戦いました。 I Fought. | zuzu's room ズーズーズルーム

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ごくたまに英会話レッスン! With Free English Lessons (Rarely)
                    


立て続けに読んで下さっている方が万が一いらっしゃられるとすれば、

しつこくて恐縮ですが、筆者のぎっくり腰のことなのですが。



ぎっくりと申しても、今のところ筆者はそれで動けなくなったことはない。

真っ直ぐ立てなくなるが、なんとか歩ける。

歩かない方がよいかもしれないが、王様でもない限りは

このぐらいで安静にするなど誰が許されようか。

というわけだから、ぎっくり3日目の日曜日の夜、

筆者はおけつをやや後ろに突きだし、さらにややガニ股にて急な坂を

バアサン宅へと下りてゆく。

筆者のぎっくりでは、ただ立っていることや長時間座っていることの方が

辛いのであって、歩くことは意外にもさほど大変ではない。

しかしながら、下り坂はなぜか知らぬがダメである。

それで、ガニ股に加えて歩幅も小さく、よちよちとゆく。

バアサン宅では時折うめき声をあげつつ諸用事を片付ける。

そこでセロテープの必要が生じたために、文具入れを目指して

押入れをあけたと思って欲しい。



そこに、それがいた。



山間地にあるわが町内には暖かくなってくるといろいろなムシが湧いて

屋内へ上がり込んでくる。

その中で群を抜いて有害なのが、ムカデである。

その日のそいつも体長17センチ、体幅は8ミリ、脚を合わせると1.8センチという

大物であった。

こんなのに噛まれた日には何日にもわたって痛い目に遭うことは間違いない。

いや、それどころかもしかしたらもしかすると

死ぬかもしれない。

見つけるや否や死なせねばならぬ。



バアサンが若い頃開発し、バアサンがボケてからは筆者が

後を引き継いだ、我が家のムカデの退治法は、

箸でつかんで熱湯をかける

である。



知っているか知らないか知らないが、

17センチともなると、ムカデの力は侮れぬ。

木の柱やじゅうたんにしがみつくムカデを箸でつかんで

引きはがすのは、たやすいことではない。

掴み方がゆるければ、落としてしまうならまだ良いが、

箸を伝って登って来られては一巻の終わりである。

それに、尻尾や頭の一方に寄って掴んでしまうと、

箸を上るまでもなく、長い方がこちらの指に届いてしまうから、

真ん中を狙わねばならぬ。

これには技術が必要だ。

太くて真っ黒、テカテカ、無数の足ジャラジャラ、クネクネ自由自在、

顎には猛毒、性格凶暴、そして命懸け、と言うヤツを箸でつかむために

必要な資質は、正確な箸使い、運動神経、そしてそれにも増して

気合いと度胸である。



筆者は気合いには欠ける人間である。

度胸は本当はないこともないかもしれないが、普段は

度胸を発揮するなどというめんどくさいことはしたくないから

あまり度胸は発揮しない。

運動神経は全然ないこともないが、ぎっくりしている身体に

これを求めるのは無理である。

ぎっくりの筆者とムカデなら、ムカデの不戦勝のはずなのだ。



しかし。

押入れを開け、その長いイヤなものに遭遇するや否や

筆者の意思と関係なく出てくるのが、いや、噴出するのが

アドレナリンである。

アドレナリンだけは本当にもう魔法のようだなと思う。

ものすごくたくさん摂取したら超人になることも叶うだろう。

とにかく筆者の身体からぎっくりの痛みが自分でも気づかぬ間に消え去り、

曲がった腰が伸び、運動神経と動体視力が研ぎ澄まされ、

気合いと度胸と殺意に心と体が支配されるのに半秒もかからないのだ。



そして、やってやった。

丸くて両端が細まった、非常に具合の悪い正月の祝箸の使い古し

でもって、それを掴み、瞬間湯沸かし器からモウモウと

湯気を立てて流れる熱湯のもとに持って行って

茹でゴロシである。



のたうち回るムカデが動かなくなるのを待って

ゴミ箱に捨てる。

―勝った。

そう思った瞬間、アドレナリンは波が引くようにどこかへ消え、

筆者の身体に再びぎっくりの存在感が戻り始めるのだ。



・・・ああ、わたしは何をしてしまったのだ!

箸を片手に、命を賭けて逃げ惑う敵を部屋中スバシこく追い回し、

重いFAX台や椅子やバアサンを次々と片手で押しのけ、

痛みも腰をいたわる用心もすべて忘れ、全身のポテンシャルを動員して

ムカデを捕獲してしまった・・・

そう考える間にすっかりぎっくりが帰って来た。

しかもちょっと悪くなって。



かくして筆者のぎっくり期間が1日ほど伸びたことは間違いない。

ちきしょー。