幸運老婆   The Lucky Old Lady | zuzu's room ズーズーズルーム

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昨日は母のピアノの発表会だった。


母はピアノ教えて50数年。

脳梗塞で倒れ、認知症が進行し、

もう人間としてはボロボロの老母。

だがピアノは体が覚えているだけあって

教師を引退しても自分で弾くのはやめなかった。


しかし脳梗塞の後遺症で楽譜を追うのが大変になっており、

なんとか追っていても一旦見失うと、今度はメロディーから

譜面の位置を推測する能力も失われているため、お手上げだ。

この状態の母を自分の発表会に出し続けてくれた人がいる。

昔母が教えて今は先生になっているS先生だ。

この10年ほど、その人が自分の発表会に母を出してくれていた。

さすがにソロはあまりにも無理なので、S先生との連弾だ。

発表会が近づくと、S先生はたくさんの弟子を教えながら

母のところに週1、2回も来て練習に付き合ってくれた。

しかも母が約束を正しく覚えていられないため

何度かすっぽかされたりしたのにも匙を投げず、事前確認を強化するなど

数々のピアノ以外の世話も焼いてくださった。


そんなこんなでやっと漕ぎ着けた昨日の本番だった。

3歳のときからこの母にスパルタでピアノを教えられた筆者が、

母の発表会に付き添った。

何をやらかすか、どんな迷惑をかけるだろうかという不安はありながら、

おそらく最後になるだろう彼女の舞台演奏を見届けようと覚悟を決めて

臨んだ。


会場で驚いたのは他の生徒さんが母を「先生の先生」として

重んじてくれていることだった。

プログラム紹介でも

「ご病気のあとのリハビリにと練習を続けられ、今年も参加して下さる○○先生です」

という思いやりに満ちたナレーションを入れていただいた。

S先生が母を立ててくれることで、周りの人たちもおのずと母を大事にしてくれる

のだろうと思うと、S先生が筆者が知っていた以上に母のために尽くしてくれていたことが

わかり、その感謝は感動と呼んでもよいものになった。


筆者の本音は、母の出番の瞬間まで

「オカンのメチャクチャなピアノを聴かされるかわいそうな聴衆の姿を見たくない」

というものだったのだが、母がステージによちよち現れるのを見るなり、頭の中が

「もうなんでもいいからがんばって!」

だけになってしまったのは全くの予想外だった。

それどころかありとあらゆる想いが迫って涙があふれ、

一旦出だすと止まらなくなってしまった。


演奏はもちろんメチャクチャだったが、完全に止まってしまうなどの

致命的な失敗はなく、なんとか終わった。

S先生が必死にリードしてくれたおかげだ。

演奏が終わると、またナレーターが

「○○先生、ありがとうございました。どうぞ来年もお元気で出演なさってください。

みなさん、今一度あたたかい拍手を!」

と言ってくれた。

楽屋に迎えに行き、かねてからの予定通り

「上手やったよ。」

と言ったら、母はうれしそうに

「あんた、母親の気持ちになってるの?」

と言った。


母がこんな幸せな人だったとは知らなかった。

なんとよい弟子に恵まれたものだろう。

母にその幸運と感謝を本当の意味で感じる心は

残っていないが、それでもさすがに独特な幸福感に

満たされているような表情だった。


筆者は昨日のことは一生忘れないだろうと思う。



                                 記 ネット翻訳サービス ちょっと訳して.com  運営者