”が生まれる。まずはロンドン行きへの経緯を語ってもらった。
 
洋楽と邦楽。いまでは邦楽だけで、洋楽を聞かない人も多い。RCサクセションは聞いてもストーンズやサム・クックを聞かないというか、知らない人ばかり。Jポップと呼ばれる音楽が閉塞感を抱かせ、根無し草による不安感を煽るのは、洋楽を知らないという影響もあるだろう。伊藤はいうまでもなく、ロックは海外のもの、追いつけ、追い越せでやってきた世代である。常にアンテナを張り、音楽のルーツや同時代音楽の研究、研鑽を重ね、自らの音楽を更新、刷新してきた。当然、ただ、流行りのものを剽窃するのではなく、敬意と愛着を込め、継承していく。そんな基礎教養があってこその音楽制作だが、その基礎なし、根無し草がいまの音楽がつまらない原因とも指摘する。今年上半期、話題になった某バンドを引き合いに出し、へなちょこーと指弾する。もっともそれは個人攻撃などではなく、Jポップそのものの脆弱さに危機感を抱いているが故のこと。
 
改めていうまでもないが、伊藤は海外の音楽を日本に置き換える(と、単純なものではなく、影響を受けた上で、幾層にもひねりを利かせている)――それに呻吟、切磋琢磨してきた世代である。伊藤の耳目をとらえたのが当時の英国の音楽だった。
 
ロンドンやマンチェスターなどを中心に生まれたポストパンクのサイケデリックやネオアコな音楽群だった。スミスやアズテック・カメラ、ストーン・ローゼズ…などを好んで聞き、特にジュリアン・コープには多大な影響を受けたという。
 
ちなみに、そんな音楽の水先案内人となったのが音楽雑誌『CROSSBEAT』だった。そこに紹介される音楽をむさぼるように聞いたという。いわゆる洋楽を紹介する雑誌は同誌だけではないが、変に教条主義的、新興宗教的な某誌は馴染めなかったが、同誌はすんなりと入ったそうだ。多少、因縁めくが、来年デビュー40周年を迎える彼のヒストリーブックを同誌の編集で出ることも当日、初めて明かされた。

ニューヨークでもロスアンジェルスでもなく、ロンドンだった。こうして“ロンドン3部作”--『HYPER/HYPER』(1988年3月)『DREAM ARABESQUE』(1989年4月)『山羊座の魂』(1990年5月)が生まれる。その背景には日本のスタジオ代金の高騰もあった。海外で録音する方がエンジニアを含め、妥当な料金で済み、かつ、海外録音の模様を音楽専門誌に取材してもらい、宣伝するという利点もあった。

『HYPER/HYPER』はサイケデリックでカラフルなサウンドが特徴だが、その歌詞も工夫が凝らされている。特に伊藤が作詞した「ミスター・グレイマンの憂鬱」では、敢えて自分と同世代、かつ、一般の男性を歌ういという試みがされている。どぶねずみスーツに代表されるサラリーマンの悲哀を歌ったものだが、ロンドンで、どぶねずみスーツ(グレイスーツ)の説明に手こずったそうだ。
 
『HYPER/HYPER』に次ぐ、『DREAM ARABESQUE』に収録される「ロックスターの悲劇」は、もともとは「ミスター・グレイマンの憂鬱」の女性版として作られた。キャリアを重ねた総合職の女性が海外出張先でトラブルに遭うというコンセプトだったが、作詞をしているうちに知らぬ間に“ロックスターの悲劇”へと変わっていった。
 
実はこれは、ミック・ジャガーの初ソロ・アルバム『She's The Boss』(1985年)の楽曲に乗せて描いたミュージカル・コメディ『RUNNING OUT OF LUCK~ミック・ジャガーの おかしな逃避行』(1986年製作・ジュリアン・テンプル監督。ミック・ジャガー製作総指揮・音楽・主演)にインスパイアされたもの。同作はブラジル、リオに、愛人ジェリー・ホール(本人)を伴い、プロモーション・ビデオの撮影に訪れたミック・ジャガー。ミックの傍若無人な態度に切れたジェリーの画策で、ダンサー達の制裁に遭い、冷凍車の荷台に放り込まれ、見知らぬ田舎町に無一文で放り出されてしまう、自らがスーパースターだと証明する手立てもなく……ロケ先で遭った災難を描いたフィルムである。「ロックスターの悲劇」の歌詞の内容は同映画のまんまである。
 
というところで、一気に2枚分を語ってしまったが、本来は2作を微に入り、細にいるところだが、話はそこから同作がリリースされた翌年1989年3月から関わることになった「イカ天」へと飛ぶことにする。こちらの意向で、少し端折ることにした。お許しいただきたい。
 
「イカ天」に至る経緯として、伊藤が当時のインディーズに注目していたことにある。バンド・ブームと前後して、80年年代はラフィンノーズ、有頂天、ウィラードが“インディーズ御三家”と言われ、キャプテン、ナゴムなどのインディーレーベルが台頭し、「インディーズ・ブーム」とも呼ばれた。そんな流れを注視するのは自らラジオ番組をしていたこともあり、実際、新宿のレコード店「UKエジソン」などで、自主製作盤を購入もしている。いわゆるアマチュア・バンドの動向を追いかけてもいた。たまやコレターズなどはメジャーデビュー前から知っていたという。
 
プロデューサーやアレンジャー、DJとして活躍し、かつ、インディーズにも明るい伊藤に白羽の矢が立ち、「イカ天」(『三宅裕司のいかすバンド天国』)に出演の話が舞い込む。89年2月11日、深夜番組『平成名物TV』の1コーナーとして、昭和から平成への端境期に開始した同番組だが、伊藤は審査員として、3月から登場。
 
そこで待っていたのが吉田建である。りりィ&バイバイ・セッション・バンド、ナイアガラ・トライアングル(『ナイアガラ・トライアングル vol.1』の伊藤の曲は吉田建がベースを弾いている)、沢田研二……などの仕事で、度々、顔を合わせている。ここで運命の再会、名コンビ(!)の誕生である。
 

というところで、今回のサプライズ・コメントは吉田建である。実は前回、“PART3”用に収録していたが、「イカ天」まで行かず、公開できなかったため、今回も飛ばすわけにはいかず、『HYPER/HYPER』、『DREAM ARABESQUE』を端折り、「イカ天」へという流れになった。
 
バイバイでの出会いは、生粋の東京人である吉田は大阪人の伊藤がポップスをと訝しがるが、そんな偏見や対立構造はすぐ打ち解け、飲み友達にもなる。音楽話は当然として、歴史や数学などの蘊蓄話をしたことが印象に残っているという。伊藤のおかげでナイアガラに参加できたこと、沢田とのロンドンレコーディング(早めに帰る伊藤のため、レコードを買っておいてあげるというやさしさあり)、そして、「イカ天」。いい意味での伊藤VS吉田構造が受け、二人の掛け合いは名物になる。辛口ぶりはいまだに印象が強いらしく、怖い人と思われるようだ。同時にいまの音楽に関する危機感も語る。これは期せず、伊藤と同じ思いであった。偶然にしろ、二人がいまのJポップに危惧を抱いているのだ。そして、最後には、「イカ天」時代のように現在のJポップを切りまくり、本当に後世に残す音楽を伝えるべく、二人で「帰ってきた辛口対談」をしないかという提案もされる。
 
伊藤と吉田の辛口対談が実現するのか、しないのか……しばし、お待ちいただきたいというところだが、ほとんど会ってないにも関わらず、同じの思いを抱いていること、感慨深いものがある。二人の音楽家としての生き方と矜持に心打たれる方も多く、会場も思わず、ほっこり。本当の物語や感動がここにある。トークイベントの五輪やー。
 
と、無理やり、ぶっこんだんところで、終わりには来年の40周年に向けてのさまざまな計画が発表される。もろもろ、新作が予定されるようだ。同時にこの秋からは全国ツアーも予定され、すでに9月2日(金)のイベントの翌日、9月3日(土)の岩手・盛岡すぺいん倶楽部から10月8日(土)・9日(日)は東京・西荻窪Live Spot Terraまで、東北、九州、大阪、名古屋、東京を巡る「伊藤銀次の I Stand Alone 2016」( http://ameblo.jp/ginji-ito/entry-12171783637.html )が始まる。
 
9月2日(金)は、端折ってしまった“ロンドン三部作”を改めて詳細に聞きつつ、「イカ天」の話も具体的に聞く。勿論、時間切れで公開できなかった秘蔵映像、音源(今回の秘蔵映像は小林克也とユニットを組んで、ジョン・レノンの「Imagine」のカバー・ヴァージョンをリリースしているが、上原“ユカリ”裕やダディ柴田、西本明、琢磨仁君、柴山好正らとテレビに出演したときの映像だった!)などもある。また、サプライズなお知らせもする。果たしてキューンソニーへ移籍し、『LOVE PARADE』(1993年7月)を出したところまで行けるか。相変わらず、父として、母としても“進まんなぁ”かもしれないが、楽しめることは請け合いだ。
 
そういえば、前回は20歳のお客様も2名もいて、楽しんでいただけた。世代や性別を超え、後世に残すべき、言葉や音楽にあふれるトーク・イベント。これからでも楽しめ、病みつきになること必至。3時間が平均時間という長丁場をものともせず、通う方も増えている。皆さまのご来場をお待ちしている。皆さまからのご質問なども歓迎。伊藤に聞きたいことなどがあれば、遠慮なく、ぶつけてほしい。よろしくお願いします。
 
 
☆特別映像上映あり☆
 
 80's But Goodies Special
 MUSICIAN FILE Vol.1 伊藤銀次 徹底研究 2016 PART5
 
 日時:9月2日(金)18:30開場/19:00開演
 出演:伊藤銀次(シンガー・ソングライター)
 訊き手:市川清師 (「MUSIC STEDY」)
 会場:東京・世田谷「M's Cantina(エムズ・カンティーナ)」
 料金:予約2,500円/当日3,000円(自由席・1ドリンク代別途必要)
 
 チケット予約フォーム:https://ws.formzu.net/fgen/S13353355/
 
 お問い合わせ:03-6805-5077 M's Cantina(エムズ・カンティーナ)