疲れる。老母が次々とネタを・・・・ハァハァ。
今でいうガーデニング、リアルタイムには園芸が大好きだった
うちの老母は、いろんな花の名前を知っていて、私から見たら
生き草木字引(いきそうもくじびき)であった。
だが、認知症を発症すると、立派であった母の園芸の知識は
潮が引くようにサーッと失われてしまった。
生命維持に必要な脳力は最後の最後まで保たれるかわりに、
園芸の知識などといったものは、母にはもう必要ないもの
とみなされたように。
残された私は、字引を失って非常に困ったままである。
思い起こせば10年ほど前のある日、母と散歩をしていた時に、私は
母の頭から花の名前がほとんど失われていることに気付いたのだ。
歩きながらいつものように、
「あの花なに?」 「この花なに?」
とたずねる、その私の問いへの母の答えは、すべて
「ラザニア。」
であった。
アザレアとか、アベリアとか、ベゴニアとかの一切合切が
委縮し始めた母の頭のなかでラザニアにまとまってしまったのだ。
しかしだ。
ボケて来たとは言え、花の名前感あふれる響きを持つこの
イタリア料理の名称を採用するなど、やはり脳ミソとは大したものではないことか。
当時は、母の認知症が日常を蝕み始め、私もうつ病に悩まされた
大変な時期だったが、ラザニアの一件だけはどうにも愉快で、その後もたまに、
「あの花、なんていうんだっけ?」 と問うては
「ラザニア。」
を引き出すのを密やかな楽しみとしていたワルイ私だ。
そのことを先日、美容院の帰りの車中で突然思い出したので、
「ねええ、ラザニアって、なんだっけ?」
と聞いてみたワルイ私のハナは既にひくついていた。
母 「ラザニアは・・・・・・・・・・・・・」
私 「うんうん、ラザニアは?」
母 「ラザニアは・・・・・・言うなれば。」
私 「言うなれば?」
母 「ラザニアは、言うなれば、イタ・・・・」
おおおおッ?!
イタ?!
イタリア料理、のイタ!?!?
どきどき。
母 「・・・・・・・イタイタがいっぱいついてる・・・」
私 「!?!?!?!?」
母 「言うなれば、サボテンの一種だけど。」
私 「さぼてん。」
なんと紛らわしいことか。イタリア料理と言うのかと思ったら、
トゲトゲをイタイタと表現したようだ。
私 「サボテンの一種なん、ラザニアって!?」
母 「そう、サボテンの一種だけど、サボテンのようには・・・・」
待つこと1分。
ギブ。
私はイラチだし、それに、これ以上待つと、老母の頭からサボテンが失われてしまう。
私 「あの、続きを言ってくれないと・・・。サボテンの一種だけど何?」
母 「もうほとんど全部言いましたよ。サボテンの一種だけど、サボテンのようには・・・・・」
保留のまま放置され、40秒。
「全部言いました」ってなんだあ~
降参だ。
私 「ほらあ、そこで終わったら私どうしたらいいの?」
母 「フフフ」
私 「サボテンの一種だけど、サボテンのようにはナントカでない、って言おうとしてるの?」
母 「そう、サボテンの一種だけど、サボテンのようには有名じゃないねん、ラザニアは。」
私 「へえええーーー、そうなんやあ~!」
頂きました:
”ラザニアとはサボテンの一種だが、サボテンほど有名でない。”
――母
ちょっと罪の意識があるので贖罪しておこう:
お母様、神様、時々にしときますんで次のラザニアもお願いします!!