「ガラスの知恵の輪」(1982)

 

芸能スキャンダルをめぐる倉本聰脚本のドラマを観ました。初見。

 

 

演出は瀬木宏康。予告編はありません。全6話。

 

沢木八郎(萩原健一)は客を呼び込むためのピエロをやっていて、東京四谷のボロアパートに住んでいます。故郷の小樽にいるガラス細工職人の父(河原崎国太郎)が最近ボケてきていて、頼んでもいないのにガラスの知恵の輪を送りつけてくることが気がかり。八郎なので、たぶん八番目の兄弟なんでしょう。通称ハチと呼ばれています。ある日、店頭でピエロをしている時、目の前の公衆電話の会話を立ち聞きしてしまいます。電話をしていたのは、清純派新進女優として人気を博している安西ユカ(大竹しのぶ)。不倫相手とのホテルの密会を約束する内容を知ってしまったハチ。麻雀仲間で週刊誌記者の泉(火野正平)が子供の入院費用の工面に苦労していたため、スクープネタで稼げるようにと泉に密会ネタをバラしてしまいます。密会場所の取材に成功した泉の記事がキッカケで、芸能ニュースは安西ユカのスキャンダルネタで持ち切り。安西ユカは芸能リポーターにしつこく追い回される日々が続きます。

 

ドラマのような展開は続いて、マスコミを避けてユカが逃げ込んだビルの駐車場にたまたま車を停めようとしていたハチが、彼女を見つけて自分の車にこっそり乗せて窮地を救います。見ず知らずの人間の親切にお礼を言うユカ。目の前の男がスキャンダルの元凶を作った男だとは知りません。ドラマみたいな偶然は重なるものなのか、ユカの故郷も小樽だと知った二人はすぐに意気投合。しかし、ハチがユカを自宅に送り届けると、マスコミがごった返しています。ドラマチックな悲劇は畳みかけてくるらしく、ユカの母が急逝していたことによる騒ぎでした。ここで二人の縁は途切れるかと思ったら、人間不信に陥っていたユカは、親切にしてくれたハチを頼りにし始めます。不倫相手の人気俳優松山(谷隼人)へのメッセンジャーをしたり、ユカの実兄でヤクザの力夫(ガッツ石松)の相手をしたりしてるうちに、失踪していたユカは、ハチと一緒に小樽に行くことになって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

1982年5月26日から6月30日までの毎週水曜22時に放送された毎日放送制作のドラマ。大人の時間帯のドラマだったので、存在自体を知りませんでした。写真週刊誌の草分け『FOCUS』の創刊が1981年秋なので、過激化していた芸能スクープ合戦というタイムリーなネタをテーマにした人間模様になっています。その下劣さで義憤に駆られて作ったと思われるものの、大竹しのぶ自身の恋愛スキャンダルも利用しているところは倉本聰のやり口の一つ。人間関係の繊細さ、脆さを"ガラスの知恵の輪"に象徴させているところ、ショーケンの職業をピエロにしているところなどは上手いなあと感じさせます。身内に語りかけるようなモノローグ、騒動に巻き込まれてオタオタするショーケンの姿は、同じ倉本聰脚本の名作「前略 おふくろ様」を彷彿とさせます。喫茶店でタバコを吸いながら打ち合わせをするおなじみの設定も倉本聰あるある。

 

ショーケン大竹しのぶの組み合わせがとても新鮮。自らまいた種で奔走するショーケンは二枚目半のキャラを好演。職業にしているパントマイム披露泣いているように見えるピエロ実際に涙を流すピエロ素顔による顔芸も健在。ユカは隠していた実兄がヤクザであることがマスコミにバレて、ますますイメージダウン。マネージャー(結城美栄子)からも身を隠します。居場所を唯一知っている妹(のちに哀川翔の妻になる青地公美)に頼まれたハチがユカを匿う手伝いを続けることになって、自分がマスコミにネタを売ったことが言えないまま、終盤を迎えていきます。心無いマスコミの攻撃に翻弄される女優の苦悩を、大竹しのぶの必殺技である泣きの芝居で見せつけます。潜伏先の小樽にまで追っかけてきたマスコミによって悪化していく事態の結末はというと・・・、落ち着くところに落ち着いたという感じになります。

 

ハチの向かいの部屋に住んでいる恋人役が児島美ゆきやさぐれたところもある色気たまりません。ユカの兄貴を演じるガッツ石松がコメディリリーフ的存在。ユカの不倫相手をドスで襲撃。長い刑務所生活でホモに目覚めた経験(恋人が大前均!)を生かして、しつこい芸能レポーター(小野武彦)ホモに転向させるリベンジを実行します。ホモを害悪として扱うところは、現在では確実にアウトの表現ですね。ユカを支えるスタッフ役の村井国夫いい人かと思いきやという展開。このへんは「北の国から」に続くキャスト。他に、ヤクザ仲間で曽根晴美、岩尾正隆岩城滉一、マッサージの客で中村伸郎、ユカを励ますベテラン俳優で中条静夫、岡田真澄岸田今日子、共演女優で芹明香、クラブのママでひし美ゆり子、薬局店員で戸川純、週刊誌記者で下条正巳、平泉征ラジオ音声で紳助・竜介なども出演。名作とまではいかないまでも、当時の世相をうまく切り取ったユニークなドラマでございました。