その理不尽は、友人Y子との晩ごはんに向かって
楽しく車を運転中の土曜日の夜に筆者を襲ったのである。
学生時代から通り慣れたある生活道路。
平たいエックスの形をした四叉路にさしかかった筆者と筆者の車。
首を亀よろしく前に伸ばして左右および前方の安全を目視確認しつつ
ポンピングブレーキを駆使して、最徐行と言うより、止まる・動くを
寸動と呼ぶべき動作にて繰り返しながら左折を終え、
あらためて加速しかけた筆者の耳に、通常ほとんど聞くことのない
その音が入って来た。
「何??」
視野の範囲には何の異常も見えない。
しかし、本能的に危険を予知して、筆者は無意識のうちに急ブレーキを踏んだ。
このブレーキのことを、それからわずか数十秒ののちに、筆者は臍を噛む想いで
振り返ることになるのだ。
安全を重視するあまりに踏んだこの善のブレーキによって制動された
筆者の車の助手席側の窓から、無遠慮に筆者を覗き込む男がある。
そして、筆者はこの男によって蜘蛛の巣に飛び込む蝶のように、
進行方向とは別の道路に誘導されてしまったのだ。
筆者が聞いた音は警笛であった。
社会の模範ともなるべき善良にして品行方正な市民が
一旦停止違反をし終えるのを、暗闇に潜んで今か今かと待ち構える
警察官の吹いた卑怯な警笛である。
(続く)