ムッツリ兄さんの微笑み Smile of Mr. Sulky | zuzu's room ズーズーズルーム

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知らない人のことを知らないのは当たり前であるが、

知らない人のことというのは本当に知らないものだな、

と本日強く再確認した、というのが、



佐川急便のムッツリ兄さん、と筆者が常々心の中で

呼んでいる兄さんが、本日、どうやら微笑んだようである。



佐川急便のこの配達員はそれはそれはもう徹底的にアイソもくそもない。

かといって怒らせた覚えはないので怒っているのではなく、

あのような顔で仕事する人なのだろう、と思ってはいるのだが、

ヤマト運輸から来るのが、

・さわやか兄さん

・腰低(こしひく)おっさん

・ハツラツ姉さん

の3種ときているので、その落差が筆者のムッツリ兄さんへの慣れを妨げているらしい。



それで、筆者はいつもドアの向こうで

「佐川急便です」

と言っている人があの兄さんでない方ができればいいのだが!

と思いながらドアを開けるのであるが、大体においてドアの外に立っているのは

ムッツリ兄さんなのである。

1回目の配達で筆者がドアを開けた場合はまだいいが、

不在連絡票が入っていたりした日には、これを書いたのがムッツリ兄さんで

あったら、どんなムッツリした顔でこれを書いたことだろうか!

と心配になる。

配達員の名前を覚えておけば不在連絡票の名前でわかると思うが、何を隠そう、筆者は

物事の中で最も覚えられないのが人名であるという特異な脳を持っているので、ダメである。

ちなみに、人名を覚えられないので、学校の科目において歴史は非常にダメであったし、

推理小説なども、ダレがダレかわからなくなるからカバーの袖に登場人物一覧が

書いてあるヤツでないとダメである。



さて、そういうわけで常にムッツリな兄さんと、そんな彼にいつも若干ビクビクする

この筆者であるが、さきほど玄関先に兄さんが到来したと思ってほしい。

兄さんをお待たせしてはいけないので、飛ぶように玄関へ急ぎ、ハンコを出して

ドアをあけたら、予想通りムッツリ兄さんが片腕に荷物を抱え、片手で受け取りを

突き出してきた。

こういう場合、両人とも無言のまますべてを終わらせることのできる受け取り手も

いるかもしれないが、筆者にはそんな精神力はない。

といって言うことは限られているから、突き出された紙を受け取ってハンコを押しながら、

「はあい、ありがとう(ございます)。」

という。「ございます」がカッコに入っているのは、この部分は聞いた側が

「ございます、と言ったように思う。」

と思う程度に不明瞭に言うからである。

それは、ビクついたり、お待たせしてはいけないと急いだりする一方で、

一応客である側の自分が、無言のサービス提供側にアイソを言いすぎるのは

オカシイと思うから、という我ながらまったくややこしい心理からそうするのである。



兄さんはいつも最後の最後に 聞き取れないほどの低い声で 「どうも。」 と言うが、

「どうも」の「も」を言ったときにはすでに兄さんは筆者に背を向けて走り去りを開始するのが常だ。

しかし、本日は違った。



荷物を受け取りながら、走り去りを開始しない兄さんをいぶかしく感じ始めたそのとき、

兄さんが

「これで間違いないですね。」

と言いながら小包の宛先のところを指さした。

飲み込めないながら兄さんの指先を目で追い始めたとき、兄さんがさらに

「部屋番号が抜けてたんで。」

と言ったので、反射的に

「あー、すみません。」

といいながら住所を見たら、確かに部屋番号が抜けていた。

いけない、ムッツリ兄さんの配達時に、こんな不手際があるなんて!

本気でムッツリされてしまう!!

と思って兄さんの顔を見たら、



兄さんの顔の下半分を覆う白いマスクの上に並んだ目が、

微笑んでいた。



世の中にこんなに意表を突かれることはそうあるものではない。

まったく度肝を抜かれた。

だが、なんだかうれしかった。

それで、初めて「ございます」までハッキリと

「ありがとうございます。」

を言ったら、兄さんもいつもより元気に「どうも!」と言って走り去った。



やっぱり毎日怒っているわけではなかったらしい。



それで、考えた。

「ございます」 に勝手にいろんな要素を加味して音量や調子を調節していたのは愚であった。

なんの損を恐れてそうしていたのか知らないが、考えてやっていたのではなく、

頭の中の自分でも知らないところで知らないうちにそうやって調節していたのであるから、

頭の構造がそういう情けないものであるらしい。

せめて、このたびのように意識の上に乗ったものについては情けなくならないよう

にしたいと思うので、これからムッツリ兄さんが何と言おうが言うまいが、いつも

「ございます」までハッキリ言っていく所存だ。