Kちゃんの洗顔料 K's Face Wash | zuzu's room ズーズーズルーム

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先ごろ、筆者の友人Kから聞いた話が

あまりにもとんでもないものであったのでここに記録したい。



Kは大学時代のダイビング仲間である。

Kと筆者が所属したダイビングクラブでは、

春と夏に合宿があり、自主合宿も含むと2週間にも及ぶ

期間を毎日朝昼ダイビングだけして過ごす。

今ではダイビングというとオシャレなイメージがあるが、

筆者らのダイビングは、オシャレとは無縁だ。

日焼けしすぎてボロボロに真っ黒な、半裸で雌雄の別も

判然としないキタナイ若者が集まって、

夜は泡盛とヤドカリと無数の羽虫、昼は砂と潮にまみれて

「潜水」 という言葉こそふさわしい、絶望的に垢抜けしない

行為を日々繰り返す。

宿泊するのは南の島の村人たちから借りた公民館だ。

ここで自炊しながら灯火に群がる虫と起居を共にする。

トイレはボットンだ。

このキレイ好きな筆者がよくも、という劣悪な衛生環境であったが、

やろうと思えばカンタンなのだ。

キレイ好きスイッチさえ切ればよい。

キレイ好きスイッチと、ついでに虫キライスイッチも切って、

若き日の筆者は心ゆくまで合宿生活とダイビングを楽しんだ。



それからもう30年が経った。

みんなでダイビングすることもなくなった。

だが、中年になろうがダイビングをしなくなろうが、

生来水辺が好きなことまでは変わらない。

筆者は水さえ見れば寄って行くし、海を眺めさせたら

何時間でも見ていられる。

そしてKの趣味は川釣りだ。



夏が来るか来ないかのうちから

Kは毎週末独りでイソイソと、とある渓流に釣りに行く。

夜はキャンプである。

感心なことに、寝る前か起きた時かは知らないが

一応顔を洗うらしい。

そんなKのトラベル用トイレタリーセットに常備された洗顔料が、

本日のメイントピックであるところの

「メンズビオレスクラブ入り」

である。

この洗顔料が旅行中にしか使わないからなかなか減らない。

それで、いつから使っているかを耳にするに及んで

筆者は咀嚼中の食物が鼻から出んばかりに驚いた。

上述の、大学時代の合宿からだというのだ。



それは昭和60年の世界である。



まだ昭和天皇が生きていた時代。

筆者のマユゲが激太だった時代。

ディスコで踊ったり、桂枝雀独演会に行ったりできた時代。

―そして、「スクラブ」 という言葉がものすごく新しかった時代だ。



そんなバブル全盛期に買ったKのメンズビオレ。

筆者が驚愕するのは、それが単に引き出しの奥に残っている

とかいうことではなく、

30年前から途切れることなく連綿と使い続けられている

ことなのだ。



なんともないのか?!

と聞くと 「なんともない。」 という。

硬くなったりとか、してないのか?!

と聞くと 「してない。」 という。

泡は、泡は立つのか!?

と尋ねると、 「立つ。」 という。



全く何の問題もない、

と言うのである。

なんの問題もなくても筆者はイヤであるが。



何の話からそうなったかというと、

これがロクでもないのであって、

筆者が賞味期限切れの食物を食べがちである、といった話をしたときに、

Kが:


 「そのぐらい何の問題もないやんけ。オレの家なんかな・・・。」


と、始めたのが

「数十年前からそこにある缶詰」

やら

「いつからあるか誰も覚えていない冷蔵庫」

やら

「常用中の昭和製くるくるドライヤー」

などの、筆者の消費期限切れ食品には勝ち目のない、

それぞれ十分にとんでもない話であったのだが、

挙句の果てに出てきたのが、この、圧巻たる彼の洗顔料の事実なのであった。



思えば学生の頃、週末の合宿にKが出していた

Kの祖父の日産サニーもすごかった。

スピードメーターが丸くなく、幅が20cmぐらいの横長で、

よく覚えていないがタコメーターがついていなかったような気がする。

ヘッドレストもなく、シートベルトも装備されていなかった。

後にシートベルトの着用が法制化されたときに後付けしたのである。

すでにクラシックカーの様相を呈していたこのサニーは

みんなの人気者であった。

さすがにしばらくして廃車になったが、要するに

Kの家はものすごく物持ちの良い家なのだ。


ところで、化粧品会社からもらったサンプルが使わない内に古くなってしまうことが

よくある。筆者は2年を限度として、それを過ぎたものは捨てていたのだが、

この話を聞いて、3年に延ばそうかと考えた。

その考えをKに述べると、


 「それはやめといた方がええ。」


という意外すぎる返答が筆者を驚かせた。

誰あろう、Kのクチから、たかが3年前の化粧品のサンプルを

「使わない方が良い」 というフレーズが出てくるとは俄かには信じられなかったが、

彼の理論では、洗顔料のようにすぐに流してしまうものならいいが、

化粧品のように長時間顔に乗っているものには

古いものを使わぬ方がよかろう、というのである。

筆者はあんまりバカではないつもりだが、とりわけて明晰でもないので

納得して帰って来たが、ここに後日談がある。



友人Y子と蕎麦屋でディナーを楽しんでいた時に

Kの30年モノのメンズビオレが 「全く何の問題もない」らしいとう話をし、

次にそんなKから3年前のサンプルを使用せぬようアドバイスされた話

を述べた。

そしたら賢いY子はエビの天ぷらを頬張りながらたちどころにこう言った:


 「おかしい。 それ、”30年前のメンズビオレもやっぱり使わん方がええ”が前提になってるやん。」


アアッ!!!

ほほほ本当である。

「メンズビオレは流すからいいけど」

って、そうじゃん。

「全然なんの問題もない。」

などと豪語していたくせに。



その後食卓が爆笑に包まれたのは言うまでもない。

しかし、Y子の賢さハンパねー、

つか、折に触れウスウス思ったりしていたが、

自分て結局なんかウスラアホである。



Kがメンズビオレを使い切るのは何年後のことだろう。

使い終わったら、Kはどうするのだろうか。

ポイとゴミ箱に投げ入れるのだろうか。さよならも言わずに。

そして、Kのメンズビオレには今後どのような変化が起こるのだろうか、

あるいは起こらないのだろうか。



今後の追跡調査の必要性を強く感じる筆者である。