「野良犬」(1973)

 

黒澤明の名作のリメイクをひさびさに観ました。

 

 

監督は森崎東。予告編はありません。


ある夏の夜道を歩く一人の女性を尋問していた刑事が車に乗ったひったくり集団に襲われて、拳銃を奪われた挙句に逃げられてしまいます。さらに、犯人の銃弾が当たった女性は重傷を負う被害に。大失態を演じたのは目蒲署の村上刑事(渡哲也)。あと五発の弾丸が残る拳銃を奪われた一報を聞いた警察は全力で捜査を開始。厳しく叱責された村上は、ベテランの佐藤刑事(芦田伸介)の保護観察下に置かれることになります。責任を感じて思い詰めている村上を佐藤がうまくなだめながら、手掛かりを掴むための聞き込みを各地で行う二人。犯人が乗っていた盗難車を見つけて、ようやく解決の糸口を見つけると、佐藤は村上をしばらく自宅に住み込ませることにします。妻の布恵(赤木春恵)と娘の一枝(松坂慶子)に温かく歓迎されていると、盗まれた拳銃で古紙回収業のオヤジが射殺される事件が発生して、捜査本部から召集された佐藤は、村上に家でおとなしくしているように忠告して外出。

 

居ても立っていられない村上は無断で単独行動を始めて、あてもなく炎天下を歩き回ります。あきらめかけた時、事件当夜に聞いた方言をふと耳にしてピンと来た村上。犯人が交わしていたのは沖縄の言葉でした。一方で、本部で捜査していた佐藤も別の手掛かりを見つけます。出稼ぎで工場勤めの少女を佐藤が尾行していると、刑事のカンで嗅ぎつけた村上も朱美(中島真智子)の隠れ家に到着。犯人は沖縄から集団就職でやって来た少年たちで、朱美は彼らの友人でした。やがて、また別の人間が同じ拳銃で射殺されて、検問のパトカーに犯人の一人突っ込む事件も発生。そして、川崎駅で犯人一行を待ち構えていた佐藤も銃弾に倒れます。明美の告白で新宿に犯人たちが集結することを知った村上は、新宿の街で大捕り物劇を演じて犯人を取り押さえます。しかし、銃弾があと一発残る拳銃と、唯一逃亡中のあと一人(志垣太郎)の行方はいまだ分からずにいたところ、村上の執念爆発して・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1973年9月29日。だいぶ昔にタバコの煙が充満する浅草の名画座で観て以来。新宿コマ劇場付近での追っかけっこだけ覚えていました。改めて観返すと、当時の政治色をかなり強めに盛り込んだリメイクなんだなということが分かりました。戦争帰りの若者が追う刑事と追われる犯人という両極端の立場に分かれて、最後に対決するシンプルな捜査モノだったオリジナルに比べて、リメイク版では、京浜工業地帯に職を求めて(返還間もない)沖縄からやって来た少年たちを犯人に変更している点が大きく違います。都会に出てきて差別や偏見の目で虐げられたことが彼らの犯行動機。殺したいヤツを殺した者から順に、沖縄行きの船に乗って帰るという計画を立てています。彼らの行動は「沖縄を蔑ろにしてきた日本国への制裁」ともとられる図式になっていて、彼らが本当に殺したいと口にしている人物は劇中では明かされませんが、国家の象徴である〇〇じゃないかという説もあるようです。

 

活劇としてのスッキリとした面白さのあるオリジナルの方が好きですが、いろんなモノがごった煮で入ってるリメイクも別の良さがあります。血が滴る題字から始まるオープニング。渡哲也のギラツキ芦田伸介の落ち着きはオリジナルにも負けない風格あり。芦田伸介の家族エピソードは余計と思いつつも、若い松坂慶子が観られるので良し。ワンシーンだけの出演陣も殿山泰司財津一郎緑魔子浦辺粂子千石規子(オリジナルにも出演)、中丸忠雄田中邦衛佐藤蛾次郎といった地味な豪華さあり。沖縄女性を演じる中島真智子の頑張りもGOOD。自分の体を渡哲也に捧げて友人を守ろうとする捨て身の情熱をぶつけてくる気迫が凄かったです。エロシーンが記憶から消えてるなんて、なんたる不覚。それと、ロケ撮影がふんだんで、横浜川崎新宿の当時の街並みがたっぷり観られる点もポイントが高いです。また、当時公開中映画の看板もたくさん出てきます。