今日は年に一度の特養のお食事会であった。
ちょっとは小マシなものでも着せてやろう、と思い、
早めにバアサンのところへ行ったら、バアサンが開口一番
「今日はハルヒコちゃんが海軍大将になったゆうて、新聞にえらい大きい出て!」
と、大興奮である。
ハルヒコちゃんとは数十年前に亡くなったバアサンの従兄だ。
海軍士官学校に入って職業軍人になり、戦後は製薬会社で
育毛剤を開発し、ヒットさせたものの、開発者権益を会社にすべて奪われて
ボーナスすらまともに出ないという邪悪搾取に遭い、傷心のうちに退職して、
花屋になり、そこからさらに何かの事業に手を出して借金取りに追われ、
不遇のうちに亡くなった人である。
ハルヒコちゃんは、士官学校を出たのだから将校ではあったろうが、
海軍大将だったとは初耳だ。偉すぎるような気がするが。
しかしこのテの話にかけてはあながちバアサンの作り話とも決めつけられないから
本当かも知れぬ。
とは言うものの、その後話はだんだん怪しくなった。
なんでも、海軍にはそれまで中将までしかなく、大将を新設して初めて
大将に昇進した、大日本帝国初の海軍大将の一人だったというのだが、
少将、中将まであって大将がないなどという中途半端な階級制度があるだろうか。
筆者はナイと思うが。
もしかすると、大将という官位はあっても事実上大将が不在だったとかいうこと
かもしれないが、大将昇進の話全部がバアサンの脳内混線の所産かもしれない。
いずれにしても、この 「新聞記事が今朝!!」 とかいう大興奮は間違いなく
間違いである。
だが、起き抜けに見た夢なのか、起きながら見た白昼夢なのか知らないが、
とにかくバアサンのアタマは今、この話でイッパイである。
なにしろ、目の前に75年前を現在実感中の人がいるのだから、
75年前からタイムスリップしてきた人と話しているのと変わらない。
こんな珍しい体験はおいそれとできるものではないから、訂正したりせず、
バアサンの頭に中にある右から左へ旧漢字の並ぶ大見出しを想像したりして、
筆者もバーチャル戦時体験気分。
バアサンにとって、本日のお食事会は既にハルヒコちゃん主催の会であり、
食事は海軍弁当部?かなんかから調達したということになっているらしかった。
てことは、バアサンにすれば、本日は戦時中の物資不足のおりに、
海軍の力をもってして実現した名誉ある会だったのかもしれぬ。
バアサンにとってこの会は、ただの食事会より有難度倍増なのだ。
その点からも、「それはそれは、結構ですね」 という感じで置いておくとする。
食事会が終わってもバアサンの妄想は止まらない。
「ハルヒコちゃんはえらい!こんな会をしてくれて、さすが!」
から、その兄で軍医であったトシオさんに話が及び、
「トシオさんは、ただの(軍人でなく)医者やったけど、体も態度も大きいから
兵隊にナメられなかったのが、大したもんや!」
そこから自分の兄を引き合いに出し、
「兄ちゃんやったらゼンゼンなめられてアカンかったと思う。」
と、実際にはありえなかった事態を想定して亡兄をケナす。
すなわち:
・もし戦争中兄ちゃんが医者になっていたら
+
・さらにもし軍医として従軍していたら
=ナメまくられてゼンゼンお話にもなりはしなかったろう
というわけである。
兄ちゃんには気の毒だが、そのへんでバアサンもやっとこさ落ち着いてきたので、
筆者もおいとました。
現実に会を催してくれた施設のために、一度は
「このお食事は、ここの施設で用意してくれはったんよ。」
とただしておいたことを書いておく。
これを 「ああそう。さすがハルヒコちゃん。」 というように
バアサンが右から左へ聞き流したことについては、
もはや筆者の責任範囲外である。
また、今調べたら、海軍大将とは海軍の最高官位らしいので、
余談として、ハルヒコちゃんの発明した育毛剤を
ハルヒコちゃんから取り上げ退職に追い込んだ
製薬会社はまだあって、その育毛剤もまだそのまま販売中だ。
筆者はそういうわけで、この会社がキライであるが、
ここの製品はゼッタイ買わないとか言いだすほど
ハルヒコちゃんと自分の縁が深くないので、まあ買うときは買う。
会社の言い分も聞いてみないとわからないとも思いたいが、
昭和中期にはそんなやり口が横行したかもしれないとも思う。
結局わからないので、現在のぬるい態度に落ち着いている筆者だ。