どうでもいいことだが、筆者はスターバックスコーヒーが
あまり好きではない。
ローストしすぎだと思うのだが、あれはあれで美味しいのだろうか。
コーヒーのことを良く知っているわけではないから、
スターバックスのコーヒーの味を断じる資格は筆者にはないが、
間違いないのは、高すぎることである。
コーヒー一杯とサンドイッチとお菓子を一コずつ買ったら必ず
1200円です、みたいなことを言われてしまう。
しかもサンドイッチ類は決して美味しいとは言えないと思うのだが、
そうでもないのだろうか。
筆者はタリーズ派なのである。
しかし、世の中にはスターバックスがあるほどにはタリーズがないから、
成り行きのスターバックスにはよく行く。
先日、Benettonのシークレットセールで夏の服を買って
3400えんも値引きしてもらって、大変うれしかったのだが、
その帰り、すぐ隣のスターバックスにてアイスコーヒーを
飲みつつ本を読んでいたと思って欲しい。
筆者の座っていた2名用丸テーブルの隣の2名用丸テーブルに、
若々しい男女が着座した。
後に観察したところによると:
女の方は、まだ高校生か、専門学校または大学に入ったばかり、
といった年頃であり、男の方はそれより1,2歳年上だ。
聞こえてきた会話の調子から判断するに、
2人はバイトの先輩と後輩である。
断わっておくが、筆者は本気で本を読んでいたのであって、
他人の会話に聴き耳頭巾を動員するつもりなど毛頭ないのだ。
従って、始めのうちはほとんど何も聞こえてこなかったのであるが、
節目節目に女子の方が
「もう、センパイ、なんなんですかあ?今日おかしいですよ~。」
とか
「もう~、どうしたんですかセンパイ~?今日おかしいですよ~。」
というように、何度も同じ感想を言うのに対して、
センパイの返答がボソボソと煮え切らないので、
だんだんと無意識に気になって来ていたところに、
突然センパイが大きな声で、
「いやいや!今日はそんな話をしたくて呼んだんとちゃうねん!!」
と言ったので、筆者のお耳がそっちの方に
向くことになってしまったものである。
こういうときほど自分が猫とかでなくて良かったと思うことはない。
あいつらはホントに耳が聞きたい方を向いてしまうので
はたからバレバレになってしまう。
ここで初めて二人の様子を盗み見る。
いずれも垢抜けせぬ風体である。
センパイの方は柄シャツにジーンズと、着る人が着ればなかなかの
オシャレかもしれないのだが、本人が醸し出す雰囲気が素朴すぎて
全体としてダサダサの仕上がりである。
女子の方は、見るからにまだ女の自覚が育っていない顔つきであり、
化粧っ気もなく、まだまだオシャレの仕方も知らぬが、
元気で明るいのが救い、といった風情である。
ダサい二人であるが、筆者はホスト風オシャレ若人やギャルを見ると
日本の将来を憂えてしまって、しんどくなるので、こういうのはホッとする。
さて、本格的に聴いてみる:
センパイ 「ボソ・・・・ボソボソ・・・・」
女子 「え?なんですか?なんなんですかあ?センパイおかしいですよ~!」
センパイ 「イヤ、今日はそんな話をしたくって呼んだんとちゃうねん!!」
女子 「だから早く話してくださいよお!おかしいですよセンパイ今日~!」
センパイ 「・・・・・・・・・・・・・!!! ・・・・・・・・・・・・・!!!!! ・・・・・・・・」
女子 「何とか言ってくださいよお~!!」
センパイ 「うん、だから、えー、だから、な! ・・・・・(頭を掻く)・・・・・・・・」
女子 「なんなんですかあ?」
センパイ 「ゴ、ゴホン、うん、だから!! ・・・・・(頭を抱える)・・・・・・!!!」
センパイは先ほどからほぼ言葉を発しない。
ただただ、落ち着きなく頭を抱え、掻き、ストローでコップの氷を掻きまわし、
時折顔をあげて声にならぬ 「・・・・!!!!!」 というベクトルだけを示す。
さっきから1ページもめくっていない本から目を離さぬまま聴くこと数分に及んで
筆者からセンパイに突きささんばかりに向かう怒涛の 「気」 はコレだ:
「ダーもう!!
とっととゆうてまわんかいボケ!!!
ホレ、「好きです!」 いかんかいアホ!!」
しかるにセンパイは相変わらず、全く何も言えぬ。
終始苦しそうに笑いながら、言葉にならぬうめき声をあげ、
ときたまかろうじて出る言の葉らしきものといえば 「だからな~!」 のみ。
驚くべきは女子の忍耐強さである。
ずっとピチピチ微笑みながら、
「だから早く言ってくださいよ~!」
と言い続けてあげている。
「分からんのか、待っとるやないかい!!
ゆうたらしまいや!!
ホレ、「好きです!」
何のために呼び出したんじゃ、
とっととキメんかい!!!」
この日、ハリセンを携帯していなかったことを神に感謝する。
持っていたら、使わずにいるために精神力のすべてを注いで
衝動を抑えねばならなかったところである。
こんな男を前にして、気づかぬ女子が世界のどこにいる。
状況判断に用いるべき視覚的情報をほとんど持てぬ隣りのオバサンでも
10分前から気づいとる。
しかも彼女は待っているのだ。
その気がなくて、こんなウダウダに付き合い続ける女が
どこの世界にいる。
相手が筆者だったらどうなっていることか。
筆者はイラチなので、こんな男は、もし昨日まで好きだったとしても
この時点で失格である。
それを、この女子は、待ってくれているのだ。
イタダかんかいボケ!!
彼女も言うべき言葉を失い始め、
筆者がもうちょっとで注意しに行きそうに
なったころ(思いとどまっていたかも知れないが)、
センパイが唐突に立ち上がり、
「行こう! ずっと無言のまま座ってても仕方ない!!」
と言って出口に向かうのを、彼女が黙って追いかける。
――今日中に言えるのだろうか・・・。
後姿を見送る筆者の肺の底からため息が。
「好きです。」
その4文字さえ出してしまえば済むことなのに。
それさえ口に出してしまえば、どれほど続くかは知らぬが、
しばらくはバラ色の生活を彼女と共に享受することができるのに。
それがもう目の前にぶら下がっているのが隣のオバサンにすら
見えているのに。
なぜオマエだけ見えん!?
これが上手くいったとしても先が思いやられるヤツである。
しかし、筆者はこの日のスターバックスを、この往生際わるオを、
筆者の感じたこのいら立ちを、待ち続ける女子を、愛する。
若い日の恋ゆえの喜びと失敗、恥ずかしさやほろ苦さというものの
健気さを、ほんの少しの寂しさを感じつつ、愛する。
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昨日、タイ料理を食べながらこの話を従姉にしたら、
従姉はそこにはいないそのセンパイの両肩を
バーチャルにムンズと掴んで激しく揺さぶり、
エアーカツ入れしていた。