「憧れのハワイ航路」(1950)

 

岡晴夫と美空ひばりが共演した歌謡映画をU-NEXTで観ました。初見。

 

 

監督は斉藤寅次郎。予告編はありません。

 

岡田秋夫(岡晴夫)山口五郎(古川緑波)は学生時代からの旧友で、現在は「宇喜代」という居酒屋の二階で下宿している貧乏人です。岡田は夜間中学の英語の教師をしている歌手志望の青年で、故郷のハワイにいる父と一緒に暮らすことを夢見ています。山口は全く売れない画家で、夜の街で流しの絵描きをしながら、東京都主催の公会堂設計コンテストの懸賞金30万円を狙ってます。ある夜、花売りの少女君子(美空ひばり)地元ヤクザにショバ代を請求されているのを見かけた岡田は、なけなしの給料を払って助けます。そのまま家に連れ帰って「宇喜代」を営む松吉(花菱アチャコ)とみき(清川玉枝)の夫婦に紹介。店で花売りをさせてあげると、君子は自慢の歌声を披露して花は完売。翌日も店に来ていいと言われて笑顔で去って行きます。君子の落とし物を見て、失敗した初婚の時に産んだ次女であることを知ったみきは激しく動揺します。

 

日が明けて、みきが君子の自宅に挨拶に行くと、父を早くに亡くして姉妹二人で生きてきた姉の千栄子は、自分たちを捨てた母親を絶対に許せないと激しく非難。家に帰ったみきはショックで寝込みます。しかし、すぐに君子が「宇喜代」を訪れて、みきが本当に母親なら「お母さん」と言ってみたいという正直な気持ちを打ち明けます。千栄子のわだかまりが消えるまで会わない方がいいと諭す松吉。それでもちょくちょく店を訪れる健気な君子を優しく迎える松吉と岡田と山口。障子越しに歌声を聞いて、みきは涙ぐみます。結局のところ、松吉の懸命の説得によって、みきと千枝子と君子は抱き合って和解。一緒に暮らすことになります。岡田や山口にもそれぞれに恋模様がありながらも一応の決着を迎えて、岡田がハワイに戻ることになって、めでたしめでたし・・・というのが大まかなあらすじ。

 

劇場公開は1950年4月1日。1948年12月に発売されて大ヒットを飛ばした同名曲に便乗した歌謡映画を、主題歌を歌う岡晴夫自らが主演。人気少女歌手の美空ひばりが共演。そして、古川緑波や花菱アチャコといった喜劇人が脇を固めています。他に、千枝子の婚約相手役で木戸新太郎(キドシン)、クラブ支配人役で伴淳三郎も出演。親子の再会モノに男二人の恋物語を絡めた内容で、合間に岡晴夫と美空ひばりがそこかしこで歌いまくります。美空ひばりのオトナ顔負けの歌唱力はさすがです。『憧れのハワイ航路』は「晴~れた空~、そ~よぐ風~」というキャッチーな唄い出しのフレーズは知っている程度。ハワイ旅行なんて、一般庶民にとっては夢のまた夢の話だった頃。私なんか、いまだに足を踏み入れたことのない土地で、実在しているのかも断言できません。そんなハワイの情景が冒頭で挿入されるのみで、ハワイロケはありません。

 

映画では、中学進学のために戦前に来日した岡田が、戦争のゴタゴタで現地の父と会えないでいる設定となっています。千枝子に一目惚れした岡田は、彼女の意中の相手が恩師の息子の稔だと終盤に知ってフラれます。しかし、貿易商をしている稔の尽力でハワイにいる父の居所が分かる展開。さらに、たまたま夜のクラブで歌を披露したことがキッカケで念願の歌手デビューも決定します。山口の方は懸賞金目当てで設計図を熱心にデザインしてましたが、消しゴム代わりに使おうとしたパンくずにたっぷりバターが入っていて、設計図が台無しになってしまいます。貧乏な彼に少しでも栄養をと願うパン屋の娘の思いやりが仇となりますが、二人は結局結ばれます。父に逢いに行くために憧れのハワイ航路便に乗り込んで、ギター片手に歌う岡田山口たちが見送る姿で映画は終わります。