ウチのバアサンは若い頃からボケ始めてしばらくまで
園芸が趣味であって、庭はいつもキラキラ、
市の「すんばらしい庭で賞」みたいなのをもらったこともある
元祖ガーデナーであった。
そんなわけだから、筆者は子供のころから先年まで、
植物の名前は母親に聞けば良いと思っていて、
自分ではほとんど植物の知識を持たずにいた。
それが、5、6年前にバアサンが心不全で死にかけて入院し、
回復期に病院のすぐそばにある公園を散歩しているとき、
スゴイことに気が付いた。
バアサンがボケ出してから生活が荒廃し、植物の名前どころの
騒ぎでなくなっていたのだが、バアサンが入院すると、
筆者はかえって楽になったし、死にそうな目に遭った相手を
いたわる気持ちも手伝って、こまめに病院に通っては
散歩に連れ出していたのである。
季節は春から夏に向かう頃であり、その公園にも様々な花が
それぞれに美しく咲いていた。
スゴイこと、というのはこうである:
久しぶりに穏やかな気持ちで眺める花々の名前を、2つに1つは
知らないか思い出せないので、昔の調子でバアサンに
「あの花、なんだっけ?」
「この花、○○だっけ?それとも△△だっけ??」
と聞いていく、その筆者の質問に、バアサンすべて
「ラザニア」
と答えるのである。
なんやソレ超おもろいで?
と思いつつも、ちょっとした勘違いだろうと思うので、まじめに
「ラザニアは、花の名前ちゃうよ、イタリア料理の名前やよ?」
と言ってみたが、生来勝ち誇った感じで生きてきたバアサンは、
(あー困った子、アンタ、アホちゃう?)
という顔色もアリアリと、
「なにを言うてんの、あれはラザニア。」
とお答えだ。
はー、そうなってきますかー、と面白いような複雑なような気持ちになった。
長年所持していた音声式園芸辞典を失ったようなものである、という事実も残念であった。
そして、その後は花の名を母に問うことをしなくなった筆者である。
一昨日、バアサンをタリーズコーヒーに連れて行った帰りの車の中のことだ。
筆者が、多分アベリア、と記憶している植え込みの横で信号待ちすることに
なったので、ラザニアのことを思い出した筆者の心に
ある実験を試みたい気持ちがムクムクと急成長したものである。
筆者は問うた:
「あれは、アベリアやったっけねえ・・・?」
すると、バアサン
「そう。あれはアベリアやね。」
と答える。
あれ?ラザニア、言わへんのかい??
大変残念である。このままでは終われない。
「あそう。ほんで、ラザニア、いうのんは、どんな花やったっけ?」
と聞いてみた怪しからん娘である。
そしたらバアサン、
「ラザニアは、サツキのような花で、いろんな色のがあって、
一言で 『こんな花』 とは言われへん。」
と答えてくれたので、筆者は満足してほほえみ、
「あ、そうかー。 (そらアザレアや、バアサン。)」
と言いつつ、次なる赤信号に備えてブレーキを踏み始めるのだった。
ボケた母親をからかったりして、しょうのないヤツだ、と白い方の自分が責めてきたが、
黒い方がスグ、(ま、このぐらいええやろ。) と白い方を駆逐した。