「野良犬」(1949)

 

刑事のバディ物の原型ともいえる傑作をAmazonプライムビデオで観直しました。

 

 

監督は黒澤明。菊島隆三の脚本デビュー作。

 

戦後間もない東京のある恐ろしく暑い夏の日、村上刑事(三船敏郎)がバスでスリに遭って、コルト式自動小型拳銃を盗まれてしまいます。下車した犯人を追いかけるも見失ってしまう大失態。コルトには7発の銃弾が入っています。スリ担当の市川刑事(河村黎吉)の助言を得て、バスにいた女スリのお銀を見つけ出し、銃の闇取引の現場を突き止めるも、そこでもコルトを渡しに来た男を逃してしまいます。その後に強盗傷害事件が発生、銃弾を調べると、使われていた銃は村上のコルトでした。いったんは辞表を提出するまで思いつめた村上ですが、一念発起してベテラン刑事佐藤(志村喬)と組んで事件の捜査を担当することになります。やがて、闇ブローカーを逮捕、コルトを買った男の正体が遊佐という男であることが判明。遊佐と接触した恋人のハルミ(淡路恵子)に手がかりを聞き出すも、口を割ってくれません。そんな中、再び、強盗殺人事件を起こした遊佐。潜伏先まで辿り着いた佐藤も遊佐の凶弾に倒れてしまいます。重体で意識不明の佐藤が眠る病院で絶叫する村上。ようやく捜査の協力をすることになったハルミから居場所を聞いた村上は、遊佐(木村功)が待っている駅に向かい、3発の弾丸を残すコルトを持つ遊佐と最終対決を迎えるのだが・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1949年10月17日。経験豊富なベテラン刑事と情熱が先走った若手刑事のバディ物の古典。映画史を代表する志村喬と三船敏郎の名コンビが二人きりのチームとしてタッグを組む役どころは、数ある黒澤映画でも、意外にも本作だけなんですね。拳銃を掏られて落ち込み、その拳銃で犯罪が起きて死者が出てさらに落ち込み、頼りになるベテランの先輩も撃たれてもっと落ち込み、犯人を何としても捕まえたい気持ちが空回りする村上。対して、事実を少しずつ積み上げていって着実に真相に近づこうとする佐藤。絵に描いたようなベテランと若手。犯人と対峙するクライマックスで、ようやく村上の情熱が実を結びます。志村喬の老練さが、青臭い三船敏郎の精悍さを際立たせています。全力で走ってコケる三船の若かりし頃の姿は貴重。

 

"七人の侍"の一員となる千秋実木村功の黒澤映画デビュー作でもあります。淡路恵子の初々しさと、河村黎吉の軽妙さ、千石規子のはすっぱさも印象的。冒頭からずっと続く、汗だくのクソ暑さから一転しての土砂降りの雨、泥だらけの取っ組み合い、血生臭い争いと対極をなす軽やかなBGMといった感じで、全編セミドキュメンタリータッチで描きながらも、要所で見せるダイナミックな演出が光ります。ストーリー自体はシンプルなので、もっとコンパクトにまとめられるところですが、戦後の風景や風俗が念入りに描写されていて、そこがもう一つの魅力になっています。特に、復員兵の格好で闇ブローカーを数日間捜し歩く闇市の様子(10分以上)、後楽園球場で行われている巨人対南海戦(8分近く)は必要以上に長いかも。そのおかげで、川上、青田といった往年の名選手の姿も拝めます。プロ野球が2リーグに分裂するのは、翌年の1950年のこと。なお、本編とは関係ないですが、長嶋茂雄が学生時代に後輩を連れて、これから「ノヨシケン」を観に行くぞと言って、本作を観たという都市伝説があるそうです。